2018年の自動車市場、輸入規制の影響も、乗用車の販売は過去最多に(ベトナム)

2019年7月23日

ベトナムは1億人弱の人口を抱え、この10年間5~7%台の経済成長を続けている。2018年の1人当たりGDPはベトナム全体で約2,500ドルだが、ハノイ市で約4,000ドル、ホーチミン市では約6,000ドルを超えたと推計される。二輪バイクから四輪自動車への乗り換え需要も見込まれ、成長が期待されるベトナム自動車産業について、2018年の新車販売実績データを基に解説する。

新車販売台数は小幅増加、輸入規制の影響も

ベトナム自動車工業会(VAMA)によると、2018年の新車販売台数は前年比5.8%増の28万8,683台となった(注1)。2018年は前年の買い控えの反動が期待されていたが、完成車の輸入規制が強化されたことが影響し、上半期の販売が伸び悩んだ。下半期には輸入規制への対応が進み、通年では前年の販売台数を上回る結果となった(表1参照)。

表1:生産形態別の販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2014年
台数
2015年
台数
2016年
台数
2017年
台数
2018年
台数 前年比
国産車(CKD) 116,541 173,040 228,964 194,960 215,704 10.6
輸入完成車 41,269 71,874 75,463 77,790 72,979 △ 6.2
合計 157,810 244,914 304,427 272,750 288,683 5.8

出所:VAMA公表資料に基づきジェトロ作成

販売台数のうち、コンプリートノックダウン(CKD)生産による国産車は前年比10.6%増の21万5,704台、輸入完成車は6.2%減の7万2,979台となった。2018年1月からASEAN域内の完成車輸入関税が撤廃されるのに先立ち、ベトナム政府が2017年10月に政令116号(116/2017/ND-CP)を公布したのを受け、他国政府が発行する車両認可証の提出、排気量や安全性能の追加検査などが、完成車輸入時に新たに課された。車両認可証はもともと輸出用に発行されるものではなかったため、自動車メーカーや他国政府の対応がとれるまで、完成車の輸入が実質困難な状況となった。

2018年途中から、タイやインドネシアの政府が車両認可証の発行を始め、下半期にかけて輸入台数は復調したが、政令116号で規定された追加検査のため、2017年以前よりも輸入にかかるリードタイムと費用の負担が増えており、2018年通年での輸入車販売台数は2017年を下回った。一方、国内の自動車生産台数は前年比14.1%増の25万9,900台(推計)と過去最多を記録し、国産車の販売台数も同様に増加した。

2018年の用途別の新車販売台数は、乗用車が19万6,949台(前年比27.7%増)、商用車が8万4,634台(19.2%減)、特別目的車が7,100台(48.6%減)となった(表2参照)。商用車は新車購入需要の一巡や新たな政令の施行が影響し、市場が停滞したと推察される。政令116号と同様に、2018年1月から施行された政令125号(125/2017/ND-CP)は、ASEAN域内から輸入される自動車部品のうち、ベトナムで生産できない部品の関税優遇を定めたが、その要件の1つとして、生産車が欧州排ガス基準「ユーロ4」以上を満たすことが設けられたため、メーカーの生産計画や市場動向に混乱が生じたという見方もされている(注2)。

表2:用途別の販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2014年
台数
2015年
台数
2016年
台数
2017年
台数
2018年
台数 前年比
乗用車 100,439 143,392 182,347 154,209 196,949 27.7
商用車 51,408 89,398 106,412 104,725 84,634 △ 19.2
特別目的車 5,963 12,124 15,668 13,816 7,100 △ 48.6
合計 157,810 244,914 304,427 272,750 288,683 5.8

注:2019年3月28日付で、VAMA統計の2015年から2018年におけるトラクターのカウントが特別目的車から商用車に変更された。VAMA未加盟企業の一部(ヒュンダイを含まない)の販売台数を含む。
出所:VAMA公表資料に基づきジェトロ作成

北部と南部で売れ筋モデルに違いも

商用車と特別目的車が販売台数を落とした中、乗用車は順調な伸びをみせ、過去最多の販売台数を記録した。VAMA加盟企業の乗用車販売台数を形態別にみると、セダンが9万8,891台と最多で、スポーツ用多目的車(SUV:Sport Utility Vehicle)が3万5,558台、多目的車(MPV:Multi Purpose Vehicle)が2万305台、ハッチバックが1万3,767台と続く(表3参照、注3)。

表3:VAMA加盟企業の乗用車の形態別・地域別販売台数(2018年)(単位:台)
形態 北部 中部 南部 合計
セダン 44,138 17,106 37,647 98,891
SUV 13,981 6,394 15,183 35,558
MPV 3,954 1,950 14,401 20,305
ハッチバック 7,842 1,490 4,435 13,767
クロスオーバー 6,245 1,681 4,317 12,243
合計(その他を含む) 80,602 29,913 81,569 192,084

出所:VAMA公表資料に基づきジェトロ作成

これを地域別にみると、北部が8万602台、南部が8万1,569台とほぼ均衡している。以前は気候の変化が激しい北部の方が南部よりも、自動車購入の需要が高いと言われていたが、ここ2年は南部の販売台数が北部を若干上回っている。乗用車の形態ごとにみると、以前からベトナム北部ではセダンとハッチバックの台数が多く、南部ではMPVの台数が多い。グラブなどの配車アプリやタクシーで使われている車種をみると、北部のハノイではトヨタ「ヴィオス」などの小型セダン、起亜「モーニング」やヒュンダイ(現代)「グランドI10」などの小型ハッチバックが多く、南部のホーチミンではトヨタ「イノーバ」などのMPVが多いことがわかる。2018年の乗用車モデル別販売台数をみても、MPVのトヨタ「イノーバ」は南部で北部の4倍以上購入されており、小型ハッチバックの起亜「モーニング」は北部で南部の2倍近く購入されている(表4参照)。

表4:乗用車の販売台数上位10モデル(2018年)(単位:台、%)(―は値なし)
順位 モデル メーカー 形態 台数 北部 中部 南部 前年比
1 ヴィオス
(Vios)
トヨタ セダン 27,188 12,417 3,635 11,136 22.1
2 グランドI10
(Grand I10)
ヒュンダイ ハッチバック 22,068
3 イノーバ
(Innova)
トヨタ MPV 14,581 2,534 1,014 11,033 21.5
4 マツダ3
(Mazda3)
マツダ セダン 13,446 6,941 2,370 4,135 26.4
5 アクセント
(Accent)
ヒュンダイ セダン 12,537
6 CX-5 マツダ クロスオーバー 12,243 6,245 1,681 4,317 36.0
7 セラト
(Cerato)
タコ・起亜 セダン 11,678 6,465 1,937 3,276 106.7
8 モーニング(Morning) タコ・起亜 ハッチバック 11,458 6,753 1,206 3,499 11.4
9 シティ
(City)
ホンダ セダン 10,851 3,578 2,544 4,729 56.9
10 CR-V ホンダ SUV 8,819 3,784 1,922 3,113 150.4

出所:VAMA公表資料およびヒュンダイ・タインコン発表に基づきジェトロ作成

ブランドはトヨタが首位、ヒュンダイが迫る

2018年の新車販売台数をブランド別にみると、トヨタが6万5,856台(前年比11%増)と、シェア23.8%を獲得して首位だった(表5参照)。輸入規制の影響で「フォーチュナー」などの輸入車が前年を下回ったが、「ヴィオス」が2万7,188台(22.1%増)でモデル別1位、「イノーバ」が1万4,581台(21.5%増)でモデル別3位になるなど、国内生産車を中心に販売が伸びた(表4参照)。

VAMAに加盟していないヒュンダイ・タインコンは、2018年の販売台数を前年比倍増の6万3,526台(106%増)と発表、シェア22.9%を獲得し、首位のトヨタに迫る勢いを見せている。ヒュンダイ・タインコンはベトナムにおける生産機能を拡張しており、「グランドI10」は2万2,068台でモデル別2位、「アクセント」は1万2,537台でモデル別5位となった。

前年比123%増で2万7,099台を販売したホンダは、「シティ」が1万851台(56.9%増)でモデル別9位、「CR-V」が8,819台(150.4%増)でモデル別10位と伸びた。「シティ」はベトナム国内生産であるのに対し、「CR-V」 はASEAN域内の完成車関税撤廃を見越して導入されたタイ生産の新モデルが好調だった。

企業別にみると、ビナマツダ、タコ・起亜、タコ・トラック、プジョー、タコ・バスといったブランドを抱える、チュオンハイ自動車(タコ)の販売台数が9万6,127台で1位となった。商用車の販売が伸びず、タコ・トラックとタコ・バスが前年を下回る販売台数となったが、乗用車を中心に扱うその他のブランドが販売を伸ばした。

表5:主要ブランド別の販売台数(2018年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド名 販売台数 シェア 前年比
トヨタ 65,856 23.8 11.0
ヒュンダイ・タインコン(注) 63,526 22.9 106.0
ビナマツダ 32,728 11.8 25.8
タコ・起亜 28,986 10.5 30.9
タコ・トラック 27,931 10.1 △ 26.5
ホンダ 27,099 9.8 123.3
フォード 24,636 8.9 △ 13.8
GM 12,334 4.5 16.6
三菱自動車 10,278 3.7 54.0
いすゞ 7,375 2.7 △ 7.4
スズキ(ビスコ) 6,897 2.5 13.5
ドータイン 6,790 2.5 25.5
メルセデスベンツ 6,269 2.3 △ 11.8
プジョー 4,463 1.6 960.1
ビエム 3,370 1.2 △ 6.9
日野 2,860 1.0 △ 39.6
日産(TCIEV) 2,680 1.0 21.7
ビナモーター 2,515 0.9 △ 39.2
タコ・バス 2,019 0.7 △ 32.8
サムコ 777 0.3 △ 44.4
レクサス 588 0.2 △ 38.0

出所:VAMA公表資料およびヒュンダイ・タインコン公表資料に基づきジェトロ作成

初の国産車メーカーのビンファストが販売を開始

ベトナム不動産最大手ビングループ傘下のビンファストが、初の国産車メーカーとして始動した。2018年11月に小型車「ファディル」、セダン「LUX A2.0」、SUV「LUX SA2.0」、電動バイク「クララ」の販売を開始し、大幅なプロモーションもあって話題を呼んだ。2017年9月に建設を開始した、北部ハイフォン市の自動車工場は、2019年8月から本格稼働の予定で、年間の生産能力は25万台、将来的には2倍の50万台に引き上げる計画だ。ベトナムの新車販売市場は近年、30万台前後で推移しているが、ビンファストの計画は国内市場の成長と輸出需要を見越したものだとみられる。

ビンファストは2019年6月14日、グエン・スアン・フック首相らが出席の下、自動車工場の開所式典を開催し、自動車の受注が1万台に達したと発表した。6月17日から「ファディル」の納車を開始し、7月末には「LUX A2.0」と「LUX SA2.0」も納車の予定だ。新たな自動車と電動バイクのデザインも進めており、2020年までに12モデルの販売開始を目指している。電気自動車(EV)の開発も進めており、ベトナム政府に対して、EV関連部品などの関税撤廃を要求するなど、国内産業の育成を目指す政府を巻き込む動きもみせている。


ビンファスト「ファディル」(ジェトロ撮影)

ビンファスト「LUX A2.0」(ジェトロ撮影)

今後の自動車産業、政府の動きにも注目

市場動向としては、実際に顧客のもとに届けられたビンファストの自動車がどのように評価され、シェアを獲得していくかに関心が集まっている。自動車産業動向としては、国内の市場規模や裾野産業の集積度合を踏まえ、国内生産と輸入のバランスをどのようにとるか(国内生産をどの程度拡張していくか)、見極めが難しい状況だといえる。そのため、ビンファストの動きにも同調するかたちで、ベトナム政府がどのような助成策を打ち出すのか、留意が必要だ。ASEAN域内の関税撤廃に合わせて施行された輸入規制の影響が小さくなり、完成車の輸入が再び増加している中、国内産業の育成を目指す政府としては、自動車の国内生産増加を促す手立てをとりたいところだろう。国内生産車を優遇するような政策がいつどのような内容で実施されるか、今後の政府の動向が注目される。


注1:
VAMAの発表値には、ヒュンダイ・タインコンの販売台数が含まれていない。ヒュンダイ・タインコンの発表によると、2018年の同社の自動車販売台数は6万3,526台(前年比106%増)だった。この販売台数をVAMAの発表値に加えると、2018年の自動車販売台数は35万2,209台(前年比16%増)となり、過去最多を記録したと推察することもできる。
注2:
政令116号(116/2017/ND-CP)および政令125号(125/2017/ND-CP)については、2018年1月17日付ビジネス短信参照
注3:
VAMAに加盟していないヒュンダイ・タインコンの販売台数を加えると、モデル別2位の「グランドI10」(ハッチバック)と同5位の「アクセント」(セダン)が寄与し、セダンとハッチバックの販売台数はさらに多いと予測される。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。