英国で人気高まる発酵食品

2019年4月16日

飲料や食品の発酵技術は、冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代に食品などを保存する方法として利用された。英国では、ヨーグルト、チーズ、酢などが生活に根付いているが、最近では、生活習慣で乱れやすい腸内環境に良い働きをする菌を取るために、発酵食品を購入する消費者が増えている。

見直されるスーパーフード「発酵食品」

発酵飲食料品の市場規模は、2022年には世界全体で400億ドルになるとの試算もある(米国パーシステンス・マーケット・リサーチ社)。英国でも、「自然志向」「健康志向」「スーパーフード」といったジャンルが飲食料品市場で確たる地位を築く中、近年、その一歩先を行くトレンドとして、消化器官に有用な微生物を使った発酵食品・飲料の市場が着実に広がりを見せている。小さいスペースながらも以前から大手スーパーにも陳列されていたザワークラウト、ケフィア、サワードウ、リンゴ酢などに加えて、近年では特に高級スーパーやオーガニック系小売店で、「コンブチャ(Kombucha)」やキムチ、みその種類が顕著に増加している(注1)。

小売りだけでなく、外食でも身近になってきたコンブチャ

とりわけ、コンブチャの飛躍は著しい。大衆市場を主ターゲットとする小売り最大手の「テスコ」は、コンブチャの取り扱いは見られないものの、小売り第2位の「セインズベリーズ」は一部の店舗とオンラインでの取り扱いを開始し、高級スーパーの「ウェイトローズ」では、250ミリリットルで1ポンド(約146円)、275ミリリットルで1.35ポンドなど複数のラインアップを用意している。オーガニック系の小売店やスーパーでは、銘柄やフレーバー、容量の大小の幅も豊富で、例えば、大手オーガニックスーパー「プラネットオーガニック」のトッテナム・コートロード店では、計17ブランド68種類のコンブチャの販売が確認できた。コンブチャは、コーラやスプライトなどに代わるヘルシーな炭酸飲料として、自然食品系の小売市場で完全に定着しているといえよう。


オーガニック系スーパー「プラネットオーガニック」の「コンブチャ」コーナー。
スタンダードな商品とともに、フルーツ味などの風味がついたものも多く並ぶ。
(ジェトロ撮影)

コンブチャは小売りだけでなく、外食市場にも広がりを見せている。現地紙「ガーディアン」によると、英国のコンブチャブランド「リアル・コンブチャ(Real Kombucha)」は、近く300店舗のパブに自社のコンブチャを提供する予定だという。同社の設立者デビット・ベッグ氏は「ビジネスを始めた約2年前には、パブでノンアルコール飲料のコンブチャは受け入れられなかったが、今では約50店舗のミシュラン星つきのレストラン、300の有名ホテル、55店舗のパブで当社のコンブチャが提供されている」と述べている。

また、コンブチャを製造する「クレタ・ブリュアリー」の創立者ニール・ヒンクリー氏は「最近では若年成人の約30%はアルコール飲料を飲まず、アルコールなしで楽しい時間を過ごしたいと思っている。これらの消費者は、オレンジジュースやレモネード以上のノンアルコール飲料を求めており、コンブチャは健康的な評価も手伝って、消費者のニーズに合ったのだと思う。コンブチャの人気は、独特の味もさることながら、健康に良いスーパーフードとして見なされている点が大きい」と話している。

アルコール飲料の代替品として、多量の砂糖や香料、食品添加物を含まないソフトドリンクが求められていたところ、発酵に由来する複雑な味わいを持つコンブチャは、まさにこの条件を満たし、アルコールに代わる飲み物として受け入れられてきた。コンブチャの躍進は、単なる一時的なトレンドというよりも、消費者の本当のニーズを満たすことで人気が出たと言えよう。

着実に根付く外国由来の発酵食品

コンブチャ以外の発酵食品も、着実に存在感を増している。とりわけ、オーガニック系の小売店では、発酵飲食料品専門の販売コーナーで消費者の食のスタイル・好みに沿った商品や食べ方が提案され、フレーバーの種類も充実している。ザワークラウトを例に挙げると、伝統的なザワークラウト(テスコ:900グラムで1.39ポンド)に加えて、ガーリック&ディル味(プラネットオーガニック:500グラムで6.99ポンド)、ビートルート&生姜味(プラネットオーガニック:500グラムで6.5ポンド)なども販売されている。キムチには、通常のものに加えて、みそキムチやゴマキムチ、キムチソースなどの品ぞろえがある。みそについても、玄米みそ、八丁みそ、西京みそ、白みそなどが販売されている。


プラネットオーガニックの「発酵食品(biolive food)」コーナー。
生みそ、キムチ、ザワークラウトなどが並ぶ(ジェトロ撮影)

大手オーガニックスーパー「プラネットオーガニック」のバイヤー、アル・オーバートン氏は英国の発酵食品市場について、「ザワークラウトやキムチの人気が出てきた後、約2年前からコンブチャの人気が急速に高まっている。また、サワードウや昔ながらの製法で作られたリンゴ酢など、伝統的な発酵食品も見直されている。発酵食品が消化管の健康や腸内フローラにとって有用だと認識された結果だと考えられる。当店では、テンペ(注2)や豆腐などの植物性食品の売り上げが著しい。みそを使って料理する人も増えており、現在は要冷蔵の生タイプのみそも取り扱っている」と語る。

日本産発酵食品の市場参入の可能性について尋ねたところ、「プラントベースト・ダイエット(注3)を実践している消費者の中でも、特にグルメな顧客層は、植物性でありながらも肉に多く含まれるウマミ成分が豊富な食材を求めている。消化器系の健康や発酵食品と関連するような新しい食材や風味への関心も高い。そのため、日本の発酵食品は英国市場において多くのチャンスがあると思う」と回答した。実際に同スーパーでは近日中に納豆の販売を開始するという。

最近の英国で発酵食品が急速に広がり浸透していることから、しょうゆ、みそ、酒、甘酒、漬物、納豆、かつお節などの日本由来の発酵食品は、日本食品の英国市場での展開を考えるにあたり、日本食の伝統と強みを生かすことができる有望な商品となる可能性を秘めている。


注1:
ザワークラウト:ソーセージの付け合わせなどとして長年親しまれているドイツのキャベツの漬物。乳酸菌による発酵食品。近年は、ローフード、スーパーフード、低脂肪、高ビタミンCの健康食として見直されている。
ケフィア:複数の乳酸菌と酵母で作られるロシア発祥の発酵乳飲料。消化器や乳糖不耐症に良いとされ、日本では「ヨーグルトキノコ」とも呼ばれている。
サワードウ:乳酸菌と酵母などを使ってゆっくり発酵させて作るパン。発酵過程で乳酸が発生するため特有の酸味が特徴。
コンブチャ:日本では「紅茶キノコ」とも呼ばれており、砂糖を加えた茶に酵母由来の発酵菌である菌株(スコビー)と酢酸菌を入れ発酵をさせた飲料。日本語の「昆布茶」とは全く別の飲み物。
注2:
大豆をテンペ菌で発酵させたインドネシアの伝統的な健康食品。肉の代わりとしてベジタリアンなどに注目されている。
注3:
ベジタリアンやビーガンなど、植物性の食事を摂取する食事法。健康や環境保護の観点などから欧米を中心に広まってきている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
尾崎 裕子(おざき ゆうこ)
2008年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。