日系企業などの生産ライン自動化を支えるインドネシア地場企業

2019年12月9日

インドネシアには多くの日系自動車メーカーと関連産業が進出している。関連産業として真っ先に思い浮かべるのはサプライヤー(自動車部品供給会社)だが、ほかにも重要な役割を担う業種がある。顧客が工場スペックを指定し、それに合わせてロボットや加工機を使い、生産ラインのシステムを組む「システムインテグレーター(SIer)」や、自ら生産ラインの企画提案・設計を行い、一括で生産ラインを受注し、全体の最適化を図った上で提供する「ラインビルダー」だ。ジェトロが機械メーカーなどにヒアリングを行ったところ、インドネシアには日系やローカルを含め、こうしたSIerやラインビルダーの企業が少ないという実態がある。一方で、インドネシア政府は「インダストリー4.0」導入に向けたロードマップ「Making Indonesia 4.0」で、「労働コストに対する生産性を2倍に引き上げる」ことを目標の1つに掲げている(2018年4月12日付ビジネス短信参照)。その際、ロボットなどを活用した自動化のニーズが高まることが予想される。

こうした状況下、インドネシア企業のPT SEKAWAN GLOBAL ENGINEERING(SGE)は、地場SIer、溶接や組み立て工程などのラインビルダーとして、日系企業や海外の自動車メーカーを顧客に持つ。同社アドバイザーの神谷聡氏に、事業内容やインドネシアでのニーズ、今後の展望などについて聞いた(11月21日)。

質問:
SIerやラインビルダーの分野に取り組むようになったきっかけは。また、他社と比較した際の貴社の強みは。
答え:
弊社は1968年にマシニングのワークショップを行う団体として事業を開始した。2002年にPT SEKAWAN PUTRA MAKMURとして、ジャカルタ近郊のチカランにあるJABABEKA(ジャバベカ)工業団地にマシニングプラントを設置、自動車用部品の生産を行ってきた。2011年にエンジニアリング部門をつくり、2015年にSGEを設立した。SGE設立のきっかけは、PT SEKAWAN PUTRA MAKMURが日系自動車メーカーに部品を供給する中で、顧客から生産ラインもつくれないかという依頼が増えてきたため。日系自動車メーカーが生産ラインをつくる際は、日本からSIerを連れてきて対応するケースが多かった。SGEでは、自動車メーカーとその裾野産業を顧客として、自動車工場の電気工事や治具の製作、生産ライン(組み立て、溶接)の設計・製作・設置など幅広く顧客のニーズに対応できる。溶接ラインの設計・製作・設置など一部分で競合するインドネシア企業もあるが、当社のように幅広いサービスを提供できるインドネシア企業は当社だけだと思う。売り上げの7割は組み立てや溶接ライン、コンベヤーの設置、工場内の電気配線などの業務で、残りがSI業務となる。
質問:
顧客からはどのように依頼があるか。
答え:
顧客からの依頼は2通り。1つは、顧客から仕様をもらい、ロボットなどを含めて生産ラインを丸ごと受注する。2つ目は、顧客が取引先との関係で既にロボットを購入している場合で、当社からエンジニアを派遣してプログラミングを行う。今のところは後者の依頼が多い。
質問:
生産ラインを製作する際、自社でできる部分は。
答え:
例えば、ロボットはファナックや安川電機、コンベヤーチェーンは徳野製作所、ハンドクレーンはアイコクアルファのラクラクハンドなど日本製を用いている。無人搬送車(AGV)は中国のCIZON、工具はフランスのDESOUTTERから輸入しているが、それら以外の部分はほぼ自社で製作している。鉄板などの部材調達先として現地の日系企業も候補となりうる。
質問:
インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)によると、2019年1月から9月の新車販売台数は75万3,000台と、前年同月比で12%落ち込んでいる。貴社に影響は出ているか。
答え:
今のところ影響は出ていない。当社のビジネスモデルとして、新車種が製造される場合には、例えば、新しい溶接ラインが必要という依頼が入ることになる。最近では、顧客が第三国に展開する際の溶接・組み立てラインの製作依頼を受けており、非常に大きな取引となる予定だ。ただし、それ以外では大きなプロジェクトは減ってきている印象がある。
質問:
人材育成はどのように行っているか。
答え:
当社は常に並行して動く案件を5~10件持っている。それぞれにプロジェクトリーダー、サブリーダー、その下にメカニカルエンジニア、エレクトリカルエンジニアが付く。現在、メカニカルエンジニアは15人、エレクトリカルエンジニアは8人。エンジニアは大学の出身者が多いが、SMK(職業学校)卒も何人かいる。学校での教育も重要だが、エンジニアは現場経験が何より重要だ。案件を任せられるようになるには数年かかる。

PT SEKAWAN GLOBAL ENGINEERINGの神谷アドバイザー(ジェトロ撮影)
質問:
今後の展望は。
答え:
自動車産業だけでなく、他の産業にもニーズはあるとみている。まずは日系企業のニーズを洗い出したい。また、日系企業は顧客としてだけでなく、調達先としてもさらに連携していきたいと思っている。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上野 渉(うえの わたる)
2012年、ジェトロ入構。総務課(2012年~2014年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2014年~2015年)、企画部企画課海外地域戦略班(ASEAN)(2015年~2019年)を経て現職。ASEANへの各種政策提言活動、インドネシアにおける日系中小企業支援を行う。