拡大するイタリアの有機食品市場
有機見本市SANAが開催

2019年10月7日

イタリア北部のボローニャで、9月6日から9日までの4日間、有機食品・製品の見本市SANA(サーナ)が開催された。今回で31回目の開催となった同見本市に、ジェトロがジャパンパビリオンを初めて設置、有機食品を取り扱う10社の日本企業が出展した。2019年2月に発効した日EU・EPAを機に日本産食品の更なる輸出促進への期待が高まっているが、有機に特化した産品の輸出にも注目が集まる。

初めて設置されたジャパンパビリオン

SANAは、オーガニックの食品や製品に特化したイタリア最大級の見本市である。農業が盛んなエミリア・ロマーニャ州の州都ボローニャにて、6万平方メートルの会場にイタリア国内外の企業1,000社が出展した。

会場は、「食品」、化粧品などの「ビューティー&ケア」、ホームインテリアなどの「グリーンライフスタイル」の3つのエリアに区切られており、そのうち「食品」エリアにジェトロがパビリオンを設置。日本茶や日本酒、みそ・しょうゆなどの調味料を扱う企業などが日本全国から参加した。


ジャパンパビリオンの様子(ジェトロ撮影)

パビリオンに設置された試食ブースでは、出展企業の製品をもとにイタリア人シェフがレシピを開発した、抹茶のパンナコッタ、しらたきのあえ物などのメニューが来場者に振る舞われた。「食」をテーマとした2015年のミラノ万博も追い風となり、日本料理はイタリアで徐々に浸透してきてはいるものの、食材の生かし方を具体的に提示できる機会は限定的で、今回のジャパンパビリオン参加は日本の食材を使った調理の仕方を紹介する貴重な機会となった。ブースを訪れたイタリア人は、興味深そうに手に取り、風味と食感を楽しんでいた。


ジャパンパビリオン内に設置された試食ブースの様子(ジェトロ撮影)

右肩上がりの有機食品市場

健康意識の向上と環境配慮の高まりなどを受け、イタリアでは近年、有機食品の市場が拡大している。イタリアの調査会社Bio Bankによれば、有機食品の国内売上高は、2010年の18億ユーロから2018年の36億ユーロへと、8年間で2倍に拡大した(図1参照)。

図1:有機食品全体および購入場所別の国内売上高の推移
2009年の売上はスーパーが4億5,000万ユーロ、専門店が7億ユーロ、その他が4億ユーロ、合計で15億5,000万ユーロ。 2010年はそれぞれ5億ユーロ、8億ユーロ、5億ユーロ、18億ユーロ。 2011年はそれぞれ5億4,500万ユーロ、8億9,500万ユーロ、5億6,000万ユーロ、合計20億ユーロ。 2012年はそれぞれ5億8,500万ユーロ、10億500万ユーロ、5億8,500万ユーロ、合計21億7,500万ユーロ。 2013年はそれぞれ6億2,500万ユーロ、10億7,500万ユーロ、6億2,000万ユーロ、合計23億2,000万ユーロ。 2014年はそれぞれ8億5,500万ユーロ、7億6,100万ユーロ、8億4,400万ユーロ、合計24億6,000万ユーロ。 2015年はそれぞれ8億7,300万ユーロ、8億6,200万ユーロ、9億2,500万ユーロ、合計26億6,000万ユーロ。 2016年はそれぞれ11億9,100万ユーロ、8億9,200万ユーロ、10億1,000万ユーロ、合計30億9,300万ユーロ。 2017年はそれぞれ14億3,700万ユーロ、8億9,200万ユーロ、9億3,900万ユーロ、合計32億6,800万ユーロ。 2018年はそれぞれ15億9,500万ユーロ、8億6,500万ユーロ、10億9,200万ユーロ、合計35億5,200万ユーロ。

出所:Assobio, Ice, Ismea, Nielsen, Nomismaのデータを基にBio Bankが作成

また同社によれば、有機食品の購入場所として、以前は専門店が突出していたものの、2014年ごろよりスーパーマーケットが伸長し、現在は専門店の約2倍の売上高となっている。実際、大手スーパーマーケットの店頭には、幅広いジャンルの有機食品が並んでいる。パスタ、コメなどの穀類から、ヨーグルトなどの乳製品や卵、野菜、果物などの生鮮品、ビール、ワインなどの酒類まで、多くの飲食品は有機でそろえることが可能だ。生活に密着したスーパーマーケットが有機食品の取り扱いに乗り出したことで、流通量が増加し、価格も徐々に抑えられ、有機食品が生活に浸透してきている。一方、専門店の場合はシャンプー、化粧品など、食品以外の生活必需品も取りそろえているケースが多く、こちらも人気は堅調だ。

有機食品市場の盛り上がりは、その他の統計にも顕著に表れている。イタリアからの有機食品の輸出は、2009年の10億ユーロに対し、2017年の21億ユーロと、8年間で倍増した(図2参照)。2018年時点では、同国全体で利用されている農地面積の15.5%が有機栽培用であり、2017年のEU平均の7%を大きく上回る。加えて、有機食品を取り扱う輸入業者の数も、過去10年間で約2倍となっており、国内市場の拡大に寄与している(図3参照)。同国のテレサ・ベッラノバ農業・食料・森林・観光政策相も「イタリアは有機食品産業従事者数で欧州をリードしている」とし、さらなる市場の盛り上がりに期待を寄せている。

図2:有機食品の輸出額の推移
2009年が10億ユーロ、2010年が10億5,000万ユーロ、 2011年が11億3,500万ユーロ、2012年が12億ユーロ、2013年が12億6,000万ユーロ、 2014年が14億2,000万ユーロ、2015年が16億5,000万ユーロ、2016年が19億1,500万ユーロ、 2017年が20億6,000万ユーロ。

出所:FiBL Statistics

図3:有機食品を取り扱う輸入業者数の推移
2007年が211人、2008年が246人、2009年が262人、2010年が264人、 2011年が293人、2012年が297人、2013年が260人、2014年が259人、 2015年が310人、2016年が363人、2017年が411人となった。

出所:FiBL Statistics

広がる「〇〇フリー」

有機食品を購入する理由として、SANAに出店していたイタリアの有機食品メーカーの担当者は「イタリア人は昔に比べて忙しくなり、食事に割く時間も減った。以前は前菜、主菜、と順を追って食事をとっていたのに対し、現在は1品で済ませる人も少なくない。その分、一品一品をより大切にするようになり、食材にも気を遣うようになった」と話す。

有機食品の広がりを後押ししているトレンドの1つは、健康意識の向上だ。健康に配慮する人々の間では、「含有しない」ことが商品価値を高める要素の1つとなっている。その中でも特徴的なのが、いわゆる「〇〇フリー」と呼ばれるものだ。グルテンフリー、ラクトースフリーなどはイタリアでも浸透してきているが、昨今は「パーム油フリー」も存在感を示し始めている。パン、クラッカー、クッキーなどの商品を中心に、パーム油不使用であることがパッケージに明記されたものが店頭に多く並ぶ。小売業の業界団体GS1 Italyと調査会社ニールセンが発表した統計によれば、「パーム油なし」の商品は2016年から2017年にかけて12.9%、2017年から2018年にかけては3.8%と売上高を伸ばしている。パーム油の使用については賛否両論あるものの、森林・生態系破壊の要因となっているとして、環境倫理の面から含有する商品の購入を控える消費者も少なくない。

表:各分類の売上高の増減(前年比、%)(△はマイナス値)
分類 2017年 2018年
保存料なし △ 0.4 △ 4.0
パーム油なし 12.9 3.8
着色料なし 0.1 △ 5.8
添加物なし 4.5 3.6
硬化油なし △ 3.1 △ 7.9
遺伝子組み換えなし △ 1.8 1.6
飽和脂肪なしまたは少量 4.7 △ 0.1
グルタミンなし 3.0 4.8
加糖なし 7.4 5.4
減塩または塩なし 7.2 3.6
アスパルテーム(甘味料)なし 2.8 △ 14.7

出所:Osservatorio Immagino Nielsen GS1 Italy

環境への配慮も追い風に

世界的に機運が高まる環境保全は、イタリアでも常に注目を集めるトピックであり、特に若い世代では関心が高い。今後、その機運がさらに高まれば、農業の持続性にも寄与する有機食品に、より一層の注目が集まるだろう。今後、経済停滞が続くイタリアで、成長市場として飛躍していくことが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。