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変わりゆく産油国サウジアラビア
日・サウジ協力も新たな時代に

2019年7月11日

サウジアラビアが脱石油依存・産業多角化を目標に、新たな国づくりを目指す国家改革計画「ビジョン2030」を発表(2016年4月)してから3年が経過した。日本も2017年3月のサルマン国王の来日を機に、このビジョン達成に協力する「日・サウジ・ビジョン2030」を制定したが、2019年6月には両国閣僚が東京に集まり、各プロジェクトの具体的な進展を互いに確認する「閣僚会合」を開催。これまでの成果と今後のさらなるアクションを取りまとめた「日・サウジ・ビジョン2030 2.0外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」にも合意した。

「ビジョン2030」の進捗状況については、民営化や外資誘致などの面では今なお課題が多いという意見もあるが、ミュージカルやコンサートなどの娯楽イベントの開催、映画館のオープン、女性の運転解禁など、特に文化・社会面や娯楽面ではさまざまな改革が急速に進み、新たな分野でのビジネス機会を生み出している。

6月17日には前述の「閣僚会合」と合わせ、ジェトロも東京で「日・サウジ・ビジョン2030 ビジネスフォーラム」を開催し、その中で「スタートアップ」「エンターテインメント」という、これまでのサウジアラビア=産油国という姿から離れた、全く新しい分野での協力関係を取り上げた。エネルギー(石油)やインフラ中心の従来型の協力を超えて、未来志向型の新たな両国の関係を広く紹介する機会となった。本稿では同フォーラムでの発表を基に、変わりゆくサウジアラビアや日・サウジ協力の姿を紹介したい。


日本側だけで254人が参加したビジネスフォーラム(ジェトロ撮影)

日本のスタートアップに投資関心を示すサウジVCも

「スタートアップ」のセッションでは、ソフトバンクグループが基調講演を行うとともに、日本側とサウジ側それぞれ2企業ずつ、パネルディスカッションに参加した。

日本側の企業はいずれも、それぞれの強みを生かして、サウジ市場に参入しようと意欲的に取り組んでいる様子を紹介した。ソフトバンクグループは、サウジアラビア公共投資基金(PIF)との共同ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を2017年に設立している。佐護勝紀取締役副社長によれば、講演時点で同ファンドは有望企業約80社に投資しているが、インドのホテルベンチャーOYOや米国の建設新興企業Katteraなど、すでにその中の14社がサウジアラビアでの事業展開を進めているとのことだった。

ドレミングはフィンテックの技術を用いて、電子マネーで迅速・安全に給与払いを行うシステムを提供するスタートアップで、すでにサウジの東部州ダンマンに2018年6月に進出拠点「ドレミングMENA」を設置している。登壇した高崎義一会長は「サウジアラビアを始めとする湾岸諸国やアフリカなど、約50カ国の中央銀行から事業オファーを受けている。本システムの提供を通じて、コスト減のみならず、労働者の環境改善、雇用創出や貧困削減にも貢献したい」と意欲をみせた。

テラドローンは高度な産業向けドローン技術を擁し、すでに国内で約600、海外でも約5,000のプロジェクトに携わるスタートアップだ。登壇した関隆史日本統括責任者によれば、サウジ向けには特に石油・ガスプラントや電力プラント、鉱物資源開発現場や建設現場向けの撮影・測量・点検ビジネスが適するとみており、現地企業のNDT CCSとともに合弁会社を設立し、サウジアラムコへの事業点検サービスを行う計画を進めているとのことだった。

これに対してサウジ側も、高い技術を持つ企業には積極的に投資を行いたいとの姿勢を見せた。SABICはサウジ有数の巨大石油化学企業だが、登壇したフアド・モーサ氏はローカルコンテンツ&ビジネスディベロップメントユニットに属し、外資の投資を促進し、主に下流産業への技術などのローカライゼーションを目指す「Nusaned」(アラビア語で「サポート」の意)というプログラムを通じて、採択した案件には資金調達、原料供給、人材訓練などの面での支援が可能と述べた。

本セッションで注目されたのは、テック企業への投資を積極的に行うサウジ・テクノロジー・ベンチャーズ(STV)の参加である。同社のアブドゥルラフマン・タラブゾニCEO(最高経営責任者)によれば、サウジアラビアでも近年、eコマースやツィッター、ユーチューブ(YouTube)視聴数が飛躍的に伸びるなど、デジタル技術の普及が著しく、ベンチャーキャピタル(VC)の投資額もここ数年で100%以上の成長を示しているという。同社はVCとして、次世代の成長エンジンを中東・北アフリカ(MENA)にもたらすグローバルなプレイヤーに投資する用意があり、日本企業への投資にも関心があると述べた。サウジアラビアにはSTVのほかにも、大学発VCのリヤド・バレー・カンパニー(RVC)など、有望テック企業の情報をグローバルに集め、マイナー出資での投資機会をうかがう投資家が存在しており、日本側からも要注目だ。


「スタートアップ」のパネルディスカッション(ジェトロ撮影)

日サ共同でのアニメ制作が進む

続く「エンターテインメント」のセッションでは、日本側から2企業、サウジ側から1企業が登壇し、特に漫画・アニメ分野で、両国の新たな協力プロジェクトが進む様子を紹介した。

サウジ企業のマンガプロダクションズは、日本のコンテンツを好むムハンマド・ビン・サルマン皇太子が所有する「MISK財団」の子会社で、質の高い漫画やアニメを将来的にサウジ人自身の手で制作するべく、他国との共同制作や人材育成など多様な活動を行っている。同社はすでに2018年5月に、初の日サ共同制作となったアニメ「きこりと宝物」を東映アニメーションと共に制作・放映した。現在も「アサティール『未来の昔ばなし』」、「ザ・ジャーニー」などの新作アニメを同社と共同で準備中とのことだ。

イサム・ブカーリ代表取締役社長は「これまでは多くのサウジ人が日本のアニメを見て育ったが、30~40年後、日サ・フォーラムを開催する時には、多くの日本人から『サウジのアニメを見て育った』と言ってもらえることが夢」と述べた。東映アニメーションの清水慎治常務取締役も「2011年からサウジとの共同プロジェクトを開始し、さまざまな苦労もあったが、日本のアニメを見て育ち、日本を大事に思ってくれていると感じる」と述べた。


マンガプロダクションズが会場で製作中のアニメ(©Manga Productions)を紹介
(ジェトロ撮影)

KADOKAWAもマンガプロダクションズと協力しており、2019年3~4月にサウジ人向けの漫画家育成コースをリヤドで開講した。26人のサウジ人が参加したが、その多くが女性で、当初は初級を想定したものの、熱心に取り組み、期待を上回る作画技術を見せてくれたとのことだった。ほかにも、マレーシアでのサウジ人向けの漫画制作インターンシップ・プログラムの実施や、中高生向けのサウジ歴史漫画の委託制作などを進めているようで、登壇した芳原世幸取締役・専務執行役員は「漫画コースの現場では、サウジ人学生がみな『ものづくり』に携われる喜びを感じ、キラキラとした目で取り組んでくれたと聞いている」と述べた。

サウジアラビアは、聖地を有する厳格なイスラム教国であるため、流通するコンテンツの内容には検閲がかかるなど、さまざまな制約があるが、若者の多くは日本と同様にゲームやアニメなどの娯楽を好み、新しい流行にも敏感である。現地のショッピングモールでも、ヴァージン・メガストアなどによって、海外のコンテンツが販売されている。先に紹介した「スタートアップ」と同様に「エンターテインメント」も、サウジアラビアが「石油」を超えた新たな分野の発展に注力している中で、日本が独自に培ったコンテンツや技術に敬意の念を向けてくれている今だからこそ、大きなチャンスが広がっている分野だといえるだろう。


現地の小売店では海外のコンテンツも販売(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長代理
米倉 大輔(よねくら だいすけ)
2000年、ジェトロ入構。貿易開発部、経済分析部、ジェトロ盛岡、ジェトロ・リヤド事務所(サウジアラビア)等の勤務を経て、2014年7月より現職。現在は中東諸国のビジネス動向の調査・情報発信を担当。

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