回復基調にあるトルコ観光セクター
治安の回復と割安感が牽引

2019年5月29日

トルコのサービス収入の約9割をはじき出すトルコの観光セクターが好調である。2018年の観光客数は約4,600万人と史上最高を記録し、従来のロシアや欧州だけでなく中東、アジアなどからの観光客も堅調だ。観光部門の活性化は、ホテルなどの建設需要だけでなく、関連の遊興施設、設備や機器、食品など、さまざまな分野での需要を生むことが期待される。

観光客数が史上最高を更新

トルコの観光セクターは、2014年に観光客数4,162万7,246人、1人当たり観光収入も828ドルと、2006年以来の最高値を記録した。しかし、2015年11月24日から2016年7月15日にかけて起きたロシア軍爆撃機撃墜事件、アタテュルク国際空港襲撃事件、複数のテロ事件、クーデター未遂事件などの影響で、2015年、2016年と観光客数は減少し、2016年には2006年のレベルまで低下した。観光客の減少が大きかったのは特にロシア(約280万人減)、ドイツ(約170万人減)などで、ほぼ全ての国で減少が見られた。その後、トルコ政府によるロシアとの関係の正常化と治安環境の好転に伴い、観光客数は2017年には前年比22.9%増と増加に転じ、2018年も21.4%増と好調に推移し、史上最高を更新した(表1参照)。

表1:年別観光客数の推移 (単位:1,000人、%)
外国人 海外在住
トルコ人
合計
2014 36,837 4,789 41,627
2015 36,244 4,869 41,114
2016 25,352 5,554 30,906
2017 32,410 5,559 37,969
前年比
(17年/16年)
27.8 0.1 22.9
2018 39,488 6,624 46,112
前年比
(18年/17年)
21.8 19.2 21.4

出所:文化観光省

ロシア人観光客が好むトルコ

国別の統計をみると、2018年はロシア人観光客数が前年比26.5%増の、約596万人で首位だった(表2参照)。ロシア人は、距離的にも近く、観光客向けのビザが免除されていることもあり、トルコを主要渡航先に選んでいる。次いで、ドイツからが約451万人で2位(前年比25.9%増)、ブルガリアは3位(28.8%増)、英国は4位(35.9%増)だった。欧州からの観光客は2016年以降、回復を見せているが、まだ、2014年の水準には達していない。他方、CIS(ロシア、ジョージア、アゼルバイジャン、ウクライナ、カザフスタン)、アジア(アラブ諸国、イスラエル、中国)、アフリカ(特に北アフリカ)、南米(アルゼンチン、ブラジル、コロンビア)からの観光客が増加しており、全体を底上げしている。

表2:国別観光客数の推移 (単位:1,000人、%)(△はマイナス値)
2014 2015 2016 2017 前年比
(17年/16年)
2018 前年比
(18年/17年)
ロシア 4,479 3,649 866 4,715 444.5 5,964 26.5
ドイツ 5,250 5,580 3,890 3,584 △ 7.9 4,512 25.9
ブルガリア 1,693 1,821 1,690 1,852 9.6 2,386 28.8
英国 2,600 2,512 1,711 1,658 △ 3.1 2,254 35.9
ジョージア 1,755 1,911 2,206 2,438 10.5 2,069 △ 15.1
イラン 1,590 1,700 1,665 2,501 50.2 2,001 △ 20.0
ウクライナ 657 706 1,045 1,284 22.9 1,386 7.9
イラク 857 1,094 420 896 113.3 1,172 30.8
オランダ 1,303 1,232 906 799 △ 11.8 1,013 26.8
合計 41,627 41,114 30,906 37,969 22.9 46,112 21.4

出所:文化観光省

遅れる観光収入の改善

観光収入は2014年に約343億ドルで史上最高を記録したが、治安問題やクーデター未遂事件などの影響で、2016年には約221億ドルまで減少した。2018年は約295億ドルまで回復したものの、依然として2014年のレベルを下回っている(表3参照)。これは、高額旅行を選好する欧州からの観光客数の回復が遅れているためとみられる。

1人当たりの観光収入は、2017年の681ドルから2018年に647ドルに減少し、観光客数の増加にもかかわらず収入は減少している。この背景には、トルコ・リラの下落でトルコ旅行が比較的に安くなったことと、トルコの海外でのイメージが2015~2016年に悪化したことを理由に、高所得の観光客数が減少傾向にあることが挙げられる。トルコ旅行業協会(TURSAB)のバールカヤ会長は「1人当たりの観光収入は、ギリシャ、ブルガリア、ジョージアからの日帰り買い物客も観光客に含めて算出しているため、これらの人々を除外した1人当たりの観光収入は公式発表の値よりも高い」と主張している。

表3:観光収入の推移 (単位:100万ドル、ドル、リラ)
合計 外国人 海外在住
トルコ人
1人当たりの
収入(ドル)
対ドル為替レート
(年間平均)
2014 34,305 27,778 6,289 828 2.18
2015 31,464 25,438 5,843 756 2.72
2016 22,107 15,991 5,964 705 3.02
2017 26,283 20,222 5,908 681 3.65
2018 29,512 24,028 5,345 647 4.81

出所:文化観光省

ホテルの投資、稼働率、1室当たりの料金が上昇

2018年のホテル稼働数は1万2,584軒で、2012年より234軒も少ないが、部屋数とベッド台数の増加は継続している(表4参照)。2016年における観光客数の約30%もの急減は、観光業界に打撃を与え、2017年のホテル数とベッド台数に減少がみられた。しかし、2018年にはホテル数、部屋数、ベッド数の全てで増加に転じている。

表4:ホテル統計の推移 
ホテル数 部屋数 ベッド台数
2012 12,818 689,993 1,477,624
2013 13,234 721,837 1,548,889
2014 13,436 754,293 1,613,569
2015 13,621 774,781 1,660,857
2016 13,962 795,734 1,709,331
2017 12,429 798,675 1,705,253
2018 12,584 801,126 1,711,759

出所:文化観光省

2018年の客室稼働率は66.2%で、2016年の50.8%から回復が続いている。1室当たりの価格は需要増により、2017年の66.8ユーロから70.4ユーロに上昇したが、2015年の105.4ユーロに比べてまだ低く、回復が遅れている。1室当たりの収入も同じく2017年の40.4ユーロから46.6ユーロに上昇しているが、過去8年間の最高値だった2012年の74.8ユーロには達していない。

表5:ホテル客室稼働率と観光収入
客室稼働率
(%)
1室当たりの料金
(ユーロ)
1室当たりの収入
(ユーロ)
2011 64.5 112.5 72.3
2012 64.7 115.6 74.8
2013 63.3 112.2 71
2014 62 105.9 65.7
2015 61.7 105.4 65
2016 50.8 77.9 39.5
2017 60.2 66.8 40.4
2018 66.2 70.4 46.6

出所:トルコホテル協会(TURSAB)

サービス・セクターの中核

トルコのホテル業界には、ヒルトン、シェラトン、モーベンピックといった世界的なホテルチェーンだけでなく、リゾート地などではトルコブランドの大手ホテルグループも展開している。日系でも、HISホテル・ホールディングスが2018年、2020年にトルコ西部の観光地パムッカレに約300室のホテルを開業すると発表した。

国内に18カ所ものユネスコ世界遺産を擁するトルコでは、イスタンブールなどの都市部では観光を取り込んだ国際会議が多く開催され、地中海やエーゲ海沿岸のリゾート地ではグループや家族旅行をターゲットにしたオールインクルーシブ・タイプの大型施設が人気である。

トルコのサービス収入の約9割を占めるトルコの観光セクターでは、こういったホテル関連施設の建設だけでなく、音響などのアミューズメント設備や、夏のシーズンに集まるさまざまな国籍の観光客に向けたアジアなどの多国籍食材の需要も旺盛となる。治安が安定したことに伴う、多方面に広がる観光サービスの活性化は、関連部門全体のビジネスボリュームを高めることが期待されている。

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 国際貿易専門家
エライ・バシュ
2009年6月にトルコのチャナッカレ・オンセキズ・マルト大学教育学部日本語教育学科を卒業。その後、大阪大学に留学し、2014年3月に言語文化研究科言語文化専攻博士前期課程を修了。2015年3月からジェトロ・イスタンブール事務所で調査担当として勤務。