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組織開発を踏まえたタイ人幹部育成と現地化

2019年10月8日

バンコク日本人商工会議所が実施した調査によると、日系企業が抱えるタイでのビジネス上の課題として、事務系マネジャーや幹部候補生などの人材不足が上位に挙げられる。日系企業が競争力を高め、効率的に組織を運営していくため、タイ人マネジャーを育成し、彼らが企業戦略を理解して活躍していく「現地化」の重要性が指摘されている。そこで今回は、ビジネスコンサルタント東南アジア地域統括会社の責任者である渡部喜道氏に、タイにおける幹部人材育成と現地化の在り方について聞いた。同社は組織開発支援のプロフェッショナルとして知られる。

人材育成、現地化に併せ組織開発も

質問:
昨今、タイ人幹部の育成や現地化の必要性が指摘されているが、その理由は。
答え:
多くの日系製造業は現在、タイを単なる生産拠点ではなく、研究開発(R&D)の拠点やマザー工場、販売強化のターゲット市場と捉えつつある。そこで、現地法人の使命や運営の在り方も、こうした状況を踏まえて見直すことが期待される。その重要な要素として、「現地化」というテーマがあらためて注目されている。つまり、タイ人が自ら外部環境の変化に気づき、考え、行動し、組織をリードすることが重要となるわけだ。
質問:
御社は、組織開発の必要性も指摘しているが、その理由は。
答え:
当初、「タイ人幹部を育成したい」という日系企業のニーズに応え、タイ人の幹部候補者に訓練を提供していた。しかし、多くの場合、タイ人幹部が考え、行動しようとしても、組織のルールや文化が障害となっていることがわった。その結果、タイ人も「やりたくてもできない」「どうせやっても」などといった思いを抱えることが多い。そこで、現地化やタイ人幹部育成のためには、日本人幹部のマネジメントに対する考え方も同時に変革していくことが必要と考えた。どのような幹部を育成し、どのように現地化したいのか、これを組織の目標や課題も踏まえ、日本人とタイ人が一緒に考えることが重要だ。

タイ人と日本人を同じキャリアパスに

質問:
現地化に関連し、日本人とタイ人がともに組織や制度を改善した具体例は。
答え:
日本人とタイ人が同一のキャリアパスの中で働くようにした例がある。役割や成果に応じた給与体系をわかりやすく示した取り組みだ。「国籍を問わず、マネジャーになればどれくらいの給与がもらえるとわかればタイ人のモチベーションも上がる」という仮説の下で、進めていった。もちろん、日本人駐在員には必要に応じて、別途手当などを払うことはあり得る。ただ、基本は「皆が同じ目標を目指し、成果に応じて報酬を得る」ことを前提にしている。その基準を「見える化」し、皆が自分のキャリアや能力、行動、成果について、問題意識を持つことが重要と考える。さらに言えば、それがタイに合ったタイ式のキャリアパスも踏まえたものであればなお良いと感じている。

業務内容と必要な能力が明確化されているタイ式キャリアパス

質問:
タイ式のキャリアパスとはどのようなものか。
答え:
タイ企業のキャリアパスの特徴を調べると、ジョブディスクリプションと、その達成に必要な能力要件が明確化されていることが多い。ある大手タイ企業では、業務ごとにどの能力がどれくらい必要か、一目でわかるよう整理され、公表されている。その達成度合いが個人の人事評価にも使われていると聞く。結果として、個人の専門性も向上するし、各人やマネジャーの裁量範囲もわかりやすくなる。これを普通と考えるタイ人からすると、仕事の範囲が曖昧な日本人の働き方は「他人の仕事まで取っている」ようで、異様に見えるかもしれない。従って、日本的な「気付いたら自分でやる」という考え方をタイの職場に取り入れる場合、それなりに工夫する必要があると思う。

人材育成にもまず組織のミッション共有を

質問:
個人のジョブディスクリプションが明確でない場合、どのような問題があるか。
答え:
個人のジョブディスクリプションが明確にならない場合、そもそも、組織のミッションがきちんと社内で共有されていない可能性がある。先日、ある企業を訪問したところ、数十年前の組織目標が壁に張ってありました。当時とはタイの状況は大きく異なる。タイ法人に対する期待や役割も、時代とともに、単なる生産コストの削減から、開発機能の強化、販路拡大、地域統括機能の強化などにシフトしているはずだ。しかし、目指す方向が組織内で共有されていなければ、それにふさわしい人づくりをしようとしても難しいと思う。

事実やロジカルに基づいた議論を

質問:
目標設定や評価の仕方については、日本とタイでは、考え方に違いがありそうだが。
答え:
言葉や文化が違えば、価値観や何を問題と捉えるかも異なる。しかし、それが双方が歩み寄れない言い訳になってはいけない。実際、日本人幹部の間ですら、問題意識が一致してない場合が多々ある。まずは、国籍を問わず、主要幹部が時間をかけて議論し、組織の課題について共通認識を持つことが重要だ。組織や人材について悩む企業も、ここまでできれば、問題の半分は解決されたも同然と考える。これができると、その後の改善計画作成や実践活動は驚くほどスピーディーに進むことが多いからだ。
質問:
顧客から組織開発の相談があった場合、具体的にどのように支援しているか。
答え:
まず、タイ人と日本人の幹部を集め、全員で「何が組織の問題か」を話し合ってもらうことを勧めている。このプロセスで日本人とタイ人で捉え方の違いを顕在化させることがスタートになる。例えば、ある企業の社員たちに自社目標の達成度合いを聞いたところ、多くの日本人は「達成してない」と答えたが、タイ人は「達成している」とほぼ逆の回答をする方が多かった。
この点、当該企業の社員全員に対してアンケートを実施し、より詳しく調べてみた。結果、国籍だけでなく、役職別・部署別でも認識の差があることがわかった。具体的には、課長代理レベルを境目に、それより上の幹部は「達成していない」と認識し、現場の従業員は「達成している」と答える傾向があった。
つまり、これまでは上級幹部だけで目標や問題を議論し、それを下方展開するつもりでいたのかもしれない。しかし実態は、この会社の課長代理レベルまでは共有されていた問題意識が現場の従業員には十分伝わっていなかった。社内で共通認識がなければ、目標達成度合いの認識に違いが出るのは当然のことだ。ただ、これを単純に「文化の違い」と片付けてしまうと、問題の本質を見失う恐れがある。言葉の問題であれば、会議での通訳の活用法を改善したり、指示文書を多言語にするなどの解決策がある。また、組織内コミュニケーションの不具合が問題なのであれば、まずはそれをしっかり認識することが問題解決の糸口となる。
質問:
異文化の違いを理由にしないとなると、事実に基づいてロジカルな解決法を議論する必要がある。外国人との議論など、日本人にはハードルが高そうだが。
答え:
難しいし、根気のいる取り組みだと思う。ただ、腰を据えてそこまで取り組めば、タイ人にもこちらの本気度が伝わる。弊社も、以前はマネジメントスキル研修やコミュニケーション研修などのテーマで、単発の公開セミナー開催を検討したことがあるが、一部のメンバーのスキルを開発しても、それを受け止める組織体制がないと生かされないと考え、単発の公開セミナーの開催は現在のところは予定していない。
質問:
うかがった内容は説得力があり、わかりやすかった。ただ、実行するには本社の説得も必要だろう。企業によってはかなり困難では。
答え:
これも簡単ではないと思う。ただ、それを理解してもらい、本社の考え方も「グローバル化」していくかどうかが現地化へのカギではないだろうか。日系企業でよくあるのは、本社が海外の日本人駐在員だけに情報を発信し、駐在員とだけ議論することだ。言語の問題から仕方ない面もあるが、本社には、プレーヤーとしてのタイ人の存在をしっかり理解してもらうことが大事だ。そのためには、タイにいる駐在員がタイ人幹部と一緒になって、タイにおけるキャリアパスや現地化について社内へ情報発信していくことも、重要な役割の1つだと思う。
在タイ日系企業からは、「タイ人従業員にノウハウを教えても、すぐ辞めてしまう」など、離職率の高さを指摘する声も多く聞く。他方、タイ人の若者は、1つの職場で長く働く要件として、職場内の円滑なコミュニケーションや、上司との良好な関係などを挙げている。
今回のインタビューを通じ、幹部人材の育成についても、やはりコミュニケーションを通じた共通認識の重要性をあらためて認識した。定型的な管理職訓練の提供だけではなく、組織の目標や課題について日本人とタイ人が共通認識を持つこと、ともに解決に向けて取り組むことが重要と言える。

ビジネスコンサルタント東南アジア地域統括会社の渡部喜道氏(同社提供)
執筆者紹介
ジェトロバンコク事務所 シニアインベスメントアドバイザー
田口 裕介(たぐち ゆうすけ)
2007年、ジェトロ入構。海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所出向(2014~2017年)、アジア大洋州課(2017~2018年)。2018年より現職。

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