地場企業との取引には十分な調査と契約締結がカギ(中国)
広州で取引上の留意点に関するセミナー開催

2019年4月8日

ジェトロ広州は2月27日、広州日本商工会製造業部会と、中国地場企業との取引上の留意点に関するセミナーを開催した。世澤法律事務所の諸韜韜・パートナー弁護士が、地場企業との取引関係を(1)成立前、(2)継続中、(3)問題発生後に分け、各状況における留意点について、次のとおり講演した。


講師を務めた諸韜韜氏(広州日本商工会提供)

取引前に相手先の十分な調査を

相手先企業(相手先)と契約を締結する前に、その企業での(1)交渉担当者の権限や資格、(2)違約および違法行為の有無、(3)履行能力の有無を確認する必要がある。

(1)について、契約行為ができるのは法定代表人のみだ。相手先との交渉に当たり、窓口となる担当者に締結に必要な権限が授権されているか確認することが重要だ。例えば、相手先が発行する発注書に社印がなく、交渉担当者の署名だけの場合、この担当者が法定代表人から授権されていないと、その発注書は無効となる。こうした場合、中国の法律では受注者にも責任が及ぶ可能性があるので、注意が必要だ。

(2)では、相手先の違約行為や行政処罰の有無、その企業が訴訟被告人に該当するか確認することが重要だ。

(3)では、相手先の債権回収に必要な登録資本金など資金の状況は言うまでもなく、取引に必要な設備や技術、人材などについても確認することが重要だ。例として、委託先にある生産設備の安全確認を怠ったために死傷者が出る事故が発生し、委託元が死傷者および家族への一部賠償責任を負わされたケースもある。

他には、親会社自らが実際に取引を行いながら、子会社に契約を締結させるなど、法人格を乱用するケースも見られる。この場合、取引上で問題が生じても、契約主体でない親会社の責任を問えないため要注意だ。

中国では、企業は一般的に自社の欠点や弱点を公表せず、優位性だけを強調するとの見方がある。自社で以下の方法による調査が可能だが、取引の内容によっては、調査会社など第三者を通じて入念に調査することも必要だ。

  • 主管行政部門、企業信用調査、裁判所(法院)の各種ウェブサイト、信用失墜被執行申立人名簿など公開資料をもとに、相手先の違約行為の有無などを確認。
  • 相手先に監査報告書の提供を要請。
  • 相手先工場などの視察。

継続的な取引でも契約書の締結を

売り手と買い手に継続的な取引関係がある場合、契約書を締結せず、法定代理人から授権されていない担当者間で注文書のみを交わすことが多い。ただ、注文書には、支払いや納品時期および品質基準などの履行義務のほか、違約条項が明記されていない。取引が順調なら良いが、いったん問題が発生すると訴訟に至るケースも多いので要注意だ。例えば、代金の未払い問題が生じ、売り手が買い手を提訴しても、売り手は未払いを挙証できないため、法院も売り手の請求を支持できない。 注文書での取引を継続する場合、売り手側はまず代金の一部(手付金)を受領し、納品後に残額を受け取るのが良いだろう。

他方、買い手側では、納品された製品の瑕疵(かし)が懸念される。代金の一部を納品前に手付金として納付する一方、残額は品質保証金として、納品から一定期間経過した後に支払った方が良い。

買い手側での納品済み製品に対する受け入れ検査(中国語で「験収」)と品質検査の概念は異なる。前者は外観上の検査だ。これだけで品質を確認できない設備などを購入する場合は、納品後の品質検査の実施、ならびにその実施時期と品質基準を契約書または注文書に明記すべきだ(注1)。

取引における違約行為を防止するため、あらかじめ契約解除権のほか、補償や担保についても契約書などに明記する必要がある。

補償に関しては、損害賠償のほか、遅延損害金や違約金がある。うち、遅延損害金では、例として、納品が1日遅れるごとに製品価格の1万分の5を売り手に補償するよう求める(注2)。違約金は製品価格をもとに設定できるが、買い手が被った損失額の30%を超えてはならない。

信用や弁済能力が低い取引先には、担保の提供を求めた方が良い。例えば、個人経営の会社には、経営者にも連帯保証責任を負ってもらう。取引先が買い手であれば、事前に保証金の提供を求めることも可能だ。その他、取引先に対し、動産または不動産に抵当権を設定するよう要請するケースもある。これは貸借関係ではよく見られるが、一般的に貿易など売買取引での設定は困難だ。

問題解決には提訴の検討も必要

在中国の進出日系企業には、訴訟ではなく交渉により問題解決を図ろうとする傾向が見られる。ただ、交渉だけでは問題解決に至らない上、提訴を先送りすることで相手先に資金を移管する猶予を与えてしまい、最終的に債権の不良化につながる。

相手先が違約行為に及んだ場合は、以下の点を踏まえて交渉継続の要否を判断し、併せて提訴も検討すべきだ。(1)相手先の信用状況、(2)交渉期限の設定、(3)交渉手段の設定の3点である。

(1)について、相手先が悪意で違約行為に及んでいる場合、交渉を打ち切り、提訴に踏み切るべきである。

(2)に関しては、交渉が長期化すると債権回収は不利になる。長期化により、相手先の資産が他社により抵当権を設定され、競売される懸念もある。交渉を継続する場合は、例として、「1カ月以内に交渉が妥結しなければ、司法的措置を講じる」といった条件を設けることが重要だ(注3)。

(3)では、交渉過程で相手先に、不動産への抵当権の設定、または第三者(株主)に対し担保の差し入れを要求する。

裁判での勝訴後も、債権回収に向け強制執行のほか、高額消費制限命令の発出を法院に申し立てた方が良い。後者により、相手先の幹部は航空機や高速鉄道での移動、不動産の購入などが制限されるため、債権者の財産保全が図られる(注4)。


注1:
納品後、合理的な期間内に品質検査を実施しないと、訴訟では、買い手が瑕疵を黙認したとみなされる。また、品質基準を明記しないと、買い手は製品の瑕疵を指摘できない。
注2:
ただし、総額は、売り手が金融機関から受け取る貸付額の4倍を超えてはならない。
注3:
相手先の資産が移管されないよう、提訴と同時に同社の財産保全や口座凍結を法院に申し立てることも必要。
注4:
併せて、相手先の信用失墜者名簿への掲載を法院に要請することも可能だ。これが公示されることで、相手先は金融機関からの借り入れが不能となり、通常の取引が困難となる。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 次長
粕谷 修司(かすや しゅうじ)
1998年、ジェトロ入構。中国・北アジアチーム(1998~2000年)、ジェトロ青森(2000~2002年)、ジェトロ・香港事務所(2002~2008年)、知的財産課(2008~2011年)、生活文化産業企画課(2011~2014年)を経て、現職。