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EU・メルコスールFTAの原産地規則に見るメルコスールとパラグアイのチャンス

2019年7月5日

ベルギーのブリュッセルで6月27日、メルコスールとEU間の自由貿易協定(FTA)の政治合意がなされ、2000年4月から開始された交渉が約20年を経て妥結に至った。欧州委員会は7月1日、両経済圏の合意内容を記載したサマリーを発表した。本レポートでは、この同資料に記載された原産地規則から読み取れる内容を分析する。また、分析の際には日EU経済連携協定(EPA)が非常に参考になるため、ジェトロの「日EU・EPA解説書PDFファイル(9.9MB) 」を参照されたい。

原産地規則は日EU・EPAが見本

7月1日発表の欧州委員会(EC)による資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(372KB) (以下、サマリー)にEU・メルコスールFTAの原産地規則(Rules of Origin)の概要が記載されている。原産地規則とは、物品の輸入時に特恵関税率を適用するためのルールと要件のこと。貿易上の一般的な経済協定(FTAを含む)の場合、HSコードごとに規定された品目別原産地規則(PSR)を満たすことによって特恵関税率を享受することができる。サマリーではPSRの詳細までは発表されていないものの、概要は把握することができる。

今後公開される協定文における原産地規則の章は3つのセクション(Section)に分かれる。セクションAが原産地規則、Bが原産地証明制度、Cが一般条項となる。また、それらの付属書(Annex)にはPSRなどの細則が記載されることになる。Aの具体的な内容としては、FTAの締約国域内で完全に生産された産品のことを指す完全生産品(Wholly Obtained)が満たすべき要件が書かれている。「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP、いわゆるTPP11)の原産地規則と同様に、締約国域内で収穫・採掘・収集された農水産品や鉱業品の一次産品などが当たる。

セクションBでは、特恵関税率適用に必要な書類である原産地証明書に言及している。日EU・EPAで採用されている自己申告制度(自己証明書制度とも称される)が、EU・メルコスールFTAにも導入される。一般に自己申告制度とは、生産者または輸出者、輸入者が輸出品目に対して原産性を満たしていることを自らが申告する制度で、輸出国当局から認定された第三者機関や事業者の認定は不要だ。サマリー内では以下の通り、輸出者(exporter)によって原産性を申告する必要があると記載されている。日EU・EPAにおけるexporterには生産者も含まれるため、EU・メルコスールFTAでも同様の考え方になると予想される。

As regards Section B on Origin Procedures, this section specifies that claims for preferential tariff treatment must be based on a statement on origin by the exporter (with a transitional period of maximum 5 years for Mercosur).

ただし、メルコスールへの自己申告制度の導入には、発効後5年間の移行期間が与えられる。これはTPPの第3章付属書3-Aに基づく規定と同様で、協定効力時に他の締約国にあらかじめ通報していた場合に限り、自国の輸出品に係る原産地証明書について、(1)権限のある当局(Competent Authority)、(2)認定された輸出者(approved exporter)のいずれかであることを要求できる。つまり、メルコスールはFTA発効後の5年間、(1)に基づき第三者証明制度を利用することができるようになるだろう。

セクションBでは、生産者、輸出者、輸入者に対して、輸入国税関が原産品であるかどうかの事後確認(いわゆる検認)を行う場合の方法として、必ず輸出国税関へ確認を要求する方式を取ると記載されている。そのため、事後確認が発生した場合に、輸出国税関当局が輸入国税関と輸出者との間に入り、クッションの役割を果たすことになる。これは日EU・EPAと同様だ。なお、TPPでは輸入国税関が輸出国の輸出者や生産者に直接確認を取ることができる。

Regarding verification, customs authorities of the importing party may request administrative cooperation to obtain information from the exporting party. Direct verification visits by the customs authorities of the importing party to an exporter in the exporting party are not allowed.

地域累積制度を活用したバリューチェーンが生まれるか

サマリーの内のセクションAに1カ所だけ累積制度に言及した文章がある。「Bilateral cumulation between the Parties is allowed.」と記載されているが、この一文が持つ意味は大きいだろう。累積制度とは、1カ国ではPSRが要求する条件をクリアできずに非原産品となってしまう場合であっても、締約国での付加価値や生産工程を累積する(積み上げる)ことにより、PSRを満たし、原産品として認められやすくなる規定のことだ。例えば、日EU・EPAの場合、日本企業がドイツから基幹部品Aを日本に輸入し、それを日本で産業用ロボットに組み込み、イタリアへ輸出したとする。この場合、基幹部品Aの付加価値と日本産ロボットの付加価値が積み上げられて、日本とEUでの「合作」のようなものとして考えることができる。こうすることで、日本からイタリアへロボットを輸出する際、ロボットが指定されるPSRをクリアしやすくなるということだ。こうした、部品そのものの価額に加え、日本での組み付け作業費(生産行為の付加価値)なども、付加価値に計上することができる累積制度を「完全累積」と呼ぶ。

サマリーに記載された「Bilateral cumulation between the Parties is allowed.」という一文によって、日EU・EPAの累積制度と類似するものと予測されるが、EU・メルコスールFTAでは、EUの相手が4カ国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)という複数国であることが異なる。つまり、メルコスール4カ国内の付加価値はいずれも累積され、「メルコスール原産価額」に計上されていくことになるだろう。これは、メルコスールと南部アフリカ関税同盟(SACU)が2016年4月に発効させた特恵貿易協定の原産地規則に見て取れる。EUとSACUはともに関税同盟であることから、その特恵貿易協定の原産地規則を見れば、対EUのFTAの場合でもおおよその予測がつくということだ。

メルコスール・SACU特恵貿易協定PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(33.8MB) の付属書Ⅲの第3条(Bilateral cumulation of origin)を見ると、「materials and products originating in MERCOSUR within the meaning of this Annex shall be considered as originating in SACU, provided that they have undergone working or processing in SACU」と書かれており、メルコスールとSACUの域内国の付加価値が合算された後、さらに双方で付加価値が累積されることが分かる。

前述の例を考えると、例えば、人件費の安いパラグアイで生産加工を行った基礎部品をブラジルに輸出し、ブラジルで半製品とする。それをドイツに輸出して完成品にするというオペレーションが可能になるだろう。

パラグアイにチャンスが生まれる可能性あり

サマリー内でのPSRの言及は一部だが、ルールを把握するための情報が幾つか記載されている。まず、自動車・同部品および自動車部品用機械製品には特別なPSRが準備され、化学品と繊維および繊維製品には加工工程基準が採用される。化学品の加工工程基準の例としては、化学反応を起こして2つ以上の物質を分子レベルで結合・形成する加工や、異性体の混合物から異性体の分離を行う加工などがある。

他方、繊維および繊維製品では、(1)紡ぐ、(2)織る・編む、(3)裁断・縫製のうち、2つ以上の工程を原則としてEUまたはメルコスール域内で行うことを求める「2工程ルール」が採用される。この2工程ルールの上でも、地域原産の考え方や完全累積制度を活用すると、例えば、ブラジルとパラグアイで分業したTシャツのEU向け輸出が容易になる。ブラジル綿花生産協会(ABRAPA)によると、2018/19年度にブラジルは綿花の輸出量で米国に次ぎ世界第2位と、綿花の安定的な供給が可能だ。具体的に必要な加工工程は協定書の公開後に品目ごとにPSRを確認して要件を満たす必要があるが、ブラジル産綿花を用いて、人件費の安価なパラグアイで(2)織る・編む、(3)裁断・縫製を行い、安価な衣類(完成品)をEUに輸出するオペレーションも考え得るだろう。また、工業品であっても、カーシート用の布繊維をブラジルやアルゼンチンからパラグアイに輸出して加工を施し、再びブラジルやアルゼンチンのシートメーカーに輸出することでメルコスール原産品としての域内原産割合(RVC)の比率を高めることができる。こうしたことから、原産地規則をうまく活用すれば、パラグアイの持つポテンシャルを有効活用することができる可能性があるだろう(注)。


注:
メルコスール域内の物品貿易は経済補完協定(ACE)18号によって規定されている。通常、域内原産割合(RVC)60%を満たせば、域内の他国へ物品を輸出した際の関税はゼロとなるが、自動車・同部品と砂糖は同18号の対象品目外となっている(第31追加議定書および第9追加議定書)。ブラジル・アルゼンチン間はACE14号第40追加議定書付属書2で自動車・同部品の市場アクセスと品目別原産地規則(PSR)を定めているが、パラグアイは自動車・同部品を含む協定(一般的に自動車協定と呼ぶ)を締結していない。そのため、パラグアイからブラジル、アルゼンチン、ウルグアイに自動車部品を輸出する場合、メルコスールの対外共通関税が課税される。パラグアイ政府は、EUとのFTA締結の政治合意を受け、7月2日に在パラグアイ・ブラジル大使館に対しブラジル・パラグアイ自動車協定のドラフトを提出した。同大使館はブラジル外務省へドラフトを回送し、本国で検証を行うとしている。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。

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