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「新経済」による新たな産業育成を図る中国西南部の四川省、重慶市

2019年3月11日

2000年から始まった「西部大開発計画」により、大きな発展を遂げた中国西部地域。その中核となるのが四川省、重慶市だ。西部地域[12省・市・自治区(注)]のおよそ3割の経済規模を占めるこの2省市は、これまで順調に経済規模を拡大してきたが、さらなる発展のため、現在、イノベーションを利用して成長モデルの転換を図ろうとしている。

「5+1」重点産業領域の発展でバランス良い成長目指す四川省

四川省の2018年の域内総生産(GRP)成長率は、全国平均を上回る8.0%となった。内訳をみると、第三次産業が前年比9.4%増と牽引した。第二次産業も7.5%増加し、業種別では計算機などの電子産業や医薬品製造業などが2桁増となった(2019年2月7日付ビジネス短信参照)。

さらに質の高い経済発展を促進するため、同省は2018年7月、「5+1」重点産業領域の成長戦略を打ち出した。「5」は5つの産業分野(電子情報、設備製造、食品・飲料、先進材料、エネルギー・化学工業)であり、それを「1」のデジタル経済によって推進していく構想である。

電子産業は、四川省の中核産業の1つである。四川省には中西部地域におけるICの最大規模の生産地となっており、IC設計、チップ製造、パッケージテストといった産業チェーンが形成されている。インテル(米国)やフォックスコン(台湾)などが工場を稼働しており、近年では中国有機EL最大手のBOEが成都市、綿陽市に工場を建設するなど、大規模な投資も行われている。

四川省は自動車産業にも力を入れており、生産台数は2010年の10万台から2017年は150万台まで増加。新エネルギー車の生産も行われるようになってきている。電気自動車(EV)ベンチャー大手の威馬汽車も研究拠点を成都へ置くなど、今後EVやコネクテッドカーの研究拠点として注目されはじめている。

これらの産業の発展をさらに加速させるため、現在、四川省はイノベーション、デジタル経済の推進を図っており、2022年までにデジタル経済の規模2兆元(約17兆円、1元=約17円)、2025年までに7社のユニコーン企業の創出を目標としている。同市は、市内に進出するベンチャー企業向けのコンサルティングなどの支援を行うため、2017年9月に「成都新経済発展研究院(iNED)」を設立。また、ユニコーン企業の集積地となる「ユニコーン・アイランド」の建設を進めており、2022年までに完成させる予定だ。

四川省のイノベーションへの取り組みは、国内外企業からも徐々に注目を集めはじめている。日立製作所は2018年8月、四川省の産業・流通、健康管理、都市計画のデジタル化などにおいて四川省と協力することを発表した。また、上述のユニコーン・アイランドはまだ建設中であるが、本田技研工業とも自動運転システムの顔認証技術の戦略的提携を結んだ商湯科技(本社:北京市)がすでに進出を決定し、現在、成都市内の臨時オフィスにおいて人工知能(AI)やスマートシティー、自動運転技術の研究を開始している。

イノベーションで製造業の最適化を図る重慶市

一方の重慶市は、これまでの高成長から一転、製造業を中心に経済の構造調整を迫られている。2018年のGRP成長率は全国平均を下回る6.0%だった。特に、同市最大の産業である自動車産業の減速による影響が大きく、一定規模以上の工業生産増加額は0.5%と、前年の9%から大幅に鈍化した。(2019年2月6日付ビジネス短信参照)。

そのような中、重慶市は従来産業へのテコ入れのため、さまざまな施策を打ち出している。

まず、2018年8月に国家級の博覧会である「第1回中国スマート産業博覧会」を開催。今後はスマート産業を新たな軸に据え、製造業のモデルチェンジ・強化を図っていく方針を打ち出した。また、北京市、上海市に次いで自動運転車の公道試験を許可したり、自動運転車やエコカーベンチャーの進出しやすい環境を整えるなど、自動車産業分野においても新しい取り組みを行っている。


第1回中国スマート産業博覧会には米国のグーグルやフェイスブックも出展(ジェトロ撮影)

重慶市は、スマートシティー建設にも力を入れている。同市は2015年、IT大手のテンセントとの間にスマートシティーの推進に係る戦略的提携を結び、クラウドコンピューティングセンターを設置。2018年8月には、テンセントが中国西南部エリアの本部を重慶市に設置し、クラウドや情報セキュリティーを中心とした同市のスマート産業の発展に意欲を示している。同じくIT大手のアリババも、2018年1月に中西部地域本部を設置し、5月には重慶大学と共同で、ビッグデータやAI分野の専門人材育成拠点を開設した。中国IT大手企業と協力して産業チェーンの育成を図るのが、同市の戦略だ。

製造業だけでなく、サービス業でも内陸部に新しいサービスが広がりつつある。小売り分野では、アリババ系列のスーパー「盒馬鮮生」が2018年末時点で成都市内に10店舗、重慶市内に2店舗開業。店舗が配送用の倉庫を兼ねており、アプリで注文を受けると3キロ以内であれば、30分以内で新鮮な食材を配送してくれる。会社帰りに注文し、そのままピックアップして帰宅するなど、気軽に使えるため人気となっている。京東のリアル店舗(無人スーパーなど)も重慶市内に2018年12月に開業するなど、西部地域でも、沿海部と同様に、従来の小売業に代わる新しい小売りサービスの体験ができるような施設が徐々に広がってきている。


京東が経営する無人スーパー。アプリに情報を登録しておけば、店の出口で自動決済が可能(ジェトロ撮影)

四川省、重慶市の両者に共通する姿勢は、イノベーションそのものの発展というよりも、それをテコとして、従来、強みとしていた中核産業の成長をより加速させることを狙っている点だ。電子・自動車産業・サービス業を中心にバランスの良い発展を目指す四川省、また古くから西南地域最大の工業都市として発展し、産業のモデルチェンジによって再加速を図る重慶市。この両都市の経済の構造転換がうまくいくかどうかが、今後の西南地域経済のカギを握るだろう。


注:
四川省、重慶市、雲南省、貴州省、陝西省、甘粛省、青海省、広西チワン族自治区、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、寧夏回族自治区の12省・自治区・直轄市。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
田中 琳大郎(たなか りんたろう)
2015年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、成都事務所への実務研修を経て、2019年3月より現職。

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