日本のコスメ、フィリピン市場にじわりと浸透

2019年12月26日

カラーメイクアップ、美容用品市場の拡大を見据えた現地の輸入卸売業者が、日本商品の取り扱いの拡大を目指している。本稿では、フィリピンにおける日本のカラーメイクアップや美容用品の市場可能性と合わせて、現地輸入業者に実施したインタビュー結果を報告する。

美容用品の市場規模が2023年までに2,500億ペソと予測

ユーロモニター2019によると、美容用品の2018年のフィリピンでの小売販売額は1,993億ペソ(約4,185億円、1ペソ=約2.1円)で、2004年と比較して約2倍となり、2023年までに2,500億ペソ以上に達することが予測されている。また、カラーメイクアップ用品の2018年のフィリピン小売販売額は180億ペソで、2004年と比べて約3.5倍の規模となり、2023年までに300億ペソ以上に達することが予測されている。

若い女性向けのスキンケア用品に商機あり

表は、カラーメイクアップ、美容用品の日本からフィリピンへの輸出額の推移を一覧にしたものである。全体では2013年と比べて、2018年の輸出額は約3倍に増加している。注目すべきは、スキンケア用品である。液体・クリーム状のスキンケア用品は、輸出額が他の用品より際立って高く、2013年と比べて2018年の輸出額は2倍超に伸びている。また、パウダー状のスキンケア用品は、2013年と比して2018年の輸出額は7倍超に拡大している。

従来、フィリピン人にとっての美容とは、口紅やアイメイクなど顔に色を塗ることで、化粧水やクリームなどのスキンケア用品には関心がないと言われてきたが、前述の美容用品の市場規模の拡大により、スキンケア用品に関心を持つ層は、増加していると推測できる。また、スキンケア用品は美白や保湿対策のほか、ニキビケアや敏感肌用など商品の差別化が図りやすく、大手海外ブランドメーカー商品を含め、既にさまざまな商品が展開されているカラーメイクアップ商品と比べて、新規参入がしやすいと考えられる。国連人口統計年鑑2017によると、フィリピンの19歳未満人口比率は44%に達しており、若い女性向けのスキンケア用品にポテンシャルがあると考えられる。

表:カラーメイクアップ、美容用品の日本からフィリピンへの輸出額の推移 (単位:1,000USドル)
HS
コード
品目 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
330410 唇のメイクアップ用品 32 91 92 81 80 398
330420 目のメイクアップ用品 80 225 174 302 511 355
330491 フェイスパウダーなどパウダー状のスキンケア用品 62 132 184 174 487 485
330499 日焼け止めを含む液体・クリーム状のスキンケア用品 1,127 1,735 1,499 1,544 1,401 2,534
合計 1,301 2,183 1,949 2,101 2,479 3,772

出所:Global Trade Atlas データからジェトロ作成

なお、Global Trade Atlas データによると、フィリピンのカラーメイクアップ、美容用品の輸入相手国を金額ベースでみると、日本は2014年から2017年までは、タイ、中国、シンガポール、米国、韓国、インドネシア、フランスに続く8位だったが、2018年はフランスを抜き7位となっている。

ソーシャルメディアやeコマースを活用する中小サプライヤーが増加

フィリピンの美容用品の市場シェアは、ユニリーバ、エイボン、ジョンソン&ジョンソン、ロレアル、エスティローダなど大手ブランドで占められているものの、ソーシャルメディアやeコマースを活用する中小サプライヤーが増加傾向にあるという(ユーロモニター2019)。

ウィ・アー・ソーシャル2019によれば、フィリピンのインターネット普及率は71%に達し、ソーシャルメディアへの接続が1日4時間、ユーザーの約60%が18~34歳である。また、インターネット利用者のeコマースの利用率は70%に達し、ファッションや美容関連商品は2億300万米ドルがeコマースで購入されている。ソーシャルメディアへのファッションや美容関連の商品販売に特化したフィリピンの代表的eコマースサイトは、ビューティ・マニラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますザローラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだが、日本や韓国メーカーの商品も販売されている。

ソーシャルメディアを通じたプロモーションや、eコマースサイトでの出店もフィリピンにおける販促活動、販売ツールの1つと考えられる。

高級ショッピングモール、デパートに出店攻勢をかける韓国サプライヤー

日本のカラーメイクアップや美容用品は大手メーカーを除き、高級モールやデパートの一部店頭や独立ブースで販売している一方、韓国の商品は高級モールやデパートに独立したブランド店舗を展開していることが多い。各ブランドが「K-Beauty」と名付けられた特設会場で販売されることもある。また、前述のビューティ・マニラやザローラといったEC(電子商取引)サイトにも、K-Beautyと名付けられたカテゴリーがあり、韓国の商品を検索しやすくなっている。このような韓国商品のプロモーション手法は、日本メーカーにとっても参考になるだろう。


韓国化粧品の販売特設会場(ジェトロ撮影)

日本の商品は、韓国の商品よりも高価格帯であることが多いが、品質の高さや商品への信頼度から、日本の商品を愛用しているという声も聞く。売り方・プロモーションを工夫し、商品の品質の高さや美容効果などを認知させることが、さらなるフィリピン市場への浸透に向け、重要と考えられる。

輸入拡大には価格面、パッケージなどフィリピン市場の理解が必要

ビューティ・ボックスは、2011年に設立された、日本のカラーメイクアップ、美容用品に特化した輸入卸売業者だ。現在、アイメイク用品やフェイスパック、化粧水など日本メーカー5社の23商品を取り扱い、フィリピン国内の主要高級モールやデパート、ドラッグストア、専門店に販路を持つ。併せて、ビューティ・マニラ、ザローラ、ラザダ、ショッピーというフィリピンで有力のeコマースサイトにも出店し、自社サイトでも販売するなど、eコマースの活用にも積極的だ。日本の「カワイイ文化」の人気、商品の質の高さに注目し、さらなる商品の取り扱いの拡大を目指している。

ビューティ・ボックス社長のシェリル・チュワ氏と副社長のリチャード・チュワ・ジュニア氏に、日本のカラーメイクアップ、美容用品のフィリピン市場でのポテンシャルや課題、開拓に向けた取り組みなどについて聞いた(インタビューは2019年11月7日)。


向かって左が社長のシェリル・チュワ氏、右が副社長のリチャード・チュワ・ジュニア氏
(ジェトロ撮影)
質問:
日本のカラーメイクアップ、美容用品を取り扱うようになったきっかけは。
答え:
自身(シェリル・チュワ氏)が前職で、アイメイクを中心に商品展開している日本メーカーの輸入卸売りをシンガポールで行っていた。同メーカーの商品はフィリピン市場でもポテンシャルがあると確信し、ビューティ・ボックス設立後、同メーカーの商品の輸入卸売りを開始した。
質問:
フィリピン市場にポテンシャルのある日本のカラーメイクアップ、美容用品は。
答え:
従来、フィリピン人にとって肌を美しくすることは、メイクアップすることであった。自社の主力商品も、設立当初から取り扱っているアイメイク商品。ただし、富裕層を中心に、スキンケアの重要性は認識されつつある。美白やニキビ対策に効果のある商品、敏感肌でも使える商品などの効果を、消費者に伝えることができれば、今後フィリピン市場で伸びていく可能性は高い。
質問:
実店舗とeコマースにおいて、販売数や購買行動に違いはあるか。実店舗とeコマースの両方に取り組むメリットはあるか。
答え:
売り上げの中心は実店舗で販売する商品で、常連客が安定的に購入している。eコマースサイトでの購入者のほとんどは最初、割引セールがきっかけで購入し、その一部が常連の顧客となり、実店舗や自社サイトでの購入につながることが多い。実店舗と比べて、出店コストは圧倒的にeコマースの方が安いが、突発的な発注に対応できるよう慎重な在庫管理が求められる。
有力eコマースサイトへの出店は、新規顧客獲得のプロモーションツールとなり得る。今後のeコマース市場拡大も見込まれるため、実店舗での販売と両立していきたい。
質問:
日本のカラーメイクアップや美容用品を輸入する際、苦労していることはあるか。
答え:
同分野の商品を輸入する場合、保健省(DOH:Department of Health)の食品薬事管理局(FDA:Food and Drug Administration)から、化粧品通知書(Notification of Cosmetic Product)の発給を商品ごとに受ける必要がある。発給申請後、フィリピンへの輸出が初めての商品でも、2ヵ月程度の期間で発給を受けることができる。申請に必要な書類の1つが成分一覧リストだが、日本のサプライヤーによっては、企業秘密だとして提出に応じようとしないことがある。フィリピンへの輸入に際し、所定の様式に基づく成分情報の提出は必須であり、理解してもらいたい。
質問:
フィリピンへの輸出を目指すサプライヤーへのアドバイスは。取り扱う商品選定で重視していることは。
答え:
輸入実務に慣れている、われわれのような輸入業者を通じて行うことが現実的。カラーメイクアップや美容用品は、保健省の食品薬事管理局から営業許可(License to Operate: LTO)を有する輸入業者でなければ、フィリピンに輸入することはできない。また、われわれは長年のビジネス経験で、フィリピン市場を熟知していると自負している。
商品選定で重要なことは第1に価格。自社が取り扱う商品はフィリピンの高所得者層向けではあるが、一番高い販売価格の商品が250ミリリットル入り化粧水で、1,500ペソ(約3,150円 1ペソ=約2.1円)である。日本のドラッグストアで売られているような商品がターゲットとなり得る。次に重要なことは、特別な美容成分を含むなど他の商品との差別化ができるユニークさ。そのユニークさが購買者に一目で分かるよう、パッケージの英文化や工夫をすることも必要である。

ビューティ・ボックスが実店舗へ納品している商品(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
石見 彩(いしみ あや)
1999年、経済産業省関東経済産業局に入局。経済産業省貿易振興課に出向(2001年~2003年)、関東経済産業局国際課(2003年~2004年)、イリノイ大学シカゴ校に留学(2004年)、経済産業省経済連携課に出向(2005年~2007年)、ジェトロ東京本部サービス産業部サービス産業課出向(2016年~2018年)などを経て2018年6月より現職。