国産化推進に向けたインドの関税引き上げ動向を探る

2019年6月24日

モディ政権は2014年の発足以来、「メーク・イン・インディア」の掛け声の下、国内製造業の強化を図っており、雇用創出や輸出拡大に向けて投資環境整備を進める。他方、国産化推進の名の下で、特定の製品や部品の関税率を引き上げる動きも加速しており、産業界に与える影響も大きい。昨今のインドにおける関税引き上げの動向などについて、現地会計事務所大手KPMGの税務専門家に聞いた(3月26日)。

質問:
関税引き上げの動向は。
答え:
インド政府は2018年2月、予算案の発表と同時に、LCDパネルとLEDパネルの輸入に対して、従来7.5%だった基本関税率を2倍の15%に引き上げた。他方、LCDテレビ、LEDテレビを製造するために「オープンセル」方式(注1)で調達した液晶パネルに対し、従来5%だった基本関税率を10%に引き上げることも同時に発表した。しかし、業界から当該液晶パネル製品を国内生産する体制が整っていないとの反発を受け、翌3月には当該税率を元の5%に引き下げた。韓国のサムスングループはLEDパネルの関税引き上げに対応し、同社チェンナイ工場の液晶テレビ生産をベトナムに移管することを決定した。これに関し、一部報道では、政府がこの5%の関税撤廃を交渉材料に、生産移管の取り消しを求めているとされる。
質問:
中国からの携帯電話部品の輸入額も減少しているが(注2)。
答え:
背景として、インド政府は2017年4月に「フェーズド・マニュファクチャリング・プログラム(PMP)」を導入し、携帯電話に使用する各種部品のインド国内での製造を促進することを目的に、各種部品の輸入に対する基本関税率を段階的に引き上げている。さらに、対象となる部品のインド国内での製造に対して、税務上のインセンティブを付与する方針も打ち出している。
PMPの導入を受け、インド税務当局は2018年4月に、プリント基板やカメラモジュール、コネクターなどの携帯電話の重要部品の輸入に10%の基本関税を課すことを決定した。これまではこうした部品の基本関税率は0%だった。さらに1月には、タッチパネルや液晶ディスプレーに対する基本関税率も10%に引き上げる方針も発表している(表参照)。
表:PMPにおける携帯電話製造関連部品の基本税率の改定状況
年度 品目 改定後基本税率
2016年度 (i) 充電器/ アダプター
(ii) バッテリーパック
(iii) 有線ヘッドセット
15%
2017年度 (iv) SIMケースなど関連部品
(v) ダイカット部品
(vi) マイクとレシーバー
(vii) キーパッド
(viii) USBケーブル
15%
2018年度 (ix) プリント基板 (PCBA)
(x) カメラモジュール
(xi) コネクター
10%
2019年度 (xii) ディスプレー
(xiii) タッチパネル/ カバーガラス
(xiv) バイブレーターモーター
/ 音声発信装置
未履行

注:2016年度は同政策発表前の基本税率改訂。
出所:インド電子IT省

質問:
電気自動車関連でも関税の引き上げがあるようだが。
答え:
その通りだ。インド政府は電気自動車(乗用車)の関連部品の国内製造を促進するため、基本関税率を段階的に引き上げることを表明している。電気自動車用のAC/DCバッテリーチャージャーやモーター、動力制御装置などの部品の基本関税率を、2021年4月以降に0%から15%に引き上げる見込みだ。同時に、電気自動車用のバッテリーパックは現行の5%から15%、リチウムイオン電池は現行の5%から10%に引き上げる見込みだ。他方、4月1日から3年間、電気自動車やハイブリッド車の普及に向け、総額1,000億インド・ルピー(約1,600億円、1ルピー=約1.6円)の補助金スキーム「FAME-IndiaフェーズⅡ」の運用を開始した。電動の四輪車や二輪車の車種ごとに、一定の購入奨励金が支給される仕組みだ。
質問:
関税の引き上げが与える今後の産業への影響は。
答え:
関税の引き上げだけが要因とはいえないが、自動車業界では多くの部品メーカーがインド国内に拠点を新設し、部品の国産化強化、将来の増産に備えている。携帯電話も、自動車と同様に、完成品メーカーを頂点として多くのサプライヤーを有する裾野の広い業界だ。インド市場で高いシェアを持つ中国のスマートフォンメーカーは既にインドでの製造を本格化している。PMPに基づく段階的な基本関税率の引き上げも、一部の部品を残すのみとなり、今後は完成品メーカーだけでなく、国内外の電子部品メーカーのインド進出の加速も見込まれている。

注1:
多数のパーツをまとめた「モジュール」方式と異なり、半製品を調達し、自社で組み立てる方式。
注2:
携帯電話の重要部品の輸入関税引き上げが影響し、2018年度の中国からの携帯電話部品の輸入額は63億ドルとなり、2017年度の94億ドルから3割減少した。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年7月10日)
質問「電気自動車関連でも関税の引き上げがあるようだが。」の文中
(誤)総額100億インド・ルピー(約160億円、1ルピー=約1.6円)の補助金スキーム
(正)総額1,000億インド・ルピー(約1,600億円、1ルピー=約1.6円)の補助金スキーム
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。