日本の輸入におけるFTA利用はどう変化?
TPP11と日EU・EPA、発効半年後の状況

2019年11月20日

11月現在、日本が諸外国・地域と締結する自由貿易協定(FTA)は17に上る。FTAは、輸入面では企業にとって調達コスト削減、消費者にとっては購買力向上や選択肢拡大につながる。環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)や日EU経済連携協定(EPA)といったメガFTAの発効を経て、特に食品分野での利用が活発化していることが数字から読み取れる。

メガFTAの利用率は発効半年で1割超え

財務省は2015年5月から、日本が締結するFTAを利用した輸入金額を公開している。2018年12月のTPP11発効後には、二国間と地域間とを区別したFTA利用額も分かるようデータが整備された。メガFTAのTPP11や日EU・EPAの発効から半年以上が経過したのを機に、FTAを使った輸入状況を分析した(注1)。

財務省のデータによると、FTAの優遇税率の適用を受けた輸入額(以下、利用額)と、FTA締結相手国・地域からの輸入総額に占める利用額の割合(利用率)は、ほぼ全てのFTAで上昇する傾向にある。全FTAを合わせた利用率は、統計で最もさかのぼれる2012年の14.3%から、2019年1~7月には17.9%へと上昇した(表1参照)。FTA締結相手国・地域から輸入された製品のうち、2割近くで協定が活用されていることになる。なお、世界銀行によると、2016年時点の日本の輸入のうち、品目ベースでは約4割が無関税と推計される。

表1:日本の輸入におけるFTA利用状況(—は値なし)
FTA締結相手
国・地域
FTA利用額(億円) 利用率(%)
地域 国・地域 2017年 2018年 2019年
1~7月
2017年 2018年 2019年
1~7月
ASEAN シンガポール 433 515 341 4.5 4.8 6.6
マレーシア 2,873 2,992 1,700 13.3 14.3 14.6
タイ 7,138 7,960 4,532 28.0 28.7 27.8
インドネシア 3,845 4,599 2,552 17.2 19.3 21.7
ブルネイ 0.3 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0
フィリピン 2,736 2,835 1,714 25.0 24.6 25.6
ベトナム 7,112 8,166 5,204 34.2 35.0 37.3
カンボジア 120 151 102 8.5 8.5 9.8
ラオス 16 15 10 9.6 8.9 10.2
ミャンマー 55 80 56 4.6 5.7 7.0
その他
アジア
大洋州
インド 1,581 1,759 1,090 26.4 29.0 31.6
オーストラリア 3,450 3,638 2,172 7.9 7.2 7.4
モンゴル 11 17 5 26.5 48.7 44.6
ニュージーランド 971 53.1
欧州 スイス 523 528 313 6.0 6.2 5.9
EU 6,680 13.8
米州 メキシコ 1,240 1,266 898 19.1 18.1 22.7
チリ 1,917 1,877 1,270 26.1 23.5 26.7
ペルー 144 154 117 6.2 5.8 6.7
カナダ 1,574 21.8
合計 33,194 36,552 31,302 17.5 17.6 17.9
(参考)TPP11締約国 11,165 18.1

注1:協定発効年順に表記。
注2:二国間・地域協定の区別を問わない。
注3:2019年1~7月は確報値。2018年以前は確定値。
注4:EUの2019年は2~7月の値。
注5:TPP11は、2019年11月現在発効済みの国(シンガポール、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、カナダ)についてのみ集計。
出所:財務省貿易統計から作成

特に利用が多いのは、ベトナム(利用率37.3%)、タイ(27.8%)、インドネシア(21.7%)といったASEAN諸国とのFTAだ。とりわけ、ベトナムからの輸入でのFTA利用額は2018年以降、タイを抜いて首位に立っており、利用率とともに年々上昇している。スポーツシューズなどの主要品目を含め、二国間よりも日ASEAN・FTAを使った輸入が多い。金額としてはASEAN主要国に及ばないものの、インド(31.6%)やモンゴル(44.6%)の利用率の高さも目立つ。

TPP11については、現在発効している6カ国ベースで利用率は18.1%(注2)と、FTA全体の利用率をやや上回る。利用額順にオーストラリア(1,439億円)、カナダ(1,574億円)、ニュージーランド(971億円)、メキシコ(453億円)、ベトナム(169億円)と続く。また、日EU・EPAも13.8%と、発効後半年で利用率は1割を超えた。利用額順にイタリア(1,430億円)、フランス(1,091億円)、ドイツ(745億円)、スペイン(575億ドル)と続き、EU地域全体としてはASEAN(ただし、二国間、日ASEAN、TPP11の合計)の4割程度のFTA利用規模となる。

ベトナムからの輸入は日ASEAN、オーストラリアはTPP11を利用

ASEAN諸国との間ではこれまでも、二国間FTAと日・ASEAN協定の2つが併存し、企業は取り扱う品目や原産地規則などを加味して最適な協定を選んで活用してきた。さらにTPP11が発効したことで、シンガポールとベトナムについては3つ、オーストラリアとメキシコについては2つの協定が併存している(表2参照)。7月までの時点で、オーストラリアとメキシコからの輸入では、TPP11の利用額が早くも既存の二国間協定を上回ったことが分かる。TPP11で合意された内容の方が既存協定よりも自由化水準が高いためだ。例えば、オーストラリアからの輸入で最もFTAが使われているのは牛肩肉と牛モモ肉だが(表4参照)、2019年の関税率は、日オーストラリアFTAでは28.8%、TPP11では26.6%であり、税率は2ポイントも異なる。こうした現象が複数の品目で起こっている。

一方、ベトナムについては、TPP11を使った輸入は全体の3.2%にとどまり、依然として8割が日ASEAN・FTAを使った輸入だ。品目によっては今後、TPP11の方が関税削減が早く進む可能性があるため、どのFTAを利用すべきかの検討が引き続き必要となる。

表2:複数協定が発効済みの国からのFTAを利用した輸入(2019年1~7月) (—は値なし)
FTA締結
相手国
FTA利用額(億円) 全体に占める割合(%)
二国間 日ASEAN TPP11 二国間 日ASEAN TPP11
シンガポール 174 97 71 51.0 28.3 20.7
ベトナム 972 4,064 169 18.7 78.1 3.2
オーストラリア 733 1,439 33.7 66.3
メキシコ 445 453 49.5 50.5

注:2019年11月現在、既存FTAとTPP11の双方が利用できる国のみを列記。
出所:財務省貿易統計から作成

農産品と化学品で多いFTA利用

日本の輸入におけるFTA利用は、品目別で魚介類や肉類といった農水産品のほか、化学品や繊維製品で活発だ(表3参照)。WTOによると、日本の平均実行関税率は農産品で13.3%、繊維製品で5.4%、衣類で9.0%。表3で並ぶFTAを利用した輸入上位10品目でも、高いものでは通常10%近い関税が掛かる。関税率の比較的高いこれら品目の関税減免のために、積極的にFTAが利用されているようだ。

特にFTA利用総額の12.3%を占める食用肉は、一部欧州諸国、カナダ、オーストラリアといった畜産国との協定が発効したことで、FTAを使った牛肉や豚肉の輸入が増えたことを反映している。このほかにも、魚類や衣類、たばこといった身近な品目にもFTAがよく使われている。

工業品でも、プラスチック・同製品や有機化学品など、製品の原料となる品目が散見される。素材調達コストを抑制しようとの企業の意思が数字に表れている。

表3:日本の輸入における品目別FTA利用(2019年1~7月)(単位:100万円、%)
順位 HS 品目 平均
関税率
金額 構成比
1 第02類 食用肉 8.1 385,807 12.3
2 第39類 プラスチック・同製品 3.7 295,272 9.4
3 第44類 木材、木製品 2.2 256,818 8.2
4 第03類 魚類、甲殻類 5.4 238,599 7.6
5 第16類 肉・魚・甲殻類の加工品 9.5 197,170 6.3
6 第61類 衣類(編み物) 9.0 167,321 5.3
7 第62類 衣類(編み物以外) 9.1 142,433 4.6
8 第08類 食用果実、ナッツ類 7.2 129,640 4.1
9 第29類 有機化学品 2.8 107,717 3.4
10 第24類 たばこ、製造たばこ代用品 6.8 105,336 3.4
計(注1) 3.2 3,130,154 100.0

注1:計は本表10品目の計ではなく、FTAを利用した全輸入額。
注2:平均関税率は、各類のタリフラインベースの単純平均実行関税率(2018年時点)。
出所:財務省貿易統計、World Integrated Trade Solution(世界銀行)から作成

日常生活に深く入り込むFTA

輸入相手国別に、HS9桁レベルで利用金額の多い品目を示したのが表4だ。ここでも、食品や繊維製品、化学品が多く並び、細目に下りた分よりイメージが湧きやすい。例えば、ASEAN諸国からは、パーム油や熱帯産合板といった、東南アジアに特有の品目が散見される。

TPP11については、既に消費者へのメリットが反映された品目が幾つか出てきている。例を1つ挙げれば、ニュージーランド産のキウイフルーツだ。TPP11発効以前もニュージーランド産はシェアとしては最多だったが、協定発効により関税が即時撤廃されたことで、前年同期比で21.4%増と輸入をさらに後押しした。輸入量第2位の米国産には、現時点ではまだ6.4%の関税が掛かる。

EUについても、各国の特徴をよく表した品目が並ぶ。イタリアのトマト、フランスのぶどう酒(ワイン)、スペインの豚肉などがその例だ。百貨店などのワイン販売コーナーで協定発効直後、「日EU・EPAフェア」といった催しをよく目にしたが、統計的にもこれが裏付けされている。ワインの輸入では、チリ産が近年優勢で、2007年の日本・チリFTA発効とそれによる関税削減を機にシェアを伸ばし、2015年以降にはフランス産を抑えて最多となっている。チリ産ワインに掛かる関税は2019年に無税化したが、同時にフランス産も日EU・EPAにより関税が即時撤廃されたため、今後また両国のワイン輸入シェアに変動が出る可能性もある。実際、7月までの時点の貿易統計では、チリ産の輸入量が15.1%減となる一方、フランス産(14.7%増)やイタリア産(18.5%増)は輸入量を伸ばしつつある。

そのほかで目立つのがイタリアの製造たばこだが、これにはやや特殊な事情がある。製造たばこは同国からのFTA輸入額の4割以上を占めており、通常3.4%の関税が掛かるところ、日EU・EPAを利用すれば、加熱式たばこは2.3%、その他のものは2.8%が適用される。報道によると、米フィリップモリスが日本で発売する加熱式たばこ「アイコス」の生産拠点がイタリアにあり、同製品の輸入でFTAが活用されている可能性が高い。

表4:FTAを使った輸入が多い品目(金額ベース、輸入相手国別、2019年1~7月)
国・地域名 1位 2位 3位
ASEAN ベトナム スポーツシューズ 旅行用バック エチレン製の袋
タイ 処理済みの鶏肉 鶏肉、くず肉 ポリ(エチレンテレフタレート)
インドネシア シュリンプ、プローン エチレン製の袋 パーム油
フィリピン 木製健具 バナナ 有機化合物
マレーシア パーム油 熱帯産合板 熱帯産合板
EU イタリア 製造たばこ ぶどう酒 トマト
フランス スパークリングワイン ぶどう酒 革製ハンドバッグ
ドイツ 豚肉 豚肉 非縮合フラン環
スペイン 豚肉 豚肉 クロマグロ
英国 ニッケル(合金除く) 石油樹脂などの塊、粉 農薬
オーストラリア 牛肩肉、牛モモ肉 冷凍牛肉 牛ロイン
カナダ 骨付き豚肉 骨付き豚肉 もみ、とうひの木材
チリ 銀ザケ マス サケ
インド シュリンプ、プローン フェロシリコマンガン ブラウス、シャツ
ニュージーランド キウイフルーツ その他チーズ フレッシュチーズ
メキシコ 豚肉 アボカド 豚肉
スイス 飲料水 貴金属装飾品 プラチナ装飾品
ペルー 加工済イカ アボカド 魚卵、肝臓、しらこ
モンゴル アルミニウム製品 羊毛製ショール、スカーフ 羊毛・繊獣毛製織物

注1:利用額の多い国順に表示。
注2:太字は、発効している複数のFTAのうち、地域間協定(日ASEAN、TPP11)を利用して輸入された品目を示したもの。
注3:英国の利用額はEU28カ国中11番目だが表示。
注4:品目名は、実行関税率表に基づく正式な品名を基に簡略化した。
出所:財務省貿易統計から作成

先述したように、二国間FTAと地域間FTAが共存する取引では、関税の支払額をより軽減できるFTAが選択されていることも分かる。必ずしも、協定の発効年が遅いほど、税率が低いわけでもない。例えば、タイからの輸入で最も利用が多い処理済みの鶏肉では、2008年に発効した日ASEAN・FTAでは2019年時点で5%の関税が掛かるところ、2007年発効の二国間FTAでは3%で済む。そのため、この品目においては二国間協定の方が選択されている。

先述したオーストラリアの牛肉の例では、関税削減スピードのより速いTPP11の方がよく使用されていた。一方で、メキシコ産アボカドは、TPP11が発効した今でも日メキシコFTAの方が利用されている(表4参照)。これはどちらを使っても無税だからであり、特に付加価値の累積をする必要がない以上、使い慣れた二国間協定の方を利用し続けているものと考えられる。

日本にとってのメガFTAであるTPP11と日EU・EPAの発効後、特に食品分野で利用が拡大していることを見てきた。また、複数の協定が併存する相手国からは、企業はより低い特恵税率が適用される協定を選択し、輸入を行っていることも統計からうかがえる。現在交渉中の「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)が発効すれば、例えば、ベトナムの場合は4つのFTAが併存する状態が生まれる。FTA利用の幅が広がる一方で、従来にも増してFTA間の比較検討が必要となろう。


注1:
日本からの輸出については、経済産業省が発表する特定原産地証明書発給件数PDFファイル(527KB)以外に公表データが存在せず、業種別・品目別まで下りての分析が不可能だ。主要相手国・地域の中では、タイ商務省や欧州委員会などがFTAを利用した品目別の輸入額を記録しているため、この中から日本の数値を抽出すれば、輸出における個別協定の利用状況は把握できる。
日本全体としては目下、ジェトロの「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」が輸出におけるFTA利用状況を知る数少ない手掛かりの1つだ。直近の調査では、FTA利用率は48.2%(この調査におけるFTA利用率とは、日本のFTA締結国・地域へ輸出を行う企業のうち、1カ国以上でFTAを利用していると回答した企業の比率を指す)と、前回調査よりも3.3%上昇した。自動車・自動車部品、化学品、医療品・化粧品、鉄鋼などの業種が特に輸出でFTAを利用している。
注2:
ただし、ここでいうTPP11は、協定ではなく地域区分の意。つまり、シンガポールやベトナムの利用額には、TPP11だけではなく、二国間協定や日ASEAN・FTAを利用した額も含まれている。純粋にTPP11のみを利用した額を分子にして計算すると、同協定の利用率は7.6%となる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人 日本経済研究センター出向を経て、2012年4月より現職。世界の貿易投資、および通商政策に関する調査に従事。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』、『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)など。