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日ロの合弁会社の可能性
東京製綱とロシア企業、役割分担を明確にした現地化により公共分野参入を目指す

2019年11月12日

海外企業との合弁は海外進出の主な選択肢の1つだ。独資での展開と比較して、現地事情に通じたパートナーとともに事業展開するメリットがあり、既に多くの日本企業が活用している。一方で、信頼できるパートナーの選定から出資比率の設定、役割分担の明確化など、独資とは異なる留意点も存在する。こうした合弁会社として、2018年10月にロシアのサンクトペテルブルクに誕生したのがTRエンジニアリングだ。同社は防災用品の製造を手掛ける日本の東京製綱と、産業用施設の設計・建設などを行うロシアのロスエンジニアリングの合弁で誕生した。同社のビジネスの現状や合弁企業の設立経緯、留意点、主なターゲット顧客や販売方法などについて、ユーリ・カルペンコ社長に聞いた(10月4日)。


カルペンコ社長。
手元のだるまは2018年10月の開所式を機に社内で飾っているという(ジェトロ撮影)
質問:
出資比率や合弁の経緯、事業内容は。
答え:
出資比率は東京製綱が60%、ロスエンジニアリングが40%。もともと両企業は2014年のロシア・ソチ五輪に向けた会場整備で協業したことをきっかけに、信頼関係・協力体制を深めた。私(カルペンコ社長)自身はロスエンジニアリングの出身。
出資元の両企業の役割分担は明確にしている。東京製綱が技術の供与・開発を担当し、ロスエンジニアリングがロシアでの製品の生産現地化や営業・プロモーションなどを担当する。
現在は主にプロトタイプ(試作品)を製作しており、本格的な生産・販売は2020年からを予定している。現在の従業員は17人、うちオフィス勤務は6人。東京製綱から出向の常駐社員はいない。同社から日本人出張者が来ることはあるが、基本的にはロスエンジニアリングの出身者などのロシア人スタッフで運営している。
本格的に製造・販売する予定の防災製品は、山崩れを防ぐネットや海岸線、土壌の地盤を強化する防護箱といった製品だ。既存の類似製品と比べて高価だが、設置日数の削減や長期にわたる耐用年数などが長所だ。

防護箱を構成するワイヤースチール。
この箱の中に石などを入れて土壌を強化する(ジェトロ撮影)
質問:
サンクトペテルブルクに合弁工場を設立した理由は。ロスエンジニアリングの本社が所在するという点もあろうが、その他の理由を教えてほしい。
答え:
まず、主な顧客が自治体であることから(後述)、顧客が重視するロシア国内での生産(ローカライズ)が前提にあった。その観点でロシア国内での生産を検討し、サンクトペテルブルクに工場を設けたのは、経済特区に入居できたからだ。当社が入っている経済特区では、光熱費や税制などさまざまな面で優遇措置を受けることができる。当社はサンクトペテルブルク市南西部のノイドルフ地区にあるが、いろいろな優遇により30%程度は製造に要するコストが削減できている。
加えて、次の点もポイントだった。まず、物流の拠点であること。ウラジオストクやカザンでの工場設立も考えたが、サンクトペテルブルクは港湾を有する物流の要衝であることから、原料輸入や将来的に欧州市場への参入を見据える上で魅力的だ。次に、製造業の集積地であり、さまざまなインフラが整っていること。日本の大手製造業も進出していることは心強い。最後に、人材。特に、高い教育を受けた技術者が豊富にいることは当社にとっても重要だった。

工場。本格生産は2020年を予定。(ジェトロ撮影)
質問:
競合他社はどのようなところか。差別化の工夫は。
答え:
競合相手は、山崩れなどを防ぐという同じ用途で使われる製品を開発しているコンクリートメーカーだ。競合製品は、当社のように特殊なワイヤーで強度を高めるのではなく、単純にコンクリートブロックを積み重ねるだけのため、当社は価格面で不利。そのため、当社は「サービスプロバイダー」としてのビジネスモデルの構築を進めている。具体的には、製品にセンサーを埋め込み、周囲の状況をモニタリングするサービスの提供を考えている。単に製造・販売するだけではない付加価値の提供を目指す。
質問:
貴社の顧客は。苦労している点は。
答え:
本格的な販売はこれからだが、主なターゲット顧客は公共セクター、特にロシア国内の連邦構成体(日本の都道府県に相当)。当社製品を必要としているであろう連邦構成体にアプローチして商談を進めている。特に、物流網確保を目的とした山岳地帯や港湾のインフラ整備を行う自治体は有望な販売先だ。その他の顧客候補はロシア鉄道だ。鉄道沿線の土地を守るネットの販売について同社と商談を進めている。
連邦構成体など公共セクターへの販売の難しさは、基本的には公共調達に伴う入札を経る必要があること。価格競争というだけでなく、当社製品はロシア国内では基本的に新しいものであり、採用に向けた自治体への働きかけ(当社製品の長所の理解を求めること)は今後の課題だ。
質問:
製造に当たっての原料や部材の調達先は。
答え:
当社の調達価格ベースで、80%がロシア国内、日本と中国がそれぞれ10%。ロシアの連邦構成体への納入を目指す観点から、当社では現地生産のみならず、部品・部材も現地調達することを重視している。一方で、工場内にある機械(ワイヤーネットを編み上げる機械など)は日本から調達したものだ。現地での製造に当たって東京製綱の技術とノウハウを十分に生かすには、日本製の精度の高い設備が必要だった。
質問:
在ロシアの日系企業から聞くリスクの1つに、ルーブル為替レートの不安定さが挙げられる。貴社はどのような対策を取っているか。
答え:
為替レートを保守的に見積もり、追加コストを見込んで予算計画を立てている。一方で、為替が不安定だからこそ、思わぬ差益やコスト削減が発生することもある。
質問:
ロシアビジネスを検討する日本企業にメッセージを。
答え:
特に製造業において、当社のような合弁企業の手法は日ロ両企業が互いの長所を補い合っている良い事例と考えられ、ロシア進出を考える日本企業、特に中小企業にとって良いベンチマーク(基準)になろう。日本の技術をロシアで生かすという観点で、ロシア進出を検討する日本企業があれば、当社としても喜んで力になりたい。特に、生産現地化やマーケティングなどで協力できると思うので、関心ある日本企業は連絡をしてほしい。
執筆者紹介
ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所長
一瀬 友太(いちのせ ゆうた)
2008年、ジェトロ入構。ジェトロ熊本(2010~2013年)、展示事業部アスタナ博覧会チーム(2015~2018年)などを経て2018年4月より現職。

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