輸出市場の多角化を期待するも、国内課題が山積(ペルー)
TPP11発効に対する見方

2019年1月7日

対日輸出では特恵関税率適用品目が拡大

ペルーでは、通商観光省(MINCETUR)が、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の交渉を率いてきた。同省はTPP11の批准手続きに関して、国会を通さずに行うべきだ、との立場を表明している。ただし、最終的な判断は憲法にのっとり、ペルー外務省に委ねられているため、2018年12月24日時点でその結論は出ていない。ロジェル・バレンシア前通商観光相は、在任中の最後の公の場で、2018年内の批准を示唆していたものの、その見通しはついていないのが現状だ。

通商観光省において、協定交渉役のリーダー役を担ってきたヘラルド・メサ氏(アジア・オセアニア・アフリカ課長)によると、既に2国間EPA(経済連携協定)を締結している日本に対しての特恵関税率適用品目数が88%であるのに対して、TPP11では97%にまで上るとのことだ。さらに2国間EPAには含まれていない、薫製マス、冷凍魚フィレ、マス加工品、かんきつ類ジャム、動物用飼料調剤など、ペルーの有望輸出産品がTPP11発効時に即時、関税撤廃される。また、輸出市場の多角化を目指すペルーにとっては、既存の2国間貿易協定の締結国とは別に、ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、ブルネイの4カ国が新たな有望輸出先として加わることを意味する。同4カ国の2016年における(ペルーにとっての)非伝統産品の輸入額は、3,680億ドルに上るが、実際のペルーからの輸出額は6,500万ドルにとどまっており、大きなポテンシャルを秘めている。そのほかにも、情報サービス、ソフトウエア、企業コンサルティング、観光サービス、コールセンター、物流センター、フランチャイズビジネスなどの分野で、新たなビジネスチャンスが生まれる、と通商観光省はみている。

ペルー国内のインフラ整備が急務

一方で、これらの新たな市場への参入には、これまで以上の競争力が求められるのも事実だ。サンマルコス国立大学のアジア研究センター(CEAS)のコーディネーターのカルロス・アキノ・ロドリゲス氏は「非伝統産業へのさらなる投資の呼び込みによって、より付加価値の高い商品作りが必要である」と指摘する。また今後、輸出量が伸びた場合、それらのニーズに対応するためには、既存の物流インフラでは対応できない、と付け加えた。特に内陸部においては、道路や鉄道が未整備地域も多く、これらの地域からの産品における品質管理上の大きな足かせになっている。


カルロス・アキノ・ロドリゲス氏(ジェトロ撮影)

アキノ氏はまた、コロンビアやチリがそれぞれの産業の活性化を図った背景には、技術者たちの存在があり、ペルーにはこの様な人材が不足しているため、その育成が急務だ、と分析した。水産業については、カタクチイワシ(アンチョベータ)の多くは飼料用の魚粉として加工されてしまうが、保存がきく加工食品として付加価値を高めたり、農業促進法(所得税を半減し、雇用条件を改正する法律)を模した法律を、水産業にも同様に適用するなどの対策が必要だと指摘した。

さらに、ペルー政府が実施する企業支援政策は充実しているものの、一般市民のビジネスの多くが路上販売やインフォーマル(非正規雇用)形式のため、これらの支援策にアクセスできていない。これらをフォーマル化し、大手企業の正規ビジネスに組み入れることで、太平洋同盟も活用した大きなバリューチェーンの生まれる可能性があるだろう、とした。

太平洋同盟との連携がカギを握る

他方、産業界の見方として、ペルー輸出業協会(ADEX)のファン・バリリアス・ベラスケス会長は、ADEXのシンクタンクである国際ビジネス経済研究センター(CIEN)による分析として、TPP11加盟国との間で80におよぶ未利用のビジネスチャンスがあるとの見方を示す。これらは金額にして12億ドルにも上り、その7割が付加価値の高い繊維・アパレル(綿花製品)、農水産業(野菜・マメ科植物)、化学(化粧品)が占めている、とのことだ。また、アキノ氏と同様に、太平洋同盟国との連携を図ることで、域内独自のバリューチェーンを構築していくことで、TPP11の活用により役立つだろう、とした。


ファン・バリリアス・ベラスケス氏(ADEX提供)
執筆者紹介
ジェトロ・リマ事務所長
設楽 隆裕(しだら たかひろ)
1992年、ジェトロ入構。ジェトロ・マドリード事務所(1997~2001年)、ジェトロ・ブエノスアイレス事務所長(2006~2010年)、ジェトロ大阪本部情報サービス課長および主幹(2013~2017年)などを経て、2018年8月より現職。