地方都市で日本酒はどの程度浸透しているのか (フランス)
フランス産食品とのペアリングなど、アンケートを実施

2019年5月21日

フランスへの日本酒輸出は増加しており、ここ数年でパリを中心に「サケ・ジャポネ(日本酒)」に対する反応は大きく変わってきた(2017年9月3153号2018年8月3201号参照 ※ジェトロメンバーズ限定記事)。一方、フランスの地方都市では、日本酒はどのような印象を持たれているのか。2018年7月から2019年2月まで実施された日本文化の魅力を紹介する大規模な複合型文化芸術イベント「ジャポニスム2018外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」で、ジェトロ・パリ事務所がイベント事業の一環として実施した日本酒の試飲とアンケート調査から見えてきた実情を紹介する。

4都市で日本酒の説明・試飲を実施

日本酒は以前は白酒などのようなアジアのアルコール度数の高い酒と混同され、ネガティブなイメージを持つフランス人も多かったが、パリを中心に行われた啓蒙活動の効果で、ここ数年、日本酒のアルコール度数がワインと同じくらいと認識するフランス人が増えてきた。

一方、フランスの地方都市では日本酒がどの程度浸透しているのかを把握するため、ジェトロは2018年9月から2019年2月にかけて、パリ市、ストラスブール市、ドール市、ボルドー市の計4都市で、日本酒の試飲とアンケート調査を行った。調査の規模や聞き取り状況など条件は必ずしも一律でないが、「日本酒を今までに飲んだことがあるか?」「日本酒を今回試飲して、これからも飲みたいと思ったか? また飲みたい場合は、どのようなシチュエーションで飲みたいと思ったか?」なという共通の質問を各地で行った。 さらに、日本食だけでなく、日本酒をフランス人が普段食べている食事と組み合わせることを提案し、フランス人の食生活に日本酒を取り入れてもらうため、日本酒とフランスの特産品を一緒に提供し、「フランス産食品と日本酒の『マリアージュ(ペアリング)』は合うと思うか?」という質問も行い、感想を得た。

パリを除くアンケート調査対象3都市はいずれも、アルザスワイン、ブルゴーニュワイン、ボルドーワインなどワインの名産地の近くだったことから、アンケートの回答者にはワイン生産者、カービスト(ワインセラーの管理者)など、ワインを熟知している人も多くいたことに留意してほしい。

図1:日本酒に関するアンケート実施地域
A ドール市は2018年9月22-23日、 B ボルドーは2018年10月12日、Cパリは2018年10月19日、D ストラスブールは2019年2月2日にアンケートを実施。

出所:ジェトロ作成

アンケート実施状況と回答者の属性

  1. ドール市(ブルゴーニュ=フラッシュ=コンテ地域圏 ・ジュラ県)
    アンケート実施日:2018年9月22日~23日
    ブルゴーニュワインの産地に隣接するドール市で行われたガストロノミーイベント「ウィークエンドグルマン・デュ・シャペルシェ」(約3万8,000人来場)の一環で、「ビラージュ・ジャポネ」(日本村)で日本酒とフランスの特産品(コンテチーズ)の試食・試飲を提案した。来場者がその場でアンケートに回答。
  2. ボルドー(ヌーベル=アキテーヌ地域圏・ジロンド県)
    アンケート実施日:2018年10月12日
    ワイン博物館(シテ・ドゥ・バン)で開催された一般人向け有料セミナーで、日本酒・日本ワインとフランス料理(スモークサーモン、フォアグラ、エポワスチーズ)のマリアージュについて講義。セミナー参加者がその場でアンケートに回答。
  3. パリ(イル=ド=フランス)
    アンケート実施日:2018年10月19日
    「ジャポニスム2018」のイベントの1つである「地方の魅力―祭りと文化PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(719KB) 」のレセプションパーティーで、ホテルクリヨンのシェフソムリエのグザビエ・チュイザ―氏が、日本酒とフランス料理(カナッペ4種類)のマリアージュをプレゼンテーションし、試飲・試食を行った。観光業界関係者など招待客約250人(日本人を含む)がその場でアンケートに回答。ただし、イベントの性質上、回答者には親日家も多い点に留意が必要。
  4. ストラスブール(グラン・テスト地域圏・バ=ラン県)
    アンケート実施日:2019年2月2日
    市内にある書店内のイベントスペースで、地元カービストと協力して日本酒とフランス料理(コンテチーズ、サーモン、アヒルのフォアグラ、チョコレート)のマリアージュについて、ソムリエのレオネッティ氏(2006年フランス最優秀ソムリエコンクール受賞者)などが講義。聴講者がその場でアンケート回答。
表1:回答者属性、回答者数、アンケート実施方法など
都市 イベントの形態 回答者抽出方法 有効回答者数(うち日本人) アンケート回収場所/方法 日本酒と一緒に提供した食材・飲み物
A ドール 屋外イベント内/無償 通りすがり 486人
(7人)
現場/問いかけ・記入式両方 コンテチーズ
B ボルドー 室内イベント内/有償 事前申し込みのイベント参加者 59人 現場/記入式 ワイン、スモークサーモン、フォアグラ、エポワスチーズ
C パリ 室内イベント内/無償 事前申し込みのイベント参加者 65人
(6人)
現場/問いかけ カナッペ
(酸味、苦み、ヨード、辛味の4種類をテーマにしたケータリング料理)、ソフトドリンク、ワイン
D ストラスブール 室内イベント内/無償 事前申し込みのイベント参加者 60人 現場/記入式 コンテチーズ、サーモン、アヒルのフォアグラ、チョコレート

注:ボルドーとストラスブールでのイベントでは、国籍情報なし。
出所:ジェトロ作成

4都市全てで回答者の6割以上が日本酒とフランス特産品が合うと回答

今回初めて日本酒を口にした(注1)と回答した非日本人(注2)は、パリで22.0%、ボルドーで30.2 %、ストラスブールで34.5 %、ドールで48.6 %となっており(図2参照)、都市の規模や日本食レストランの数(注3)と相関性が見られる。日本食レストランの店舗数は、パリ796軒、ボルドーの所在するジロンド県116軒、ストラスブールが所在するバ=ラン県41軒、ドールが所在するジュラ県3軒である。

図2:アンケート結果1
「日本酒を今までに飲んだことがありますか?」

パリは「はい」80 % 「いいえ」20 %
注:非日本人のみの回答では「はい」が78.0%、
「いいえ」が22.0 %
ボルドーは「はい」69.8 % 「いいえ」30.2 %
注:非日本人のみでの集計はなし
ストラスブールは65.5 % 「いいえ」 34.5 %
注:非日本人のみでの集計はなし
ドール市は「はい」51.9%「いいえ」48.1%
注:非日本人のみの回答では「はい」が51.4%、
「いいえ」が48.6%

出所:アンケート結果を基にジェトロ作成

ワインを熟知した回答者も多くいた中で、「日本酒とフランス特産品とのマリアージュは合う」という回答は全ての地域で6割以上となり、パリとストラスブールでは8割を超えた(図3参照)。「まずは和食と合わせてみたい」「ワインと日本酒は別のもの、比較対象にならない」「日本酒がコンテチーズに合うのではなく、コンテチーズは何にでも合う」といった感想も一定数あったものの、「日本酒をデザートに合わせてみたい」「フォアグラと合う」というポジティブな回答も見られた。

図3:アンケート結果2
「フランス産食品と日本酒のマリアージュ(ペアリング)は合うと思いましたか?」

ストラスブールは「合う」が89.7 %、「合うがワインの方が良い」が「10.3 %」
パリは「合う」が81.5 %、「合うがワインの方が良い」が13.8 %
ドール市は「合う」が70.9 %、「合うがワインの方が良い」が24.9 %
ボルドーは「合う」が60.3 %、「合うがワインの方が良い」が34.5 %

出所:アンケート結果を基にジェトロ作成

試飲イベントでは、5つ星のホテルクリヨンのシェフソムリエをはじめとするフランス人ソムリエが、日本酒の味わいや料理との合わせ方について説明やコメントをしたことから、参加したフランス人にとっても理解しやすかったのではないかと考えられる。

他方、日本酒とのマリアージュに対するネガティブな感想としては、「アルコールの味が強いため、食材の風味が隠れてしまう」「ワインの方がさらに複雑」「舌がワインに慣れているので、味や深みが足りないと感じる」「チーズなどはワインの方が合うと思う」などの声も聞かれた。

日本酒を飲みたい場所には地域差も

日本酒の販売展開の参考のために、日本酒をどのような場面で飲みたいか質問したところ、ドールではレストランで、ボルドーやストラスブールでは家でという回答が多く、パリではほぼ同数の回答だった(図4参照)。

図4:アンケート結果3
「日本酒を今後も飲みたいと思いましたか?またどこで飲みたいと思いましたか?」

ストラスブールは「家でもレストランでも飲みたい」が32.2 % 「飲もうと思わない」が 0%
パリは「家でもレストランでも飲みたい」が33.3 % 「飲もうと思わない」が 3 %
ドール市は「家でもレストランでも飲みたい」が51.1% 「飲もうと思わない」が 7.2 %
ボルドーは「自宅で飲みたい」が54.4 %「レストランで飲みたい」が35.1 % 「飲もうと思わない」が 10.5 %

注:ボルドーのみ回答の選択肢が異なる。
出所:アンケート結果を基にジェトロ作成

ボルドーとストラスブールでは、複数のフランス食材に対し、それぞれに合う日本酒を提供したことにより、自宅で普段食べているものとのペアリングを明確に提案し、消費の仕方をイメージさせることができたことがこのアンケート結果につながったと考えられる。

一方で、日本酒の浸透度がこの4都市の中で一番低かったドールでは、「まだ日本酒のことをあまり知らないので、まずはレストランなどで時々飲んでみて、よく知ってから自宅で飲みたい」という意見も多く、ドールのような地域では、まずは日本酒を常備するレストランを増やすアプローチが有効となりそうだ。

これらの試飲イベントを実施する中で、フランス人は商品の味だけでなく、製造方法や産地の特徴についても知ろうという姿勢を強く感じた。また、ソムリエのようなアルコールのスペシャリストが日本酒の魅力を語ることにより、自然なかたちでフランス人の心に響き、受け入れられたように見受けられることから、ソムリエやカービストといったアルコールのスペシャリストに日本酒のファンになってもらい、消費者に説明するセールスマンにもなってもらえるようなアプローチも有効となりそうだ。


注1:
これらの回答者の中には、事前説明はしているものの、「日本酒」と「アジアの酒」の区別が付かずに回答している可能性が残っていることに留意。
注2:
アンケートにフランス語で回答した非日本人
注3:
イエローページ(2018年)で「日本食レストラン」として検索結果が出てくる店舗数
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
浅見 武人(あさみ たけひと)
2010年、農林水産省入省。2018年7月より現職(出向)。農林水産・食品関係業務を担当。