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日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定改正で商機拡大
サービス貿易・投資のさらなる自由化を達成

2019年11月1日

日本は2019年2月27日に東京で、ASEAN各国はカンボジアのシェムリアップで3月2日に、日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定の改正議定書に署名した。改正前はモノの貿易自由化を中心に、日本とASEANの経済関係緊密化が進んでいた。これまでの物品貿易に加えて、改正後はサービス貿易や自然人の移動、投資に関する自由化規定が現行協定に追加される。これによって、これまで以上の幅広い分野で日ASEANのビジネス関係が深化することが期待される。本レポートでは、これまでのAJCEPの活用度合いを振り返りつつ、ビジネスに影響の大きい改正議定書の内容を取り上げ、今後のAJCEPのさらなる活用への期待を報告する。

日本での利用件数は6.5倍

AJCEPは、2005年4月に交渉が開始され、2007年11月の物品貿易に係る交渉妥結を経て、2008年3〜4月に署名が行われ、2010年7月までに全締約国で順次発効してきた。ASEAN加盟10カ国の中では、インドネシアでAJCEPを運用する法律の施行が遅れていたが、2018年3月にインドネシア内で関係法令が施行され、AJCEPにおけるモノの貿易の自由化枠組みが完成した。一方、サービス貿易や投資の自由化・円滑化は関係国の調整が遅れていた。そうした中、2017年11月に閣僚レベルで交渉妥結が確認されたことで、2019年2〜3月に日本とASEANそれぞれが署名に至った。ASEANの自由貿易協定(FTA)は、物品に関する協定の後にサービス貿易章や投資章が追加される流れで進んできた。改正AJCEPも同様の展開をたどったことになる。

これまでのモノの貿易における日本企業の利用状況をみると、日本からASEANに輸出するに当たり、AJCEPを利用する場合は日本での原産地証明書発給が必要となるが、その件数は2018年度で1万8,410件と、利用が本格化した2009年度の2,832件から6.5倍に増加した(図参照)。日本がこれまで締結したASEAN各国とのFTAの発給総件数に占めるAJCEPの割合は2009年の5.0%から2018年には7.9%と、近年は着実に増加傾向にある。次に、利用国側として原産地証明書発給件数の統計を公表しているマレーシアを例にとると、2018年のAJCEPの発給件数は1万1,277件で、3年前との比較では10.3%増加している。AJCEPの利用については、活用する中小企業からはASEANが主要貿易相手地域となる中、多くの品目で関税が撤廃・軽減されていることは貿易取引コストの軽減につながり、意義は大きいとの声が聞かれる。

図:日本におけるAJCEP発給件数の推移
日本において、AJCEPに関わる原産地証明書発給件数は2009年以降、順調に拡大を続けている。日本がASEAN各国と締結したFTAの中でも、AJCEPの割合は傾向的に上昇基調にある。

出所:「日本商工会議所での原産地証明書発給(第一種特定原産地証明書)」(経済産業省)から作成

サービス、投資、人の移動の自由化が充実

2019年2~3月に日本とASEANが署名した改正内容外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをみると、これまでのAJCEPはサービス貿易章、投資章がそれぞれ1カ条にとどまっていた中、改正後の協定はサービス貿易章26カ条、投資章6カ条、電気通信サービス付属書18カ条、自然人の移動章10カ条、投資章23カ条が新たに追加された。改正AJCEPによって、日本とASEAN加盟国の間で、サービス貿易・投資のさらなる自由化・円滑化が実現できる。特に、本改正によって、日本はカンボジア、ラオス、ミャンマーの3カ国とは初めて広範なサービス、投資の自由化を含むFTAを締結したことになる。

サービス貿易・投資における日本企業の参入条件の緩和が約束された具体例として(表参照)、例えば、マレーシアでは外国資本の学習塾事業への参入は実質的には認められていない。これが改正AJCEP発効後は、49%を超えない範囲での合弁での外資の出資が認められることになり、進出企業は教育需要が旺盛なマレーシアのニーズを取り込みやすくなる。本規制は、2006年7月に発効した日本マレーシアFTAにおいても、開放の約束はされなかった。また、2007年11月に発効した日本タイFTAによって日本企業は50%までの出資が譲許されたタイにおけるコンピュータ・保守修理サービスは、改正AJCEPで日本企業は70%までの資本出資が認められることになる。ミャンマーでは、これまで出資に制限があった通信、建設、金融などのセクターは100%の資本参加が可能になり、同国でのビジネス機会が拡大することになる。

表:AJCEP改正議定書による自由化拡大例(-は該当なし)
項目 自由化事項 二国間EPAなどでの自由化レベル AJCEP改正議定書での自由化レベル
サービス貿易 タイ(コンピュータ保守・修理サービス) 50%まで資本参入が可能 70%まで資本参入が可能
ミャンマー(通信、建設、金融など) 100%まで資本参入が可能
人の移動 シンガポール、マレーシア(企業内転勤) 2年以内(シンガポール) 3年以内(シンガポール)
5年以内(マレーシア) 10年以内(マレーシア)
マレーシア(自由職業サービス) 12カ月以内(CPTPP) 10年以内
投資 タイ(国内販売制限要求、役員国籍要求) 禁止を新たに規律

出所:経済産業省資料を基にジェトロ作成

人の移動についても、既存のEPA以上の約束がなされた。例えば、企業内転勤について、日本シンガポールFTAでは、原則2年以内の入国および一時的な滞在許可が約束されていたが、改正AJCEPによって3年以内と滞在期間の長期化が約束された。マレーシアについても、既存の二国間FTAの約束が5年以内と規定される中、10年以内と2倍の滞在期間が認められることになる。マレーシアの場合、企業内転勤者以外にも高度な専門的知識・技能を持つ自由職業サービスに関わる自然人の滞在が10年間認められることになる。現在、マレーシアでは発効前にある「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」において、本自然人の滞在は12カ月以内となっている。

発効までには時間も

幅広い分野の自由化を伴う改正AJCEPの活用によって、日本企業とASEANの関係はさらに強化する方向に進むとみられる。今後、日本政府は国会で審議を行い、批准手続きを進めていく方向だ。同時に、ASEAN側でも手続きが進んでいる。日本と批准が終了したASEANの国の間で批准2カ月後に正式に発効となる。日本とASEAN10カ国全てにおいて発効手続きが終了するまでにはまだ時間を要するとみられる。しかし、サービス・投資面での自由化が進む方向で改正が行われた中、日本企業は改正AJCEPの中身を精査した上で、第三国を上回る有利な自由化を享受できるAJCEPの取り決めを活用してASEANの成長を商機に変えていくことが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。

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