eスクーターの普及が急速に進む(スイス)

2019年8月21日

スイスでも、eスクーター(電動アシスト機能付きキックスクーター)の普及が進み、街中でよく見かけるようになってきた。スイス連邦関税局によると、2018年に輸入されたeスクーター・電動ジャイロボード(セグウェイに代表される立ち乗り2輪ボード)は2万6,000台弱だった。

スイスの都市部では現在、米国のバード(Bird)社やライム(Lime)社、ドイツのシルク(Circ)社〔フラッシュ(Flash)のブランド名から変更〕とティエル(Tier)社、スウェーデンのボイ(Voi)社製などのeスクーターのシェアリングサービスが提供されている。欧州で14拠点を展開しているバード社は、チューリッヒ市で1,000台、ジュネーブ州で120台のシェアリング事業を展開していると報道されている。また、ボイ社はビンターツール市で6月から100台の運用を開始した。

自転車のレンタルサービスは古くから存在していたが、モノのインターネット(IoT)技術により駐輪場の無人管理が可能となり、2007年にパリ市が自転車のシェアリングサービス「ベリーブ」を導入して以降、各国の都市部での同サービスが爆発的に普及し始めた(日本では東京・千代田区がNTTドコモと2014年からコミュニティーサイクル事業実証実験「ちよくる」を開始)。また、GPSの導入により駐輪場への返却が不要で乗り捨て可能なワンウェイ方式のシェアリングサービスも登場した。その後、参入コストをめぐる事業者間の競合過熱や、相次ぐ窃盗や毀損による損失を要因に、2018年以降は中国やフランスなどで自転車シェアリング事業者の撤退が相次いでいる。代わりに現在は既存の車両管理インフラ・技術を用いたeスクーターのシェアリングサービスが広がりつつある。これは、サービス単価を自転車より高く取れるという事業者サイドの都合だけではなく、北欧やオランダに一足遅れて自転車やスクーターが都市内移動手段として普及し始めた地域では、いきなり人力に戻るよりは、環境に優しく手軽に使える交通機関としてのeスクーターが消費者サイドに受け入れられやすいという点もあると思われる。報道によると、欧州で現在、eスクーターのシェアリングサービスが導入されている国はスイス、フランス、スペイン、ベルギー、オーストリア、デンマーク、チェコなど11カ国ある。

eスクーターの事故などの頻発により当局が規制に乗り出す

eスクーターが急速に普及したため、事業者やユーザーの対応が追い付かず、歩行者との接触やブレーキの故障などの事故が相次いでおり、各国は法規制に乗り出し始めた。ドイツでは6月から、歩道での走行を連邦レベルで禁止し、自転車道での走行に限定、速度も時速20キロ以下に制限した(2019年5月29日記事参照)。パリ市も同様に歩道での走行を禁止しており、3月に違反者の集中取り締まりを行っている。報道によると、フランス全土でもこの9月から、年齢制限(12歳以上)と速度制限(自転車道で時速25キロ以下)が設けられ、賠償責任保険の加入も義務付けられるとのこと。

スイスでは連邦法により、eスクーター(およびセグウェイ)の歩道での走行は禁止されており、自転車道での時速20キロ以下での走行に限られる(出力0.5キロワット以下も要件)。歩道は歩行者と子供用自転車の走行のみ許可されていて、自転車やeスクーターは歩行者と共用の道を除き、歩道での走行は禁止されている。しかし、実際には歩道を走るeスクーターをよく見かけることから、自転車道または車道での走行が徹底されているとは言い難い。なお、日本では、eスクーターの公道での走行は実態上認められていない。

安全性やインフラ整備における課題も残る。例えば、1月にはeスクーターによる事故が原因で、米国スタートアップのライム社がスイスでの500台のレンタルサービスを中止したと報道された。同社は1月19日以来、保有するeスクーター全車両のハード・ソフト両面の安全性について点検作業中との発表をウェブサイトに掲載中だが(8月16日現在も)、現在はチューリッヒとバーゼルでの事業を中断しているもようだ。ちょうど、チューリッヒ市では4月から、30台以上のeスクーターのレンタルなどを行う事業者に対して免許制を導入し、機材を常に利用可能な状態に保つといった義務を課している。また、駐輪スペースの確保も問題の1つだ。5月にバード社がローカルブランドのフェン(Föhn)のサービスをジュネーブ州メイリンで開始した時には、駐輪場が公共スペースを占拠しかねないことが問題となり、自社施設でのeスクーターのレンタルサービスからスタートしたと報道されている。

電動アシスト付き自転車はシェアリング、個人所有で本格的な普及期に

従来の自転車に代わり、電動アシスト付き自転車のシェアリングサービスも急速に普及している。スイス最大の電動アシスト付き自転車シェアリング事業者のピュブリバイク(PubliBike:スイスポストの関連会社)は、2018に自転車シェアリングサービスをスイスの主要都市(チューリッヒ、ベルン、フリブール)で開始して以来、400カ所3,500台のサービスを展開しているが、4月からは電動アシスト付き自転車500台のシェアリングも開始した。また、ライム社やジャンプ(Jump)社のように、eスクーターと同じスマートフォンアプリで電動アシスト付き自転車のシェアリングサービスを行っている事業者も存在する。

スイスではモピードと言われるエンジン補助動力付き自転車が古くから普及しているが、現在、電動のモピード(すなわち電動アシスト付き自転車)が急速に普及していることが統計から読み取れる。連邦関税局の発表によると、2018年の電動アシスト付き自転車の輸入台数は13万6,000台だった。なお、eスクーターおよびセグウェイを含めた電動二輪車全体の2018年の輸入台数は16万4,000台に上り、この10年で約20倍になっている。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
和田 恭(わだ たかし)
1993年通商産業省(現経済産業省)入省、情報プロジェクト室、製品安全課長などを経て、2018年6月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。