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英国への投資にはビジネスレートに留意が必要
対英投資に関わる問題点

2019年2月1日

英国の法人税率は現在19%で、2020年4月以降に17%に引き下げられる。国際的に見ても低い税率だが、企業が英国に投資する場合、法人税率だけでなく、ビジネスレートも考慮に入れることが肝要である。ビジネスレートは非居住不動産に課せられる固定資産税だが、不動産価格上昇と比例して税額は上昇する一方だ。ビジネスレートが商店街の衰退を招いているとの強い批判に応え、政府は2019年度(2019年4月~2020年3月)予算案の中で、少額賃料の物件を対象にビジネスレートを2年間、現行の3分の1に引き下げると発表している。

本レポートでは、ビジネスレートとは何か、税額をどう確認すればよいのかについて説明する。

ビジネスレートとは何か

ビジネスレートは、地方自治体が非居住用(事業用)資産(店舗、事務所、倉庫、工場など)に課している固定資産税で、日本と同様、不動産評価額を基準に課税額が定められる。しかし、不動産の所有者ではなく、使用者が支払う義務を負う点で日本と異なる。

ビジネスレートは地方自治体が徴収するが、英国の法人税が国税しかないことを考えると、ビジネスレートはある意味では法人向け地方税ともいえる。しかし、法人税と大きく異なり、収益の有無にかかわらず定額を支払わなければならず、物価上昇に鑑み毎年、税率が改定される。

課税の元となる不動産評価額は、イングランドとウェールズについては中央政府の資産評価局(VOA)、スコットランドは各地方自治体の土地評価局、北アイルランドは同政府の土地・不動産局が算出している。およそ5年ごとに改定されており、直近ではイングランド、ウェールズ、スコットランドについては2017年に、北アイルランドは2015年に改定された。

2017年の改定では、2015年4月1日時点での市場実勢に基づいた年間賃貸価格に鑑み、評価額が算出された。なお、政府はこの頻度を上げるとしており、今後、イングランドとウェールズは2021年、2024年、スコットランドは2022年、北アイルランドは2020年に改定を計画する。

また、前述のとおり、評価額に対する課税率(乗数)も物価上昇率に鑑み、毎年改定されており、2018/2019年度の課税率は表1のとおりである。

表1:不動産評価額別のビジネスレート課税率(乗数、2018/2019年度)

イングランド
地域 課税率
不動産評価額
5万1,000ポンド以下
不動産評価額
5万1,000ポンド超
不動産評価額
7万ポンド超
大ロンドン市以外 0.48 0.493 0.493
大ロンドン市内:シティ(注1)以外 0.48 0.493 0.495
大ロンドン市内:シティ 0.485 0.498 0.50
スコットランド
地域 課税率
不動産評価額
5万1,000ポンド以下
不動産評価額
5万1,000ポンド超
スコットランド(全域) 0.48 0.506
ウェールズおよび北アイルランド
地域 課税率(一律)
ウェールズ(全域) 0.514
北アイルランド(注2) 0.547448~0.634453
注1:
シティはシティ・オブ・ロンドンの略。
注2:
行政区により異なる。行政区の税率×行政区が属する地方の税率。
出所:
英国政府、各行政府ウェブサイトより作成

ビジネスレートの計算方法は、不動産評価額×上述の課税率である。例えば、大ロンドン市以外のイングランドで、評価額7万5,000ポンドの事務所を賃貸した場合、

  • 物件評価額7万5,000ポンド×0.493=3万6,975ポンド

3万6,975ポンドが1年間に支払うべきビジネスレートの額となる。

土地評価額はどのように算出されているか

個別の不動産に関する評価額は、イングランドおよびウェールズの場合は英国政府ウェブサイトから、スコットランドは各地方自治体の土地評価局、北アイルランドは同政府の土地・不動産局から、住所の郵便番号、通りの名前などで、確認が可能である(リンクは後述)。

この評価額についても、日本とは違うことに留意が必要だ。日本の不動産評価額は実勢より低いものの「購入を想定した評価額」である。これに対し、英国のビジネスレートの不動産評価額は、その不動産を「1年間賃貸することを想定した評価額」である。最初にその不動産の1平方メートル当たりの単価が評価され、それに面積が乗じられてその不動産の評価額となる(自治体との個別交渉により総額を定めている物件もある)。同じ番地の不動産であっても、事業の用途、不動産の設備などによって評価額が異なっている。

政府のウェブサイトで、ジェトロ・ロンドン事務所が所在するロンドンのハイホルボーン通りの物件を検索すると、2017年の土地評価において、871件の物件がビジネスレートの課税対象として挙げられ、それぞれの物件の1平方メートル当たり評価額と物件当たりの評価額が表示されている。転出や改築などで無効になっている物件を除くと、実際の課税対象は802件だった。これを業種ごとに分類すると表2のようになる。

表2:ロンドン中心部(ハイホルボーン)における1平方メートル当たり評価額 (単位:ポンド)
業種 件数 最低値 最高値 平均
事務所 458 310.25 1,650 484
駐車スペース 136 2,250 3,500 2,904
店舗 63 500 3,500 1,722
倉庫 59 325 1,400 444
レストラン 13 500 750 702
銀行 6 685 1,750 1,206
広告塔 6 1,100 3,625 1,521
カフェ(喫茶店) 4 1,000 2,200 1,783
地下鉄駅構内のキオスク 3 6,100 6,100 6,100
賭け屋 2 1,070 1,290 1,180
フィットネス&レジャークラブ 2 140 140 140
美容サロン 2 341.25 341.25 341.25
公衆電話 2 100 100 100
歯科医院 1 1,400 1,400 1,400
クリニック 1 365 365 365
理髪店 1 1,000 1,000 1,000
郵便局 1 1,000 1,000 1,000
コンピュータサーバールーム 1 551 551 551
ミーティングルーム 1 575 575 575
受付スペース 1 495 495 495
ショールーム 1 500 500 500
工房 1 504 504 504
駐車場付属更衣室、シャワー室 1 480 480 480
携帯電話電波塔(16)、パブ(5)、居住用ビルなどのWIFIが使える共有部分(5)、ホテル(4)、公衆電話ボックス(2)、大学(1)、スポーツジム(1)、ワインバー(1)、公衆便所(1)など 36 単価非公開
(総額のみ公開)
単価非公開
(総額のみ公開)
単価非公開
(総額のみ公開)
出所:
英国政府 不動産評価額(2017年4月改定値)を基に作成

実際の評価額はなかなかイメージしにくいが、大手不動産会社CBREのEMEA調査担当シニアダイレクターのリチャード・ホルバートン氏にジェトロがヒアリングしたところ、英国金融街が立地するシティ地区の2018年第2四半期(4~6月)時点での1平方メートル当たりの平均的な事務所賃貸経費(ビジネスレート込み)は年間1,111.49ポンド(約15万7,832円、1ポンド=約142円)で、その内訳は事務所賃料737.33ポンド、管理費102.26ポンド、ビジネスレート271.90ポンドという。

ビジネスレートの減免

ビジネスレートの課税対象は広く、上述の店舗や事務所はもとより、駐車場に隣接した更衣室、広告塔、携帯電話の電波塔、居住者向け建物の共有部分、官公庁のビル、公共施設など含まれる。対象外となるのはイングランドの場合、住宅用不動産、農地、農家(水産施設を含む)、障がい者用訓練施設、宗教施設などに限定されている。

一方、各自治政府は独自の判断で、ビジネスレートの減免対象や免税内容を定めている。4行政府が共通して減免措置を設けているのは、小事業向け不動産(SBRR)、空き物件、チャリティー団体および地域振興に寄与するアマチュアスポーツクラブ、企業特区、過疎地などに対してである。

この中で、日本企業が利用可能と考えられるのは、企業特区内に進出した場合の減免措置にとどまる。(減免措置の詳細は、「2018/2019年度に実施されている主なビジネスレート減免」PDFファイル(234KB)参照。)

小売りチェーンの相次ぐ閉店の元凶と指摘する声も

2018年に入って、英国では大手小売りチェーンが相次いで倒産に追い込まれた。小売り調査センターによれば、2018年に倒産した小売企業グループ数は43、閉店数2,594で、それによる解雇者は4万6,014人に上る。

相次ぐ倒産の背景には、eコマースの隆盛、消費者の消費行動や志向の変化、最低賃金制による人件費の上昇などが指摘されている。しかし、それらと並ぶ要因の1つとして頻繁に取り上げられているのが、2017年の評価額見直しによるビジネスレート急上昇である。

表2をみても、店舗のビジネスレートは、事務所などに比べて高い。「タイムズ」紙(2018年10月30日付)によれば、スーパー最大手テスコが2017/2018年度に支払った法人税額は1億600万ポンドだったのに対して、ビジネスレートは7億200万ポンドに達したという。また、ロンドン市内の中心部オックスフォード通りに立ち並ぶデパートが支払うビジネスレートは、図のとおり、評価額見直し前と比べて大幅に増えるとしている。

図:オックスフォード通りのデパートが支払うビジネスレート、
評価額改定前後の比較(単位:100万ポンド)
ハウス・オブ・フレーザー 2016/17年度300万ポンド、2018/19年度 460万ポンド、マークス&スペンサー 2016/17年度300万ポンド、2018/19年度 470万ポンド、デベナムス 2016/17年度340万ポンド、2018/19年度 470万ポンド、ジョン・ルイス 2016/17年度660万ポンド、2018/19年度 1,020万ポンド、セルフリッジズ 2016/17年度1,090万ポンド、2018/19年度 1,700万ポンド

出所:「タイムズ」紙 2018年10月30日付

ビジネスレートの基準となる土地評価額は、地価上昇を反映して頻繁に上方改定される一方で、個人用不動産にかかる固定資産税(カウンシルタックス)については、イングランドとスコットランドでは1991年4月、ウェールズでは2003年4月の評価を最後に改定が行われていない。この結果、ロンドン市内では上階の1戸10億円以上の豪邸に課されるカウンシルタックスが年間1,421ポンドに据え置かれているのに対し、1階店舗は年間25万ポンド以上の支払いにあえぐといった例も出ている。ロンドン中心部の低すぎるカウンシルタックスが外国人富裕層による投資目的の高級住居購入を助長し、それが土地価格高騰や住宅不足を招いているとして、議論の対象となっている。

ビジネスレートに関する不公平感が高まっている対象として、実店舗とオンラインビジネスの格差も挙げられている。「ガーディアン」紙(2019年1月10日付)によれば、議会の調査結果として、eコマース大手のアマゾンUKは2017/2018年度に年間87億7,000万ポンドの売上高がありながら、6,340万ポンドしかビジネスレートを支払っていない、としている。これは、衣類・家庭用品大手ネクスト(売上高40億ポンド)が1億ポンドのビジネスレートを支払っているのと比べると、かなり少ない。売上高に占めるビジネスレートの比率を比較すると、ネクスト2.5%に対し、アマゾンは0.7%だ。

こうした状況は大企業だけでなく、中小企業も同様であり、商店街の不振を招いていると強い批判が出ており、フィリップ・ハモンド財務相は2018年10月29日に発表した2019年度予算案の中で、2019年4月から2年間、物件評価額(年間のみなし賃料)が5万1,000ポンド未満の物件を対象に、ビジネスレートを3分の1に引き下げるとしている。

日本企業はどの点に留意すべきか

英国のEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票以降も、英国に進出したいという日本企業の動きは大きな減少もなく、続いている。先行き不透明感から、不動産価格が多少下がることがあっても、それを買い時と考える世界中の投資家が英国、特にロンドンの不動産価格を下支えしている。

国際都市ロンドンの発信力に期待して、ロンドン中心部に事務所や店舗を開きたいという企業も多い。しかし、地価高騰に伴い、ロンドン市内と郊外、ロンドン市内と地方の間で、ビジネスレートの乖離(かいり)も広がっている。また、通り1本隔てても、ビジネスレートが大きく違う。

前述のとおり、日本企業が利用できるビジネスレート減免措置は、企業特区内への進出を除けば、ほとんどない。このため、進出先の決定に当たっては、ビジネスレートをコストに入れ、郊外や地方への拠点設置も含め、慎重に判断することをおすすめする。なお、個別不動産へのビジネスレートは、対英投資の決定前に、英国政府ウェブサイトで次のとおり確認が可能である。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
岩井 晴美(いわい はるみ)
1984年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(1990年~1994年)、海外調査部 中東アフリカ課アドバイザー(2001年~2003年)、海外調査部 欧州ロシアCIS課アドバイザー(2003年~2015年)を経て、2015年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。著書は「スイスのイノベーション力の秘密」(共著)など。

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