職場に求めるのは、良好な人間関係と成長機会(タイ)
就職活動中のタイ人に聞く

2019年8月8日

タイ進出日系企業からは従前より、高度人材の確保が課題とする声が多く聞かれている。一方、タイ人は日本企業をどうみているのか、卒業を控えた大学生にヒアリングを行った。ヒアリングからは、日本企業のチームワークや計画性への高評価とともに、「ワークライフバランス」への懸念がみられた。

バンコク日本人商工会議所(JCC)が実施した日系企業景気動向調査(2018年下期)によれば、調査対象となった在タイ日系企業のうち、65%が「人材不足」と回答している。特にエンジニア、幹部候補、またマネジャーなどの高度人材の不足を指摘する日系企業は多い。優秀な人材の確保は、企業の安定した事業運営に欠かせないが、このような人材不足は、在タイ日系企業の大きな課題の1つとなっている。

こうした中、JCCは6月7~8日にバンコクで、「日系企業就職フェア」を開催した。日系企業への就職を希望するタイ人と日系企業をつなぐ場として、例年開催されている。大学を卒業したばかりの優秀なタイ人を求め、多くの日系企業が毎年、同イベントに参加している。

JCCは同イベント期間中、来場したタイ人大学生を対象に、日本企業の革新的な技術や企業文化に関する講座を開催した。またタイ人大学生が、自らが考えたビジネスモデルを発表するプレゼンテーション大会も開催された。本大会で、熱を電気に変換するデバイス「HEAT CHARGER」を発表して優勝したチーム「Will of Green」の代表3人は、カセサート大学4年生で、2019年5月末に大学を卒業し、社会人になる予定だ。

日本に強い関心を持っているという3人に、日系企業で働くことへの期待や不安について聞いた。また現在、日系企業が直面している労務問題についても、学生の視点から率直な意見を聞いた。


Will of Greenの3人。(左からミーテーンさん(政治学部)、プンさん(工学部)、ポーンさん(工学部))
(ジェトロ撮影)

日本の文化をきっかけに、日系企業へ興味を持つように

質問:
なぜ「日系企業就職フェア」に興味を持ったか。
答え:
(ポーンさん)もともと、日本の言葉、アニメや本といった文化に興味があった。それに加えて、日本はイノベーションの国としても知られているし、日本人の規律ある働き方に関心を持つようになった。
(プンさん)「日系企業就職フェア」については、特にプレゼンテーション大会の「イノベーション」というテーマに引かれ、参加を決めた。またその前段の(プレゼンテーションスキルなどの)講座へ参加することによって、日系企業で働くために必要なスキルが身に付くことを期待した。
質問:
タイ人の大学生で新卒採用を念頭におく皆さんは、どのようにして仕事を探しているのか。
答え:
(ポーンさん)「JoBDB」や「Job Sugoi」などの、インターネットの求人サイトを主に利用している。また興味がある会社に、自分がやりたい仕事の求人があれば、直接その会社に連絡を取ることもある。他の方法としては、今回のようにジョブフェアに行くことだ。ジョブフェアでは、各企業の採用担当者と、仕事の詳しい内容について、顔を合わせて話せる非常に良い機会だと感じている。

日系企業の特色は、プロセスとチームワーク重視

質問:
日系企業の仕事の進め方についてどう思うか。
答え:
(ミーテーンさん)まだ仕事をした経験がないものの、日系企業で働いている知人からは、「日系企業は、社員の意見や考えに対してオープンである。また事業の計画性があり、仕事を進め方にもきちんとした手順がある」と聞いている。
質問:
日系企業と欧米といった他国企業との違いはどう思うか。
答え:
(ミーテーンさん)他国企業と比較しても、やはり日系企業はしっかりとしたルールを持ち、かつ計画性があると思う。チーム全体の意見を尊重し、協力して問題に向き合うイメージがある。日系企業で働くことで、規律が身に付き、計画的に仕事ができるようになると思う。また結果だけでなく、プロセスを重視していると思う。他方、欧米企業では、チームより個々の力が試され、また結果を大切にする一方、プロセスにあまり重きを置いていないイメージがある。

懸念は言語や意思疎通よりも、ワークライフバランスの維持

質問:
日系企業で働くことに関して不安な点は何か。
答え:
(プンさん)日系企業では、仕事の量が多く、業務時間内に完了しない傾向があること。例えば、就業時間外にも上司から仕事の連絡がくる、上司が帰らないと部下も帰れない、時には健康を犠牲にして働くなどと聞いており、こうした点は心配である。
質問:
言語や文化、給与の点での不安な点は何か
答え:
(ミーテーンさん)言語は勉強して身に付けることができる。また職場のタイ人の先輩に、日本人とのコミュニケーションをサポートしてもらうこともできるため、あまり心配していない。また企業文化については、どの国籍の企業であれ、いったん入社したら新しい環境に自分を合わせる必要があると認識している。これもあまり心配していない。多方、給与は不安というよりも、就職先を選ぶ際の判断基準である。バンコクのような都会に住むのに十分な金額か、検討する必要がある。
質問:
仕事中、日本人マネジャーがタイ人従業員を注意する際、どのようにすれば、うまくタイ人に伝わると思うか。
答え:
(プンさん)仕事を円滑に進めるためにはコミュニケーションは重要。タイ人に問題があるとき、日本人マネジャーはただ叱るのではなく、理由を明らかにして、はっきりと伝えてほしい。特に新卒の学生の場合、企業で働くルールもよく理解していない。
質問:
タイ語が話せない日本人も多く、通訳や日本語が話せるタイ人を通じてのコミュニケーションを取る日本人も多い。この点はどう感じるか。
答え:
(ポーンさん)他のタイ人スタッフが意思疎通のサポートをするのは良いと思う。特に私達のような新卒の学生の場合、サポートしてくれる通訳の存在は心強い。

長く働くキーワードは「コミュニケーション」、「人間関係」、「成長」

質問:
日本人マネジャーからは、「タイ人が技術を身につけ、長く一緒に働いてくれることを願っているが、タイ人は数年で辞めてしまう」という声もきく。タイ人に「長くこの会社で働きたい」と思ってもらうには何か重要か。
答え:
(ミーテーンさん)社内のコミュニケーションが重要と思うし、就職した先輩からもそのように聞いている。例えば、職場内で定期的に意見交換の場を設けることで、上司や同僚とも話しやすくなり、より協力し合えるようになる。社内の懇親イベントを実施することも、より良い労使関係づくりにつながると思う。
質問:
他方、日系企業では日本人マネジャーが数年ごとに駐在期間を終え、入れ替わることが多いのも事実。これは不安に感じるか。
答え:
(ポーンさん)特に不安はない。人事異動は仕方がないため、受け入れることはできる。また新しい上司との出会いも、自分が成長するためのチャレンジになる。ただし、せっかく親しくなった上司が帰国してしまうは残念。日系企業で長く働くなら、日本人の上司とも、長く良い関係を築きたい。
質問:
新卒で就職した企業に、長く勤めたいと思う決め手は何か。
答え:
(プンさん)やはり職場の上司や仕事仲間との人間関係だ。もし上司や同僚との関係が良ければ、長くいたいと感じる。人間関係が悪いと、仕事にも響いてしまう。
質問:
企業に就職したと仮定し、その会社を辞めたいと思わせる要因は何か。
答え:
(ミーテーンさん)同僚や上司とのコミュニケーションができないとき。例えば、コミュニケーション不足が原因で、自分がやるべきこと、それが正しいのか、意義があるのかも分からなくなってしまう。
(ポーンさん)仕事をしていても、自分が成長する機会がないと感じたとき。同じ仕事ばかり繰り返しさせられて、発展がないなら、辞めてもっと学びがある場を見つけたいと思う。

本インタビューから得たタイ人学生の考え方は、既に就職している若手タイ人にも通ずる部分があると思われる。日系企業が、優秀な若手タイ人を確保するには、給与や福祉厚生はもちろん、社内の円滑なコミュニケーション、良好な人間関係の構築、また成長の機会も重要になると言えるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
ワラポン・シリーニャン
2017年よりジェトロ・バンコク事務所にて勤務。投資交流部のビジネスライブラリーにて、タイへの投資にかかる情報収集などを担当している。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
今泉 美里(いまいずみ みさと)
2018年よりジェトロ・バンコク事務所にて勤務。投資交流部にて、タイでの会社設立にかかる情報収集などを担当している。