中国からの農業投資が活発化、ラオス企業に中国市場を目指す動きも

2019年10月29日

2021年末に完成予定の中国ラオス鉄道は、9月末時点の進捗率が78%を超えた。完成すると、ラオスは中国の広大な鉄道網と接続する。また、首都ビエンチャンから中国国境を結ぶ高速道路の建設も始まった。ラオスは鉄道や高速道路を活用した経済開発の可能性を模索している。中でも農業には人口の65%が従事していることから、成長の可能性が高い産業とみられている。鉄道沿線で商品作物を栽培し、中国への輸出に結びつけることが期待される。このような中で近年、中国企業による農業投資が多様化しつつあり、ラオス企業の参入も活発化してきた。また、インフラ開発に伴って農業投資はビエンチャンや周辺地域にまで南下し拡大してきている。

2000年ごろから中国からの投資が活発化

ラオスは中国雲南省と国境を約505キロ共有し、古くから両地域間の交易があったと考えられるが、中国からラオスへの大規模な農業投資は2000年ごろから急速に活発化し、中国が豊かになることで増えた需要を補ってきた。とりわけ天然ゴムは、中国の自動車産業の発展に応じてタイヤ需要が増大し、また、品種改良が進んだことで、気温が比較的冷涼なラオス北部山岳地域で栽培が拡大した。同時に、キャッサバやトウモロコシなどの飼料作物、茶やコーヒーなどの嗜好(しこう)品作物、近年ではバナナやスイカなどの果物と、栽培品目が多様化してきた経緯がある。これらの投資は地域経済の拡大に寄与した一方で、森林破壊や農薬の乱用、国際市場価格の乱高下、大企業による土地接収といった社会問題を招いたことも指摘されている。

表:ラオスからの中国の農林産品輸入額の推移(単位:100万ドル)
農林産品 2016年 2017年 2018年
ゴムおよびその製品 105.8 196.6 167.8
穀物 69.5 77.9 78.7
採油用の種および果実、各種の種および果実、工業用または医薬用の植物ならびにわらおよび飼料用植物 13.5 18.1 28.5
穀粉、加工穀物、麦芽、でんぷん、イヌリンおよび小麦グルテン 17.3 8.4 25.3
糖類 0.0 0.0 21.4
たばこおよび製造たばこ代用品 2.0 5.6 16.7
ラックならびにガム、樹脂その他の植物性の液汁およびエキス 2.9 3.3 3.4
コーヒー、茶、マテおよび香辛料 1.2 7.6 2.6
食用の野菜、根および塊茎 0.0 1.9 2.5

注:農産品の輸出については、本統計データに含まれないインフォーマルな国境貿易も大きな比率を占めているとみられる。
出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

官民協力で農業進出

中国からラオスへの農業案件はラオス全土で広く見られるが、官民協力型の取り組みも特徴的だ。例えば、ラオスと中国における農業協力支援の象徴的な案件の1つとして、コメの中国への輸出が挙げられる。2016年に中国政府は8,000トンを上限としてラオス産コメの増値税免除の輸入を開始した(2016年3月3日付ビジネス短信参照)。湖南省の企業が中心となってラオスでの栽培を進めており、現在までに輸入枠は5万トンにまで順次拡大されている。中国国営企業の中糧集団が一括して買い上げる方式が取られている。

また、2019年4月にラオス産肉牛の中国の輸入枠を50万頭とすることで、両国政府が合意した。既に中国の民間企業が6億8,000万元(約102億円、1元=約15円)を投資しており、北部のルアンナムターに肉牛の飼育・動物検疫センターを設立する動きに結びついている。ラオス農林省畜産漁業局によると、中国では非正規ルートで年間100万頭もの肉牛がインドやミャンマー、ラオスから輸入されており、中国政府は口蹄疫(こうていえき)などの疫病管理の観点からも、安全な肉牛の確保を急務としているという。

研究や試験栽培では、深セン華大基因などの複数の企業がコメなどの作物の育種研究を中心とする現代農業産業合作模範区をビエンチャン近郊に設立し、2017年に中国農業部が外国の農業協力区として認定した。そのほかにも、湖南省政府とラオス農林省との共同研究、黒龍江省企業とラオス農林省との野菜・果樹の栽培試験、浙江省企業と農林省による産業用大麻栽培の可能性調査(2019年5月21日付ビジネス短信参照)などが挙げられる。

植物検疫制度の整備も早急に進んでいる。陸で国境を接する両国は、これまで輸出入実態に植物検疫制度が追いついていなかったが、ラオス商工省によると、両国間の植物検疫協議で6品目(コメ、トウモロコシ、キャッサバ、バナナ、スイカ、サツマイモ)で既に合意したという。また、天然ゴム、油脂植物、熱帯果物、野菜など23品目について協議が進められており、2020年中に妥結する予定だという。

中国市場を目指すラオス企業

中国企業の動きとは別に、ラオス企業による中国市場を見据えた動きも出ている。ラオス地場企業で建設や不動産開発を幅広く手掛けるAIDCはAIDC Agriculture Green Farmを設立し、都市近郊の12ヘクタールの土地で、日本の種苗を輸入してアスパラガスやスイカの栽培を開始した。プッサパー社長によると、中国市場を見据えたもので、鉄道の完成後は高い品質の野菜や果物を中国市場へ販売することを計画しているという。農地も2027年までに100ヘクタール規模へ拡大する計画だ。また、建設や不動産開発、ダム開発などを手掛けるLao Samay GroupもMittaphab Development Agricultureを設立し、もち米やトウモロコシ、果物の栽培や肉牛の飼育を計画している。サラクソーン副社長によると、同社が出資する首都近郊のダム開発で4,000ヘクタールの農地の潅漑が可能となるため、大規模農業を行い、中国市場を目指すとしている。両企業とも、中国市場を攻略するには付加価値のある農産品の生産が不可欠だと認識しており、日本企業と協力し、日本の持つ品質やトレーサビリティー技術を導入したいという。

また、農林省技術普及農産加工局のシーパパイ局長によると、中国市場では果物の需要が高いことを受けて、積極的な企業や農家が中心となり、ジャックフルーツやドラゴンフルーツなどの熱帯果物の栽培などを開始しているという。2年後の鉄道完成に向け、今後もさまざまな取り組みが始まるとみられる。


日本の種子を使用したアスパラガスの試験栽培(AIDC提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員