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土壌汚染防止法に関するセミナーを開催(中国)
企業は自主的な環境調査を

2019年1月29日

ジェトロ・大連事務所は2018年11月23日、中国における土壌汚染と土壌汚染防止法をテーマにセミナーを開催した。中国では2019年1月1日から土壌汚染防止法が施行されている。このセミナーでは、住化分析技術(上海)有限公司の羽渕博臣・土壌環境部長が同法の概要と日系企業における留意点を中心に講演した。

セミナーの様子(ジェトロ撮影)

全国レベルで土壌汚染調査を初めて実施

中国では急速な経済成長に伴い、1990年代後半から自然破壊や公害など環境汚染の問題が顕在化した。2000年代に入ると、土壌汚染に起因する環境汚染や健康被害が大きな社会問題となった(注1)。

2014年4月には、中国で初となる「全国土壌汚染状況調査公報PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(169KB) 」が公表された。環境保護部と国土資源部が2005年から2013年にかけ、中国の国土面積の3分の2に相当する約630万平方キロメートルを対象として土壌汚染状況を調査したものだ。その結果、対象となった土地面積の16%に基準値超過が見られた。物質別では、無機物による汚染が全体の83%を占め、そのうちカドミウム、ニッケル、ヒ素など重金属が汚染物質の上位3物質を占めた。また同公報では、有機物と重金属による土壌汚染が多い地域として、東北地域(遼寧省、吉林省、黒龍江省)、長江デルタ経済圏(上海市、江蘇省、浙江省)、珠江デルタ経済圏(広東省)を、重金属汚染による土壌汚染が多い地域として、西南地域(四川省、雲南省など)、中南地域(湖北省、湖南省など)を挙げた。

日本の土壌汚染評価方法との違いに注意

中国と日本では土壌汚染評価の基準が異なることから、以下の4点に留意する必要がある。

  1. 対象物質の違い。日本では2003年に「土壌汚染対策法」が施行され、重金属など9項目、揮発性有機化合物12項目、農薬など5項目の計26項目の土壌汚染基準が制定された。中国では日本の基準では対象外となる物質も対象に含まれている。近年、中国で最もよく使用される基準として、「土壌環境質量 建設用地土壌汚染リスクコントロール標準(試行)」があるが、同標準では85項目の土壌汚染基準が設けられている。
  2. 汚染の評価・分析方法の違い。日本では、農業用地や工業用地など土地の種別を問わず基準値を設け、基準値超過の場合は一律で対策を行うことが一般的だ。中国では、人体が摂取する確率および土地の用途を勘案し、それぞれに修復目標値が設定される。さらに、日本と中国では分析方法も異なることに注意が必要だ。日本では、溶出量基準と含有量基準の2つの基準(注2)によって分析を行うが、中国では土壌に含まれる汚染物質の全含有量を基に分析を行う。
  3. 関連法規で規定される対象地の違い。日本の「土壌汚染対策法」では、対象を工業用地や住宅などの建設用地のみとし、鉱山は「鉱山法」、農地は「農用地土壌汚染防止法」でそれぞれ規定している。中国では、鉱山、農地、建設用地のすべてを「土壌汚染防止法」で規定している。
  4. 汚染濃度の違い。日本では汚染濃度基準を大きく超える事例は少ないが、中国では汚染濃度が高く、深層部まで汚染が浸透している事例も比較的多く見られる。

「土壌汚染防止行動計画」に基づき法制化が進む

中国では、2015年1月1日に環境保護法が改正施行された。それと前後して「大気汚染防止行動計画」(大気十条)、「水質汚染防止行動計画」(水十条)、「土壌汚染防止行動計画」(土十条)の3大指針が公布され、それに続いて政策・法令などが整備された(表1参照)。土十条では、中国全土における土壌汚染対策の綱領を定めた(注3)。

表1:中国における大気、水、土壌分野の主な環境法規
分類 政策・法令名 公布・施行年月
大気 大気汚染防止行動計画“大気十条” 2013年9月公布
大気汚染防止法
(中華人民共和国主席令第57号)
1987年9月公布
2016年改正法施行
水質汚染防止行動計画“水十条” 2015年4月公布
水質汚染防止法
(中華人民共和国主席令第12号)
1984年5月公布
2017年改正法施行
土壌 土壌汚染防止行動計画“土十条”
(国発〔2016〕31号)
2016年5月公布
汚染土地土壌環境管理弁法(試行)
(環境保護部令第42号)
2016年12月公布
2017年7月施行
農用地土壌環境管理弁法(試行)
(環境保護部、農業部令第46号)
2017年9月公布
2017年11月施行
鉱工業用地土壌環境管理弁法(試行)
(生態環境部令第3号)
2018年5月公布
2018年8月施行
土壌汚染防止法 2019年1月1日施行
出所:
講演資料

2017年7月1日に施行された「汚染土地土壌環境管理弁法(試行)」では、(1)特定業種(非鉄金属製錬、石油化学工業、化学工業、コークス、メッキ、革なめしなど)の工業用地、および危険廃棄物の貯蔵、利用、処分活動を行ったことがある土地、(2)使用権回収予定または回収済みの土地、および工場閉鎖などにより公共施設用地に用途変更される予定の土地を対象として、管轄の行政機関が汚染の疑いのある土地を社会に公開し、汚染用地の調査を行った上で土壌修復や環境モニタリングを行うことを規定した(注4)。

同弁法施行を契機として、2017年ごろから各地で「土壌環境重点監督管理企業リスト」や「重点汚染排出企業リスト」の公表が相次いでいる。中国の専門機関の統計によると、3省1市(浙江省、湖北省、河北省、大連市)における「土壌環境重点監督管理企業」は2017年12月末時点で計867社あるとされ、そのうちメッキ工業・化学工業が342社と全体の40%を占めた。「土壌環境重点監督管理企業」に指定された企業は、現地政府と土壌汚染防止責任書を締結し、年に1度、周辺土地環境のモニタリングを行い結果を当局に提出しなければならない。また、「重点汚染排出企業」に指定された企業は、規定の内容・方法に基づいて、環境対応に関する情報を公開しなければならない。2017年11月に環境保護部が公布した「重点汚染排出組織リスト管理規定(試行)」によって、土壌汚染重点監督管理業界として、非鉄金属鉱業・製錬、石油採掘、石油加工、化学工業、コークス、メッキ、革なめしなどが指定されたため、これらの業界に属する企業は特に注意が必要である。

「土壌汚染防止法」の概要

2019年1月1日から、中国初の国家レベルの土壌関連法規となる「土壌汚染防止法」が施行された(参考参照)。政府の土壌汚染防止責任を明確に規定した点と、汚染の予防に重点を置いている点が、日本の「土壌汚染対策法」とは異なる。

参考:土壌汚染防止法の概要

(1) 土壌汚染防止の原則(第三条)
  1. 予防を主とする
  2. 保護の優先
  3. 分類別管理
  4. リスク規制
  5. 汚染者責任
  6. 住民参加
(2) 土壌汚染責任者制度(第四条~第七条)
「汚染原因者が責任を負う」という原則に則り、「土壌汚染責任者」が負うべき土壌汚染のリスク管理や修復における義務を規定。
各責任者はその責任範囲内で土壌汚染のリスク管理や修復など土壌汚染の防止に関連した義務を履行する必要がある。
(3) 土壌汚染状況の調査やモニタリング制度(第十四条~第十七条)
国務院の生態環境主管部門は、10年ごとに少なくとも1回、他の部門と共同で全国土壌汚染状況の全面調査を実施する。
モニタリング網を組織し、土壌環境モニタリング地点を設置する。 
(4) 有毒有害物質対策(第十八条~第二十一条)
国は、重点的な規制を行う「土壌有毒有害物質リスト」を公布し、各級の政府は、同リストや有毒有害物質の排出状況に基づき、「土壌汚染重点監督管理事業者リスト」を発表する。
有毒有害物質の排出制御や排出状況の定期報告など「土壌汚染重点監督管理事業者」が負うべき義務についても規定。
(5) 土壌汚染のリスク管理および修復制度(第二十二条)
企業が施設、設備または建築物、構築物を解体する際には相応の土壌汚染防止処理措置を講じる。
土壌汚染重点監督管理企業の場合は、施設、設備または建築物、構築物を解体する際、緊急対応措置を含む土壤汚染防止処理案の策定のほか、政府生態環境部門および工業情報化部門への届出を行う。
(6) 土壌汚染のリスク管理および修復制度(第三十五条~第六十八条)
土壌汚染のリスク管理や修復の条件、土壌汚染状況の調査、汚染のリスク評価、汚染責任者に変更が生じた際の修復義務などについて規定。
土地を農業用地と建設用地という2種類に分類し、それぞれに対応する。
農業用地は、汚染の程度に応じてさらに3種類に分類され、管理が実施される。
建設用地は、「土壌汚染リスク管理および修復リスト」に基づく管理が実施される。
(7) 土壌汚染重点監督管理企業の届出(第六十七条)
土壌汚染重点監督管理企業の生産経営用地に関しては、用途変更や土地使用権の回収、譲渡、終了前に、土地使用権者が土壌汚染状況調査を行い、調査結果を不動産登記部門へ提出するとともに、環境生態主管部門への届出を行わなければならない。
(8) 土壌汚染防止基金制度(第六十九条~第八十四条)
国が土壌汚染防止への資金投入を拡大し、土壌汚染防止基金制度が構築される。
中央土壌汚染防止特定資金、省級土壌汚染防止基金を設立し、主に農業用地土壌汚染防止と土壌汚染責任者や土地使用権者を認定できない土壌汚染のリスク規制・修復に用いられる。
(9) 罰則規定(第八十五条~第九十八条)
義務の不履行など同法の規定に違反した場合、最高200万元以下の罰金が科せられる。
「生産停止・整備」、「関連業務への従事を終身禁止する」などの厳罰を適用する状況について規定。

出所:講演資料

「土壌汚染防止法」の主な内容は以下の6点である。

  1. 政府の土壌汚染防止責任を明確にし、汚染防止目標責任制度と審査評価制度を導入するとした点。各条文で政府の責任が明記されている。
  2. 汚染者負担の原則に基づき各状況下での土壌汚染責任者と責任の内容を明確にした点。第4条~第7条では、土壌汚染責任者が負うべき土壌汚染のリスク管理や修復における義務を規定し、各責任者はその責任の範囲内で土壌汚染のリスク管理や修復など土壌汚染の防止に関連した義務を履行する必要があるとした。また、第85条~第98条では、義務の不履行など同法の規定に違反した場合、最高200万元(約3,200万円、1元=約16円)以下の罰金が科されると規定した。
  3. 土壌有毒有害物質の規制と重点監督管理事業者規制制度を定めた点。第18条~第21条では、国が重点的な規制を行う「土壌有毒有害物質リスト」を公布し、各級の政府は同リストや有毒有害物質の排出状況に基づき、「土壌汚染重点監督管理事業者リスト」を発表するとした。また、有毒有害物質の排出制御や排出状況の定期報告など、「土壌汚染重点監督管理事業者」が負うべき義務についても規定した。さらに、第22条では、「土壌汚染重点監督管理企業」に指定された場合には、施設、設備または建築物、構築物を解体する際、緊急対応措置を含む土壤汚染防止処理案の策定のほか、政府生態環境部門および工業情報化部門への届け出を行うと規定した。
  4. 種類別土壌汚染リスク規制・修復制度を構築するとした点。第22条では、企業が施設、設備または建築物、構築物を解体する際には相応の土壌汚染防止処理措置を講じるとした。第35条~第68条では、土壌汚染のリスク管理や修復の条件、土壌汚染状況の調査、汚染のリスク評価、汚染責任者に変更が生じた際の修復義務などについて規定した。第67条では、「土壌汚染重点監督管理企業」の生産経営用地に関しては、用途変更や土地使用権の回収、譲渡、終了前に、土地使用権者が土壌汚染状況調査を行い、調査結果を不動産登記部門へ提出するとともに、環境生態主管部門への届け出を行わなければならないとした。
  5. 土壌汚染防止基金制度を構築するとした点。第69条~第84条では、国が土壌汚染防止への資金投入を拡大し、土壌汚染防止基金制度を構築するとした。また、中央土壌汚染防止特定資金、省級土壌汚染防止基金を設立し、主に農業用地土壌汚染防止と土壌汚染責任者や土地使用権者を認定できない土地における土壌汚染のリスク規制・修復に用いるとした。
  6. 土壌汚染防止基準体系と土壌汚染状況モニタリング制度を構築するとした点。第14条~第17条では、国務院の生態環境主管部門が10年ごとに少なくとも1回、他の部門と共同で全国土壌汚染状況の全面調査を実施するとした。また、モニタリング網を組織し、土壌環境モニタリング地点を設置するとした。

工場建設前や操業中の自主的な環境調査の実施を

土壌汚染のリスクを回避する取り組みについては、日系企業でも始まっている。その主な方法として、工場建設前や操業中の自主的な環境調査の実施がある。特に、工場建設前には、自社の敷地における土壌汚染の実態把握に加え、自社の敷地内外からの影響をモニタリングするために、地下水のモニタリングも行っておくとよい。時間経過による汚染の拡散は修復費用を押し上げることになるため、操業開始以降も計画的に土壌汚染対策を行うことが求められる。

自主的な調査では、当局の環境査察への事前準備もでき、汚染の早期発見、早期解決ができるなどのメリットがある(表2参照)。その半面、調査義務が生じた場合に、追加調査が生じる可能性があるなどのデメリットがある。

他方、法などに基づく義務的な調査では、行政に従い調査を実施できるメリットがある一方で、主導権が行政側にあり、調査期間に時間的な制約があるなどのデメリットがある。企業にとって法に基づく義務的な土壌汚染調査の契機の1つは移転時だ。移転などにより使用権回収予定の土地は、前述の「汚染土地土壌環境管理弁法(試行)」では汚染土地として社会に公開されると、その土地が公共施設用地に開発・利用される場合、土地の使用権者は修復義務を負う。土地の引取先に修復責任を転嫁する場合にも、調査結果に基づく立証が必要となる。もう1つは「土壌汚染重点監督管理企業」に指定された場合だ。その場合には、年1回程度の土壌環境のモニタリングに加え、用途変更、土地の使用権の回収、譲渡、土地使用の終了前(移転・撤退時)の調査が義務付けられる。

表2:自主的な調査と法などに基づく義務的な調査のメリット、デメリット
位置付け (1)自主的な調査 (2)法等に基づく義務的な調査
メリット 1)事前準備ができる(報告書の再利用)
2)早期発見・早期解決できる(原因究明)
3)汚染が確認された場合、計画的に修復工事を実施できる
4)ステークホルダーとの信頼構築
1)行政に従い調査が実施できる
2)行政側の指示する調査スペックで調査が実施ができる
デメリット 1)調査義務が生じた場合に追加調査が生じる可能性がある
2)調査義務が生じない場合もある
1)主導権が行政側にある
2)調査期間に時間的な制限がある
3)突如として費用が発生する
出所:
講演資料

中国の土壌汚染対策では、日本とは対象汚染物質、施工ノウハウ、修復完了までの行政手続きが異なり、制度や基準が統一されていないことが多い。従って、自主的な調査による対応が困難な場合には、中国の環境基準を熟知した専門機関に調査を依頼するとよい。「土壌汚染防止法」の下では汚染者に修復義務を負わせるため、企業にとって大きな支出負担が生じる可能性がある。企業は土壌汚染の実態把握に努め、汚染の早期発見、早期改善により、汚染修復コストの低減を図ることが求められる。


注1:
土壌汚染に関する最近の主な事件としては、2016年に発生した「常州外国語学校毒地事件」などがある。
注2:
溶出量基準とは、汚染された土壌が地下水などを経由して人体に摂取されるとして、水抽出による分析を行う手法。含有量基準とは、汚染された土壌が直接摂取されるとして、1molの塩酸で土壌を溶かし、その溶出液を分析する手法。
注3:
2020年までに中国全土の汚染悪化傾向をまず抑え込み、2030年までに中国全土の環境の質を安定かつ好転させ、今世紀半ばまでに土壌環境の質を全面的に改善することを計画として定めた。
注4:
同弁法で定める汚染の疑いのある土地のリストアップの流れは以下のとおり。
  1. 管轄行政が汚染の疑いのある土地を社会に公開
  2. 当該土地の使用権者が行政による書面通知後6カ月以内に初歩調査を実施・報告
    (調査は中国の有資格調査機関が実施)
  3. 管轄行政が初歩調査の結果を社会に公開
  4. 当該土地の使用権者が詳細調査を実施・報告
    (調査は中国の有資格調査機関が実施)
  5. 管轄行政は詳細調査の結果を社会に公開
  6. 公共施設用地に利用される予定の汚染土地については土壌修復を実施、しばらく開発・利用される予定のない汚染土地については、環境モニタリングを実施
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
匂坂 拓孝(さぎさか ひろたか)
2008年、ジェトロ入構。2013年より1年間、北京にて語学研修。2016年9月より現職。

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