地理的表示保護の先駆者に聞く(イタリア)
プロシュット・ディ・パルマの海外での「攻め」と「守り」

2019年3月18日

2月1日の日EU経済連携協定(EPA)の発効により、さまざまな分野で日伊間相互の通商関係の強化が期待されている。地理的表示(GI)の保護の強化もその1つだ。GIの分野は欧州が取り組みとして先んじており、先行事例として学ぶことは多い。地理的表示について先進的な取り組みを行うパルマ地域のハム(プロシュット・ディ・パルマ)の生産者組合、パルマハム協会に2月13日、海外でのプロモーション、地理的表示保護の取り組み、EPAへの期待、日本の関係者へのアドバイスを聞いた。

質問:
日本市場でのプロモーションはどのように実施しているか。
答え:
1996年の輸出開始当初から、日本の広告代理店にプロモーションの企画・実行関与をお願いしている。各国の文化の違いを重視し、日本に限らず、基本的には輸出先国の現地の広告代理店を起用する方針だ。日本以外にも、世界7~8カ国で広告代理店を起用している。
われわれの販売先のお客さまとして、重要視している先の1つはレストランだ。日本には数多くのイタリアンレストランがあり、そこに商品を使っていただくことが大切だ。大手のレストランチェーンに納入できていることも非常に大きい。
また、研修活動に力を入れている。いく人かの日本人のシェフ、食品業界の方、実際にパルマでハムの製造工場勤務経験者らに、プロシュット・ディ・パルマの品質とおいしさを伝える「パルマハム・エキスパート」として活動していただいている。エキスパートは当地での研修を受けるなど、エキスパート養成のプロジェクトで任命される。
このほか、EUの補助金を活用し、近隣地域で生産されるグラナパダーノチーズと協力した展示会出展や、業者・消費者向けイベントなどを軸とする3年計画のプロモーションプロジェクト、食品ブランド構築・発信に強いフランス広告代理店のソペクサの日本法人と協力しての3年計画のプロモーションプロジェクトなどもある。
質問:
雇用創出、売り上げ以外には、どのように地域経済に貢献できていると考えているか。
答え:
パルマ市は2015年に「チッタ・クレアティーバ・ペル・ラ・ガストロノミア」(美食創造都市、の意味)というユネスコの登録を受けることができたが、これは土地と各食品産業との結び付きが認められてのことであり、観光に貢献している部分がある。パルマは産業観光を受け入れ、ここ数年は特に食に関するイベントが増えており、食品産業以外の企業を巻き込んだ合同でのイベントも増え始めている。チブス(CIBUS)という食品分野の展示会のほか、展示会場外でのイベントも実施されている。プロシュット・ディ・パルマも個別でフェスティバルを行っていて、一般の方でも生産業者の普段公開されていない場所を訪問することができる。こうした機会には国際ジャーナリストなど外国人プレスも来訪し、海外にプロシュット・ディ・パルマの魅力を発信する良い機会となっている。海外でも、フェスティバルのプロモーションをしている。フェスティバルは訪問をしづらい場所で開催されることもあるので、主要駅からの交通手段を確保するなど、海外の方でも来訪しやすいような体制を整えている。
質問:
2019年2月現在、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度の登録産品一覧ページをみると、プロシュット・ディ・パルマのみが日本国外の製品としては唯一、日本の地理的表示保護制度にも登録を行っている。この登録を日本でも行った理由を教えていただきたい。また併せて、地理的表示保護や商標保護に関わる方針も教示していただきたい。
答え:
日本で有効な商標登録は2007年に既に実施していたが、地理的表示保護制度の下に入ることは、単なる商標の保護以上に有効であると判断したからだ。2019年2月に発効した日EU・EPAにより地理的表示は保護されるようになったが、それに先んじて動き、2017年9月に地理的表示の登録を行った。実際の登録に当たっては、日本の農林水産省の委託を受けた日本の法律事務所が来訪して、地理的表示に即した活動実態があるかということの審査を受けた。登録に当たっての行政手続きなどについても、法律事務所からのサポートを受けた。EU外の地理的表示保護制度のない地域では、まず商標でしっかり守るという考え方をしている。
質問:
日本の他の地理的表示保護製品に比べると、生産地の定義が非常に詳細に区切られている。この背景にあるのは何か。
答え:
生産地の定義は、当該商品が生まれるのに理想的な条件を緻密に定義してつくっている。
われわれの製品の例でいけば、製造の伝統・歴史の分析を実施して、地理的表示の定義をつくった。具体的に言えば、冷蔵庫があれば生ハムは作れるが、冷蔵庫が存在していなかった時代からプロシュット・ディ・パルマの製造ができていたのは、生産地の気候条件に合ったおかげであり、気候条件とそれに応じて形成された技術やそのほかの歴史的な背景を定義化したということだ。例えば、近隣地域で生産しているクラテッロ・ディ・ジベッロという生ハムの製造においては湿度の高さが重要であり、プロシュット・ディ・パルマとは理想とする気象条件が違う。そうした点が、生産地の定義づくりに反映されている。
質問:
日EU・EPAへの期待や今後の需要予測はどうか。
答え:
地理的表示保護については、われわれの製品はEPAを待たずに実施していたが、他の製品については保護の恩恵を被ることができるだろう。また、関税の逓減・撤廃により、一般的に言って食品セクターでは相互の輸出入が拡大すると思う。われわれの製品については、日本でのプロモーション活動を20年以上実施し、既にある程度確立されたものがあるので、輸出が急に拡大するようなことは期待していないが、取引がより円滑化すると期待している。また、イタリアの他の食品の輸出伸長に伴い、イタリア料理に対する関心が拡大することにより、プロシュット・ディ・パルマに対する日本市場での需要増もあると思うので、長期的に先行きをポジティブに見ている。
質問:
地理的表示保護について日本の関係者にアドバイスがあればうかがいたい。
答え:
日本は地理的表示保護の考え方がよい形で立ち上がったと思う。農林水産省内に専門の担当者が置かれ、EUの地理的表示保護制度についての法的な知識に精通している人もいる。説明会などは実施されていくと思うが、それに加え、地理的表示保護という文化を広めていくということが重要だ。既に実施されていると思うが、地理的表示保護に関して、生産者から流通・小売業者まで含めた関係者の会議を、この先も継続的に実施していくのがよいと思う。地理的表示保護の登録生産者団体が参加することで、登録生産者自身の意識も深まっていく。また、知名度向上や販路拡大のためには、日本で言えば、フーデックス(FOODEX)のような規模の大きい展示会の機会を活用してもよいと思う。日EU・EPAの機会を利用して、日EU相互間の情報交換の機会が増えることを期待している。地域のブランドが根付くには中長期的な時間が必要だと思うが、継続的に地道に活動を行っていくことが大切だ。日本でも、和牛の名称の問題などが存在していると思う。生産者も、自分の製品を常に国外で売る可能性を頭に置き、海外でどのような問題が発生するリスクがあるかを念頭においておいた方がよい。

スーパーに並ぶプロシュット・ディ・パルマ。GIマークと
産品のマークが分かりやすく付いている(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所 ディレクター
山内 正史(やまうち まさふみ)
2008年、ジェトロ入構。ジェトロ青森などを経て2014年8月より現職。