タイのトレンドを追い風に日本食市場が拡大(ラオス)
ラオスの日本食市場を探る(1)

2019年5月17日

ラオスは、ここ数年7%前後の経済成長を続け、特に首都ビエンチャンにおける1人当たりGDPはビエンチャン都議会の報告によると、2017年に5,028ドル、2018年には5,300ドルと5.4%成長となった。ビエンチャンの日本食レストランは年々増加傾向にあり、現在は約30店舗となっているが、ラオスの日本食レストランにはどのような特徴があり、どのような客層が利用し、どんなメニューが提供されているのか。ラオスの日本食市場を2回に分けて紹介する。前編では、現地で日本食レストランに携わる以下各氏に当地日本食市場の傾向について聞いた結果を報告する(2018年7月2日~8月10日)。

  • イタリアントマト:ゼネラルマネージャー 侭田大輔氏
  • 東京ラーメン酉圓屋:店長 酒井英行氏
  • ドレスデン・ラオ:マネージャー 深見尚孝氏
  • Naoki Japanese Restaurant:物件オーナー Houang氏
  • Koharu亭:オーナーDuangmany Noraseng氏およびシェフ Kim Van Sang氏

低価格帯の総合和食が主流

ラオスにある日本食レストランは、ほとんどが総合和食と呼ばれる、総花的な種類豊富なメニューが特徴である。すし、ラーメン、鉄板焼きなどを店名にした専門店も一部あるが、これらのレストランでもサイドメニューがあり、どちらかと言えば総合和食に近い。

ラオスのレストランの特徴として、近隣諸国に比べてメニューの単価が低いことが挙げられる。これは日本食レストランにも当てはまり、一般的な日本食レストランの定食の相場は約4万キープ(約520円、1キープ=約0.013円)である。ラーメンについては3万~4万キープ(約390~520円)が相場となる。


Koharu亭の豚カツ定食(4万キープ)(Koharu亭提供)

浸透する日本食、人気はすし、サーモン、ラーメン

ビエンチャンで、2018年8~9月にタイ系すしレストランチェーンが立て続けに2店舗開業し、いずれもラオス人客が大半を占めている。

ジェトロが実施した「2018年度タイ国日本食レストラン店舗数調査」によると、タイの日本食レストラン店舗数は3,000店舗を超えるなど、バンコクのみならずタイ国内の地方にも拡大している。ラオス語とタイ語に親和性があること、ラオスでもタイのテレビ番組が視聴できること、SNSなどを通じてタイのトレンドを収集できることなどから、タイでの日本食の流行がラオスにも影響しているとみられる。加えて、ラオスに進出するタイ系レストランは、タイ本国での食材調達力を生かした多彩なメニュー、食べ放題メニューを通じたお得感の提供、盛り付け方の工夫をPRするためのインプレッシブなSNS広告などを展開し、タイ系レストランの集客につなげている。

一方、日本人経営のレストランにおけるラオス人客の割合は、約3割と徐々に増加している。日本食レストラン関係者からは「中間所得層が増加しており、ラオス人の割合が5年前は1~2割であったが、最近は3割まで増えてきた」との声が聞かれる。

ラオス国内の日本食レストランの顧客の傾向として、富裕層がターゲットの店ではラオス人以外に日本人や欧米人が多く、中間層をターゲットにしたレストランではさらに韓国人、中国人まで客層が広がる。

日本食の中でラオス人に好評なのはすしで、人気のネタはサーモンだ。タイ人経営のすしレストラン「Naoki Japanese Restaurant」ではトビコやサーモンを用いた鮮やかな色のロールずしが人気だ。総合和食形態の日本食レストランでも同様である。イタリアントマトでも、サーモン刺し身、サーモンのはらす焼き、サーモン握りの3種類を提供している。「日本のレストランで日本人シェフがいるのであれば、日本食を食べたい」という客からの要望を受け、本来の洋食を中心としつつ、海鮮系の日本食メニューを開発し、海鮮系では特に人気のサーモンのメニューをそろえた。


イタリアントマトのサーモンメニュー(イタリアントマト提供)

すし以外で、ラオス人に人気のメニューはラーメンである。ただし、ラオス人の嗜好(しこう)に合わせて味付けされたものが人気で、例えば日本食レストランのKoharu亭では、トムヤム味のラーメンが人気である。また、東京ラーメン酉圓屋では、こってりとした味の豚骨ラーメンや魚介ラーメンが人気であるが、ラオス人は辛い味を好むため、店のオリジナルの味にラー油を足して食べるという。また、東京ラーメン酉圓屋は2018年7月から、ラーメンメニューを大幅に絞り込み、料金を抑えた屋台店舗の展開も始めた。

ラオスの在留邦人数は、2017年10月時点で863人と決して多くない。また、日系企業の進出も緩やかに伸びている状況で、日本人駐在員が急増しているわけでもない。そのため、日本食レストランでは、ラオス人を意識した甘辛く、濃い味付けのメニューを提供しているレストランが多い傾向にある。

ラオス人には外国ブランドの酒が好評

ラオス人に人気のアルコールメニューは、日本ブランドのビールや焼酎、日本酒などである。日本食レストランではビール、日本酒、焼酎、ワインなどさまざまなアルコールメニューが置かれている。ラオスではビア・ラオ(ラオ・ブリュワリー社が製造するラオス産のビール)が国内最大のシェアを占めており、安価な価格で流通している。日本ブランドのアルコールメニューはビア・ラオの2~3倍の価格で提供されているが、ラオス人にとっては一種のステータスになるとみられ、日本食レストランでは、日本ブランドの酒と一緒に自撮りをしてSNSに投稿する客も見られる。

他方、海外在住経験のあるラオス人を中心に、ウイスキーを好む傾向もあるようだ。日本人バーテンダーがおり、富裕層や常連客が集う本格的なバー、ドレスデン・ラオでは、丸氷入りウイスキーを注文する客が多いという。また同店では、カクテルを100種類以上提供しており、ラオス人の間でカクテルも人気である。


ドレスデン・ラオのカクテル、ウイスキー
(バー・ドレスデン提供)

ラオスの日本食市場を探る

  1. タイのトレンドを追い風に日本食市場が拡大(ラオス)
  2. 日本食レストランの展開には3つのポイント(ラオス)
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)を経て現職。