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それでもサウジアラビア消費市場は狙うべきか

2019年8月29日

サウジアラビアといえば、石油輸出収入で潤う富裕層の国というイメージが強いだろう。近年は2016年4月に発表された国家改革計画「ビジョン2030」の下で開放政策が進み、女性を取り巻く環境も急激に変化するなど明るい話題が多い。マクロ経済も上向きつつある今、日本から距離的にも文化的・宗教的にも遠いサウジアラビア消費市場を次なる市場として新規開拓するべきなのだろうか。その市場概要に迫る。

サウジアラビアは人口3,341万人(2018年、うちサウジアラビア人は2,077万人)を擁し、主要産業である石油部門の輸出により、名目GDPも7,825億ドルと、GCC(湾岸協力会議)諸国では最大の市場規模を誇る(図1参照)。2015年以降、油価が下落し景気は一時低迷していたが、2018年中盤以降、イランを取り巻く中東情勢の不透明感、産油国の協調減産などから油価が上昇傾向となったため、同年の実質経済成長率も前年のマイナス成長からV字回復を遂げてプラス2.1%となるなど、マクロ経済は好転しつつある。女性の権利拡大や行動の自由が保障されるようになり、女性が働く分野や職種もこの2、3年で多様化し、公共の場で働くサウジアラビア人女性を目にする機会も非常に大きくなり、社会全体が明るい雰囲気になりつつある。景気が上向きで働く女性が増え、女性の収入が今後増加していくことを見越すと、消費市場もさぞ拡大していくのではないかとの期待が膨らむ。サウジアラビアに対する外部からの一般的なイメージは、富裕層が非常に多く、高額消費財を売り込みやすい市場といったところだろうか。

図1:GCC諸国の経済水準比較(2018年)
2018年の実質の経済成長率、一人当たりGDP、名目GDPを比較すると、サウジアラビアの実質経済成長率はプラス2.1%、一人当たりGDPは23,566ドル、名目GDPは7,825億ドルと、名目GDP規模は6か国中、最大。

出所:IMF WEO(2019 April)からジェトロ作成

王室が存在し君主制であるサウジアラビアは、公式な統計はないものの、王族関係者が約2万人もいると言われており、彼らの多くは富裕層として裕福な生活をしていることが予想される。確かにリヤドの街で暮らしていると、ロールスロイスやフェラーリなどの最高級車を見かけるほか、普通の駐在員では手が出ないような日本やドイツの高級なスポーツ用多目的車(SUV)の割合が非常に多い。高級レストランはサウジアラビア人で混み合い、欧州での休暇中に5つ星ホテルに何泊もするサウジアラビア人もおり、富裕層の存在を身近に感じてただただ圧倒されるばかりである。

他方で、市内では手ごろな価格の韓国車や、中古のセダンに乗っている一定数のサウジアラビア人を見かけるのも事実だ。ショッピングモールが1年で最も混み合うのは、ラマダン(断食)月とハッジ(大巡礼)月の前に開催される70%オフなどの大規模値下げのバーゲン期であり、多くのサウジアラビア人女性が欧米ハイブランドというよりもファストファッションの店舗に大挙して押し寄せている。サウジアラビア人家庭がみな欧州高級ブランドの食器を自宅にそろえているわけではなく、インドやトルコ製などの手ごろな食器を扱う店に出入りしているサウジアラビア人も多い。また、地方都市に出かけてみると、人々は非常にシンプルな暮らしをしているのが印象的だ。

予想よりも少ない?富裕層

個人所得税が存在しないサウジアラビアでは、個々人の所得水準を公式かつ的確に把握することは難しいのだが、入手できる統計からサウジアラビアの所得階層別の人口分布をみると(図2:外国人を含む15歳以上が対象)、年収5万ドル~10万ドルまでの人口は約46万人という結果となった。年収10万ドル以上の人口に至っては約28万人であり、GCC随一の市場規模を誇るといえども、われわれがぼんやりとイメージしているよりも予想以上に富裕層の数は少ないのかもしれない。もちろん、前述のとおり、サウジアラビアには個人所得税がない上、貯蓄率が低いと言われ、公立の病院および学校は無料であり、電気・水・ガソリン、住宅などの生活コストも日本と比較して格段に安いことから(日本よりも大家族ではあるが)、同じ日本人の年収5万ドルの世帯と比較すると、可処分所得は相当高くなることは確実だ。しかし、富裕層市場が大きく高額商品が大量に売れる、といった幻想からはやや遠い印象だ。参考までに、アラブ首長国連邦(UAE)の同様のデータを抽出してみると(図3参照)、年収5万ドル~10万ドルまでの人口は約75万人、年収10万ドル以上の人口は約20万4,000人であり、同じ所得水準の市場規模はサウジアラビアと大きく変わらないことがわかる。

図2:サウジアラビアの所得階層別人口(2018年)
2018年のサウジアラビアの15歳以上の人口2,527万人のうち、年収5万1ドル~10万ドルは約46万人。年収10万ドル以上は、約28万人。

15歳以上の総人口:2,527万人
出所:ユーロモニターから、ジェトロ作成

図3:UAEの所得階層別人口(2018年)
2018年のアラブ首長国連邦の15歳以上の人口808万人のうち、年収5万1ドル~10万ドルまでは約75万人。年収10万ドル以上は、約20万人。

15歳以上の総人口:808万人
出所:ユーロモニターから、ジェトロ作成

女性の社会進出で市場は変わるか

しかし、UAE市場とサウジアラビア市場の大きな違いは、現時点で未就業のサウジ人女性が今後社会進出を果たし、自らの収入を得ていくことにある。サウジアラビア総合統計庁によると、2018年第4四半期(10~12月)におけるサウジ人女性の就業者数は107万人で、サウジ人男性204万人の約半数にとどまっている。同時期のサウジ人女性の年齢別労働人口を見ると、35歳から39歳の階層が最も多い21万3,833人で、次いで、30歳から34歳が19万6,311人だ。サウジ人女性の年齢別の失業者率を見ると、20~24歳の階層が最も高い73%(同年代の男性は25%)となっており、今後労働市場へ流入してくるのはこうした失業中の若年女性層と見込まれる。政府はサウジアラビア人の雇用の受け皿をさらに確保しようと、サウジアラビア人雇用促進策「サウダイゼーション」の適用範囲を2018年12月以降、特定の小売り12業種やホテル産業へと拡大させており、こうした政策もサウジアラビア人の若年女性層の就業を後押しするだろう。

失業率が現在最も高い20~24歳のサウジ人女性らが就労した場合、どの程度の収入を得るのかというと、同年代のサウジ人男性の平均月収が6,545リヤル(約18万3,260円、1リヤル=約28円)なのに対し、サウジ人女性は5,851リヤルと、男性よりも給与はやや低くなる。しかし、将来的な結婚に備えて貴金属や住居、家具、結婚式費用を準備しなければならない男性と比べ、女性が給与を全て自分自身のために使えるのであれば、サウジ人女性が有する消費市場の可能性はあながち小さくないかもしれない。

価格に見合った理由付けや特別感を

ただし、彼女たちが収入を得ても、お金に糸目をつけず何でも消費してくれるわけではないところに、この市場の難しさがある。概して、サウジアラビア人は(女性に限らず男性も)保守的な傾向があるとともに、女性は特に他人の目に映る「見栄え」を気にする傾向にある。例えば、(1)名の知れた欧米ブランドと、(2)同じ品質と価格だが知名度の低いブランドがあったとすれば、恐らく大半が前者を手に取るだろう。また、絶対的な信頼を寄せる物・事には出費も惜しまないが、それ以外については「この商品に対してこの価格を払う価値があるか」という点を常に考え、価格にシビアな面もある。仮に同じTシャツ1つをとっても、なぜこの商品はほかより高いのか、新商品にしても、なぜ慣れ親しんだいつものブランドから新しいブランドに切り替えるのか、高機能や素材、デザインなど、サウジアラビア人を納得させる理由付けが重要だ。日本および日本製品に対しては良いイメージを持つ人が多いが、新規参入の場合「日本」というだけではなく、なぜこの価格帯なのか、何が特別なのかなど、価格がなぜ高いのかを十分説得できる材料をそろえたい。

「日本文化が好きで日本語も独学で学び、日本の“カワイイ”が好き」という一定のグループはどの国にも存在し、もちろんサウジアラビアにもいるのだが、残念ながら、アジア圏で人気の日本的な“カワイイ”は、当地ではニッチであると言わざるを得ない。センスや好みは千差万別なことから、一般化することは容易ではないが、当地の女性の美の感覚の基本は、欧米に近い「ゴージャス、グラマラス、エレガント、カラフル」である。働く若い女性世代の私服を見ると、日本でいう「働くOLをターゲットとしたファッション雑誌」に出てくるようなイメージに近い。

このように、女性市場を含むサウジアラビア消費市場は、日本勢のみに限らず、知名度の確立やブランドの浸透、なぜこのブランドであり、なぜこの価格帯なのかを理解してもらうための広報など、新規参入に手間がかかる市場であることは否めない。化粧品市場で言えば、現在はアジア勢の化粧品ブランドとして、サウジアラビア市場でいち早くその地位を確立した韓国のコスメティックブランドも、知名度を浸透させてショッピングモールに単独出店するまでに時間を要するなど、ブランド確立に苦労したと聞くほどだ。これらを克服する方法はアイデアと工夫次第で生み出すことができるが、前述した市場の規模感、必要な手間と時間とそれに見合うコスト回収とのバランスがサウジアラビアの消費市場への新規参入の是非を検討する材料となってくる。

執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
柴田 美穂(しばた みほ)
2004年、ジェトロ入構。海外調査部(中東アフリカ課)、企画部(中東・アフリカ担当)、農林水産・食品部を経て2018年8月より現職。

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