汚染企業不明で土地使用者に修復義務(中国)
広州で土壌汚染防治法に関するセミナー

2019年5月15日

ジェトロ・広州事務所は2月27日、広州日本商工会製造業部会と、2019年1月から中国で施行された土壌汚染防治法に関するセミナーを開催した。同法の施行により、土壌を汚染した企業を特定できない場合、土地使用者が修復義務を負わされることとなった。上海化工研究院・土壌環境修復工程技術中心の吉田憲幸・技術顧問が、同法の概要と留意点について講演した。

土壌修復放置で企業ブランド失墜の恐れ


講師を務めた吉田氏(広州日本商工会提供)

中国の環境保護部などが2014年に公表した調査結果によれば、調査面積630万平方キロメートルのうち、16%に当たる100万平方メートルで土壌汚染の数値が基準値を超えていた。土壌汚染の原因は、工場の排水、農地から流出する農薬や殺虫剤、鉱山から流出する重金属など。長江デルタ地域や珠江デルタ地域で、比較的汚染が深刻な理由は、工場排水のほか、西南部にある数多くの鉱山から、重金属が河川を通じ下流域へ流出したためだ。

中国では、大気汚染、固形廃棄物、騒音などの対策に比べ、土壌汚染対策は出遅れた感が否めない。ただ近年には、江蘇省で工場から流出した汚染物質が地下水を通じ近隣の小学校へ浸透し、多数の生徒に中毒症状が出た事件などを受け、2016年に国務院が土壌汚染対策行動計画(土十条)を公布した。土十条では、主要目標として、2020年までに汚染耕作地の安全利用率を90%程度に、汚染された工業用地の安全利用率を90%以上とすることが掲げられた。

こうした中、2018年8月に全国人民代表大会(全人代)常務委員会で「中華人民共和国土壌汚染防治法(以下、防治法)」が採択され、2019年1月1日から施行されている。 防治法は、農地と工業用地を分類管理し、(1)汚染者に対し厳しく責任を追及するとともに、(2)民衆に向け情報を公開し監視活動への参加を促すことで、汚染防止につなげることを目的としている。

(1)では、原則として土地を汚染した責任者に管理と修復義務が生じる。ただ、工場移転などにより、同責任者を特定できない場合、現在の土地使用者がその義務を負うことになる(注1)。このほかにも、罰金などが科せられる上、不法利得を没収される。石油化学、メッキなど特定業種(注2)に属する企業は特に注意が必要だ。

また、防治法58条により、地方の省級の環境部門は、工業用地のリスク管理・修復名簿を公開する権限を有する。同63条および64条によれば、使用中の土地が同名簿に登録されると、土地使用者は地下水の汚染対策を含め、修復計画を立案・実行しなければならない。これを放置すると、企業ブランドが失墜する恐れもある。

(2)に関して、同83条では、マスコミに対し、土壌汚染の違法行為を監督する権限を付与した。さらに、同84条では、環境保護団体などの組織以外の個人にも、土地を汚染した者を告発する権利を与えている。

土壌汚染の拡大前に十分な調査を

土壌修復の方法には、大きく分けて(1)場外搬出と(2)現場処理の2通りがある。

(1)には、セメントの原料化、埋め立て処分の方法があるが、汚染物質が拡散する懸念があるため、中国の地方政府から承認されにくい。

(2)には、a.汚染物質を気化などで処理する化学的手法、b.微生物などで分解する生物学的手法、c.他の土壌との混合や抽出処理をする物理的手法があるが、汚染物質の種類や地盤などにより、処理費用は1立方メートル当たり500~3,000元(約8,500円~5万1,000円、1元=約17円)を要する。

他方、修復義務を放置すれば、前述のとおり企業ブランドの失墜のほか、汚染物質が地下水を通じ、自社の敷地外へ拡散する懸念も生じる。土壌修復に当たり除染が義務付けられる汚染物質(重金属類)についても、日中両国の制度を比較すると、日本の9項目に対し、中国では18項目と、中国側がより厳しい内容となっている(表参照)。

表:土壌から除染が必要となる汚染物質(重金属類)
対象物質 日本(9項目) 中国(18項目)
無機汚染物 カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、セレン、フッ素、ホウ素、シアン カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、セレン、フッ素、シアン、ベリリウム、クロム、銅、ニッケル、亜鉛、スズ、アスベスト、アンチモン、銀、タリウム

出所:セミナー配布資料

さらに、現時点では汚染されていなくても、地下水を通じ、近隣の他社から生じる汚染物質により、知らぬ間に自社の土地が汚染されるケースもある。

修復義務を負わされないよう、転居先の土地を十分調査することはもちろん、現所在地でも、汚染が拡大し高額な修復費用が発生する前に、自社の敷地内にモニタリング用の井戸を設けるほか、外部機関に委託するなどして土壌の汚染状況を調査することが必要となる。


注1:
組織的に違法行為を行う場合、組織以外にその責任者や主担当者も処罰の対象となる(防治法93条および94条)。また、土壌汚染により、他人に対し、身体上または財産上の損害を与えた場合は、刑事責任を追及される(同96条および98条)。
注2:
ほかに、有色(非鉄)金属、革製品、医薬品、鉛蓄電池などの製造業。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 次長
粕谷 修司(かすや しゅうじ)
1998年、ジェトロ入構。中国・北アジアチーム(1998~2000年)、ジェトロ青森(2000~2002年)、ジェトロ・香港事務所(2002~2008年)、知的財産課(2008~2011年)、生活文化産業企画課(2011~2014年)を経て、現職。