米国から見た米中貿易の動向（2019年7月）
対中貿易赤字は11.4％縮小も、対世界赤字は3.5％拡大

米国商務省が発表した2019年7月の貿易統計によると、米国の対中物品貿易赤字は328億ドルとなり、前年同月比で縮小したが、対世界の物品貿易赤字額は拡大した。米中間の貿易は縮小しているが、米国の対世界貿易額は増加に転じた。対中輸出は、大豆や豚肉、集積回路などが増加したが、石油・歴青油や民間航空機、エンジン、部品は減少した。対中輸入は、モニターおよびプロジェクターや玩具、衣類は増加した一方、一般機械や電気機器の落ち込みが目立った。本稿では、米国の2019年7月の国別貿易額や対中貿易の動向を分析する。

2019年7月の米中貿易額は前年同月比12.2％減少

米国商務省が9月4日に発表した7月の貿易統計（通関ベース、原数値）によると、米国の7月の対中物品貿易赤字額は328億ドルと、前年同月比で11.4％縮小したが、対世界の物品貿易赤字額は862億ドルとなり、3.5％拡大した（表1参照）。なお、1～7月の対中物品貿易赤字額は1,998億ドルと、前年同期比10.3％縮小したが、対世界の物品貿易赤字額は4,983億ドルで、3.0％拡大した。

7月の対中物品貿易額は502億ドルとなり、2018年7月の573億ドルから12.2％減少した。米国の対世界貿易総額に占める中国の割合は14.3％で、前年同月（16.3％）から2.0ポイント低下した。一方、ベトナムの割合は前年同月比0.4ポイント増の1.8％、メキシコは14.8％、日本は5.5％と、それぞれ0.3ポイント増加し、対世界貿易総額は3,518億ドルとなり、前年同月比で0.3％のプラスだった。

貿易額の内訳をみると、全世界への輸出額は1,328億ドルで、前年同月比0.7％減少した。対中輸出額は87億ドルで13.8％減少し、メキシコ向けも石油および歴青油（原油を除く、HTS2710項）の減少などにより、3.2％減の221億ドルにとどまり、スイス向けは金（HTS7108項）の減少により28.0％減少した。一方、イスラエル向けは掘削用機械（HTS8430項）が急増したことにより98.4％増加し、オーストリア向けはポリペプチドホルモン（HTS2937項）の増加などにより5.3倍と大幅に増加した。

米国の全世界からの輸入額は2,190億ドルで、前年同月比0.9％増加した。対中輸入額は415億ドルで、11.9％減少となった。一方、メキシコからは貨物自動車（HTS8704項）や自動車の部分品・付属品（HTS8708項）の増加などにより、6.7％増加した。また、ベトナムからは電話機およびその他の機器（HTS8517項）の増加などで、32.1％増加した。

表1印刷用 (105KB) 

対中輸出は石油・歴青油の減少が最大の押し下げ要因

米国の7月の対中貿易額を主要商品別にみると、輸出は、鉱物性燃料など（HTS第27類）が前年同月比56.4％減の4億6,200万ドルと大きく減少したほか、一般機械（HTS第84類）は28.7％減で、輸送機器（HTS第86～89類）は17.9％減、うち航空機および宇宙飛行体・部品（HTS第88類）は23.6％減と、それぞれ2桁台のマイナスとなった（表2参照）。一方、輸出が増加した品目としては、種、果実、医薬・飼料用植物（HTS第12類）が8.5倍に拡大し、電気機器（HTS第85類）は6.7％増加した。

対中輸入は、一般機械（HTS第84類）が23.2％減、電気機器（HTS第85類）が13.8％減となり、機械機器（HTS第84～91類）の減少額は対中輸入減少額の約8割（80.6％）を占めている。

米国の対中輸出品目（HTSコード上位4桁ベース）について、前年同月比でマイナスの寄与度が高かった上位10品目をみると、石油・歴青油（原油に限る、HTS2709項）は47.1％減で対中輸出の最大の押し下げ要因となり、中国の追加関税第3弾の対象になっている民間航空機、エンジン、部品（HTS8800項）は23.6％減少した（表3参照）。表中で対中輸出額が前年同月比でマイナスの品目のうち、石油および歴青油と民間航空機、エンジン、部品以外は、全世界輸出額も前年同月比でマイナスとなっている。石油および歴青油は韓国向けが2.1倍、民間航空機、エンジン、部品はトルコ向けが3.8倍と拡大した。

表2印刷用 (129KB) 

一方、前年同月比でプラスの寄与度が高かった上位10品目をみると、6月末の米中首脳会談で、中国政府から米国の農産品の輸入拡大に関する何らかの合意を取り付けたこと合意を受けてか（2019年7月1日付ビジネス短信参照）、大豆（HTS1201項）は前年同月比15倍に増え、豚肉（HTS0203項）も10.5倍に増加した。また、中国の対米追加関税の対象になっていない集積回路（HTS8542項）は27.8％増加し、追加関税の適用除外となっている乗用自動車（HTS8703項）は5.3％増加した。

表3印刷用 (138KB) 

対中輸入は自動データ処理機械・部分品の落ち込みが目立つ

米国の対中輸入品目について、前年同月比でマイナスの寄与度が高かった上位10品目をみると、自動データ処理機械などの部分品および付属品（HTS8473項）が前年同期比73.1％減で最大の押し下げ要因となり、自動データ処理機械（HTS8471 項）が19.8％減、電話機およびその他の機器（HTS8517項）が16.1％減、集積回路（HTS8542項）が69.2％減と、一般機械（HTS 84類）や電気機器（HTS 85類）の落ち込みが目立った（表4参照）。また、事務所・台所・寝室用家具および部分品（HTS9403項）が18.5％減、腰掛けおよび部分品（HTS9401項）が21.9％減、ランプその他の照明器具およびその部分品（HTS9405項）が25.2％減と、家具、寝具（HTS94類）が28.7％減となっている。自動データ処理機械などの部分品および付属品や家具、寝具の多くは第3弾の対象品目で、追加関税の影響が顕著になっている。表中で対中輸入額が前年同月比でマイナスの品目のうち、集積回路以外は、国・地域別で中国の輸入額が1位で、対中輸入依存度が高く、不揮発性半導体記憶装置（HTS8523項）以外は、対世界輸入額もマイナスとなっている。自動データ処理機械やその部分品は、台湾やメキシコからの代替輸入が増え、電話機や集積回路、家具類の一部の品目はベトナムからの輸入が拡大している。

表4印刷用 (134KB) 

一方、前年同月比でプラスの寄与度が高かった上位10品目をみると、モニターおよびプロジェクター（HTS8528項）が27.0％増加し、玩具（HTS9503項）は20.7％増、祝祭用品、カーニバル用品（HTS9505項）は27.0％増となった。また、ジャージー、プルオーバー、カーディガン、ベスト（HTS6110項）や、オーバーコート、カーコート、ケープなど（HTS6201項、6202項）など、衣類および衣類付属品（HTS62 類）も増加した。これらの品目の多くは米国の追加関税第4弾Aや第4弾Bの対象品目に入っており、追加関税発動前のクリスマス商戦に関わる消費財の駆け込み輸入とみられる。トランプ大統領は9月1日から第4弾Aを発動しており（2019年8月26日付ビジネス短信参照）、12月15日からは第4弾Bの発動を予定していることから、米国の8月の対中輸入においても、第4弾対象品目の輸入が増加しているとみられる。