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日中社会保障協定、8月1日から申請受け付け開始
北京、天津で中国の社会保険制度に関するセミナー開催

2019年7月25日

ジェトロは、7月5日に北京市で中国日本商会と、12日には天津市で天津日本人会との共催により、「駐在員のための中国社会保険制度マスター講座」をテーマにしたセミナーを開催した。北京立動法律事務所の章啓龍代表弁護士が、北京市と天津市の社会保険制度の最新動向と日中社会保障協定について解説した。

出産保険は医療保険に統合

中国の社会保険は、養老保険、医療保険、労災保険、出産保険、失業保険の5種類(5険)で構成されている。法体系は、最上位法として、国の最高立法機関である全国人民代表大会が制定した社会保険法があるものの、労災保険と失業保険は国務院が制定した条例、養老保険と医療保険は複数の行政通達、出産保険は労働部門が制定した部門規定で、それぞれ地方ごとの規定もあり、統一感が弱い。出産保険は医療保険に今後統合される見込みだ(注1)。

5険の対象者は、企業で働く従業員か否か、都市戸籍か農村戸籍かなどにより、各地で規定が異なる。企業従業員は5険すべてに加入し、うち、養老保険、医療保険、失業保険は従業員個人も保険料の一部を負担、労災保険と出産保険は企業のみが保険料を負担する。

納付する社会保険料は、納付基数に5険それぞれの納付比率を乗じた金額となる。納付基数は原則、加入者(個人)の前暦年度の月平均賃金(各種手当、賞与を含む税引き前賃金)となり、新入社員は最初の1カ月の賃金水準とするが、上限と下限が設けられている。納付基数の調整ができる期間が地域ごとに規定されており、北京市の場合、毎年当該年の6月5日から7月25日の間、天津市の場合は、前年の12月26日から当該年の1月8日の間となっている。納付基数の申告を怠ると、前年度基数の110%が納付基数となるので、注意が必要だ。

なお、養老保険の企業負担の納付比率は、国務院が4月に出した通知(注2)に基づき、北京市、天津市ともに5月分から、19%が16%に引き下げられた。

外国人の養老保険の還付は可能

企業従業員向けの5種類の社会保険それぞれの仕組みは次のとおり。

養老保険

養老保険とは、法律で定められた一定の年数をベースに、労働者が事業所を退職した後、一定の経済的保障を給付する保険だ。納付保険料のうち企業負担分は「基本養老保険統一運営基金」で全加入者分がまとめて管理される一方、個人負担分は、加入者ごとに設けられる「個人養老金口座」で管理される。

養老金の給付を受けるには、定年退職までに累計15年間の保険料の納付が条件となる。15年に満たない場合、各地で規定される戸籍や累計納付年数などの条件を満たせば、納付不足保険料を別途納付することが認められ、養老金の受給や、養老金の給付は受けられないものの個人養老金口座残高の一括還付を受けることが選択できる。

養老金の支給額は、基本養老保険統一運用基金と個人養老金口座から拠出され、平均支給額(月額)は、北京市が2019年時点で4,157元(約6万6,500円、1元=約16円)、天津市が2017年時点で2,912元となっている(公表されている最新の数値)。

社会保険に加入する外国人が養老金受け取り年齢に達する前に中国を離れる場合、書面で社会保険関係の終了を申請すれば、個人養老金口座預入額の一括還付を受けることができる(注3)。申請から還付までの所要期間は1~2カ月、従業員の社会保険カードに還付される。

医療保険

医療保険とは、企業従業員の非労災要因による罹患に係る医療、または都市住民および農民の疾病医療に対して補助する保険制度だ。保険料を生涯納付する日本の制度と異なり、定年退職年齢(男性60歳、女性55歳もしくは50歳)後は、保険料の納付は不要となる。ただし、定年退職後に医療保険を享受するには、北京市と天津市では、男性は累計25年間、女性は累計20年間の社会保険の納付実績が必要となる。

医療保険を利用できる病院は限られており、医療保険に加入している都市以外で発生した医療費は事前に申請手続きしない限り、緊急医療費を除き、原則、医療保険の給付を受けることができない。このことが、中国で多くの従業員が地域をまたいだ転勤に難色を示す一因となっている。

労災保険

労災保険は、労災事故に遭遇した従業員や職業病を患った従業員の治療を行うために一定の補助をする保険だ。保険料の納付比率は、業種により0.2%から1.9%の幅があり、また、事業所の前年の労災発生状況によって納付比率の上乗せや引き下げができる。

天津市の労働仲裁機構が2018年上半期に受理した社会保険関係の労働仲裁案件898件のうち、労災の待遇に係る案件は764件と大半を占めることからわかるように、社会保険の中で労災保険は従業員との間で問題になりやすい。出退勤途中における本人に主たる責任のない交通事故や、勤務時間中の突発的疾病による死亡も労災と認定されることから、労災は防ぐことが難しい。このため、離職率が高い職場であっても、入社当月から労災保険に加入すべきであり、アルバイトも労災保険に加入させるべきだ。また、定年退職年齢後の労働者に働いてもらう場合、社会保険そのものは付保が不要となるが、労災保険については付保を考慮すべきである。

従業員が労災発生により身体に障害が残り、重度障害と認定された場合の身体障害手当は労災保険から支給されるのに対し、中度障害の場合の身体障害手当は使用者が定年退職年齢まで負担することになっている。このように、労災保険が効かず使用者が負担しなければならない費用もあることから、労災保険、傷害保険、使用者保険の付保を総合的に考慮すべきだ。

また、労災で身体障害の認定を受けた従業員を定年退職年齢前に解雇することはできない。会社清算・解散すると、社会保険の口座が閉鎖されることになり、労災で身体障害の認定を受けた従業員が毎月の身体障害手当を受けられなくなる。この救済措置が明文化されておらず、会社の清算・解散が決まっていても従業員の合意が得られず、清算・解散手続きが進められない事例が生じている。会社清算・解散時には、労災により重度の身体障害を有する従業員が労災待遇を受けられるよう、一定の尽力が必要だ。

出産保険

出産保険とは、従業員の妊娠、出産に係る医療費と出産休暇期間中における賃金などを補助する保険だ。育児休暇(注4、流産休暇などを含む)期間中の休暇手当、出産費、育児にかかわる検査費などに給付される。

育児休暇中の休暇手当は、出産休暇終了後、会社が当局に申請し、社会保険センターから支給される。その金額は当該企業の全従業員の前年度平均賃金となっている。全従業員の前年度平均賃金が出産時における従業員本人の賃金より高い場合は、全額を従業員に支給し、本人の賃金より低い場合は差額を企業側が補填(ほてん)する必要がある。

育児休暇中の休暇手当の支払い方法は、1)出産休暇中に毎月本人の賃金を支給し、差額があれば、社会保険センターから休暇手当支給後に、会社から本人に追加支給する方法と、2)出産期間中は給与を支払わず、休暇手当が社会保険センターから支給されたら、本人に全額支給し、差額があれば差額も支払う2つの方法がある。争議となるのを避けるため、どちらの方法をとるかについて、従業員と合意書を交わした方がよい。

失業保険

失業保険とは、一定の条件を満たした企業従業員に対して、失業期間中に失業保険金などを給付する保険だ。失業保険待遇を受けるには、1)使用者と本人が保険料を累計1年以上納付していること、2)本人の意思によらず就業が中断したこと、3)失業登記手続きを行い求職意思があることの全ての要件を満たさなければならない。

社会保険加入空白期間を避ける入社日設定

社会保険の加入・脱退手続きができる期間が決められており、北京市では、毎月5~25日の間、天津市では毎月26日から翌月8日となっている。入社後、社会保険加入の空白期間が生じないよう、例えば、北京市では毎月25日より前に入社日を設定することが望まれる。社会保険料を滞納した場合、滞納開始日から追納手続きが完了する前日までの期間について、1日0.05%の滞納金を支払うこととなる。

社会保険の納付年数は、都市戸籍の取得、不動産の購入、住宅ローンの取得、自動車ナンバーの取得、子女就学に必要な居住証の取得などの要件にもなっている(表参照)。また、従業員の年齢が上がるとともに、社会保険の待遇をより重視するようになり、社会保険が労働争議の理由となりやすくなっている。

表:各種手続きに必要な社会保険納付期間
都市戸籍取得 不動産の購入 住宅ローンの取得(注) 自動車ナンバーの取得 (子女就学に必要な)居住証の取得
北京市 連続7年 連続5年 連続12カ月 連続5年 連続6カ月
天津市 連続12カ月 連続2年 連続6カ月 連続2年 連続6カ月

注:住宅積立金ローンの取得に必要な住宅積立金の積立期間。
出所:セミナー資料から作成

日中社会保障協定、8月1日から適用証明書交付申請受け付け開始

日本と中国からそれぞれの相手国に派遣されている企業駐在員などは、日中双方の公的年金制度への二重加入を義務付けられる問題が生じている。日中社会保障協定が9月1日に発効すると、派遣期間が5年以内の一時派遣被用者は、原則として派遣元国の公的年金制度にのみ加入することが可能となり、二重に保険料を支払う問題が解消される。派遣期間が5年を超えた場合、両国関係機関による合意があれば、申請に基づき、5年を超えない期間で同協定適用の延長が認められる。

日本から中国へ派遣される人が中国の年金制度の加入免除を受けるには、日本の事業主を通じて日本の年金事務所または事務センターで「適用証明書」の交付を受け、中国の勤務先を通じて中国の社会保険料徴収機関に提出する必要がある。中国から日本に派遣される人が日本の年金制度の加入免除を受けるには、中国の社会保険管理センターで「適用証明書」の交付を受け、日本の勤務先を通じて求めに応じて日本の年金事務所に提示する必要がある。

日本の年金事務所または事務センターは、8月1日から適用証明書の交付申請を受け付け、協定発効日以降、適用証明書を発送する。適用証明書を中国の社会保険料徴収機関に提出しないと、中国の年金制度の加入免除を受けることができないので、早く交付申請をした方がよい。

適用証明書提出で養老保険料免除の適法性を

セミナー参加者の質問に対する講師の回答は次の通り。

質問:
育児奨励休暇は、2回目の出産が多胎児の場合も適用されるか。
答え:
適用される。また、多胎出産の場合、産児が1人増えるごとに15日間、育児休暇日数が追加される。
質問:
日本の本社で採用した外国籍の従業員が中国に派遣される場合、日中社会保障協定における中国の年金制度の加入免除の対象となるか。
答え:
国籍は要件となっていないので、日本で年金制度に加入し、定められた手続きをとれば、中国の年金制度の加入免除の対象となる。
質問:
これまで中国で社会保険料を納付していない企業は、日中社会保障協定の適用証明書を中国の社会保険料徴収機関に提出すべきか。
答え:
外国人の社会保険の加入が強制されていない地域もあるが、本来的には、使用者が外国人を雇用する場合、社会保険登録の手続きをすることが規定されている。社会保険に未加入ということは、常に当局から指摘を受けるリスクを抱えることになる。適用証明書を提出することで、養老保険料免除の適法性を取ることがよいと思われる。

注1:
「出産保険と従業員基本医療保険との統合を全面的に推進する実施意見」(国弁発〔2019〕10号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、各省・自治区・直轄市に対し、2019年末までに出産保険と従業員基本医療保険を統合するよう通知している。河北省邯鄲市、山西省晋中市、遼寧省瀋陽市、江蘇省泰州市、安徽省合肥市、山東省威海市、河南省鄭州市、湖南省岳陽市、広東省珠海市、重慶市、四川省内江市、雲南省昆明市の12都市では、先行してすでに両保険を統合している。
注2:
「社会保険料率の引き下げに関する通知」(国弁発 〔2019〕13 号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注3:
「中国国内で就業する外国人の社会保険への加入に関する暫定規則」(人材資源社会保障部令第16号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 第5条。
注4:
育児休暇の日数は、国の規定として、出産に際して98日間の出産休暇、難産の場合は15日間追加、多胎出産の場合は産児が1人増えるごとに15日間追加が規定されている。これに加えて、地域の規定として、北京市と天津市では、第2子までの出産に対して、育児奨励休暇として30日間が追加される。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 次長
日向 裕弥(ひなた ひろみ)
2016年からジェトロ・北京事務所勤務。

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