2020年施行の外商投資法、2024年12月末までに企業は組織構造の確認と変更を(中国)
外商投資法に関するセミナーを開催

2019年10月15日

ジェトロは9月17日に瀋陽市(注1)、9月19日に大連市において、外商投資法をテーマにセミナーを開催した。同法は2019年3月15日、第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議において成立し、2020年1月1日から施行される。同法施行により、これまで外商投資企業に適用されていた外資三法(「中外合弁経営企業法」「中外合作経営企業法」「外資企業法」)は廃止される。上海里格(大連)法律事務所所長の咸海英弁護士が、同法の概要と施行に向けた留意点について、次のとおり講演した(注2)。


講師を務めた咸海英弁護士(ジェトロ撮影)

「外商投資法」制定の背景

中国で外商投資法が制定された背景には、外資三法が近年の国内外の経済情勢の変化に応えられなくなってきていることがある。外資三法は1970年代から1980年代にかけて制定されたが、中国のWTO加盟(2001年)のため、2000年および2001年に一斉に改正された。中国におけるネガティブリスト導入に伴って、2016年および2017年に再び改正されたものの、現在の外資三法は2000年および2001年に改正された内容が基礎となっている。外資三法の制定当時は、経済分野の法制度がほとんど整備されておらず、外資三法は外商投資に関する法律であるとともに、経済分野の各法を補完する役割を担っていた。その後、会社法、契約法など経済分野の各法が整備されたことや、ネガティブリストによる外資管理体制の確立、行政簡素化による外資参入の事前審査から事後の監督管理の強化への移行などにより、外資に関する統一された基本法制定の条件が整った。外商投資法の成立は、中国の対外開放をさらに拡大する政策の必然的な要求であり、必然的な結果でもある。

「外商投資法」の適用範囲

外商投資法第2条によると、同法の適用範囲は外国投資者(外国の自然人、企業またはその他組織)が直接または間接的に中国国内で行う投資活動であるとされ、以下の状況が含まれる。

(1)単独またはその他の投資者と共同で中国国内において外商投資企業を設立
(2)中国国内企業の株式、出資持ち分、財産持ち分またはその他の類似権益を取得
(3)単独またはその他の投資者と共同で中国国内において新たなプロジェクトに投資
(4)法律、行政法規または国務院が規定するその他の方式による投資

(1)は外商投資企業を新規設立すること、(2)は外国投資者による中国国内企業の買収、と言い換えることができる。(3)と(4)については、現時点で定義が明確になっていない。上記4点はいずれも直接投資について定めており、間接投資については言及されていないほか、VIE(変動持ち分事業体)スキームに関する規定も盛り込まれていないため、今後公布される具体的な規定を注視する必要がある。

「外商投資法」の3つの注目点

外商投資法は、6章42条から構成される(注3)。注目すべき点として、(1)参入前の内国民待遇とネガティブリストによる外商投資管理制度を確立した点、(2)中国における外商投資企業の公平な競争環境を確立した点、(3)知的財産権の保護強化の3点がある。

最も注目すべき点は、(1)参入前の内国民待遇とネガティブリストによる外資投資管理制度を確立した点である。参入前の内国民待遇とは、投資参入の段階において、外国投資者およびそれによる投資に関し、中国の投資者およびそれによる投資を下回らない待遇を与えることを意味する。すなわち、外商投資の参入において、ネガティブリスト以外の分野については内外一致の原則に基づいて管理することを指す。ネガティブリストとは、中国が特定分野において外商投資を対象に実施する参入特別管理措置をいい、投資禁止分野と投資制限分野を定めている。外国投資者は、投資禁止分野には投資することができず、投資制限分野での参入に当たっては、商務部門の審査認可を得る必要がある。ネガティブリスト以外の分野に投資する場合は、事前または事後に商務部門に対して届け出を行えばよい。

ネガティブリストには、外商投資参入ネガティブリスト(注4)と市場参入ネガティブリスト(注5)の2つがある。外国投資者は中国で会社を設立するに当たっては、まずネガティブリストを確認したうえで、市場参入ネガティブリストも確認する必要がある。外商投資企業の設立に当たっては、奨励産業や規制産業を定めたその他のリスト(注6)についても、併せて確認する必要がある。

(2)中国における外商投資企業の公平な競争環境を確立した点については、外商投資企業への各種政策の平等な適用(第9条)、標準制定業務に外商投資企業も等しく参与させ、かつ中国で制定された強制性標準を外商投資企業に平等に適用すること(第15条)、外商投資企業の政府調達活動への公平な参与を保障すること(第16条)などが盛り込まれた。

(3)知的財産権の保護強化については、外国投資者の中国国内における知的財産権の使用料は、法に基づき人民元または外貨により自由に受け取り、送金ができること(第21条)、外商投資者および外商投資企業の知的財産権を保護し、知的財産権の侵害行為に対し法に基づいて厳格に法的責任を追及すること(第22条1項)、行政機関およびその職員は行政手段を利用して外商投資企業の技術移転を強制してはならないこと(第22条2項)、行政機関およびその職員は外国投資者および外商投資企業の営業秘密を漏えい、または他者に提供してはならないこと(第23条)、などが規定されている。

さらに、国務院は2019年3月、「一部の行政法規の改正に関する国務院の決定」を公布し、技術移転に関する一部の条項を削除した(次の参考を参照)。知的財産権に関し、外国企業に不利になっていた条項が削除され、これまで各企業において技術輸入契約や技術移転契約の該当がある場合、条項の一部削除により、契約当事者と協議して他の規定を置くことが可能になった。

参考:知的財産権に関連する一部条項の削除

「技術輸出入管理条例」に関して削除された規定
技術輸入契約の受入側が契約の定めに従い供与側の供与した技術を使用し、他人の合法的権益を侵害した場合、供与側が責任を負う。(24条3項)
技術輸入契約の有効期間内において、技術改良の成果は改良側に属する。(27条)
技術輸入契約には、以下の制限条項を定めてはならない。(29条)
第1項:不可欠ではない技術、原材料、製品、設備または役務の購入を含む、技術輸入に不可欠ではない付帯条件の受け入れを受入側に要求するもの。
第2~6項:規定は省略
第7項:受入側が輸入した技術を利用して生産した製品の輸出ルートを不合理に制限するもの。
「中外合弁経営企業法実施条例」に関して削除された規定
技術移転協議書の期限は一般的に10年を超えない。(43条2項3号)
技術移転協議書の期間が満了した後も技術輸入側は当該技術を継続して使用する権利を有する。(43条2項4号)

出所:上海里格(大連)法律事務所の講演資料

前述の注目すべき3点のほか、外商投資企業に対する徴収・徴用の禁止(第20条)、外国投資者の利益や資本収益について、法に基づき、人民元または外貨により自由に海外送金することができること(第21条)、外商投資企業の苦情通報メカニズムを構築すること(第26条)など、外商投資企業の投資権益の保護に関する規定も盛り込まれた。

企業は組織構造の確認と変更を

外商投資法第31条では、外商投資企業の組織形態、組織機構およびその活動準則は、「会社法」と「パートナーシップ企業法」に従わなければならないと定めている。従って、2020年1月1日以降に新設される外商投資企業は、会社法に基づいて、株主会を最高意思決定機関として設置しなければならない(表1参照)。既存の外商投資企業は、外資三法に基づいて設立されており、董事会を最高意思決定機関としている(次の表1を参照、外商独資企業、外外合弁企業の場合は例外あり)。外商投資法第42条によれば、既存の外商投資企業は、外商投資法の施行後5年間、元の会社組織を留保することができると規定されている。言い換えれば、既存の外商投資企業は、2024年12月末までに必ず会社法に基づいた会社組織の変更が必要となる。

表1:中外合弁経営企業法と会社法に基づく会社組織の比較
中外合弁経営企業法に基づき設立された中外合弁企業 会社法に基づき設立された有限責任会社
董事会
高級管理職
※2006年1月1日以降は監事会または監事
株主会
董事会または執行董事
監事会または監事
高級管理職

出所:上海里格(大連)法律事務所の講演資料

(1)外商独資企業および外外合弁企業
外商独資企業と外外合弁企業(注7)の組織構造は、表2のとおりである。2006年1月1日以降に設立された外商独資企業と外外合弁企業の場合は、会社法の規定に基づいて会社組織を整備しなければならないと規定されており、原則として、既に会社法に基づき株主または株主会が最高意思決定機関となっている(注8)。

表2:外商独資企業と外外合弁企業における会社組織の比較
2006年1月1日以前設立 2006年1月1日以降設立
董事会
高級管理職
株主または株主会
董事会または執行董事
監事会または監事
高級管理職

注:法的根拠は、外商投資企業の審査認可登記管理に係る法律適用の若干問題に関する執行意見(工商外企字[2006]81号)第3条および「外商投資企業の審査認可登記管理に係る法律適用の若干問題に関する執行意見」の実施に関する通達(工商外企字[2006]102号)第2条。
出所:上海里格(大連)法律事務所の講演資料

2006年1月1日以前に設立された外商独資企業と外外合弁企業は、設立当時は董事会が最高意思決定機関であったが、同日以降、当該企業が定款を修正する際、当局より会社法に基づいて会社組織を変更するよう指導(非強制)を行っている。当局の指導に従った会社は、2006年1月1日以前に設立された外商独資企業と外外合弁企業であっても、既に会社法に基づく会社組織となっている。既存の外商独資企業と外外合弁企業においては、会社組織が会社法に適合しているかを確認し、会社法に適合していない場合は会社組織の変更が必要となる。

(2)中外合弁企業および中外合作企業
中外合弁企業、中外合作企業は董事会が最高意思決定機関となっているため、会社法に適合する会社組織へと変更が必要となる。中外合作企業は現実として非常に少なく、また法人格を有しないものもあり、中外合作企業の組織構造の変更については省略する。中外合弁企業においては、主に以下の3点の対応が必要となる。

(1)会社の最高意思決定機関を董事会から株主会に変更
(2)株主会の職権、議決方法などの条項を増設
(3)董事会の職権、任命方法および法定人数などの条項を調整

中外合弁経営企業法と会社法に基づく会社組織の主な相違点は、表3のとおりである。特に留意が必要な点としては、重大事項(定款変更、増・減資、合併、解散)の決定と、持ち分譲渡に関する相違点である。重大事項の決定に関しては、中外合弁経営企業法では董事会の全会一致決議となっているが、会社法では株主会の3分の2以上の議決権を有する株主の採択により決定すると規定されている。また、持ち分譲渡に関しては、中外合弁経営企業法では他の株主の同意が必要とされていたのに対し、会社法では株主が株主以外に持ち分譲渡をする場合にその他株主の過半数の同意を得なければならないと規定されている。すなわち、株主間での持ち分譲渡に関しては、他の株主の同意が不要となる。

表3:中外合弁経営企業法と会社法に基づく会社組織の比較
項目 中外合弁経営企業法(現行) 会社法(外商投資法施行後)
最高意思決定機関 株主会は存在せず、董事会 株主会
董事会の組織 董事会メンバーは3人を下回ってはならない 董事会メンバーは3~13人
小規模の企業の場合、執行董事1名を置くことで代替可
董事の任免 合弁各当事者がそれぞれ派遣、罷免 株主会が任免
董事長、副董事長の任免 合弁各当事者が協議で確定し、または董事会の選挙により決定する。中外合弁の一方が董事長を担当した場合、もう一方が副董事長を担当する。 左記の要求ない。董事会は董事長1名を設け、副董事長は設置/不設置のいずれも可能。董事長、副董事長の選出は定款の規定に従う。
董事会の定足数 3分の2以上の董事出席 会社定款の規定による
重大事項(定款変更、増・減資、合併、解散)の決定 董事会の全会一致決議 株主会の3分の2以上の議決権を代表する株主の採決
組織 正/副総経理、正/副総工程師、正/副総会計士、会計監査人など 正/副総経理、財務責任者、会社定款に規定されるその他の人員
正/副総経理の任免 董事会が任免 正総経理は董事会が任免する。副総経理、財務責任者は正総経理が董事会に提案し、董事会で決定する。
合弁契約の締結 必須 定款のみでよい。合弁契約は必要に応じて。
持ち分譲渡 他の株主の同意が必要 株主が株主以外に持ち分を譲渡する場合、その他の株主の過半数の同意を経なければならない
利益配当 登録資本の比率に従う 出資比率に従う、ただし、全株主の約定により出資比率に従わなくてもよい
残余資産の分配 出資比率に従う、別途協議も可能 出資比率に従う

出所:上海里格(大連)法律事務所の講演資料

中外合弁経営企業法と会社法では、法で規定する会社の組織構造に多くの相違点がある。言い換えれば、中外合弁企業においては、株主間における新たな利益の駆け引きが始まることが予想される。会社法に基づく会社組織の変更には、5年間の猶予期間が与えられているものの、当事者間での合意が難航する可能性もある。従って、特に中外合弁企業は、早期に外商投資法施行に向けて検討を開始することが求められる。外商投資法では、同法の具体的な実施弁法は国務院が規定することが記載されている。このため、会社組織の変更は国務院の実施弁法が公布された後に行うことが望ましい。

関連規則の制定・改正や運用の動向を注視

外商投資法は抽象的で、現時点で明らかになっていない点が多く存在する。従って、企業は関連規則の制定・改正や実務運用の動向を注視していく必要がある。


注1:
ジェトロ大連事務所と瀋陽日本人会の共催による開催。
注2:
本稿記載の内容は、セミナー開催日時点の情報である。今後、外商投資法に関する実施細則が発表された場合には、それに基づいた対応が求められる。
注3:
同法の全文は全国人民代表大会ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで確認できる。
注4:
全国版の「外商投資参入ネガティブリスト(2019年版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と、自由貿易試験区に設立する企業にのみ適用される「自由貿易試験区外商投資参入ネガティブリスト(2019年版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がある。
注5:
現行版は「市場参入ネガティブリスト(2018年版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」である。外資・内資を問わず適用される。同リストの2019年版が、2019年末までに公布される予定である。
注6:
外資の投資を奨励する産業を定めたリストとしては、「外商投資奨励産業目録(2019年版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がある。同目録は、全国版の「全国外商投資奨励産業目録」と中西部地域について定めた「中西部地区外商投資優勢産業目録」の2つがある。そのほか、各産業を奨励類・制限類・淘汰(とうた)類に分け、中国政府の産業構造調整の基本政策を示した「産業構造調整指導目録(2013年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がある(2019年に意見募集稿外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布)。淘汰類には外資は参入できないが、制限類への参入については明確な規定がないため、新規進出に当たっては、主管部門に問い合わせるとよい。固定資産投資プロジェクトに関しては、「政府が審査認可する投資プロジェクト目録(2016年版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」があり、目録に掲載された固定資産投資プロジェクトは、発展改革委員会などの審査認可を取る必要がある。
注7:
外外合弁企業とは、中国以外の第三国同士の合弁企業を指す。
注8:
実務においては、2006年1月1日以降に設立された外商独資企業と外外合弁企業においても、董事会が最高意思決定機関となっている企業もある。
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
匂坂 拓孝(さぎさか ひろたか)
2008年、ジェトロ入構。2013年より1年間、北京にて語学研修。2016年9月より現職。