世界の資源・穀物取引の中心地、ジュネーブ(スイス)
物流面で新技術導入の動きも

2019年6月17日

ジュネーブは国際機関が集中する都市というイメージが強いが、ジュネーブトレードセンターによると、世界のコーヒーの50%、穀物・油糧および原油の35%(全て数量ベース)が取引される、国際的な商品(コモディティー)取引の中心地でもある。ジュネーブ州には、税制面(法人実効税率が24.16%と、フランスやドイツと比べて低く、2020年1月に撤廃予定だが多国籍企業向け税優遇措置も存在)や、欧州の中央に位置する立地上の優位性から、スイス取引運送協会(STSA)によれば、500社を超えるコモディティー商社が集中し、世界の主要なコモディティー商社も拠点を置く(表参照)。世界の売上高上位500社の番付である「フォーチュン・グローバル500」2018年版に14位入りし、スイス企業としては首位となった資源商社グレンコアも、創業はジュネーブだ(現在はツーク州拠点)。

表:世界の主要なコモディティー商社とそのジュネーブ拠点の機能
企業名(取り扱い商品) 本社 ジュネーブ拠点の機能
トラフィギュラ(資源) スイス・ジュネーブ 本社
ルイ・ドリュフィス(穀物) オランダ 地域統括本社(欧州、黒海)
ビトル(エネルギー) スイス・ジュネーブ 金融本社
メルキュリアエナジートレーディング(エネルギー) スイス・ジュネーブ 本社
ブンゲ(穀物) 米国 拠点

出所:各社ウェブサイトを元にジェトロ作成

国際商取引都市ジュネーブ

ジュネーブトレードセンターによると、ジュネーブは14世後半から欧州の取引拠点、さらに15世紀初頭から金融拠点として栄えてきた。19世紀にスイス初の証券取引所ができたのはジュネーブであり、20世紀初頭には世界の名だたる銀行の多数がジュネーブに開設された。また、スイスでの企業向けの金融や証券取引は現在チューリッヒに集約されているが、富裕層向け金融は現在もジュネーブの方が盛んだ。

第二次世界大戦後は、コモディティ―取引が盛んになってきた。米国の大手穀物商社カーギルの欧州事業用の別会社であるトラダックスがジュネーブに本社を開設したのが1956年、資源商社グレンコアの前身がジュネーブで創設されたのが1974年だ。スイス取引運送協会(STSA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によれば、ジュネーブでコモディティー商社は3万5千人以上を直接雇用しており、同州税収の22%に貢献している。

資源や穀物は開発途上国との取引が多くなることに起因して、取引先農場や鉱山などでの労働者保護や環境配慮、国際税制や金融規制の順守も求められる。これらの業界横断的な活動を行う主体として、STSAが2014年に発足した。

国際商取引の高度化に向けて

近年、情報通信技術(ICT)の利用に伴い、国際商取引では、商流と物流は一層分離し複雑化している。収益を上げるには、世界的な需給のマッチング、迅速な決済、国際課税上のコンプライアンスによる追徴課税の予防といった商流面の工夫に加え、輸送・保管マネジメント、エネルギー効率化といった物流面での工夫が重要となってくる。

物流面では、国連環境計画の2017年版の資料によると、国際的な船舶輸送に伴う地球温暖化ガス排出は全世界の2.2%を占めており、地域的な輸送用船舶の逼迫(ひっぱく)や渋滞も問題になっている。こうした課題の解決にも資する取り組みに着手した商社も存在する。2008年設立のジュネーブ拠点のコモディティー商社インテグラル・ペトロレウムは、人工知能(AI)を駆使してコーカサスから中央アジアにかけたカスピ海地域で、自社保有の50隻の船舶運航の最適化という課題に2年前から取り組んでいる。国際商取引では、さまざまなステークホルダーの認証と貨物・配送取引を高速、確実に行う必要がある。そのため、同社は2019年1月、ジュネーブ拠点のサイバーセキュリティー・IoT(モノのインターネット)関連企業ワイズキーとの提携を発表した。両社は、現在、金融機関、スタートアップなどに向けた、カスピ海地域におけるAI、ブロックチェーン活用に関する共同プロジェクトに取り組んでいる。同プロジェクトには、カスピ海地域での物流効率化に資するブロックチェーン活用のフリートマネジメント構築が含まれている。なお、ワイズキー社はセキュリティーなどのITサービスの国際展開を積極的に進めており、2018年には日本進出も果たしている。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
和田 恭(わだ たかし)
1993年通商産業省(現経済産業省)入省、情報プロジェクト室、製品安全課長などを経て、2018年6月より現職。