ウナギかば焼きに託す水産ビジネスの持続可能性(インドネシア)

2019年7月25日

最近になってジャカルタ市内のスーパーに、ジャワ水産のウナギのかば蒲焼きが並び始めている。西ジャワ州スカブミ県でシラスからウナギを養殖するジャワ水産(PT. JAWA SUISAN INDAH)の高岡浩史社長は1月、インドネシア海洋水産省とジェトロが共催したインドネシア海洋漁業ミッション・商談会の講演で、「ウナギの養殖事業には伸びしろが大いにある」と語っていた。手塩に掛けて育ててきたウナギたちが今、大海原に泳ぎ出そうとしている。


ジャワ水産のウナギかば焼き(ジェトロ撮影)

「捕って売る」から、「良いものを高く売る」へ

この50年間で日本のウナギ採捕量は次第に減少し、2017年はわずか71トンにとどまった。水産庁の公表資料「ウナギをめぐる状況と対策について」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4MB) によると、二ホンウナギ(ジャポニカ種)は絶滅危惧種に指定され、日本では今、都道府県単位で非常に厳しい資源管理が行われている。国内でウナギを「捕って売る」ことが容易ではなくなってきている。

前述のインドネシア海洋漁業ミッション・商談会で、スシ・プジアストゥティ海洋水産相は「水産ビジネスを続けていくには、持続可能性を目指した政策が必要だ」と述べた。インドネシア政府は、海洋水産大臣規程2012年第19号により、1匹150g以下のウナギの稚魚の輸出を禁止している。日本政府も同様にウナギの資源管理と生産技術開発を重視していることは明らかだ。

ジャワ水産は、2016年に栄屋トレーディング(熊本県玉名市)の高岡浩史社長が経営者となってから、日本へのウナギ輸出を目指し、日本種に近い稚魚の育成、林兼産業(山口県下関市)から輸入する良質のエサを確保し、ボゴール農科大学水産試験場で研究開発を行うことで、品質向上を図ってきた。

今まさに、このようなビジネスが持続可能なものになるか正念場を迎えている。生態系に配慮しつつ、試行錯誤を重ね、付加価値を高めた商品が消費者に受け入れられれば、大きな利益を生み、企業の発展につながる。そして何より、社会受容性を高めるための懸命な努力が必ず報われることを水産ビジネスに携わる一人一人が肌身で理解することができる。両国がそういう社会になるかどうかが試されている。


ジャワ水産の養殖場全景(PT. Jawa Suisan Indah提供)

活ウナギは空を飛び、かば焼きは海を泳ぐ

日本に輸入されるウナギは、生きているもの(活ウナギ)と、かば焼きなどに加工されたもの(ウナギ調製品)の2つに大別される(生鮮や冷凍のウナギ輸入はほとんどなし)。財務省の貿易統計によると、ウナギ全体の輸入量は2000~2001年をピークに減少傾向にある(図1参照)。2018年のウナギ輸入港別構成比をみると、活ウナギのほぼ全量が空輸されているのに対し、ウナギ調製品のほとんどは船便で輸入されていることが分かる(図2参照)。

輸入者にいち早く届けることが求められる活ウナギの場合、インドネシアから輸入しようとしても、ウナギの主要輸入相手国・地域の中国や台湾に比べると、地理的に不利なことは否めない。他方、ウナギ調製品の場合は、真空包装や冷凍などの技術を使うことで、日数のかかる船便で輸入しても、商品価値を損なわずに販売することができる。長期保存が利き、味が落ちないような商品をどうやって開発するか、インドネシアのウナギ業者の腕の見せどころだ。

図1:日本のウナギ輸入量の推移(1988年~2019年)
ウナギ全体の輸入量は2000年の活ウナギ14,356トン、ウナギ調製品 71,313トンから 2018年はそれぞれ8,813トン、14,654トンになった。

注1:2019年は1月から5月までの累計。
注2:活ウナギの輸入量はHSコード「0301.92-200」で集計。ウナギ調製品の輸入量は、1988~2011年まではHSコード「1604.19-010」で、2012年以降はHSコード「1604.17-000」で集計。
出所:財務省貿易統計データからジェトロ作成

図2:2018年におけるウナギ輸入港別構成比
活ウナギの2018年全量が空輸されている。ウナギ調製品の98.4%は船便で輸入されている。

出所:財務省貿易統計データからジェトロ作成

7月になると「腹が減る」、土用の丑の日に向けた出荷が日本の需要をつかむ

日本のウナギ輸入量の月次推移をみると、毎年4~5月にウナギ調製品の輸入が、7月に活ウナギの輸入がそれぞれピークとなっている(図3参照)。土用の丑(うし)の日(2019年は7月27日)が近づくと、輸入が増える傾向にある。

従って、ウナギ調製品の場合は、毎年4~5月ごろに日本に届くよう、そこから逆算していつまでに脂の乗ったウナギを仕上げる必要があるか、いつまでに加工・包装して日本へ出荷する必要があるか、そして、毎年同時期にコンスタントにウナギを届けるには、何カ月で稚魚から成魚に育て上げる養殖技術や設備が必要かなど、準備すべきことが見えてくる。

図3:ウナギ輸入量の推移(月次ベース)
2016年4月の活ウナギの輸入量がそれぞれ600、643トン、ウナギ調製品の輸入量が2168トン、1973トン、2016年7月に活ウナギの輸入が1268トン、ウナギ調製品の輸入量が1653トンでそれぞれ年間のピークとなっている。

出所:財務省貿易統計データからジェトロ作成

インドネシア産ウナギを知ってもらう

現状では、日本に輸入されるウナギは中国産が圧倒的に多い(図4参照)。しかし、ジャワ水産の高岡社長は「34年間、日本でスーパーマーケットを経営し、ウナギ加工品を販売してきた経験から、インドネシアのウナギは日本市場に必ず受け入れられると確信する」と力強く語った。同社は8月21~23日に東京ビッグサイトで開催される「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に出展するという。この機会にインドネシア産ウナギの評判が上がり、ウナギに懸ける両国政府と水産ビジネスセクターの努力と想いが日本の食卓に届くことが期待される。

図4:2018年における輸入ウナギの国別内訳
中国からの輸入量が活ウナギの72.9%となっている。中国からの輸入量がウナギ調整品の98.4%となっている。

出所:財務省貿易統計データからジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
佐々木 新平(ささき しんぺい)
1992年、旧大蔵省門司税関入関。1994年に大蔵省へ出向後、国際協力銀行マニラ駐在員(2002~2004年)、インドネシア財務省(2006~2008年)、内閣官房TPP政府対策本部(2014~2017年)などを経て、2018年から現職。