【中国・潮流】進出日系企業から見た四川省と重慶市
進出日系企業実態調査を基に比較
2019年5月9日
西部地域を代表する地域として、とかく比較されがちな四川省と重慶市。内陸部唯一の直轄市である重慶市は、以前は四川省の一部であったこともあり、お互い似通う部分が多い。両地域には電子情報産業、自動車、機械設備などが集積している。また最近では、欧州に向けた国際貨物鉄道の主要な発着点、物流ハブとしての存在感を競い合い、デジタル経済の発展にも力を入れている。
比較論はさまざまあるが、本稿では、両地域に進出している日系企業が両地域をどう見ているのか、ジェトロが2019年2月に公表した「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査-中国編-」の結果を参考に比較する。
まずは、直近の経済状況を確認しておく。四川省の2018年の経済成長率は8.0%で、全国平均6.6%よりも1.4ポイント高く、前年の成長率8.1%からは0.1ポイントの減少にとどまり底固さを見せた(表1参照)。一方、重慶市の成長率は前年の9.3%から3.3ポイント減の6.0%となり、全国平均を0.6ポイント下回るなど、成長の鈍化が数値に顕著に表れた。
項目 | 四川省 | 重慶市 |
---|---|---|
1.経済成長率(2018年) | 8.0% | 6.0% |
2.域内総生産額(2018年) | 4兆678億元 | 2兆363億元 |
3.常住人口(2018年末) | 8,341万人 | 3,102万人 |
4.日系商工会組織(2019年4月現在) |
成都日本商工クラブ 会員数:130法人 |
重慶日本クラブ 会員数:93法人 |
5.在留邦人数(2018年10月現在) | 445人 | 361人 |
出所:1.2.3は四川省統計局、成都市統計局、重慶市統計局、5.は重慶総領事館調べ
事業拡大意欲が強い重慶市
ジェトロの調査では、2018年の営業利益見通しについて、重慶の日系企業では7割が黒字と回答した(表2参照)。前年の黒字企業の割合は6割であったので、好転したようにも思えるが、個別に企業に話を聞くと、一様に2018年は、特に後半以降、需要が落ち込んだと言う声が多く聞かれた。実際に調査でも、「主要取引先からの値下げ要請」「取引先からの発注量の減少」といった課題が多く挙げられた。以上を総括すれば、2018年の重慶では、何とか黒字を確保できたものの、市場の低迷により黒字幅は縮小し、業績自体は悪化した企業が多かったといえる。
興味深いのは、重慶で「事業を拡大する」と回答した日系企業の割合が7割強に及び、中国の中で拡大意欲が最も高かった点だ。「拡大する機能」で多いのは、「販売」「高付加価値製品の生産」「研究開発」「物流」の順であった。量から質への構造転換の中で、日本企業の強みである高付加価品の需要が高まることへの期待とも言えるが、同時に、厳しい競争環境の中で勝ち残るにはそうせざるを得ない状況に置かれているとも言え、現地駐在員の危機意識が拡大意欲の高さに表れたとも言える。
成長性への期待が大きい四川省
四川省は、2018年の営業利益が黒字になる見込みと回答した企業の割合は、前年の71.0%から65.5%に減少した。それでも、事業の拡大意欲は中国平均を上回る水準であり、「拡大理由」に「成長性、潜在力の高さ」を挙げた企業の割合が調査都市の中で最も高かった。「拡大する機能」は、回答が多い順に「販売」「高付加価値製品の生産」「物流」であった。経営上の課題としては、「従業員の賃金上昇」「コストの削減が限界に近づきつつある」との回答が目立った。
四川省の日系企業では、四川省経済の「成長性、潜在力の高さ」への期待値は高いものの、コストの上昇もあって、現実には簡単にもうけを出せない状況にあり、四川省の経済成長をどう自社の成長に取り込んでいくかが課題になっていることがうかがえる。
項目 | 重慶市 | 四川省 | 中国全体 |
---|---|---|---|
営業利益見込みで「黒字」と回答した企業の割合 | 70.4%(前年調査63.0%) | 65.5%(前年調査71.0%) | 71.7%(前年調査70.3%) |
DI値で見た2018年の営業利益見通し(注) | 7.1ポイント | 27.6ポイント | 19.8ポイント |
今後1~2年の事業展開の方向性で「拡大する」と回答した企業の割合 | 71.4% | 51.7% | 48.7% |
事業拡大理由に「成長性、潜在力の高さ」を挙げた企業の割合 | 30.0% | 60.0% | 39.6% |
拡大する機能(上位5項目) |
販売(55.0%) 高付加価値品生産(40.0%) 研究開発(35.0%) 物流(20.0%) サービス事務(20.0%) |
販売(60.0%) 高付加価値品生産(40.0%) 物流(20.0%) 汎用品生産(6.7%) サービス事務(6.7%) |
販売(59.5%) 高付加価値品生産(37.4%) 汎用品生産(25.4%) 研究開発(15.1%) 物流(13.1%) |
経営上の問題点(上位5項目) |
技術者の採用難(68.8%) 品質管理の難しさ(62.5%) 競合相手の台頭(53.6%) 従業員の質(46.4%) 調達コストの上昇(43.8%) |
従業員の賃金上昇(79.3%) 限界に近づきつつあるコスト削減(66.7%) 調達コストの上昇(55.6%) 技術者の採用難(55.6%) 新規顧客開拓が進まない(48.3%) |
従業員の賃金上昇(75.7%) 調達コストの上昇(53.5%) 競合相手の台頭(51.7%) 品質管理の難しさ(48.0%) 環境規制の厳格化(45.8%) |
注:DI値とはDiffusion Indexの略で、「改善」すると回答した企業の割合から、「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた値。景況感を示す指標として用いられる。
出所:2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査-中国編-
ともに物流拠点としての関心高まる
今後、「拡大する機能」に「物流」を挙げた企業の割合は四川省、重慶市ともに2割に上った。中国全体の平均が13.1%であったことから、「物流」を重視する割合の高さが目立つ。四川省の省都・成都市と重慶市はともに、「一帯一路」戦略の象徴的な存在である欧州貨物鉄道の中国側の主要な発着点である。中国各都市と欧州を結ぶ貨物鉄道の運行本数で、成都と重慶とで中国全体の約半数を占める。また近年、ASEANを結ぶ鉄道と海上輸送を組み合わせた複合輸送による物流も増えつつある。両地域は物流ハブを1つのアピールポイントとしており、実際、今回のジェトロ調査の結果でも、四川省、重慶市の一部の日系企業は、将来的な事業の方向性として、西部地域を物流拠点とした事業展開も視野に入れつつあることが分かる。
重慶や成都では昨今、輸入品専門店が多く見られるようになってきている。両地域の物流機能強化は、小売り・流通業の進出の後押しにもなりそうだ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・成都事務所 所長
田中 一誠(たなか かずしげ) - 2005年、ジェトロ入構。対日投資課、地域支援課、ジェトロ・上海事務所、企画課、ものづくり産業課を経て2018年2月よりジェトロ・成都事務所勤務。