日本からの輸入コスト削減に期待(チェコ)
日EU・EPA利用予定企業の欧州ビジネス事例

2019年3月19日

2019年2月1日に発効した日EU経済連携協定(EPA)。欧州進出日系企業からは、日本からの輸入を中心に高い利用意欲が示されている。本稿では、ジェトロ・プラハ事務所がチェコ進出日系企業2社に日EU・EPAへの期待や課題についてヒアリングした結果などを紹介する。

日本からの輸入時に制度活用を検討

ジェトロ・プラハ事務所の調査によると、2019年2月現在でチェコに進出している日系企業の数(第三国からの投資、日本人が現地で起業した会社を含む)は260社で、うち製造業が109社、研究開発(R&D)拠点3社、その他(販売、貿易、サービス)148社となっている。これらチェコ進出日系企業を対象に、2018年9~10月に「進出日系企業実態調査」を実施したところ、22社から回答が得られた。

調査項目中、日EU経済連携協定(EPA)に関する項目で、同協定が企業活動に与える影響について「メリット大」と回答した企業は13社で、全回答数の68.4%に及んだ。メリットの内容(複数回答可)としては、「関税削減・撤廃(日本からの輸入)」が最も多く10社、以下「税関手続き簡素化」(6社)、「ビジネス機会の拡大」(4社)、「関税削減・撤廃(日本への輸出)」2社となっている。また、日EU・EPAの今後の利用の可能性に関しては、「輸入の際に利用する予定」(6社)、「輸入の際の利用を検討中」(6社)、「輸出の際の利用を検討中」(4社)、「輸出の際に利用する予定」(1社)の回答結果となり、日本からの輸入に際しての制度活用の期待が高い結果となった。

具体的な日EU・EPAの期待や欧州ビジネスへの影響について、ジェトロ・プラハ事務所では、2018年12月から2019年1月にかけて、エレマテック・チェコ(マネージング・ダイレクターのオンドレイ・ボトルバ氏)、愛三工業チェコ(高村貞次郎社長、竹内渉管理部門担当コーディネーター)の日系企業2社にヒアリング調査を行った。

エレマテック・チェコ―中長期的なメリットに期待

親会社はエレマテック(本社:東京都)で、電子材料商社としてスマートフォンやカメラ、家電、映像機器などの部品を取り扱っている。海外に40の拠点を置くが、欧州で唯一の拠点となっているのが、2006年に設立されたエレマテック・チェコだ。

電子・自動車部品を扱う商社である同社は、チェコの「中欧」としての地理的優位性を生かし、現在プラハを欧州拠点として営業活動を行っている。アジア(主に日本)から欧州への輸入品販売が売上高の8割程度を占める。取り扱い製品の大半が自動車の部品(メータ関連や集中スイッチナビゲーションなど)だが、近年は半導体の取り扱いも開始した。


日本製の自動車内装部品(エレマテック・チェコ提供)

同社の特徴は、15人の従業員全員が日本語を話すことができ、それが在欧州日系企業との取引をする上での強い武器となっている。また、単なる物販機能だけではなく、世界中にあるネットワークを通じて、部品メーカーと取引先企業の間に立ち、さまざまなソリューションの提案を行うなど、きめ細やかなサービスを提供している。

同社にヒアリングを行った2018年12月時点では、日EU・EPAよりも英国のEU離脱(ブレグジット)による影響が大きく、通関の混乱の影響を危惧して在庫を大量に保管したいという動きへの対応が発生していた。実際に、英国の顧客から相談されていた新規プロジェクトが、ブレグジットの影響で見送りとなったこともあった。従って、まずブレグジットへの対応が先決とされた。ただし、日EU・EPAが発効した2月1日からは、対象製品や原産地証明手続き確認などの作業も開始している。日EU・EPA発効後は長期的に日本からの輸入のコストダウンが見込まれるため、現地自動車メーカーの中には日本から部品を調達する企業も増えていく可能性がある、と同社は考えている。

愛三工業チェコ-日本からの調達増加の可能性も

愛三工業(本社:愛知県)は、自動車部品の製造・販売会社。チェコの子会社は、プラハからおよそ60キロメートル北東に位置するロウニ市(北ボヘミア)に、2000年に設立された。


工場の遠景(愛三工業チェコ提供)

工場は、燃料ポンプ工場とエンジン部品工場に分かれており、日系企業のみならず、欧州の自動車メーカーへも多数納入されている。2018年末現在の従業員数は、日本人9人、現地人941人(派遣社員を含む)となっている。

同社の目下の最大の悩みは、人材不足、およびそれに伴う賃金上昇である。機械工などはEU域外からの外国人雇用で補充しているが、技術者は、チェコ語を話せない外国人ではこなせないことがあるため、必ずしも外国人で補填(ほてん)できるわけではない。チェコ国内の技術系学校卒の人口が減少しつつあり、給与水準が急上昇している現状で、技術者の雇用が非常に困難になっている。

このように人件費が高騰し、チェコ国内での部品製造コストが上昇している状況下では、原価低減が急務である。そこで、部分的にでも状況改善要因となることが期待されているのが、日EU ・EPAである。また、愛三工業チェコの原材料の調達先は現在50%以上がEU(チェコを含む)だが、日本や日本以外のアジア諸国からの調達も相当量を占めている。日EU・EPAを利用すれば、チェコ国内から調達するより、自動化が進んだ日本から輸入した方がコスト安となる可能性もあると、同社は考えている。ただし、原産地証明書を設備部品個々について付す必要があるのかなど、チェコ税関の判断に委ねられると予想される部分もあり、具体的な制度運用については不透明感も拭えない。

チェコ産業貿易省も日EU・EPAに関する報告書を公表

なお、チェコ産業貿易省は2018年9月に、リベレツ工科大学による「日EU・EPAのチェコ経済への影響に関する報告書」を、同省の公式サイト内で公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます している。同報告書では、「分析の結果、日EU・EPAはチェコ経済に大きな負の影響を与えないが、貿易自由化に対応するために、生産・サービスの自動化やデジタル化が必要」と強調する。また、その中で、ケーススタディーとしてチェコ国内6社に聞き取り調査をしている。うち唯一の日系企業の事例として紹介されているのが、ガラス製品や磁器の輸入販売会社である明和セールス(本社:東京都)だ。同社のチェコ支社である明和セールス・リベレツ支店は、ボヘミアガラスが有名なチェコからグラスウェア、花瓶などのガラス製品のほか、ブルーオニオンを主体とした磁器を日本の本社に輸出しており、その際に日EU・EPAを活用できないか検討を進めている。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
加藤 紗妃(かとう さき)
2016年4月、ジェトロ入構。貿易投資相談課を経て2018年10月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。