在インド日系製造会社の「現地化」の今
マハーラーシュトラ州ものづくり現地化推進交流会の取り組みとは

2019年4月24日

海外展開する製造企業にとって、「現地化」は重要なキーワードだ。利益拡大のため、コスト削減などを目的とした現地化の努力が求められる。現地化の定義は複数あるが、本稿では、「調達の現地化」と「ヒト(現地職員)の現地化」に照準を絞ってみたい。ジェトロ・ムンバイ事務所が行っている「マハーラーシュトラ州ものづくり現地化推進交流会」の取り組みについても触れ、インドにおける現地化の現状について報告する。

「現地調達」に重点を置く企業が大半

インドでは、経済や産業の急速な発展に伴い、内外企業が巨大市場の攻略を試みており、価格競争が厳しい。コスト競争力を強化する方策として、現地調達率の引き上げが企業にとって喫緊の課題となっている。ジェトロが2018年12月に発表した「2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、「経営上の問題点」として、回答企業の53.3%が「調達コストの上昇」を挙げており、前年調査から20ポイント近い伸びを見せた。コスト削減の一環として、「今後の原材料・部品調達の方針について、調達率を引き上げる国・地域」の項目では、「現地(=インド)」と回答する企業の比率が75.0%に達した。この数値は調査対象国・地域の中で最も高く、地場企業からの調達拡大に重きを置こうとする企業が多いことが分かる。また、「ヒト」の現地化を進めようとする企業も増えている。コスト上昇に対する対応策として、「人材の現地化の推進、人件費の削減」に取り組むとした企業の比率は、前年調査から6.2ポイント上昇し、回答企業の32.6%(調査対象国・地域中で第3位)となった。

マハーラーシュトラ州ものづくり現地化推進交流会の取り組み

日系製造業の一層の現地化をサポートすべく、ジェトロ・ムンバイ事務所は「マハーラーシュトラ州ものづくり現地化推進交流会」を主宰し、日系企業の交流と意見交換を通じた現地化支援を行っている。交流会の前身である「プネものづくり交流会」は、マハーラーシュトラ(MH)州の生産基地であるプネを拠点に全11回開催され、持ち回りの幹事会社がそれぞれ工場見学を受け入れるかたちで行われた。これを発展的に解消し、対象をMH州全体に拡大して現地化に特化したものが「マハーラーシュトラ州ものづくり現地化推進交流会」だ。現地化を論じる際には、日本人だけでの議論には限界があるとして、インド人社員の参加も受け入れることとし、工場見学の後には、調達や労務といった現地化に関わるテーマについて議論を重ねている。


日系企業のインド人担当者の説明に熱心に耳を傾ける交流会参加者(ジェトロ撮影)

これまでの交流会の場で、現地調達のポイントとして指摘されたのが「サプライヤーは育てるもの」という姿勢だ。あるメーカーのインド人調達担当者は自社の現地調達率がほぼ100%だとしながら、「ローカル工場にも日本人が納得するレベルの技術がある。これをいかに引き出していくかが重要」と指摘した。その上で、「日系企業は調達先を『探す』スタンスをとることが多いが、今後はコミュニケーションや試行錯誤を重ね、調達先を『育てる』ことに注力しなければならない」と強調した。商都ムンバイを有するMH州には、地場タタ財閥が古くから拠点を構え、製造業の集積地として名高い。このことから、「ものづくり」のマインドセットがMH州には根付いているとされる。実際、プネ近郊には古くから欧州系製造業が立地し、地場財閥の工場も多く、こうした企業に部品を納入してきたサプライヤーも多数存在する。

「ヒト」の現地化も必要、上級職の定着率向上が課題

「ヒト」の現地化も、これまでの交流会で議論が多かったテーマだ。多くの日系製造会社は1人から数人の駐在員を抱えている。「駐在員の費用は利益を大きく圧迫する要因であり、権限委譲を含めた現地人幹部の登用が肝要となっている」という。一方で、優秀な幹部クラスのインド人は転職を繰り返すことも多く、いかに定着率を上げて、現場を任せられる人材に育てていくかがポイントになっている。

マネジャークラス以上の人材の定着率について、参加者の関心を集めたのが、石油化学系メーカーのインド人社員の評価基準に関する取り組みだ。同社担当者は「評価基準を明確にし、それを公表することで、業績評価や昇進に不信感や不公平感を抱かせないようにしている」とした。インドでは、一部のインド人上司が同郷や同じコミュニティーに属する人間を優先的に昇進させる慣行があり、不透明な評価基準こそが転職をもたらす要因ではないかという指摘もある。こうした課題に対する解決策の1つが評価基準の「見える化」ということだった。

日本式ものづくり学校を通じた現地化

製造業の「現地化」に取り組む動きは、日本とインドの両国政府間にもある。日本政府は2016年にインド政府との間で、「ものづくり技能移転推進プログラムに関する協力覚書(MOC)」を締結し、インドに進出する日本企業と連携しながら、日本式ものづくり学校(JIM)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます をインド各地に8校ほど設立している。JIMでは、日本企業として製造現場に必要な規律・心構えや実践的な技能をインド人従業員に直接指導し、将来の現場リーダーを育成することを目的とする。こうした取り組みを通じて、インドの製造業を底上げすることができれば、日系企業の現地化も進み、結果として、自分たちのコスト競争力の強化にもつながっていくだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所 投資アドバイザー(執筆時)
石本 和夫(いしもと かずお)
電機メーカーの貿易部門に入社。ケニア、アラブ首長国連邦、インド、インドネシア、タイにおいて計7回、約28年間の駐在を経験。2012年よりジェトロ大阪本部の貿易投資アドバイサー、2013年から2019年3月までジェトロ・ムンバイ事務所で投資アドバイザーを務める。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
比佐 建二郎(ひさ けんじろう)
住宅メーカー勤務を経て、大学院で国際関係論を専攻。修了後、2017年10月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 課長代理
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、2011~2015年、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2015年8月より海外調査部アジア大洋州課勤務。