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ガス価格の引き上げとガス効率化への取り組み(バングラデシュ)

2019年10月1日

バングラデシュは天然ガスの産出国であるが、経済成長により産業用、民生用ともに需要が増えており、2018年にはカタールから液化天然ガス(LNG)の輸入を開始した。今後もガスの需要は増加する一方で、2020年以降は国内ガス生産が減少すると予想されている。特に発電用エネルギーの約7割は天然ガスに依存していると言われており、ガス公社は2019年7月から国内ガス価格を引き上げた。天然ガスの埋蔵量も限界がある中で、日本企業が円借款事業で天然ガスの効率化を進める取り組みを行っている。

一気に引き上げられたガス価格

バングラデシュでは、政府の要請に基づき、ガス公社が2019年7月からガス価格を引き上げた。産業用では価格変更前と比べて37.9%、家庭用でも38.5%(メーター利用時)上昇し、収益や家計を圧迫する要因となっている(表参照)。国内の天然ガスの埋蔵量は2020年以降減少するという推計があり、海外からの天然ガスの輸入が増えれば、ガス代のみでなく、電気代への影響も出てくることが予想される。

表:引き上げ前後のガス料金 (単位:タカ/立方メートル)
分類 変更前
(~2019年6月30日)
変更後
(2019年7月1日~)
上昇率
(%)
電力(Electricity 3.16 4.45 40.8%
自家発電(Captive Power 9.62 13.85 44.0%
肥料(Fertirizer 2.71 4.45 64.2%
産業用(Industry 7.76 10.70 37.9%
商業用(Hotel and Restaurant 17.04 23.00 35.0%
3輪タクシー(CNG) 40.00 43.00 7.5%
家庭用(メーター利用) 9.10 12.60 38.5%
家庭用(1口、月額料金) 750.00 925.00 23.3%
家庭用(2口、月額料金) 800.00 975.00 21.9%

出所:バングラデシュエネルギー規制委員会(Bangladesh Energy Regulatory Commission)、報道

プリペイドメーターによるガス消費の効率化

こうした情勢の下、バングラデシュで家庭用ガスの利用効率化に取り組む日本企業がある。株式会社ヘリオス・ホールディングス(本社:愛知県豊橋市、以下ヘリオス)は、2017年から国際協力機構(JICA)の円借款事業として天然ガス効率化事業 (コンプレッサー、ガスパイプラインおよびプリペイド式ガスメーター)の1つである、プリペイド式ガスメーターの設置を進めている。すでにこのプリペイドガスメーターは、ダッカで20万世帯、チッタゴンでは6万世帯に導入された。円借款事業の施主であるガス公社は、2020年、ダッカにおいて追加で12万世帯へ導入したいと表明している。

現在、ダッカで都市ガスが開通しているのは250万世帯と言われ、毎月定額を支払う方式が一般的だ。月額800タカ(約1,040円、1タカ=約1.3円)を払えば、ガスは使い放題となるため、ガスコンロの火を消さずに、つけたままにする家庭があるなど浪費が横行している(2019年7月以降は975タカに値上がり)。今回、ヘリオスが導入しているメーターは、プリペイド式で、指定の店舗でカードに入金を行い、ガスメーターにタッチをすると、チャージした分だけが利用できるシステムだ。現在、ガスが定額制であることがモラルハザードを生じさせ、ガス料金を割高にする要因と考えた上での対策といえる。プリペイドガスメーターを導入することは、ガス利用の効率化ならびにガス料金の節約にもなる。ヘリオスの山下斎(やましたひとし)国際事業部長は「ガスメーターを利用している家庭に対してヒアリングを行ったところ、ガス料金が導入前の800タカから2~4割安くなった」という声が多いという。

現在導入を進めているのは、ダッカ市内の北西部のミルプール(10万世帯)、北部のウットラ(2万世帯)、東部ランプーラ(2万世帯)、西部カントンメント (1万世帯) 、東部ボシュンドラ (1万世帯)など、中間層が居住するエリアだ。プリペイドカードにチャージできる店舗は120カ所で、当初の計画より70カ所増やして利便性を高めている。チャージに際しては、地元銀行が運用する「Uキャッシュ」という決済システムを利用している。


プリペイドカードにチャージする現場
(ヘリオス提供)

チャージの店舗に並ぶ人々(ヘリオス提供)

屋内に設置されたガスメーター
(ジェトロ撮影)

屋外に設置されたガスメーター(ジェトロ撮影)

事故防止で安全面も強化

ガスメーターの導入は、安全強化にも貢献する。ヘリオスによると、現在1日につき、50カ所で500台のメーターを設置しているが、その過程で作業者がガス漏れに気付くことがあり、ガス管の補修や減圧のためのレギュレーターを交換することで、ガス漏れを解消できることもあるという。さらには、地震発生時などに感震器が作動しガス供給を停止できるといった防災上の効果も期待できる。日本では計量法において、ガスメーターは7~10年に1度の検査を求められているが、今後はバングラデシュでも同様の法整備を進めていく必要があるとみられる。

また、ダッカ市内では、違法なガス供給ラインもこれまでに1,000件以上発見されており、本事業は、ガス会社が対応しきれていなかった盗ガス対策にも寄与している。


各家庭用のメーターを設置するためにガス管を設置している現場
(ジェトロ撮影)

システム統合がガスメーターと効率的なガス利用普及へのカギとなるか

今回のプロジェクトでは、ダッカの都市ガス世帯の約10%をカバーすることになるが、今後は都市高速鉄道(MRT)で日本のフェリカの技術が利用されることが決まっており、料金決済を可能とするための役割を果たす「クリアリングハウス」の設立と並行し、ガスメーターとMRTの決済システムを統合し、カードの共通化が進めば、バスや鉄道、ガスが1枚のカードで利用可能になる。これは、ガスや交通機関を利用する顧客にとっては、カードへのチャージができる拠点が爆発的に増え、利便性が非常に高まるだけでなく、メーターの普及やガスの効率的な利用も一層進むと期待される。

現在、バングラデシュでは経済発展を支えるエネルギー関連事業が活発に展開されており、JICAはLNG浮体式貯蔵再ガス化設備(FSRU)への融資を行っている。バングラデシュ政府には、円借款で開発中のマタバリ商業港を拡張し、将来的にLNG、液化石油ガス(LPG)の受け入れターミナルを設置する計画がある。今後、産業の多角化や消費市場の拡大に対応するには、資源利用の効率化を並行して進めていく必要がある。今後は省エネの技術や機器などに強みを持つ日本企業が、こうした設備投資をサポートする形でバングラデシュ市場に参入する余地は大きいといえるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部(2008~11年)を経て、2011年から実務研修生としてジェトロ・ダッカ事務所に赴任(2011~12年)。帰国後、生活文化・サービス産業部(2012~14年)で「ダッカスタイル」の編集等を担当する傍ら、「知られざる工業国バングラデシュ」(アジア経済研究所、2014年)の執筆担当。2014年からジェトロ浜松に勤務し、静岡県西部地域における海外展開支援を担当。2016年から内閣府規制改革推進室に出向し、規制改革、行政手続の簡素化に従事(2016~19年)。2019年3月からジェトロ・ダッカ事務所に赴任し、日系企業支援に取り組む。

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