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「プロ・クレーマー」から賠償請求されたらどうするか(中国)
北京と天津で販売トラブルに関するセミナー開催

2019年9月20日

ジェトロは、8月28日に北京市で中国日本商会と、9月6日には天津市で天津日本人会との共催により、「日系企業販売活動にかかわるトラブル事例と留意点」をテーマにセミナーを開催した。北京市大地法律事務所の熊琳パートナー弁護士が、わざと製品表示などの不備のある商品を購入して企業に賠償請求する悪徳業者、いわゆる「プロ・クレーマー」対策を説明したほか、商品・サービスの品質・表示、リコール、広告・宣伝、ウェブサイトなど媒体の活用、営業担当者の管理など、一連の販売活動にかかわるトラブルを避けるための留意点と対応を解説した。

多くの日系企業もプロ・クレーマーの被害に

1994年施行の消費者権益保護法で、経営者が商品またはサービスを提供する上で詐欺行為があった場合、消費者の要求に従い、当該消費者が受けた損害の賠償を増加しなければならないことが規定された(注)。これにより、「懲罰性賠償」という概念が出現し、懲罰としての賠償を獲得することを専らの職業とする人、いわゆる「プロ・クレーマー」が中国に出現するようになった。

プロ・クレーマーは、他の職業につかず、利益目的で専らクレーマー業務に従事する「職業化」、関連製品や行政罰、民事訴訟について熟知する「専門化」、情報収集、購入、クレームなどの業務を分業したり、組織間で密に連絡を取り合うなど「組織化」が進んでいる。こうして、プロ・クレーマーの問題が深刻化し、多くの日系企業が被害に遭っている。

プロ・クレーマーが増殖する背景には、現行の法制度で一般消費者とプロ・クレーマーを区別していないこと、懲罰性賠償基準が引き上げられていることがある。懲罰性賠償の基準は、消費者権益保護法(2013年改定)で、「消費者の商品購入代金またはサービス利用料金の3倍」となり、従前から引き上げられた。また、特別法である食品安全法では懲罰性賠償の基準はさらに高く、「代金の10倍または損害の3倍」となっている。

各地方政府も、それぞれ「食品薬品違法行為通報奨励弁法」を公布している。通報奨励金について、北京市では、一般基準が案件の貨幣価値金額の2~6%、特別基準(食品・医薬品の安全リスクを消除するなど重大な貢献があった場合)が最高30万元(約450万円、1元=約15円)としている。天津市では、一般基準が案件の貨幣価値金額の1.5~5%、特別基準が原則として30万元を下回らないとする。

消費者から賠償請求されたらどうするか

自社の商品やサービスの不備に対し、消費者から賠償請求されたらどうするか。例えば、飲料にガラス片が含まれているなど、自社に絶対的な落ち度がある場合には、協議、補償金の支払い、問題商品の回収を検討する。他方、わずかな瑕疵(かし)が存在するだけである場合は、プロ・クレーマーと交渉が可能である。交渉の目的は、プロ・クレーマーと合意することではなく、相手の商品所持状況、その主張と要求を知り、潜在する法的リスクと責任を分析し、のちに発生する可能性のある行政罰または訴訟の準備をすることである。プロ・クレーマーが行政機関に通報するか裁判所に提訴した場合は通常、プロ・クレーマーとの直接交渉になることはなく、行政機関または裁判所と連絡することになる。

なお、プロ・クレーマーの要求額が高額でなくても、示談で解決することは勧められない。一度、示談に応じると、長期的にプロ・クレーマーの格好の獲物となり、より多くのプロ・クレーマーがこの企業の「問題製品」を購入し、賠償請求を提示してくる恐れがあるからだ。示談で解決するとしても、代理人を立てて、簡単に応じない姿勢をみせることが重要である。

企業が積極的に対処しないと不利な結果に

プロ・クレーマーへの対応に当たり、1.代理店・流通業者、2.行政機関、3.司法機関、などの関係者の見解や態度が重要であるものの、関係者は必ずしも協力的ではないため、自社の積極的な対処が不可欠となる。

1. 代理店・流通業者

ある訴訟案件において、プロ・クレーマーが提示した商品のロット番号が、通報されたスーパーに納品された商品にはないことが分かり、スーパーの納品記録を調べた上で、行政機関から「被通報者の下で購入された商品ではない」として、案件が取り下げられた事例がある。このように、プロ・クレーマーから賠償請求された場合、メーカーと代理店・流通業者の間の協力が不可欠となる。

しかし、メーカーと代理店・流通業者の関係は、保証金制度や仕入れ代金の支払いサイトにおいて、代理店・流通業者側に資金面の優位がある。プロ・クレーマーから賠償請求された場合、代理店・流通業者側は、行政機関との関係を悪化させたくないという思惑が働き、消極的な態度となりがちである。例えば、行政罰の対象となる場合、行政罰の決定プロセスにおいて、代理店・流通業者が抗弁権を放棄する、訴訟への参加を望まないという消極的な態度である。こうした消極的な態度により、メーカーに不利な証拠が形成される、審判において重要事実の認定が困難になるといったリスクが高まる。代理店・流通業者の協力を得るには、賠償請求されてから対応するのではなく、消費者権益に係る賠償や罰金などの損失を、メーカーがすべて負担するといった「供給基本契約」の約定を見直しておくとともに、代理店・流通業者が協力する理由を探して説得をするなど、工夫が必要である。

2. 行政機関

行政罰の結果は、決定すると即、法的効力が生じ、行政不服申し立て、または行政訴訟によってしか撤回されない。また、前例として、他の行政罰案件の執行根拠となる可能性がある。

しかし、行政当局の法律に対する理解と認識の差で、事実関係が似た案件でも、異なる結論が出されることがある。例えば、上海市や広東省深セン市などでは、プロ・クレーマーを悪徳業者として厳しく取り締まる事例が出てきた。だが、大半の地方政府の行政当局は、企業と通報者に協議による解決を求め、解決できない場合は企業を処罰する傾向がある。

行政調査と処罰決定までのプロセスは、一定の時間を要する。行政当局がどのような立場をとるかにかかわらず、最も自社にとって有利な結果を得られるよう、行政当局と積極的に交流し、丁寧に事実関係を説明することが必要である。

3. 司法機関

「食品・薬品紛争案件の審理における法律適用にかかる若干の問題の最高裁判所の規定」(2013年公布)第3条では、食品、医薬品分野では、プロ・クレーマーという要素を考慮しない、司法機関の見解が示されている。「食品、医薬品の品質に問題があるために紛争が発生し、購入者は生産者、販売者に対して権利を主張、生産者および販売者が、購入者が食品、医薬品に品質問題があることを明らかに知りながら購入した、との理由で抗弁した場合、裁判所はこれを支持しない」としている。

しかし、裁判所の見解は常に変化しており、プロ・クレーマーを支持しない意識形成がされつつある。

例えば、ある消費者が、購入した月餅の添加物のアナトー色素についてラベル記載不一致などがあるとして、月餅メーカーと販売店舗に訴訟を提起した紛争事案において、北京市高等裁判所による2019年7月16日の再審判決が注目される。

同判決では、(1)係争食品が「食品安全法」の中の食品安全基準に対する不適合食品とはいえないこと、(2)同一店舗で1日に30箱の係争食品を購入、ラベル記載の誤りなどを理由に複数の訴訟を提起していた原告が係争食品のラベル記載に高く注目していたことは明らかであり、ラベル表示の瑕疵が原告に誤解をもたらすことはないこと、から食品安全法に規定される代金の10倍の賠償額の規定を適用すべきではない、との判決を下した。

専門知識がない分野について、当事者の説明を聞き、誠意をくみ取る裁判官もいることから、訴訟となった場合は、裁判官に積極的に説明する機会を設けることを検討すべきであるだろう。

商品ラベルの瑕疵やネット画像利用でも悪意の損害賠償請求が

販売活動において注目される、その他の問題を紹介する。

商品・サービスの品質・表示

製品品質法第50条は、不合格製品を合格製品と偽った場合、行政罰として、製造・販売の停止、違法に製造・販売した製品の没収、違法に製造・販売した製品の価値の50%以上3倍以下の罰金、違法所得の没収(違法所得がある場合)、営業許可証の取り消し(情状が重い場合)を規定し、犯罪を構成する場合は刑事責任を追及することを規定している。刑法第140条では、偽造粗悪商品生産販売罪の情状に応じた刑事責任を規定している(表参照)。

また同法第150条は、第140条に定める罰を企業・組織が犯した場合、企業・組織に罰金を科すほか、その直接の責任を負う主管者およびその他の直接責任者を、第140条の規定で処罰すると規定している。つまり、企業の責任者は、個人として刑事責任を負うことになる。行政罰、刑事罰ともに、立件基準に容易に到達しやすく、重大な法的責任を誘発しやすいことから、従業員にこうした知識を周知徹底する社内教育が重要である。

表:偽造粗悪商品生産販売罪の情状に応じた刑事責任
情状
(販売額)
刑事責任
5万元以上、20万元未満 2年以下の有期懲役もしくは拘役+販売金額の50%以上2倍以下の罰金
20万元以上、50万元未満 2年以上7年以下の有期懲役+販売金額の50%以上2倍以下の罰金
50万元以上、200万元未満 7年以上の有期懲役+販売金額の50%以上2倍以下の罰金
200万元以上 15年の有期懲役または無期懲役+販売金額の50%以上2倍以下の罰金または財産の没収

出所:刑法第140条を基にジェトロ作成

不合格製品の認定基準の留意点として、次の3点が挙げられる。(1)中国の標準体系は複雑であるため、自社製品/サービスに適用される標準を詳細に確認すること。(2)推奨基準(GB/T)であっても、地方政府や行政機関が定める法規に規定されたり、企業自ら引用することを宣言した基準は、強制性を持つこと。(3)製品ラベルや説明書に記載された内容は企業の法的義務となるので慎重に対応すること。

製品ラベル表示の瑕疵は、製品の品質問題ではないが、プロ・クレーマーが盛んに活動する注目分野である。

製品品質法第27条は、製品または包装上の標章について規定しており、主な内容は、製品の規格、等級、主要含有成分の名称および含有量について中国語で相応に明記すること、使用期限がある製品は目立つ位置に製造年月日と安全に使用できる期間または失効する日を明記すること、破損しやすい製品や人身や財産の安全に危害を及ぼす可能性がある製品は警告を付すこととなっている。同法第54条で、違反時の対応として、是正命令、生産・販売の停止命令、違法に生産・販売した製品の価額の30%以下の過料、違法所得の没収を規定している。

また、特別法が設けられている分野もあり、食品分野では、食品安全法第67条で、ラベルに表示しなければならない事項を列挙し、食品安全国家標準にラベル表示について別途規定がある場合はその規定に従うとしており、一例として、国家標準である「包装済み食品ラベル通則」(GB7718-2011)が適用される。

製品のリコール

中国の製品リコールの法体系は、一般製品については「欠陥消費品リコール管理弁法」で規定されている。たばこ、車両、民間用航空機、食品、医薬品、化粧品、医療機器、農薬など特殊な製品については、「薬品管理法」「食品リコール管理弁法」「欠陥自動車製品リコール管理条例」といった専門の法律法規がそれぞれ制定されている。

リコールの実施主体は、中国国内の生産企業であり、輸入品については製品を輸入する国内の総輸入元企業である。一般製品において、リコールの実施主体は、商品に欠陥が存在する可能性を知った場合、直ちに調査分析を行い、商品に欠陥があることを確認したら、直ちに措置を講じ、欠陥がある商品の生産・販売・輸入を停止しなければならない。特殊な製品については、それぞれ制定されている法律法規でリコール発動の条件が規定されている。

なお、リコールの実施主体は欠陥商品のリコールを行うことで、負担すべき法定の責任が免除されるわけではなく、責任は、製品品質法や消費者権益保護法などの関連法によって確定する。

広告・宣伝

広告法では、第9条に広告禁止事由を定めており、「国家級」「最高級」「最良」などの極限的語彙(ごい)の使用の禁止の違反は、プロ・クレーマーが注目し盛んに通報活動を起こしている分野である。広告法に違反すると、広告掲載の禁止、罰金、情状が重大な場合は営業許可や広告掲出登記証書が取り消される。この種の事案において、行政罰のプロセスに入ると、当局との交渉難度が極めて高くなるため、可能な限り立件を避けた方がよい。

広告の形態の中で、自社のウェブサイト、メディア広告、外部向けパンフレットやグッズは外部の目に留まりやすく、広告法違反を摘発されるリスクが高い。ウェブサイトについては、会社のサーバーが国外にあっても、中国国内で閲覧が可能であり、かつ製品が中国国内で販売されている場合、違法と認定されるリスクが存在するので、注意が必要だ。

実務対応上のアドバイスとしては、まず、既存の宣伝内容を社内で徹底的に確認し、リスクのある内容を消除する。また、営業や広告宣伝を担当する従業員に教育するとともに、新製品やサービスの宣伝内容のリーガルチェックを行うとよい。

地図・地名の表示問題

地図や地名は、国家主権の侵害、「一つの中国」原則への違背として、中国では政治問題となりやすい。例えば、中国民用航空局は2018年4月、国外の航空会社44社に対し、30日以内に各社のウェブサイトにおける台湾、香港、マカオの呼称を修正し、それらを独立国家として表示しないよう要求する文書を送付した。また、2019年8月には、複数の欧米のファッションブランドが、自社でデザインしたTシャツに香港、台湾を独立国家として表示したことが中国で批判を呼び、謝罪したほか、商品が売れなくなる事態が発生した。

政治的に敏感な地域の表示漏れやミス、不完全な国土表示、国境線や行政区域の境界線の作図の誤り、変形地図のみだりな使用は、広告法や地図管理条例に規定される行政罰が科され、情状が重大な場合は、国家安全危害罪の刑事責任を問われる可能性がある。また、行政許可における制限を被るリスクもある。

ネット画像、中国語フォントの利用

ウェブサイトに掲載している画像が著作権を侵害しているとして、その画像が著作権登記されている証拠の提供とともに、賠償が求められるケースが発生している。こうしたネット画像の著作権賠償請求においては、一部の原告が悪意で提起しているものもあり、慎重な対応が必要である。著作権賠償請求をされたら、まずは本当に権利侵害があったかを分析・確認する。その結果、権利侵害の可能性が否定できない場合は、被害を最小化する原則により、和解で解決する。権利を侵害していないことが確実である場合は、相手と交渉し、相手が訴訟を起こす姿勢が変わらなければ応訴の対応をする。

権利侵害リスクを未然に防ぐには、出所を確認できない画像は使用しないこと、自社または関連会社で撮影・作成した画像を使用すること、画像の作成者・登記した権利者から使用許可取得の契約を締結する方法がある。

同様に、中国語フォントの著作権についても注意が必要だ。中国国内最大のパソコンフォントの運営会社である北京北大方正電子は、同社で開発したフォントを利用する際に、許諾取得を必要とする行為を商業的配信として定めており、具体的には営利目的でフォントをビジュアルデザイン要素として複製、配信、展覧、放映、情報ネットワークでの伝達、放送などのフォントとして使用する行為としている。また、フォントの種類を、無料フォント、基本フォント、精選フォントの3種類に分けている。商業配信にも無料で使用できるフォントは、「方正仿宋」など4種類しかない。基本フォントと精選フォントは有料で、用途により費用基準が異なり、精選フォントは基本フォントの3倍の費用となっている。コンピュータOSに搭載されたフォントも、無料で使用できるとは限らない点に、留意が必要だ。

営業担当者の管理

営業活動において、社内不正行為が発生することがある。例えば、端材を、従業員の親族が経営するサプライヤーに廃棄品として安く売り、サプライヤーは加工後、高い価格で会社に販売する自己取引である。こうした社内不正行為の防止策は、企業経営者が講じるものと、従業員に向けて講じるものがある。企業経営者においては、関係管理規定を常に整備し、その制度の貫徹と執行が重要である。また、不正行為が発生した際、社内処分と民事・行政、刑事責任の追及といった迅速な処理も欠かせない。また、問題発見の手段として、内部による監督管理と外部による監督管理を制度化するべきである。従業員に対しては、コンプライアンスの概念を持つよう企業内の定期的な研修や賞罰の公告、従業員間の相互監督制度を機能させるための内部通報処理、解決メカニズムの構築が重要となる。

自己取引の不正を防止するには

セミナー参加者からの質問に対する講師の回答は次の通り。

質問:
自己取引の不正を防止するため、取引先が従業員の親族の会社かをどのように確認できるか。
答え:
実際の案件で、親族の会社であることを発見し、確認するためにとった方法は次の通り。
  1. 社内で関係従業員へのヒアリングを行い、自己取引に関与している社員の範囲を把握。
  2. 自己取引への関与が疑われる社員の家族成員に関する情報を(秘密裏に)調査。
  3. 自己取引の存在が疑われる会社に対し、調査・取得した工商登記資料より株主情報を閲覧。
  4. 前述の情報を分析、対比し、親族の会社と一部の事件に関与した社員に関連関係があることを確定。
  5. 最後に、事件に関与した社員本人の確認をとる。
質問:
裁判所はどのレベルでプロ・クレーマーと判断するのか。
答え:
一般に、以下のような要素を考慮して判断が行われる。
  1. クレーマーの通報や訴訟提起の件数や頻度、地域的範囲。
  2. クレーマーの職業の状況。正規の職業に就いていない場合、プロ・クレーマーであることが疑われる。
  3. クレーマーによる通報方式から判断。
    (1)金銭要求があるか。
    (2)一般消費者レベルではない法律や専門の知識を持っているか。
  4. クレーマー本人に確認、連絡を取った際の相手方の態度や言動。

注:
賠償の増加金額は、消費者の商品購入代金またはサービス利用料金の2倍。すなわち、代金・料金の返金+代金・料金と同額の賠償金を支払う。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 次長
日向 裕弥(ひなた ひろみ)
2016年からジェトロ・北京事務所勤務。

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