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TPP11と日EU・EPAの原産地証明制度の相違点

2019年1月23日

日本を含む環太平洋11カ国が参加するCPTPP(通称、TPP11)が2018年12月30日に発効した(注1)。日EU経済連携協定(日EU・EPA)も2019年2月1日の発効が見込まれている。2つの大型FTA(自由貿易協定)は、FTAに基づく特恵関税の適用を受けるための原産地証明制度として、「自己申告制度」が採用された点で共通している。他方、同制度の細部においては両協定で相違点もある。代表的な点としては、自己申告を行う方法と、原産地規則を満たしていることの輸入国税関による検認(確認、または検証ともいう)の2点が挙げられる。

唯一の原産地証明制度として自己申告を導入

日本の発効済みFTAではほとんどの場合、輸出産品が当事国の原産品であるかを第三者機関が判定し、証明書を発給する「第三者証明制度」が採用されてきた。2015年に発効した日本オーストラリアEPA(日豪EPA)では、第三者証明、または輸出者・生産者・輸入者のいずれかによる自己申告の選択制を導入しているが、自己申告が唯一の証明制度となるのは日本ではTPP11と日EU・EPAが初となる。世界的には、当初から自己申告を導入している米国だけでなく、EUも徐々に自己申告へ移行、ASEANでも試験的に実施されるなど、自己申告制度を導入するFTAが増加する傾向にある。

TPP11と日EU・EPAの自己申告制度の主な相違点としては、第1に申告の方法が挙げられる(表参照)。TPP11では、輸出者・生産者・輸入者のいずれかが原産地証明書を作成する(注2)。一方、日EU・EPAでは、(1)輸出者(生産者を含む、注3)が作成する原産地に関する申告文を仕入れ書(インボイス)などの商業書類上に記載、または(2)輸入者の知識に基づく申告(注4)という、輸出者、輸入者で異なる申告方法を規定している。

申告の方法については、実務面でも細かい相違点がある。TPP11では原産地証明書の記載事項は、同協定附属書3-Bに規定されているものの所定の書式はない。これに対し、日EU・EPAの輸出者による原産地に関する申告文は同協定附属書3-Dに書式が規定されている。輸入者の知識に基づく申告の場合は具体的な要求事項や書式は規定されていない。

申告に用いられる言語の要件も異なる。TPP11では、原産地証明書は英語での作成を原則とする。ただし輸入国は、英語以外の言語を用いた原産地証明書については、自国の言語による翻訳文を提出するよう要求することができる。これに対し、日EU・EPAでは原産地申告文はEU加盟国の公式言語および日本語の24言語のいずれかで作成すればよく、輸入税関は申告文の翻訳を要求してはならない(注5)。

2番目の大きな相違点として、輸出国の当事者に対する検認の実施方法の違いが挙げられる。両協定とも、輸入国税関が輸入者に対して、輸入時もしくは事後に情報提供を求めることができる点は共通している。しかし、TPP11は輸入国税関が直接輸出者または生産者に検認を行う制度(輸出者または生産者が原産地証明書を作成した場合に限る)であるのに対し、日EU・EPAでは輸入国税関による輸出国税関への情報提供の要求を受け、輸出国税関が輸出者に検認を行い、その結果を輸入国税関に回答するという間接的な検認制度が設定されている(輸出者が作成した原産地に関する申告文に基づく場合に限る)。

以上の2点が代表的な相違点と言えるが、他にも違いがある。例えば、申告の根拠となった証拠書類の保管義務の期間が両協定で異なる。TPP11では輸出者・生産者は書類を作成した日から、また輸入者は輸入の日から最低5年間、原産性を満たすことを示す全ての記録を保管する義務がある。これに対し、日EU・EPAでは、輸出者は申告を作成した後最低4年間、輸入者は輸入の日から最低3年間と、輸出側・輸入側で異なる保存期間が設定されている(注6)。

その他、TPP11では通関時に特恵関税の適用を申告しなかった場合でも、その資格を有しており、輸入から原則1年以内であれば、事後申告により支払った関税の還付を受けることができるのに対し、日EU・EPAではそのような還付制度が認められていない、などの違いがある。

表:TPP11と日EU・EPAの原産地証明制度の主な相違点(―は値なし)
項目 TPP11 TPP11
根拠規定
日EU・EPA 日EU・EPA 根拠規定
自己申告の方法 輸出者・生産者・輸入者のいずれかが原産地証明書を作成 3.20条1 (1)輸出者(生産者を含む)が作成する原産地に関する申告文を仕入れ書(インボイス)その他の商業上の書類上に作成、または (2)輸入者の知識に基づく申告 3.16条2
自己申告の書式 記載事項は規定されているものの所定の書式はない 附属書3-B (1)原産地に関する申告文の書式、記載事項の規定あり
(2)輸入者の知識の基づく申告の要求事項は明示がない
附属書3-D
使用言語 原産地証明書は英語での作成を原則とする。英語以外の言語を用いた場合、輸入国は自国言語による翻訳文の提出を要求することができる 3.20条6 原産地に関する申告文はEU加盟国の公式言語および日本語の24言語のいずれかで作成。輸入税関は申告文の翻訳を要求してはならない 3.17条2、附属書3-D
輸入国税関による輸出者・生産者への検認(確認・検証) 輸入国税関が直接輸出者・生産者に検認を行う 3.27条1、2 輸入国税関が輸出国税関に情報提供の要請を行い、輸出国税関が輸出者・生産者に検認を行い、その結果を輸入国税関に回答する 3.22条2
証明書類の保管義務 輸出者または生産者が書類を作成した日から、輸入者は輸入の日からいずれも最低5年間 3.26条1、2 輸出者は(自己申告文を作成した場合)最低4年間。輸入者は輸入の日の後最低3年間 3.19条1、2
輸入後の特恵関税適用の遡及申請 資格を有していれば、輸入から原則1年以内であれば事後申告により支払った関税の還付を受けることができる 3.29条1 認められない(規定なし)
注:
根拠規定は各協定の主たる条項。制度の内容は簡略化して記載しており、詳細は協定文に従う。
出所:
CPTPP協定、日EU・EPA協定を基に作成

以下では、代表的な相違点である自己申告の方法と、輸出者への検認の実施について、そのような制度となった背景やFTA利用企業が留意すべきポイントを検討する。

異なる自己申告の方法を規定

(1)TPP11:いずれかの当事者が原産地証明書を作成

第1の相違点である自己申告の方法について、関連する協定を参照しつつ、制度が導入された背景を検討してみたい。まずTPP11は、米国が元のTPPから離脱したものの、原産地規則の内容は元のTPP協定から変わっておらず、米国のFTAの影響を色濃く受けていると考えられる。実際、米国はTPP参加国のうち6カ国とFTAを有し、それぞれ自己申告制度が採用されている。そのうち最も早い1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)では、原産地証明書は輸出者が作成する制度となっている。その後発効した米国シンガポールFTA(2004年)と米国オーストラリアFTA(2005年)では、原産地申告は輸入者がその知識や所有する情報に基づいて行うと規定されている。これに対し、米国チリFTA(2004年)では、原産地証明書を輸出者、生産者また輸入者(以下、いずれかの当事者)が作成するというTPP11に近い内容となっている。米国ペルーFTA(2009年)では、いずれかの当事者が作成する原産地証明書、または輸入者の知識や所有する情報に基づく申告となっている。TPP参加国以外の米国FTAでは、米国韓国FTA(2012年)も米ペルーFTAと同様である。

また、日豪EPAでは、前述のとおり選択的ながら、いずれかの当事者が作成する原産地証明書を用いることができる。TPP11の中でも経済規模の大きい日本、オーストラリアの両国間で、自己証明制度を実現していたことも、TPP11当事国間での合意を促した要素に挙げられるだろう。

(2)日EU・EPA:輸出者と輸入者で異なる証明方法を採用

EUは従来、FTAの原産地証明制度として、EU南アフリカFTA(EU南アTDCA、2000年)のように、第三者証明制度を採用していた。その後、EU韓国FTA(2011年)、EUシンガポールFTA(未発効)などでは、一定金額以上の輸出を行う場合、輸出者は事前に認定輸出者としての承認を受けなければならない認定輸出者証明制度に移行した。さらに近年は、2014年に大幅改訂された一般特恵制度(GSP)およびEUカナダFTA(2017年より適用開始)において、事前の認定を簡略化し、登録輸出者番号(REX番号)を所有する輸出者であれば誰でも原産地申告を行うことができる自己申告制度に移行している。日EU・EPAの自己申告制度でも、EU側はREX番号を採用しており、EUカナダFTAの延長線上にあると言える。TPP11ではいずれかの当事者が原産地証明書を作成するのに対し、日EU・EPAでは輸出者が、原産地に関する申告文を仕入れ書(インボイス)あるいはその他の商業書類上に記載する。「その他の商業上の書類」には、EU側の運用では貨物引き渡し通知書(delivery note)やパッキングリストが含まれる。

EUカナダFTAおよび日EU・EPAにそれぞれ規定される自己申告文の協定上の書式を比較すると、日EU・EPAでは、原産性を判定する上で用いられた基準(関税番号変更基準、付加価値基準など)を記号で入力する。一方、EUカナダでは同基準の記入は不要だ。なお、EUカナダFTAでの自己申告文の言語は、両国・地域の公用言語で作成可能なものの、日EU・EPAと異なり、輸入国税関が要請する場合、輸入者が翻訳版を提出しなければならない。

次に、「輸入者の知識に基づく申告」は、日EU双方にとって初めて導入された概念だ。同じ概念ではないものの、日豪EPAの自己申告制度には、類似する規定(注7)があり、日EU・EPAにも影響を与えた可能性がある。

日EU・EPAでは、「輸入者の知識に基づく申告」の場合、検認は輸入者に対してのみ実施される。輸入者は原産性の証明に必要な全ての書類を有している必要があり、実際の運用においては、「輸入者の知識に基づく申告」を活用する企業は、輸出者側と輸入者側が親子会社である場合など、原産性に関する情報の提供に支障がないケースに限られると考えられる。

検認の相違点を考慮した準備を

(1)TPP11における検認:輸入国税関が輸出国に直接検認を実施

TPP11では、輸入国税関が直接輸出者・生産者に書面または訪問による検認を行う。TPPの原産地規則の形成に影響を与えた米国の場合、NAFTAや米オーストラリアFTAなどでこの方式が採られている。日系企業の利用実績の多いNAFTAに関しては、特にメキシコから米国への輸出で米国税関国境取締局(CBP)から検認を受けた事例も報告されている。例えば、在メキシコ日系自動車部品メーカーは「過去に1度、NAFTA利用でCBPの検認を受けたことがあるが、CBPに情報やデータを開示することで解決した」という実例を紹介している(注8)。日本の場合、これまで第三者証明制度に基づくFTA利用では、輸入国税関から経済産業省、日本商工会議所を経由して間接的に輸出者・生産者に検認が行われてきた。ただし、日豪EPAでは制度上、輸入国税関から直接、輸出者・生産者に検認を行うことができると規定されている(日豪EPA第3.21条2項(c)および(d))。

輸入国による直接的な検認に対する留意点としては、原産性を示す根拠資料を英語で準備することへの負担感が指摘される。この点、TPP11では、輸入国税関による書面での検認要求を受けた輸出者、生産者、輸入者には少なくとも30日間の回答期間、訪問の場合も視察を受け入れるかどうかの回答に30日の猶予期間が認められており、この間に、関連書類の翻訳など準備を進めることができる。また、輸入国による直接的な検認では、輸入国側の求めに応じ、適当と認める場合には輸出国当局が支援を行うことができるほか、輸入国当局が訪問を行う場合は輸出国当局に輸出国側企業への同行の機会が与えられる。つまり、輸出者・生産者は必ずしも自社のみで輸入国税関に対応しなければならないという制度ではない。

(2)日EU・EPAにおける検認:まずは輸入者。必要な場合のみ、輸出国税関を通じ間接的に実施

日EU・EPAでは、輸入国税関が検認を行う場合、まずは必ず輸入者に対して行われることが明記されている(第3.21条1項および第3.22条2項)。輸出者に対する検認は、輸入者への検認後、輸入国税関が追加の情報が必要であると認めた場合にのみ実施される。その場合、輸出国の税関当局に情報の提供を要請する。例えば、日本からの輸出の場合、輸出者に対してはEU側の輸入税関が日本の税関に協力を要請し、日本の税関が輸出者に確認を行う。

日本では、EUのこれまでのFTAにおいて多数の検認事例が報告されているとの情報(注9)に基づき、日本からEU向け輸出に対しても、検認事例が増えるのではないかとの見方がある。この点ではまず、EUの検認の実態を理解する必要がある。EU韓国FTA、EUカナダFTAなどのEUのFTAにおける自己申告の書式上では、原産性判定に用いた基準の記載は求められていない。これらのFTAではEUへの輸入では、原産性判定基準は検認の際に確認されてきた。EUの税関当局が検認として実施してきた内容には、日本のこれまでのFTAであれば検認に当たらない軽微な場合も含まれていたと考えられる。その運用においても、EUの税関当局によれば、EUカナダFTAでは、2017年9月の適用開始以降、検認が行われた件数はごくわずかである。

さらに、日EU・EPAでは、輸入国税関が最初の検認を輸入者に対して行った際、必要な情報を原産地に関する自己申告文を作成した輸出者が所有している場合、輸出者が輸入者を経由せず直接輸入国税関に提供する仕組みを設けている(第3.21条4項)。これまで検認事例が多いとみられるEU韓国FTAには、このような仕組みが規定されていないため、輸入者が輸出者に情報提供を依頼し、機密保持の観点から輸出者が提供を拒んだ場合に、輸入国税関は輸出者への検認という形をとってきたと推定される。日EU・EPAの上記規定は、このようなケースでの輸出者への検認件数を抑制する効果があると期待される。

自己申告制度に対しては、一般に、第三者証明制度の下で原産地証明書発給にかかっていたコストや時間を圧縮する効果が期待される。他方、第三者機関が事前の確認を行う従来のFTA原産地手続きに慣れてきた企業からは新しい制度への戸惑いの声も聞かれる。両協定の自己申告制度、検認制度の相違点も考慮した準備と対応が必要になる(注10)。


注1:
正式名称は「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」。発効時点では、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアの6カ国間で発効。2018年11月15日に手続きを完了したベトナムは、2019年1月14日から発効した。他の4カ国については、それぞれ批准を完了し、寄託国(ニュージーランド)への通報を終えた時点から60日後に発効する。
注2:
シンガポール以外のTPP11参加ASEAN国(ベトナム、マレーシア、ブルネイ)、メキシコ、ペルーの計5カ国については、輸入者による自己申告の実施をそれぞれの国においてTPP11が発効した時点から5年以内に行うと規定され、一定期間の履行猶予が認められている(CPTPP協定第3.20条1項注2)。また、協定が自国について発効する時点で他の締約国に通報している場合に限り、5年を限度に輸出に際して、第三者証明または認定輸出者証明を利用することも認められている(同附属書三-Aの2)。
注3:
日EU・EPA第3.1条では、「輸出者」とは「原産品を輸出し、または生産するもの(原産地に関する申告を作成する者に限る)」と定義されており、同協定における輸出者には、原産地申告を行う生産者も含まれる。本稿でも、以下同様。
注4:
産品が日EU・EPA上、輸出締約国の原産品であるという輸入者の知識(日EU・EPA第3.18条)。日本からの輸出の場合、欧州委員会が「輸入者の知識」に関するガイダンスPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(338KB) を公表している(1月9日付)。
注5:
日EU・EPA第3.17条2項。ただし、実務においては、英語による申告文の作成が最も問題が生じにくいと考えられる。
注6:
日本への輸入に関する書類は、関税法上、5年間の保管義務がある。
注7:
輸入者が原産地証明書を作成する場合、「当該産品が原産品である旨の輸出者または生産者による申告に対する合理的な信頼」に基づいて作成することができる(日豪EPA第3.16条1項(b))。輸入者は一義的には産品の生産に関わる情報を持っていないという前提に基づき、輸入者が輸出者・生産者から入手できた情報に基づいて申告を行うという観点で、日EU・EPAの「輸入者の知識に基づく申告」に類似している。
注8:
ジェトロ海外事務所によるヒアリングに基づく(『2018年版ジェトロ世界貿易投資報告』92ページ参照PDFファイル(KB) )。
注9:
特に、韓国からの輸出でEUの税関当局が韓国企業に対し(EU韓国FTAも輸出国税関を通じた間接的な検認制度)、多数の検認を実施したとみられている。嶋正和「メガFTAの進展と企業が考えること」(『貿易と関税』2018年2月、36ページ)によれば、韓国がEUから受けた検認の数は2014年に2,822件あった。
注10:
日本への輸入に関しては、2019年1月15日現在、財務省税関が「日EU・EPA及びTPP11(CPTPP)に係る業務説明会資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」および「自己申告制度」利用の手引きPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(409KB) 」を公表している。また、日EU・EPAについて欧州委員会からは利用ガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が公表されている(1月9日時点)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
安田 啓(やすだ あきら)
2002年、ジェトロ入構。経済情報部、ジェトロ千葉、海外調査部、公益財団法人世界平和研究所出向を経て現職。共著『WTOハンドブック』、編著『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)、共著『メガFTA時代の新通商戦略』(文眞堂)など。

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