成長を続ける中国動画市場

2019年9月13日

中国の動画市場が成長を続ける中、劇場での日本映画の上映本数が増加している。この数年、原作提供や合作といった形式での日本企業と中国企業の提携が活発だ。独自のルールが存在する中国の動画業界においては、日本企業は現地に合わせたビジネス展開をしていく必要がある。

日本映画の劇場公開増える

ここ数年、中国で劇場公開される日本映画が増えてきている。日中合作映画を除くと、2013年から2014年にかけては日本映画の上映がなかったが、2015年は2作品、2016年は11作品、2017年は9作品、2018年は15作品あった。2019年は8月時点で15作品を超えて上映されている。2018年までに中国で上映が開始された、日本映画の興行収入上位10作品は表1のとおりだ。

表1:2018年までに中国で上映されたに日本映画の興行収入上位10作品(単位:元)
順位 作品名(日本語) カテゴリー 中国での上映日 興行収入
1 君の名は。 アニメ 2016年12月2日 5億7,685万
2 STAND BY ME ドラえもん アニメ 2015年5月28日 5億3,032万
3 ドラえもん のび太の宝島 アニメ 2018年6月1日 2億929万
4 となりのトトロ アニメ 2018年12月14日 1億7,373万
5 ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険 アニメ 2017年5月30日 1億4,890万
6 名探偵コナン ゼロの執行人 アニメ 2018年11月9日 1億2,740万
7 ONE PIECE FILM GOLD アニメ 2016年11月11日 1億734万
8 ドラえもん 新・のび太の日本誕生 アニメ 2016年7月22日 1億364万
9 BORUTO -NARUTO THE MOVIE- アニメ 2016年2月18日 1億322万
10 万引き家族 実写 2018年8月3日 9,675万

出所:CBO中国票房ウェブサイト掲載データを基にジェトロ作成

ちなみに、2018年の中国における映画の興行収入上位10作品をみると、中国映画が6本、米国映画が4本となっている(表2参照)。

表2:2018年 の中国における映画の興行収入上位10作品(単位:元)
順位 作品名 ジャンル 制作国・
地域
中国での上映日 興行収入
中国語 英語
1 紅海行動 Operation Red Sea アクション 中国/
香港
2018年2月16日 36億5,078万
2 唐人街探案2 Detective Chinatown Vol 2 コメディ 中国 2018年2月16日 33億9,769万
3 我不是薬神 Dying to Survive ストーリー 中国 2018年7月5日 30億9,996万
4 西虹市首富 Hello Mr. Billionaire コメディ 中国 2018年7月27日 25億4,757万
5 復仇者連盟3:無限戦争 Avengers: Infinity War アクション 米国 2018年5月11日 23億9,053万
6 捉妖記2 Monster Hunt 2 コメディ 香港/
中国
2018年2月16日 22億3,708万
7 毒液:致命守護者 Venom アクション 米国 2018年11月9日 18億7,013万
8 海王 Aquaman アクション 米国 2018年12月7日 18億5,218万
9 侏羅紀世界2 Jurassic World: Fallen Kingdom アクション 米国 2018年6月15日 16億9,588万
10 前任3 The Ex-File: The Return of the Exes コメディ 中国 2017年12月29日 16億4,667万

注:2018年上映分の興行収入であり、2017年および2019年上映分は含んでいない。
出所:CBO中国票房ウェブサイト掲載データを基にジェトロ作成

本稿執筆(2019年8月30日)時点では、2019年の中国における映画の興行収入1位は国産サイエンス・フィクション(SF)映画「流浪地球」(2019年2月公開)の46億5,575万元、2位は国産アニメ映画「哪吒之魔童降世」(2019年7月公開)の46億60万元、3位は米国映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年4月公開)の42億3,762万元となっている。

国家電影局の発表によると、2018年の中国における映画興行収入は前年比9.1%増の609億7,600万元(約9,146億4,000万円、1元=約15円)であった。同年の北米における映画興行収入は前年比7.2%増の119億ドル(約1兆2,733億円、1ドル=約107円)であり(注1)、中国の映画市場規模は北米に迫りつつある。中国の興行収入が増加している要因の1つにはスクリーン数の増加がある。中国のスクリーン数は、2016年に米国を超え、世界最多となった。さらに、2018年に中国で新設されたスクリーン数は9,303面、スクリーン総数は6万79面に達した。中国映画市場の成長を受けてか、米国に先駆け、中国で公開される米国映画も出てきている。

若者を中心にテレビからネット動画へ

中国における2018年のテレビの1日当たり平均視聴時間は、前年比7.2%減の129分だった(図参照)。

図:中国におけるテレビの1日当たり平均視聴時間の推移
2018年は前年比7.2%減の129分だった。

出所:「2018年テレビ視聴市場回顧」を基にジェトロ作成

年齢別にみると、4歳から14歳は7.9%減の105分、15歳から24歳は12.9%減の61分、25歳から34歳は13.5%減の77分、35歳から44歳は12.0%減の95分、45歳から54歳は7.9%減の163分、55歳から64歳は4.2%減の230分、65歳以上は1.1%増の276分だった(注2)。若い世代を中心にテレビ離れが進んでいる。

一方で、2018年のネット動画ユーザー数は、前年比3,309万人増の6億1,200万人で、インターネットユーザー全体の73.9%を占めている(注3)。日本のアニメなども、インターネット上での配信が主流になっている。

「2018年中国インターネット視聴発展研究報告」によると、2018年のオンライン動画市場規模は前年比31.2%増の1,249億5,000万元になる見込みとした。ネット動画ユーザーによる課金の割合は、前年比10.2ポイント上昇の53.1%となり、初めて半数を超えた。オンライン動画業界では、主なビジネスモデルは広告収入、ユーザー課金などによるものだが、近年は収入のうち、広告が占める割合は横ばいであるものの、ユーザー課金の割合は年々増えているようだ。

日本とは異なる独特のルール

以上のように、中国の映画市場およびネット動画配信市場は成長を続けているが、日本とは異なる独自のルールが存在する。

例えば、中国では劇場で上映される映画は、国産映画、海外映画を問わず、事前の内容審査があり、2017年3月1日に施行された中国映画産業促進法の第16条では映画に含んではならない内容を規定している(次の参考を参照)。業界関係者は、このような規制は少なくとも近い将来においてはなくなることはないと見ている。

参考:中国映画産業促進法第16条における映画に含んではならない内容

  1. 憲法で定められた基本原則に違反し、憲法、法律および行政法規の実施に対して抵抗または破壊を煽動すること。
  2. 国家統一、主権および領土保全に危害を及ぼし、国家機密を漏えいし、国家の安全に危害を及ぼし、国家の尊厳、名誉および利益を損ない、テロリズム、過激主義を宣伝すること。
  3. 民族の優秀な文化的伝統を中傷し、民族への恨み、民族差別を煽動し、民族の風俗習慣を侵害し、民族の歴史または民族の歴史上の人物を歪曲し、民族感情を傷付け、民族の団結を破壊すること。
  4. 国家の宗教政策の破壊を煽動し、邪教、迷信を宣伝すること。
  5. 社会道徳に危害を及ぼし、社会秩序を乱し、社会の安定を破壊し、ポルノ、賭博、薬物を宣伝し、暴力、テロリズムを誇張し、犯罪の教唆または犯罪方法の伝授を行うこと。
  6. 未成年者の合法的な権益を侵害し、または未成年者の心身の健康を損なうこと。
  7. 他人を侮辱、誹謗し、他人のプライバシーを流布させ、他人の合法的な権益を侵害すること。
  8. 法律、行政法規で禁じられているその他の内容。

出所:中国映画産業促進法を基にジェトロ作成

また、中国では海外映画の1年間当たりの輸入数について、量的規制があり、さらに海外映画の中国における展開には、「文帳」と呼ばれる利益分配方式、買い上げ方式の2つがあるが、原則、日本映画は買い上げ方式で展開されている。

テレビの放映にも事前審査や規制が存在している。例えば、2012年2月に発布された「広電総局による海外ドラマ輸入および放送管理のさらなる強化と改定に関する通知」では、海外ドラマは午後7時から10時の間にテレビで放送することを禁止し、各テレビチャンネルで1日に放送する海外ドラマは、その日の当該チャンネルで放送するドラマの25 %を超えてはならないとしている。2013年10月に発布された「2014年のテレビ番組編成および登記業務の実行に関する通知」では、各チャンネルでの新規の海外フォーマット番組の放送は1年間で1番組を超えてはならず、また午後7時30分から10時の間に放送してはいけないとしている。

一方で、インターネット上の動画配信の規制は、テンセントビデオ、iQIYI、Youkuなどの動画配信プラットフォーム自身による自主規制による部分が大きく、これまではテレビ放映ほど厳しい運用はされていなかったが、将来的には厳格化されていくものと見られている。

変化する映像コンテンツの日中ビジネス

映画やアニメなどで、原作提供や合作といった形式を通じ日本企業と中国企業が提携する動きは以前からあったが、ここ数年は特に加速している。

映画では、例えば日中合作映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」(2017年12月公開)があり、興行収入5億3,003万元であった。日本映画として考えると、非常に良い成績であったといえる。東野圭吾原作の小説を基に中国で実写化された「容疑者Xの献身」(2017年3月公開)は興行収入4億203万元、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017年12月公開)は2億2,305万元であった。日本のドラマをリメイクして映画化された「101回目のプロポーズ~SAY YES~」(2013年2月公開)は2億1万元であった。興行収入6億3,930万元であった米国映画「名探偵ピカチュウ」(2019年5月公開)も、日本のIP(Intellectual Property)を活用した作品だ。

アニメについては、2016年ごろから中国側が小説や漫画といった原作を提供した上で投資をし、日本側が製作をするという共同制作アニメが増えている。中国側の企業には、騰訊動漫 (テンセントアニメーション)、iQIYI、優酷動漫、絵夢動画、杰外動漫などがある(注4)。

現地に合わせたビジネスモデルを

日本から映像コンテンツを輸出するという既存の形式で中国市場に参入する場合、日本国内と同様に、中国においても、収益を最大化するため、その映像コンテンツのIPを利用したマーチャンダイジング(商品化計画)の展開が期待される。この際にビジネスの足かせにならないよう、中国市場への参入前に自社自身による中国での商標登録を忘れないよう注意が必要だ。

中国企業との折衝、調整、交渉は予定調和に進まないことも多く、またスケジュールの遅延、想定外の原作の改変の可能性などもあり、一筋縄ではいかないと思われるものの、リスク低減を視野に入れ、原作やIPの提供、合作といったアプローチによる中国市場への参入を検討するのも1つの方法であろう。


注1:
アメリカ映画協会(MPAA)「2018 Theatrical Home Entertainment Market Environment (THEME) Report」。
注2:
視聴中国2018年2月号「2017年全国テレビ視聴市場回顧」、2019年2月号「2018年テレビ視聴市場回顧」。
注3:
中国インターネット情報センター(CNNIC)「第43回中国インターネット発展状況統計報告」。
注4:
ジェトロ「中国アニメ市場調査」(2018年3月)。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 知的財産部 副部長
赤澤 陽平(あかざわ ようへい)
2008年、ジェトロ入講。生活文化産業企画課(2008~2012年)、ジェトロ盛岡(2012~2015年)を経て2015年4月より現職。