キューバのビジネス機会と必要な基礎知識と注意ポイント

2019年12月11日

2019年11月に開催された第37回ハバナ国際見本市には50カ国・760社が参加したが、米国のオバマ前政権下でキューバに注目が集まっていた時期と比べると少なく、2016年比では約4割減少した。また会期中には、投資機会ポートフォリオの改訂版と460の有望案件が公開された。ただし、キューバとのビジネスには、同国の経済システムや米国による経済制裁の内容を十分理解する必要がある。

ハバナ国際見本市への出展社数はトランプ政権発足後に減少

2019年11月4~8日に、キューバの首都ハバナにおいて、第37回ハバナ国際見本市(FIHAV2019)が開催された。本見本市は同国最大の総合見本市で、50カ国・760社が参加した。ジェトロは、日本のインフラシステムを中心に広報展示を行った。日本企業では太知ホールディングスが多目的印刷機械を展示し、多くの来場者からの引き合いに応えた。過去のハバナ国際見本市では、ジェトロは1998年に初めて参加(単独の広報出展)し、2000年には日本企業3社とともにジャパンパビリオンを形成して出展した。2008~2014年は出展を取りやめたもの、2014年末の米国のオバマ前大統領のキューバへの歩み寄りや、翌年の両国の国交回復を機に世界的にキューバへ注目が集まり、ジェトロは2015年にジャパンパビリオンを12年ぶりに設置。以降、2018年まで4年連続で、日本企業の出展を伴うジャパンパビリオンを組織した。

ハバナ国際見本市への出展者数は、2016年に73カ国・約1,300社を数えたものの、トランプ政権発足後は米国とキューバの関係の冷え込みなどに起因し、2019年には2016年比で約4割減少した。国別の出展者数を前年の2018年と比較すると、キューバの同盟国であるベネズエラが約8割(56社)減となったことが大きい(表1参照)。イタリアやブラジルもそれぞれ38社減、37社減と大きく数を減らした。他方、ロシアの出展社数は約1.5倍となり、資源関係を中心に展示が行われた。

表1:FIHAV2019の出展国および出展者数ランキング(△はマイナス値)(単位:社、%)
順位 国名 出展者数 構成比
2019年 2018年 増減数 増減割合 2019年
1 キューバ 197 152 45 29.6 25.9
2 スペイン 116 127 △ 11 △ 8.7 15.3
3 イタリア 56 94 △ 38 △ 40.4 7.4
4 ドイツ 38 36 2 5.6 5.0
5 カナダ 38 61 △ 23 △ 37.7 5.0
6 ロシア 37 24 13 54.2 4.9
7 ポルトガル 26 35 △ 9 △ 25.7 3.4
8 パナマ 25 27 △ 2 △ 7.4 3.3
9 ブラジル 24 61 △ 37 △ 60.7 3.2
10 メキシコ 20 31 △ 11 △ 35.5 2.6
11 ベネズエラ 16 72 △ 56 △ 77.8 2.1
12 ベトナム 16 15 1 6.7 2.1
13 アルゼンチン 15 11 4 36.4 2.0
14 フランス 15 40 △ 25 △ 62.5 2.0
15 チリ 12 10 2 20.0 1.6
16 米国 10 17 △ 7 △ 41.2 1.3
17 チェコ 10 12 △ 2 △ 16.7 1.3
18 キュラソー 9 18 △ 9 △ 50.0 1.2
19 韓国 9 13 △ 4 △ 30.8 1.2
20 オランダ 8 20 △ 12 △ 60.0 1.1
日本 2 14 △ 12 △ 85.7 0.3
その他 61 12 49 408.3 8.0
合計 760 902 △ 142 △ 15.7 100

出所:FIHAV2019公式出展者ダイレクトリー

キューバとのビジネスシステムを熟知するスペイン

出展国のうち、最も特徴的なのはスペインだ。スペインはキューバの旧宗主国であり、ビジネス面で大きな存在感を示している。スペイン貿易投資庁(ICEX)のFIHAV2019出展報告書によると、2019年は前年比11社減の116社となったものの、引き続きキューバ市場でのビジネスを展開したいという企業が多いようだ。ジェトロがFIHAVの会場においてICEXの担当者へインタビューをしたところ、「スペイン企業はキューバとのビジネスの仕方をよく理解している場合が多い。また、例えばキューバからの外国送金はスペインの銀行を経由することが多いため、取引面で他国よりも関わりが深い」とコメントした。

投資機会ポートフォリオの案件数は初の減少に

ハバナ国際見本市の開会式には、ディアス・カネル大統領とロドリゴ・マルミエルカ外国貿易・外国投資相が出席した。同相は開会あいさつで、2014年の新外国投資法(法律118号)によって外国企業のキューバへの投資が容易になったこと、同法に合わせた改正細則によって外国企業に対応するための単一窓口を設置すること、投資を希望する外国企業の審査要件が緩和されたこと(2018年9月以降)など、キューバ国内での手続きなどを柔軟化させていることを強調した。

ハバナ国際見本市に合わせて、キューバ政府は毎年、展示会場内で投資機会フォーラムを開催し、国内への投資が必要・有望と考えられる案件を「投資機会ポートフォリオ(Cartera de oportunidades de inversión extranjera)」として発表している。マルミエルカ外国貿易・外国投資相が冒頭のプレゼンテーションで、2019~2020年版の投資機会ポートフォリオを公開した。これまで、2014~2018年の案件数はそれぞれ246件、326件、395件、456件、525件と右肩上がりで増加していたものの、2019年は460件で前年比65件減となった(図参照)。また、予想投資総額は117億4,500万ドルと試算された。2018年度版から、125件のプロジェクトが達成されたとしてポートフォリオから外れたことが案件数の減少の要因、と同相は述べた。2019年版に追加された新規案件の多くは食品産業、軽工業、製鉄、化学品産業、観光産業、鉱業であった。460件をセクター別に見てみると、観光産業が116件と最多で、石油産業が114件、農産食品産業が81件と続き、上位3位で全案件の約68%を占めているなど、偏りが見られた。

図:投資機会ポートフォリオの案件数の推移
2014年は246件、2015年は326件、2016年は395件、2017年は456件、2018年は525件。2019年は460件。

出所:外国貿易・外国投資省(MINCEX)

キューバ国内の地域別にも案件数が発表され、首都ハバナ市が最多の76件だった。最重要案件は6種類で、(1)プラスチック容器と缶容器のリサイクル製造、(2)小麦粉の製造、(3)ラム酒工場の拡大と現代化、(4)キューバの主産業の1つである、たばこを入れる強固なチューブの製造と販売、(5)ハバナ市と同市東部の観光開発、(6)アイスクリームの製造と販売、となっている。外国貿易・外国投資省(MINCEX)によると、(1)のリサイクル製造は急務になっているとのことだ。キューバ国内では、石油不足により商業や物流が滞っており(詳細は後述)、石油製品も新品のほかにリサイクル技術を活用した製造が必要になっているためだ。

マリエル特別開発区への承認企業が50社に到達

投資機会ポートフォリオの説明に続き、マリエル特別開発区(ZEDM)の最新状況がMINCEXのアナ・ガルシア部長から発表された。同区では、税制や輸出入手続きなどの恩典を享受することができる。なお、外資法上は100%外国資本での拠点設立は認められているものの、区外で政府がそれを承認することはまれで、ほとんどが区内で承認されている。ガルシア部長によると、マリエル特別開発区内での投資が承認された企業は50に達し、26社が現在手続き中だ。承認企業の資本別内訳は、キューバ資本100%が7社、外国資本100%が29社、合資会社(キューバ国営企業との合弁)が12社、国際経済連携契約(キューバ国営企業への生産委託契約)が2社だ(表2参照)。

表2:マリエル特別開発区(ZEDM)への投資状況(2019年11月)
承認企業数 50社
総投資受入額 230億ドル
直接雇用者数 7,476人
投資国数 21カ国〔スペイン(12)、キューバ(7)、イタリア(3)、ベトナム(3)フランス(3)、ベルギー(2)、オランダ(2)、ポルトガル(2)、ロシア(2)、メキシコ(2)、カナダ(2)、ブラジル(2)、スイス(1)、英国(1)、ドイツ(1)、米国(1)、チリ(1)、エルサルバドル(1)、中国(1)、韓国(1)、プエルトリコ(1)〕
セクター別企業数 製造(13)、ロジスティクス(11)、建設(7)、食品(6)、金融(2)、石油・エネルギー(2)、バイオテクノロジー(2)、医療機器(2)、デベロッパー(1)、再生エネルギー(1)、観光(1)、農産業(1)、不動産(1)

注1:カッコ内は承認済み企業数。
注2:投資国数の欄の承認済み企業数は政府発表の数字を記載。
出所:外国貿易・外国投資省(MINCEX)

同フォーラムではマルミエルカ外国貿易・外国投資相が、各国の政府機関、投資家、メディアに対して、キューバ経済の現状について述べた。その第1は「経済状態は悪い」だった。同相は同フォーラムに限らず、あらゆる場面で経済状況の悪さの要因を「米国による経済ブロックによるものだ。金融制裁がキューバの発展の阻害要因になっている」と述べている。また続けて、「在米キューバ人が祖国へ渡航することを制限することや、米国企業がキューバにおいてビジネスを行うことを阻害している。ヘルムズ・バートン法第3編の発効(ウェーバー中止)がキューバ国内での第三国企業に大きな影響を与え得る状況にある。それがさらに、外国企業のキューバへの投資意欲をそいでいる」と、米国のキューバへの経済制裁を批判した。他方、「2014年発効の新外国投資法と、2019年4月19日に発効したキューバ新憲法が、外国資本の国内ビジネスを法的に守る完全な後ろ盾になる。政府は、外国企業を第三者からの圧力などから守る準備ができている」と投資家へ呼び掛けた。ビジネス環境に関しては、2020年1月3日から外国企業の行政申請が単一窓口(Ventanilla Única de la Inversión Extranjera : VUINEX)に統一されることを強調した。実際、キューバでは、外国企業が投資を実行するためには企業側が事業実施可能性事前調査(プレFS)を行い、調査結果を政府当局の外国投資部門に提出し、同局の審査に基づく問い合わせへ対応し、審査に合格する必要があるなど、さまざまなステップを踏まなければならないことが、外国企業の進出のハードルの1つとなっている。

キューバとのビジネスでは特徴的な経済システムを理解すべき

キューバでは、1959年の革命以降、反米・社会主義を掲げたフィデルとラウルのカストロ兄弟が長年にわたり、国家評議会の議長(国家元首)を務めた。2018年4月にはラウル氏の後任のディアス・カネル氏が同議長に就任した(現在は大統領職)。キューバ革命以降、現在もキューバは社会主義経済体制である。外国企業がキューバとのビジネスを行うためには、経済システムを熟知する必要がある。まず第1に、国内の需要は市場ではなく、原則として政府が決定するため、ほぼ官需に占められている。また例えば、ある外国企業がキューバへ輸出をしたい場合、ビジネス相手は政府と国営企業だ。加えて、官が国内需要をコントロールするため、常に国内はモノ不足の状態にある。その場合、国営企業傘下の企業はどうしたら仕入れを行えるのか。まず必要なモノを政府や国営企業へ申請し、それをもとに国営企業が同傘下企業へ販売する。この商流によって、官は完全に需要をコントロールできる。

キューバは、米財務省外国資産管理室(OFAC)の規制により、輸出入においてドル決済は行えない。また、米国による一連の金融制裁があることに加えて、キューバでは資本市場が自由化されていないため、国際金融市場から資金も資本も十分入ってこない。そのため、基本的には純輸出(財・サービスの輸出-同輸入)の範囲内でしか輸入することができないのだ(経常収支赤字を資本収支でファイナンスすることができない)。加えて、キューバの経済は、社会主義同盟国であるベネズエラの経済に大きく影響される。キューバ商工会議所のセリア・ラボラ国際関係部長は、ジェトロのヒアイングに対し「キューバの石油は96%を輸入に依存している」とコメントした。その多くを、ベネズエラ産原油に頼っている。キューバは長年にわたり、キューバ人医師や看護師をベネズエラに派遣し、その対価としてベネズエラから原油を安価で輸入するというバーター貿易を行ってきた。しかし、近年のベネズエラにおける経済危機と米国による経済制裁の影響で、2019年はキューバに輸出される原油量が減少した。9月と11月は、キューバ国内での石油とガソリン不足が特に悪化した。9月11日にディアス・カネル大統領は国民に対し、「ソ連崩壊後に起こった、キューバ経済危機の特別期(Período Especial)には至らないものの、それに近い新特別期(Nuevo Período Especial)にある」とテレビで演説を行ったことをきっかけに、ガソリンスタンドへ国民が押し寄せたため、すぐに長蛇の列ができた。進出日系企業関係者の中にも、通勤車用のガソリンを給油するために数時間並んだ例があったという。警察は率先して、ヒッチハイクなどによる車の相乗りを促していたとのことだ。筆者がFIHAV2019の会期中に、ハバナ市内のガソリンスタンド通った際も、ガソリンスタンドへ通じる一般道では給油待ちの車が長蛇の列をなしていた。輸送大型車用ディーゼルも不足したため、バスは間引き運転されていた。ロジスティクスへの影響も大きく、小売路面店ではペットボトルの飲料水が行き渡らない状態となっていた。

キューバとのビジネスで今後注意すべきポイント

今後のキューバでのビジネスでは、3つのポイントに注意すべきだ。1つ目は、支払いユーザンス(支払い猶予)だ。例えば、ある外国輸出者がキューバ輸出入公社(CIMEX)との取引を行う場合、ユーザンスは360日がスタートラインとなる。つまり、キューバ政府が外国輸出者へ対価を支払う場合、最低でも1年は待たなければならない。ただし、ベネズエラの経済危機によってサービス輸出(医師の派遣など)が減少し、原油が国内で大幅に不足するなどの状況もあり、2018年秋からキューバからのユーザンスがさらに長くなっている傾向にある。筆者が進出日系企業複数社へヒアリングをすると、全ての企業が、支払い期間が延びていると回答した。

2つ目は、前述のヘルムズ・バートン法第3編。これは、キューバ革命政権が接収した米国民資産を用いて、直接・間接的を問わず商業行為(取引)を行う者を相手取って、米国裁判所において損害賠償請求を目的とした訴訟を提起することができるというもの。例えば、スペインのホテル運営企業であるメリア・グループは、キューバ内で60以上のホテルを経営しているが、それらホテルの中にはキューバ革命後に政府に接収された資産を用いているものもあるといわれている。

3つ目は、2019年10月21日に米国が官報公示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした、キューバへの輸出管理規制強化だ。第三国がキューバ向けに製品を輸出する際、当該製品内に含まれていてもよい米国の技術や製品、ソフトウエアの割合上限(デミニマス)が25%から10%に引き下げられた。米国輸出管理規則(EAR)では、北朝鮮、シリア、スーダン、イランの4カ国は上限が10%となっていたが、これにキューバが追加された。これにより、第三国の輸出者は、キューバ向け輸出製品を改めて調査する必要の可能性があり、また気付かないうちに10%以上の米国製品が含まれているという状況も起こり得るため、注意が必要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。