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山東省は製造業のイノベーションに期待(中国)
2018年9月に初のユニコーン企業が誕生

2018年11月7日

9月11日、「潔華生物(青島)技術」が山東省発のユニコーン企業に初めて選ばれた。同社は慢性B型肝炎の治療に使用される生物タンパク新薬である「楽復能」(2018年5月発売)を開発し、山東省内で量産している(注)。機械、繊維、化学など従来型産業を基盤とする山東省は、製造業においては優位性を有するが、スピードが求められるユニコーン企業の育成では後れを取っている。山東省のイノベーションの行方についてみていく。

ユニコーン企業は北京や上海に集中

長城戦略コンサルティング、科学技術部直轄の研究機関である火炬中心(Technology Department Torch Center)、中関村管理委員会が共同で発表する「中国ユニコーン企業発展報告」(以下、報告書)の最新版(2017年版)には、国内の164社がユニコーン企業としてリストアップされているが、山東省企業はない。

ユニコーン企業として選ばれるには以下の4つの基準をクリアする必要がある。

  1. 中国国内で登記した法人資格を有している。
  2. 創業から10年以内である。
  3. 未上場企業である。
  4. 企業評価額が10億ドル以上である。

リストアップされた企業の所在地は、北京市(70社)、上海市(36社)、広東省(19社)、浙江省(18社)に集中しており、それらが全体の約87%を占める。沿岸部の遼寧省、江蘇省、福建省にもユニコーン企業があるが、中国の省市別GDP3位の山東省にはユニコーン企業が1社もない(図1参照)。過去にさかのぼると、2016年のユニコーン企業リストには山東省の企業が1社あったものの、それは大連万達集団傘下の「青島万達影視投資」で、登記地が山東省の青島市だというだけで、山東省発の企業ではない。

図1:2017年ユニコーン企業の省市別分布
北京市は70社、上海市は36社、広東省19社、浙江省18社、江蘇省6社、湖北省5社、天津市2社、貴州省1社、四川省1社、福建省1社、遼寧省1社。
出所:
「2017年中国ユニコーン企業発展報告」を基にジェトロ作成

現状、中国のユニコーン企業はインターネットを活用したサービスを提供しているところが多い。内訳をみると、上位3位は電子商取引(33社)、ネット金融(21社)、ヘルスケア(サービス系)(14社)の順となっており、それぞれ全体の20%、12.8%、8.5%を占める(図2参照)。一方で製造技術関連はスマート機器のハードウエア、新エネルギー自動車、人工知能(AI)などの関連企業が19社、構成比は製造業全体で11.6%にとどまる。

図2:2017年ユニコーン企業の業種別分布
電子商取引33社、インターネット金融 21社、ヘルスケア 14社、文化娯楽13社、 物流11社、 交通10社、 インターネット教育9社、 新エネ自動車 9社、クラウドサービス8社、 人工知能6社、 不動産サービス5社、 新メディア5社、 スマート機器のハードウェア 4社、ビッグデータ 企業サービス4社、 ソフトウェアAPP 3社、観光3社、 社交 2社。
出所:
「2017年中国ユニコーン企業発展報告」を基にジェトロ作成

製造業においてトップレベルの企業が多い山東省

工業信息化部が2016年と2017年に発表した「中国製造業単独チャンピオン示範・育成企業リスト」(以下、チャンピオンリスト)には計195社の企業が掲載されている。同リストの企業は中国の製造業において各分野でトップレベルにあるといえる。チャンピオンリストには、山東省の企業が38社掲載されており、全体の20%近くを占める。同リストに掲載される企業は、少なくとも以下の6つの条件をクリアする必要がある。

  1. 定番製品を持ち、また、その製品の販売収入が企業の業務収入の50%以上を占める。
  2. 定番製品の市場シェアが世界のトップ5あるいは全国のトップ2以内である。
  3. ハイレベルまたは独自の技術を有する。
  4. 業績が好調で、利益率が当該分野の平均水準より高い。
  5. 当該分野において、3年以上の業務経験がある。
  6. 3年以内に環境関連の違反がない。

チャンピオンリストには「示範企業」と「育成企業」がある。「示範企業」は、先に示した6つの要件の1と2については「定番製品の販売収入が業務収入の70%以上を占める」「市場シェアが世界トップ3位以内」と、さらに厳しい条件をクリアした企業である。

地域別にみると、チャンピオンリストに掲載されている企業はユニコーン企業と同じく沿岸部に集中しているが、山東省が38社で最も多く、2位の浙江省は35社、3位の江蘇省は26社だった。また、チャンピオンリストでより厳しい条件をクリアした「示範企業」に限ってみても、山東省は24社と全体の19.2%を占め、省市別でみると最も多い。つまり山東省には、「定番製品の市場シェアが世界トップ3以内」の企業が少なくとも24社ある。

また、チャンピオンリストに掲載されている山東省企業の業種をみると、機械・部品、化学、繊維などの従来型産業の優良企業が多い。機械・部品は61%、化学は21%、繊維は13%とリストに掲載されている山東省企業の9割以上を占める(図3、表参照)。製造業においては、山東省が最も優位性を持っていると言っても過言ではない。

図3:チャンピオンリストに掲載された山東省企業の業種別の構成比
機械・部品61%、化学21%、繊維5%、消費財5%。
出所:
工業信息化部「中国製造業単独チャンピオン示範・育成企業リスト」を基にジェトロ作成

表:中国製造業単独チャンピオン示範・育成企業リスト(山東省部分)

示範企業
NO 企業名 主要製品 業種
1 青島科海生物有限公司 イタコン酸およびその誘導体 化学
2 万華化学集団股份有限公司 WANNATE MDIシリーズ 化学
3 山東華夏神舟新材料有限公司 FEP/PVDF 化学
4 山東尚舜化工有限公司 ゴム促進剤 化学
5 勝利油田新大管業科技発展有限責任公司 繊維増強プラスチックパイプ 機械・部品
6 山東威達機械股份有限公司 ドリルチャック 機械・部品
7 シ博水環真空ポンプ有限公司 水封式真空ポンプ 機械・部品
8 山東泰豊液圧股份有限公司 双方向カートリッジバルブ 機械・部品
9 山東臨工工程機械有限公司 ホイールローダー 機械・部品
10 山東豪まい機械科技股份有限公司 加硫タイヤ用カプセル金型 機械・部品
11 雷沃重工股份有限公司 穀物コンバイン 機械・部品
12 歌尓股份有限公司 ミクロ電気音響部品 機械・部品
13 山東凱盛新材料股份有限公司 塩化チオニル 化学
14 青島明月海藻集団有限公司 アルギン酸塩 化学
15 玫徳集団有限公司 可鍛鋳鉄とスチールパイプ継手 機械・部品
16 文登威力工具集団有限公司 手動で調整可能なレンチ 機械・部品
17 泰山体育産業集団有限公司 体育器材 消費財
18 山東如意毛紡服装集団股份有限公司 ウール織物 繊維
19 魯泰紡績股份有限公司 先染め 繊維
20 泰安路徳工程材料有限公司 合成繊維の縦糸編み 繊維
21 シ博大染坊シルク集団有限公司 シルク 繊維
22 青島環球集団股份有限公司 コットンロービングマシン 機械・部品
23 煙台中集福士海洋工程有限公司 半潜水式プラットフォーム 機械・部品
24 山東環球漁具股份有限公司 釣り道具 消費財
育成企業
NO 企業名 主要製品 業種
25 普瑞特機械製造股份有限公司 ステンレス鋼薄壁容器 機械・部品
26 済南沃徳自動車部品有限公司 自動車エンジンバルブ 機械・部品
27 天潤曲軸股份有限公司 中・大型トランククランクシャフト 機械・部品
28 山東濱州渤海活塞股份有限公司 ピストン 機械・部品
29 山東恒業石油新技術応用有限公司 膜分離窒素機 機械・部品
30 煙台桀瑞石油服務集団股份有限公司 連続タイプ作業機 機械・部品
31 山推工程機械股份有限公司 ブルドーザー 機械・部品
32 青島特鋭徳電気股份有限公司 ボックス型変電所用製品 機械・部品
33 煙台持久鐘表集団有限公司 時刻同期システム 機械・部品
34 青島ハイセンス智能商用系統有限公司 商用レジスター 機械・部品
35 山東金帝精密機械科技股份有限公司 ベアリングケージ 機械・部品
36 山東泰和水処理科技股份有限公司 水質安定剤 化学
37 山東祥維斯生物科技股份有限公司 バリン(C5H11NO2) 化学
38 威海海馬絨毯集団有限公司 アキスミンスターカーペット 繊維
出所:
出所:工業信息産業部発表「中国製造業単独チャンピオン示範・育成企業リスト」を基にジェトロ作成

製造業に基づく山東省式のイノベーションに期待

近年、中国ではネットの普及に伴い、それを活用したサービスで起業する企業が急増している。滴滴出行やVIPKIDなど、ユニコーンにまで成長した企業が多数存在する。各地のイノベーションのレベルを評価する時、重要な指標の1つとしてユニコーン企業の数が注目されるが、それに照らせば山東省のイノベーション水準は低いということになる。

山東省は、北京市、上海市、浙江省に比べると、ネット産業の発展では確かに遅れている。2018年の春節明けに開催された「山東省の新旧エンジン転換にかかる重大工程動員大会」において、山東省劉家義書記も「山東省のネット発展は遅れており、中国ネット企業上位100社のうち、山東省は2社にとどまり、その2社も60位以下だ。山東省のサービス業は、従来型の交通、貿易、飲食、宿泊などに関連するものが多く、現代のサービス業が育っていない」と指摘した。

中国ユニコーン企業全体の業種別分布からみると、小米や寧徳時代新能源科技などのような、製造技術に依存するユニコーン企業は19社しかない。技術依存型の製造業はネット依存型のサービス業に比べ技術革新やイノベーションを行うのに時間がかかる。山東省の産業は機械・部品、化学、繊維など従来型の産業に集中しており、また企業の規模も大きく、イノベーションを行うのは容易ではない。

しかし山東省においても、製造業の技術革新やイノベーションは着実に進んでいる。2018年1月、山東省は「新旧エンジン転換総合試験区」(以下、試験区)を省内に設け、中央政府に認可された。試験区は新情報技術、ハイエンド装備、新エネルギー・新材料、スマート海洋、健康福祉、グリーン化学、現代農業、文化創意、観光、現代金融の10大産業を重点的に発展させ、従来型産業に対するイノベーションを行うことを目的としている。

また、山東省でイノベーションに力を入れ始めた企業も増えている。山東省の中小企業局、財政庁、中国人民銀行済南分行と北京市長城企業戦略研究所が共同で発表した「山東省ガゼル企業リスト」には100社の企業が掲載されているが、それら100社の2016年度の研究開発投入額は約10億元(約160億円、1元=約16円)で、売り上げに占める割合は4.9%だった(2017年全国平均は2.1%)。また、その投入額は2015年が前年比20%増、2016年が30%増と、年々増加傾向にある。

さらに、山東省の製造業における具体的なイノベーションの事例もある。

ハイアール傘下のハイアール生物医療は医学用の低温冷蔵庫を製造する企業だが、イノベーションに力を入れ、青島大学附属病院と提携し、手術用の血液データの共有や管理ができるデータベースを開発した。これを利用することで、医師は手術室で直接血液取得の手続きを行い、手術室内の血液保管庫からすぐに手術用の血液を入手できるようになった。これにより取得時間は従来の20分から1分に短縮されたという。

中国のユニコーン企業が集中する都市は各地なりの優位性を発揮している。北京市はハイテク・IT系、上海市はネット系、杭州市はネット通販、深セン市は製造技術系が多いという特徴がある。このうち、北京市、上海市、杭州市はネットを活用したサービス系の企業が多いが、深センは新分野におけるハイテク製造技術の開発が強みとなっている。それに対して、従来型の産業構造を持つ山東省と山東人の保守的な気質を考えると、山東省では他の都市が強みとしているネットに関連したサービス業イノベーションより、従来型の製造業の技術革新によるイノベーションが期待できそうだ。


注:
大衆日報2018年9月12日付
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所 高級専員
朱 秀霞(しゅ しゅうか)
2016年、ジェトロ・青島事務所入所、現在に至る。

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