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力強い内需も、インフレが重荷に(フィリピン)
2018年のフィリピン経済概観

2018年12月25日

2018年のフィリピン経済は、好調な個人消費や大規模インフラ整備計画による建設や設備への投資増など、新たな成長要因が見られた。他方、貿易赤字の拡大やインフレ率の高まりなど、懸念すべき点も存在する。本稿ではフィリピンの主要経済政策の実施状況を振り返るとともに、貿易と投資の動向、さらに好調な消費市場の新潮流を概観する。

主要経済政策:インフラ整備が本格化、税制改革は賛否両論

ドゥテルテ政権の経済政策の両輪を担うのは、「ビルド・ビルド・ビルド」と呼ばれる大規模なインフラ整備計画と税制改革だ。近年、経済が成長するにつれて、インフラ整備の遅れは渋滞などの経済・社会的コストとなり、地域間格差の原因にもなっている。政府はインフラ投資によって、これらの課題を解決し、かつ好調な経済成長の持続を狙う。他方、税制改革では「税制の近代化」を掲げ、税収を増やしてインフラ整備などに必要な財源を確保する一方、所得税を減税して個人の消費支出を促し、企業活動を活発化させることを目指している。なお、政策の大前提として、安全で公正な社会の構築を目指しており、大統領の主導の下、テロ対策、麻薬や汚職の撲滅などを進めている。

現政権は当初、年率7~8%の経済成長率を見込んでいたが、実績は2016年以降6%台後半で推移した。従来、フィリピンでは個人消費が経済を牽引し、サービス業が圧倒的なシェアを占めてきたが、現政権発足後はインフラ整備と持続的な経済成長による内需拡大により、建設や設備への投資が増えてきている。

主要経済政策の実施状況をみると、ドゥテルテ政権は、インフラ関連支出のGDP比を当初5.4%(2017年)~7%以上(2022年)に設定していたが、2018年中盤に入って4.4%(2017年)~6.9%(2022年)に下方修正した。2017年は政府内外のさまざまな調整に手間取って、思うように予算執行が進まなかった反省もあり、2018年は積極的にプロジェクトを推進した結果、建設業分野が伸びている。

税制改革については、2018年1月に施行された第1パッケージは、物品税の増税がガソリン代、ひいては乗合バス(ジープニー)など公共交通の運賃値上げを招いて、インフレを助長したとの批判を集めた。第2パッケージは上院で審議中だが、法人税の減税が歓迎される一方、税制優遇措置の見直しと、それに伴うフィリピン経済区庁(PEZA)のワンストップサービス機能の形骸化で、輸出産業の縮小や国外移転が生じ、大規模な失業を招くことが懸念されている。

2年に1回の頻度で実施されてきた外資参入規制の見直しは、当初想定の2017年6月から大幅に遅れて2018年10月末に発表されたが、内容は微修正にとどまった。外資の出資比率制限について、インターネットビジネスが規制対象から除外されたほか、国内で資本調達された公共事業の建設・修繕契約が25%以下から40%以下へ、民間の無線通信網が20%以下から40%以下へ、それぞれ緩和された。また、薬剤師、林業、高等教育での外国人就労が認められた。

通商政策については、フィリピンは環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)参加よりも、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と、米国との自由貿易協定(FTA)の早期締結を目指している。当地報道によれば、所得向上に伴い、一般特恵関税(GSP)の適用対象から除外される前に、米国などとFTAを締結することを重視しているという。

貿易:内需拡大に伴う輸入増加で貿易赤字が拡大

2018年1~9月の貿易赤字額は前年同期比70.5%増の299億ドルと、すでに2017年通年の赤字額を超えている。

同期間の統計をみると、対日貿易は輸出入ともに国別で上位に位置しているが、昨年から減少傾向が続いている。対日輸出は電子機器(電気絶縁線、ケーブル、集積回路、ダイオード、トランジスタなど)、木製建具・建築用木工品など全般に減少している。一方、対日輸入は一般機械、電子機器(特に集積回路)、鉄鋼などが増加したが、自動車が大幅に減少した。

フィリピンの物品貿易を品目別に見ると、輸出は過半を占める電子機器(特に半導体部品・装置、電子情報処理機器)に加えて、金属部品や精錬銅製の電極、バナナが増加する一方、その他の機械や器具は減少した。輸入は、輸出加工用の部品・部材のほか、旺盛な内需を背景として鉱物性燃料、潤滑油、輸送機器、産業機械や鉄鋼などが増加した。

表:フィリピンの需要項目別、産業別 実質GDP

需要項目別
項目 成長率
〔前年(同期)比〕
金額
(百万ペソ)
シェア(%)
2016
通年
2017
通年
2018
Q1-Q3
2016
通年
2017
通年
2018
Q1-Q3
2018
Q1-Q3
1.民間最終消費支出(+) 7.1 5.9 5.6 5,642,389 5,973,816 4,513,695 67.2%
2.政府最終消費支出(+) 9.0 7.0 13.1 854,570 914,136 794,939 11.8%
3.国内総固定資本形成(+) 24.5 9.4 16.7 2,289,675 2,504,502 2,098,705 31.2%
階層レベル2A. 固定資本 26.1 9.5 15.3 2,270,587 2,485,451 2,077,117 30.9%
階層レベル2(1) 建設 13.1 5.9 12.9 793,470 839,967 690,563 10.3%
階層レベル2(2) 耐久機材 37.7 10.7 17.1 1,292,959 1,431,518 1,215,849 18.1%
4.輸出(+) 11.6 19.5 11.3 4,124,942 4,930,584 4,262,420 63.4%
階層レベル2A. 財貨 10.7 20.9 11.9 3,249,966 3,928,434 3,404,163 50.7%
階層レベル2B.サービス 15.3 14.5 9.2 874,976 1,002,150 858,257 12.8%
5.輸入(-) 20.2 18.1 15.7 4,788,834 5,657,331 4,941,600 73.6%
階層レベル2A. 財貨 23.7 19.6 17.2 3,871,839 4,632,180 4,161,476 61.9%
階層レベル2B. サービス 7.2 11.8 8.2 916,995 1,025,152 780,124 11.6%
産業別(△はマイナス値)
項目 成長率
〔前年(同期)比〕
金額
(百万ペソ)
シェア(%)
2016
通年
2017
通年
2018
Q1-Q3
2016
通年
2017
通年
2018
Q1-Q3
2018
Q1-Q3
1.農林水産業 △ 1.2 4.0 0.4 710,926 739,029 522,240 7.8%
階層レベル2農林業 △ 0.6 5.0 0.7 587,579 616,780 439,678 6.5%
階層レベル2水産業 △ 4.0 △ 0.9 △ 1.4 123,347 122,249 82,562 1.2%
2.鉱工業等 8.0 7.2 6.8 2,750,034 2,947,103 2,282,386 34.0%
階層レベル2鉱業・採石業 3.2 3.7 △ 1.5 83,106 86,222 67,389 1.0%
階層レベル2製造業 7.1 8.4 5.7 1,885,514 2,043,118 1,547,498 23.0%
階層レベル2建設業 12.1 5.3 13.3 512,113 539,267 445,274 6.6%
階層レベル2電気・ガス・水道業 9.0 3.4 5.0 269,301 278,497 222,225 3.3%
3.サービス業 7.5 6.8 6.8 4,661,781 4,979,575 3,913,800 58.3%
階層レベル2運輸・通信・倉庫 5.3 4.0 6.1 611,902 636,577 491,955 7.3%
階層レベル2商業 7.6 7.3 6.0 1,367,438 1,467,855 1,114,968 16.6%
階層レベル2金融 7.9 7.6 7.7 590,112 635,064 513,713 7.6%
不動産・リース・IT-BPM等 8.9 7.4 4.8 930,685 999,493 780,352 11.6%
階層レベル2政府サービス 7.1 7.8 15.4 318,540 343,251 289,215 4.3%
階層レベル2その他サービス 7.5 6.4 7.1 843,105 897,335 723,597 10.8%
全体 6.9 6.7 6.3 8,122,741 8,665,708 6,718,426 100.0%
出所:
フィリピン統計庁(PSA) 2018年11月 ※2016、2017通年の実績は2018年4月

対内投資認可額:サービス輸出、海外からの送金は増勢

フィリピン統計庁(PSA)は、2018年1~9月における対内直接投資認可額(7つの投資誘致機関が認可した金額の合計値)は、前年同期比8.2%増の910億900万ペソ(1,911億1,890万円、1ペソ=約2.1円)、うち日本からは同44.2%減の149億6,180万ペソ(314億1,980万円)と発表した。日本政府統計では、2018年上半期における日本のフィリピン向け直接投資の業種別内訳は、電気機械が大幅に伸びたほか、輸送機械も高い水準で推移したのに対し、食料品、不動産業、サービス業などでは前年同期比で減少した。

対内直接投資と合わせて、フィリピン経済を支える対外的要因として、サービス輸出と送金がある。サービス輸出は、運輸、保険、旅行、政府、その他のサービスのいずれも増勢にある。フィリピンへの観光客も2012~2017年の5年間で55%増の662万人を数え、このうち日本からは42%増の58万人となった。ソフトウエア開発などIT-BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)産業を含むその他サービスの輸出も堅調に伸びている。

在外フィリピン人からの送金額は、フィリピンのGDPの約9%に相当し、近年増加傾向にある。GDPには含まれないが、経常移転収入として経常収支改善に貢献し、国内での消費支出を支える重要な経済活動である。主な送金元は、米国が全体の3分の1程度を占め、中東湾岸諸国、シンガポールや日本、香港、欧州主要国が続く。中東湾岸諸国は2018年2月にクウェートで発生したフィリピン人メイド虐待事件が影響し、軒並み減少した。

個人消費市場:インフレ対策に苦慮、静かに進行するデジタル化

フィリピン経済のカギを握る個人消費を左右する動きについても変化がある。マニラ首都圏では、2018年2月から10月のわずか9カ月間で、庶民の足であるジープニーの最低運賃が7ペソから10ペソまで段階的に値上がりした。また、コメをはじめとする食料価格も上昇し、消費者の懐を直撃した。フィリピン中央銀行は金利引き上げを繰り返して沈静化に努めたが、政府目標(2~4%)を大きく上回るインフレ率(5~6%)が続いた。インフレ加速の原因として、「為替安(ペソの対ドルレートが下落)」「原油価格上昇」「コメ価格(グレードによって差異はあるが、卸売、小売価格ともに漸増基調)」「物品税(燃料への課税率を引き上げ)」「賃金(首都圏の最低賃金1日当たり491→512ペソ)」などの要素が挙げられる。一方、「好況や賃金上昇による収入増加」「個人所得税の減税」「在外フィリピン人からの送金増加」など、可処分所得が増加するプラス要因も見られた。

ASEANでは経済のデジタル化が進行しつつあるが、フィリピンでもインターネット、携帯電話が急速に普及してきており、若者を中心にフェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が盛んに利用されている。電子商取引は、通信速度、配送や決済のシステムなど、なお課題は残るものの、徐々に普及しつつある。また、デジタル経済到来に備えて、大手地場資本が電子商取引関連企業に出資したり、配送ネットワーク確保に向けて他社と提携したりするケースが散見された。

執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所長
石原 孝志(いしはら たかし)
1990年、ジェトロ入構。農水産部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ヒューストン事務所、展示事業部、ジェトロ・香港事務所等を経て、2017年6月から現職。

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