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ベトナム・ホーチミンの好例に学ぶ(スリランカ、ベトナム)
スリランカ都市開発の展望(後編)

2018年6月20日

都市化が進むスリランカ。最大都市のコロンボでは今後一層の人口流入が予測され、交通や住宅など都市インフラの整備が急がれる(※)。他方、都市としての持続性を考える上では、人々が快適で安全に暮らせるための「住みやすさ」も重要な指標だ。コロンボが「住みやすさ」を備えた都市になるために必要なものは何か、日本企業が街づくりに参画するベトナムの事例から学ぶ。

※コロンボの市民生活事情やマーケット情報については「コロンボ・スタイル(写真で見る世界のライフスタイル)」を参照。消費者アンケートなどを基にコロンボのリアルをまとめた冊子。

都市開発のカギは「産業」と「リーダーシップ」

進出日系企業が都市開発に携わる好例がベトナムにある。ベカメックス東急は、ベトナム国営企業のベカメックスIDCと日本企業の東京急行電鉄(東急電鉄)との合弁会社だ。同社はホーチミン市郊外のビンズン省で、「ビンズン新都市」と呼ばれる都市の開発の一翼を担う。ベカメックスIDC は元々、ビンズンで大規模な工業団地を運営しており、周辺のインフラ整備等も合わせて手掛けている。ベトナム最大規模のミーフック工業団地の隣に住宅や商業施設、文化施設などを開発するのがビンズン新都市の構想で、同社が基礎ならびにその後の開発も手掛ける。このビンズン新都市内においてベカメックス東急は、日本で100年の歴史を持つ東急電鉄のノウハウを生かして、交通を主体とする総合的な日本式の「街づくり」(公共交通指向型開発)を展開している。具体的にはソラ・ガーデンズやミドリパークといった住宅不動産や、レストランの入居する商業ビル(ヒカリ)などを建設・運営する。ソラ・ガーデンズが新都市を一望できる高層マンションであるのに対して、ミドリパークは広々とした公園に面した戸建て住宅の開発から着手するなど、幅広いライフスタイルの提案が魅力だ。また新都市内の交通インフラとして、路線バスの運行も開始した。このビンズン新都市はホーチミン市のベッドタウンではなく、独立した都市としての開発を目指している、というのは、ベカメックスIDCの植松完二マーケティング部副部長だ。都市の重要機能として、医療施設や教育機関の設置も進んでおり、また、NTTグループなども巻き込んでのスマートシティー化も目指している。ベカメックス東急の平田周二取締役も、東急電鉄の持つ「長期目線で街をつくる」とのモットーから大切に取り組んでいるという。この理念の下、持続可能で環境にも配慮した「住みやすい」都市の開発を目指す。

ベカメックス東急の事例から学べることは、産業集積と一体となった街づくりという手法と、強力なリーダーシップの重要性だ。都市は産業と共に育つ。元々が工業団地という産業集積の場であり、その周囲に都市を開発していくというビンズン新都市の手法は非常に示唆的だ。今後発展が見込まれるスリランカの最大都市コロンボでも、やみくもに都市圏を拡大していくのではなく、企業誘致や産業集積と足並みをそろえた開発が重要となる。産業が育ちきらないままに人口が流入すると、失業率の上昇や貧困層の増加などの問題が生じかねない。また、コロンボと他地域との間の過度な格差拡大を防ぐためにも、コロンボ以外の工業団地周辺地や各地域都市でも産業振興と一体化した都市開発が求められる。前編で紹介したマラベなどは、ITという分野に特化することによって産業や人口をうまく引きつけている好例だろう。


そしてスリランカ最大の課題が、リーダーシップの不在だ。行政機関が細分化されているため、大規模な開発プロジェクトなどに取り組む際には、各担当省庁を取りまとめて計画を推進する実行力が必要となる。ビンズン新都市の事例では、民間企業が地元の行政と連携して、強力な推進力を持って開発を進めている。東急電鉄にとってベカメックスIDCという心強いローカルパートナーがいることが、プロジェクトの前進に非常に大きな意味を持つ。コロンボの都市開発においても、動かないものを動かしていくことのできる、リーダーの存在が待望される。

ベカメックス東急は適切なローカルパートナーとの連携を通じて、日本で培った知見を生かした「住みやすさ」を提案し、ベトナムで日本企業ならではの街づくりに挑戦している。このように新しい「住みやすさ」を提案できることが、外国企業が都市開発に参画することの最大の意義であり強みとなる。では実際に、コロンボで必要とされる「住みやすさ」とは何であろうか。以下、ベトナム最大の商業都市ホーチミンとの比較から、コロンボの都市機能の現状をみる。


ベトナムのビンズン新都市内に新たに建設されたミドリパーク。緑に囲まれた豊かな生活を提案する
(写真はいずれもジェトロ撮影)

ベカメックスIDC の植松完二マーケティング部副部長

ベカメックス東急の平田周二取締役

目下の課題は「保健医療」と「文化・環境」

英経済紙「エコノミスト」の調査部門(EIU)が毎年実施している「世界で最も住みやすい都市」ランキングの2017年調査において、コロンボは調査対象の140都市中124位だった。一方、同調査の「過去5年間で最も生活環境が改善した都市」ランキングでは5位となり、内戦終結後の治安安定の効果が結果に表れたかたちとなった(注1)。これに対してホーチミンは2017年に122位で、124位のコロンボとは僅差だった(なおベトナムの首都ハノイは119位)。EIUのランキングは、「安定性」「保健医療」「文化・環境」「教育」「インフラ」の5分野で各都市をポイント評価する方式を取る。ホーチミン市をベンチマークとしたとき、コロンボに不足している「住みやすさ」は何か。

表は、コロンボとホーチミンについて上述の5分野のポイントを比較したものだ。この表から、コロンボがホーチミンに引き離されている項目は、「保健医療」と「文化・環境」であることが分かる。特に「文化・環境」については2008年時点でコロンボがホーチミンよりも高ポイントだったのに対して、2017年にはポイントを大きく下げている。コロンボの「住みやすさ」を追求する際には、まずは「文化・環境」分野が重要なようだ。一方で、「インフラ」については2017年の結果でコロンボがホーチミンよりも高ポイントをマークしており、前編で紹介したようにコロンボの都市インフラ面が徐々に整いつつあることも見てとれる。

表:コロンボとホーチミンの「住みやすさ」ランキング比較
調査年 都市 ランク(140都市中) 全体点(100点満点) 安定性 保健医療 文化・環境 教育 インフラ
2008 ベトナム ホーチミン 124 53 55 50 50 67 52
スリランカ コロンボ 131 48 40 42 54 67 48
2017 ベトナム ホーチミン 122 53 55 50 51 67 48
スリランカ コロンボ 124 51 55 42 48 67 52
出所:
EIU liveability ranking survey (2008, 2017) を基にジェトロ作成

コロンボとホーチミンの保健医療比較

スリランカでは公的医療が無償で提供されるが、設備は古く、待ち時間も非常に長いため、その質は高いとは言いにくい。公的医療の質の低さはベトナムにも共通しているようだが、民間医療サービスのレベル差は圧倒的だ。(1)の写真はホーチミン市内のオフィス・商業ビルの中に入居しているデンタルクリニックの様子だ。このようにホーチミンでは民間の医療機関が商業ビルなどに窓口を持ち、利用者は通勤や買い物のついでに立ち寄ることができる。設備も新しく清潔で、国際的な標準に適合した施設も多い。一方でコロンボの民間病院は、サービスレベルに一定の評価はあるものの、コスト面では一般の国民にとっては非常に高額で、また、(2)の写真のように大型の施設なために市内中心部からは多少距離があり、渋滞の深刻なコロンボでは気軽に立ち寄ることが難しい。コロンボでは公的医療の質の向上と合わせて、民間サービスの選択肢拡大による医療へのアクセス性改善が求められる。


(1)

(2)

コロンボとホーチミンの文化・環境比較

「文化・環境」の項目には、スポーツや文化施設、飲食施設、消費財やサービスの充実度合いという要素が含まれる。ベトナムでは2015年に外資小売りの参入規制が撤廃されたこともあり、ホーチミン市内には外資系も含めたさまざまな商業施設やレストランが豊富にそろっている。一方、スリランカでは小売業に関する外資参入規制が厳格化された(注2)ことに加えて、輸入関税が高いこともあり、消費財や飲食品でも海外からの輸入品流通が遅れ気味だ。コロンボが国内外の消費者に対して、より幅広い選択肢を提供し、市民生活を豊かにする都市へと発展するためにも、スリランカ政府による規制緩和が待望される。しかし、国内産業保護への配慮から、思い切った政策実行はすぐには期待できないのが現状だ。

ホーチミンとコロンボの大きな違いは、その「消費力」だ。ベトナムは急激に人口が増加しており、特に若年人口の比率も高い。そのため学生を中心に多くの若者がショッピング施設やカフェに集まっており、さらに元来の外食文化も日々の消費活動を後押ししているようにみえる。一方のスリランカは少子高齢化に差しかかっている上、文化的に学生や若者は門限が厳しく設けられ、特に若い女性の場合は遊びに行く範囲を親から指定されていることも多い(注3)。また、テロが頻発した内戦時代の名残もあってか、夜に外食する習慣も比較的乏しく、盛大なパーティーこそ家庭で自家製の料理を振る舞うことが多い。しかし女性の社会進出などによって、コロンボを中心にこれらの伝統的な都市生活も変化してきており、それに伴って消費パターンも今後変わっていくことが予想される。他方、スリランカは人口増が頭打ちなことからも、コロンボでの消費力を考える際には外国人観光客をターゲットとし、また観光客の誘致に一層力を入れていくことが必須の課題となる。以下、ホーチミンとコロンボとの比較を写真を中心に紹介する。

ショッピングモール・小売り

(3)はホーチミンのショッピングモール内に近年進出したZARAの店舗。(4)はコロンボ最大のショッピングモールであるマジェスティック・シティ。外資系ブランドも多く立ち並ぶホーチミンと比較して、コロンボのショッピングモールや買い物スポットでは外資の影は薄く、ローカルメイドの小型店が多い。マジェスティック・シティも店舗数は多いものの、ほとんどはスリランカ雑貨店やローカル製の服屋、電子機器やスマートフォン周辺機器などを扱う小規模店舗で、スリランカの若者は「ここには何も買うものがない」とコメントした(注5)。


(3)

(4)

映画館(文化施設)

(5)はホーチミンのショッピングモール内にある映画館。平日にもかかわらず多くの若者がいた。(6)はコロンボのマジェスティック・シティ内にある映画館、平日の午後は誰も見当たらないが、週末には若者を中心に盛況。


(5)

(6)

スーパーマーケット(輸入食品)

(7)ホーチミンでは輸入食材を扱うスーパーもあり、品ぞろえも豊富。(8)コロンボ市内のスーパーの輸入食品コーナー。高輸入関税のため、国産品に比べて価格帯が高くなってしまうが、品ぞろえは徐々に充実しつつある。


(7)

(8)

サラリーマンのランチ

(9)ベトナムは外食文化が根強く、ホーチミンの昼食時は道路沿いに並ぶ食事処がランチをとる人々であふれる。(10)コロンボでは弁当を持って出勤する人が多く、タッパーに詰めたライス&カレーを食堂で食べる光景が日常(注5)。


(9)

(10)

注1:
同ランキングにおいて過去5年間で生活環境が改善した都市の1位から4位は、イランのテヘラン、アラブ首長国連邦のドバイ、コートジボワールのアビジャン、ジンバブエのハラレ。
注2:
スリランカでは2018年度予算案から、外資小売業の最低投資額が500万ドルに引き上げられた。

注3~5:若者の生態、ファッション、ランチ事情についてはコロンボ・スタイルを参照。

執筆者紹介
ジェトロ企画部地方創生推進課(元ジェトロ・コロンボ事務所)
山本 春奈(やまもと はるな)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部(2015~2017年)、ジェトロ・コロンボ事務所(2017年~2018年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナ―・ワーサラゲ―
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。

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