1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 南西アジアの巨大消費市場攻略に新たな視点

南西アジアの巨大消費市場攻略に新たな視点
ジェトロの現地事務所長が語る最新事情

2018年10月30日

高い経済成長に沸く南西アジア。豊富な人口を背景とした巨大な消費市場に多くの日本企業が参入を狙う。製造業の立地選定やインフラ整備状況など、各国の市場攻略にはその特徴や課題に対する正確な理解が不可欠だ。ジェトロが9月24日に東京で開催した「南西アジア最新経済動向セミナー」での現地8事務所長らの講演を基に最新事情を報告する。

域内に世界有数の巨大市場が3つ

南西アジアはインドが13億の人口規模と経済規模で圧倒的な存在感を誇る(図1参照)。パキスタンやバングラデシュは低廉な賃金を背景に縫製品関連の輸出拠点として見られがちだが、両国とも2億人近い巨大市場が存在する。スリランカは人口規模こそ見劣りするが、1人当たりGDPは4,000ドルを超え、海上交通の要衝としても名高い。

経済成長も著しい。中国のインフラ投資に沸くパキスタンや、好調な消費が経済を牽引するバングラデシュは2010年以降、着実な成長を遂げている(図2参照)。2017年にはバングラデシュが4カ国で最高の実質GDP成長率7.1%を達成した。インドは物品・サービス税(GST)の導入や高額紙幣の廃止といった経済改革の影響を受けて成長率は6%台に減速したが、2018年には7%台を回復する見込みだ。スリランカは農業の不振と建設部門の急減速が経済全体の成長を押し下げ、2017年は3%台の成長率にとどまった。

図1:南西アジア各国の2017年の名目GDP規模比較
インドが2兆6110億ドル、パキスタンが3,040億ドル、バングラデシュが2,610億ドル、スリランカが880億ドル。
出所:
IMF
図2:南西アジア各国の実質GDP成長率比較
インドの成長率は2010年が10.3、2011年が 6.6、2012年が 5.5、2013年が 6.4、2014年が 7.4、2015年が 8.2、2016年が 7.1、2017年が 6.7。 バングラデシュの成長率は、2010年が 6.0、2011年が 6.5、2012年が 6.3、2013年が 6.0、2014年が 6.3、 2015年が6.8、2016年が 7.2、2017年が 7.1。 パキスタンの成長率は、2010年が2.6、2011年が 3.6 、2012年が3.8、2013年が 3.7、2014年が 4.1、2015年が 4.1、2016年が 4.5、2017年が 5.3。 スリランカの成長率は2010年が 8.0、2011年が 8.4、2012年が 9.1、2013年が 3.4、2014年が 5.0、2015年が 5.0、2016年が 4.5、2017年が 3.1。
出所:
IMF

インドの消費市場に新たな可能性も

インドは13億人の人口を抱え、2025年には中国を抜いて世界最大の巨大市場に成長する見込みだが、州や大都市も多く(表参照)、所得格差や消費性向、文化的背景なども多様で、消費市場の攻略は決して容易ではない。インドの消費市場の可能性について、田本達史チェンナイ事務所長は「インド南部ケララ州は中東への出稼ぎが多く、所得水準はニューデリー、ゴアに次いで高い。国内外の観光客も多く消費市場として有望」と紹介。ケララ州はこれまで消費市場としての注目は希薄だっただけに新たな選択肢となろう。北村寛之アーメダバード事務所長も「アーメダバードは地方都市でモールは数えるほどしかなく高級ブランド品は買えない。しかし高級外車は意外なほど多く見かけるので、金持ちは多いはずだ。製造業の立地が加速すれば、消費市場としての可能性も高まるはずだ」と期待を込めた。また、鈴木隆史ベンガルール事務所長は「ベンガルールには外国人が多く食のタブーが少ない。インドでは珍しい牛肉ステーキや地ビールを提供する店もある。食に保守的と言われるインドでも、ベンガルールは他都市と違ったアプローチが可能」とし、日系の飲食業や食品関連企業の参入を促した。

表:人口規模でみたインドの10大都市
順位 都市名(州名) 人口(人)
1 ムンバイ(マハーラーシュトラ州) 18,394,912
2 デリー(デリー準州) 16,753,235
3 コルカタ(西ベンガル州) 14,057,991
4 チェンナイ(タミル・ナドゥ州) 8,653,521
5 ベンガルール(カルナータカ州) 8,520,435
6 ハイデラバード(テランガナ州) 7,677,018
7 アーメダバード(グジャラート州) 6,361,084
8 プネ(マハーラーシュトラ州) 5,057,709
9 スーラット(グジャラート州) 4,591,246
10 カーンプール(ウッタル・プラデシュ州) 2,920,496
出所:
2011年インド国勢調査

インドの5事務所長を迎えてパネルディスカッションが行われた(ジェトロ撮影)

コネクティビティーも次なるキーワードに

インドにおける進出先の選定に悩む企業は多い。とりわけ製造拠点ともなれば判断材料も多く立地選定は難しい。こうしたインドにおける製造業立地先選定のポイントについて、仲條一哉ニューデリー事務所長は「インドは多様性に富んでおり、各地の魅力や特徴をしっかり把握することから始める必要がある」と指摘。インドを東西南北の4つの地域に分け、「北部は自動車産業の集積と伝統的な大市場があり、日系企業の過半数が進出する。西部は商都ムンバイを抱え、地場財閥や欧米企業が多く進出する」と語り、「東部は古都コルカタがあり1億人近い市場規模も魅力だが、ASEANへのゲートウエーとして交通の要衝にもなり得る。南部にも自動車産業が集積し、チェンナイは輸出拠点、ベンガルールは世界有数のイノベーション拠点になっている」と解説した。

続けて鈴木所長は「ベンガルールは最近でこそITのイメージが先行するが、実は国防、軍需産業からスタートしている。工作機械や電子機器、航空やバイオなど付加価値が高い製造業が集積している」と付け加えた。北村所長はグジャラート州には整備された港、道路、工業団地があるとした上で、「州南東部のバルーチなど特定の地域に環境負荷の高い化学産業を誘致する計画もあるほど熱心だ」と紹介した。田本所長は、「チェンナイには日本の商社の工業団地が複数あり、日本語で相談が可能であることは魅力」としつつ、隣接するアンドラ・プラデシュ州にある地場民営のスリシティ工業団地にも触れ、「入居する20社近い日本企業の評価も高く、スリシティ工業団地への新規相談も多い」とした。

最後に仲條所長は「インドは東南アジア、中央アジア、中東アフリカに近く、日本にとってなじみのない市場への近接性も魅力」と語り、巨大市場の攻略のみならず、これからは「インドを輸出拠点として捉え、コネクティビティーの良さをどうビジネスに生かすかも重要だ」と締めくくった。

マーケティングはインドより容易という声も

南西アジアはインド以外の国々にも消費市場としての魅力は十分にある。新居大介ダッカ事務所長は「バングラデシュは北海道の2倍程度の広さに、1億6,000万人が集中する人口密度の高い国」とした上で、「インドから売り込みに来ている日系メーカーの中には、国土が広大なインドよりもマーケティングが容易だという声もあった」と紹介し、「直近1年でバングラデシュに来訪する日本企業は増えているが、渡航時の治安対策は万全に」と付け加えた。

久木治カラチ事務所長も「前政権によりパキスタンの治安状況は改善したが、安全対策は必要不可欠」と前置きしつつ、「パキスタンは2億人の人口を抱え、毎年500万人の子供が生まれる。ベビー用品が有望だ。今後、女性の社会進出が進めば衛生用品などの女性関連商材にも大きな商機がある」と期待を込めた。

スリランカの消費市場について、糸長真知コロンボ事務所長は「市場規模は小さいながらもカンボジアとラオスを合わせた人口に匹敵する。1人当たりGDPもASEAN並みで、南西アジアでは断トツに高い。宗教上のタブーも少なく参入しやすい」と分析。さらに、「食文化は多様で、消費に対する貪欲さもある。ただし、小売業の外資規制が厳しいこともありコンビニやモールはほとんどない。娯楽も少なく、最近オープンしたバーチャルリアリティー(VR)のゲームセンターには人だかりができている」と紹介した。

中国の「一帯一路」政策がカギ

南西アジアにおけるインフラ整備ビジネスに関する日本企業の関心は高く、セミナーでも話題に上がった。久木所長は「パキスタンの経済発展を語る上で、中国パキスタン経済回廊(CPEC)プロジェクトは欠かせない。知識人の中には中国主導のCPECによってパキスタンが享受できるメリットを疑う声もあるが、概して中国に対する国民感情は悪くない」とした。糸長所長は「2015年のスリランカの総選挙で中国一辺倒の政権が敗れたことは、まさに国民感情の表れだ。しかし、ハンバントタ港の整備やコロンボのポートシティプロジェクトなど中国の存在感は色濃い」と指摘。最後にダッカの新居所長は「バングラデシュはインドとも長い国境線を接しており歴史的に見てもつながりは深い」としつつ、「中国との関係は是々非々。大国に挟まれた国としてバランス外交に長けている」と分析。さらに「マタバリ港の開発では日本と中国を競わせるなど、したたかな一面も見せる」とした。


インドを除く南西アジアの3事務所長が消費やインフラの実態について語った(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、2011~2015年、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2015年8月より海外調査部アジア大洋州課勤務。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2009~2012年)、ジェトロ大阪本部ビジネス情報サービス課(2012~2014年)、ジェトロ・カラチ事務所(2015~2017年)を経て現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ