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ミャンマーの新興企業事情
民主化の恩典、新たなビジネスチャンスをつかむ

2018年4月5日

2011年の民政移管以降、外国企業によるミャンマー進出が本格化したが、ミャンマー人も会社を興して新たなビジネスを始めるケースが増えている。本稿ではこうしたミャンマーの新興企業を取り巻く環境をご紹介する。

ミャンマー経済、主役は財閥企業

ミャンマーでは1962年から1988年までの26年間、ビルマ式社会主義の下、国軍による一党独裁体制が敷かれた。当時のネ・ウィン政権は個人商店に至るまで極端な国有化を進めた結果、同時代のミャンマーで民間企業が育つ環境は全くなかった。その後、1988年の政変で軍政が誕生し、2011年まで国軍による統治が23年間続いたが、当時の軍政は経済開放政策を推進した結果、いくつかの民間企業が台頭した。これらはいわゆる「財閥企業」と呼ばれ、軍政と強固な関係を築き、さまざまなビジネスで利権や恩典を享受し成長した。現在においてもミャンマー経済の主役はこれら財閥企業である。

こうした財閥企業への入社は学歴優先で採用されることが多く、また縁故採用も一般的に行われていることから、一般の若者たちがこれらの企業に就職することは難しい。ミャンマーでは全産業のうち中小零細企業が占める割合は9割以上に上り、家族経営などの小規模な零細企業が大半を占める。こうした企業は財閥企業などに比べ給与は低く抑えられており、退職金制度を含む福利厚生制度も一般的には充実していない。ミャンマーでは終身雇用という概念も根付いていないため、企業に対するロイヤルティは概して低いといわれている。

日緬で異なる起業に対する捉え方

ミャンマー女性起業家協会の幹部は「起業にはリスクが伴うものの、成功すれば自身がオーナーになれるという思いもあり、自ら会社を興したいという若者が増えている」と語る。こうした若者の多くは会社勤めをしながら、自身のビジネスを兼業で始めるのが一般的という。前述の通り、ミャンマーでは高給が保障されている企業が限られており、生活費を稼ぐ必要性に迫られ起業に踏み出す若者も多いという。

ヤンゴンで日本語学校を経営する30代の男性社長は「最近のミャンマーでは田舎から都会に出てきて働く若者が増えている。中小零細企業で働く彼らは給与面で不満を抱き、短期で会社を辞め起業するケースも多い。ヤンゴンでは10万チャットや20万チャット(8,000円-16,000円)の月収では生活することさえ厳しい。起業した方がお金を稼げるという認識は一般的に高まっていると思う」と語る。

そうした点において、日本人とミャンマー人との間では、自ら起業しビジネスを立ち上げる背景やモチベーションは大きく異なるといえよう。また、前述の女性幹部は「最近の若者たちは同じ業務を6カ月も続けたら既に十分なスキルを身に着けたと考えて、転職したり起業するケースが多い。日本のように一つの会社で長く働き続けるという概念はない」と、日本とミャンマーの会社に対する捉え方の違いについて指摘する。

課題は、技術・資金・人材

現地でビジネスを興したミャンマー人経営者に対する現地ヒアリング調査(2018年3月実施)では、新興企業を取り巻く厳しい現実が浮かび上がる。問題点は主に「技術向上」「資金調達」「人材確保」の3点だ。

ミャンマーで2016年に旅行会社を立ち上げた30代の女性社長によると、大手企業と違い資金力が限られ、システムに対し投資する余裕がないことから、受発注などの各種記録は紙媒体で行っているものが多いという。ミャンマーには1,600社もの旅行代理店が存在し競争が激化する中、技術面の強化は企業の存続にも関わる重要なポイントだ。ビジネスの規模をさらに拡大するには受発注などに関するシステムに投資し業務の効率化を図ることが必要だが、仮に今そこに投資をすると資金が回らなくなるという。

そのためにも、資金調達が次の重要な課題となるが、ミャンマーの新興企業が金融機関から融資を受けるには高いハードルがある。中小零細企業でもローンの申請自体は可能だが、土地などの不動産担保がないとミャンマーの銀行は一般的に融資をしてくれない。仮に融資を受けられたとしても、銀行への返済利息は年利13%と高い。民間の消費者金融による融資もあるが、こちらは返済利息が年利18%と、さらにハードルが高くなる。これら高年利の存在により、特に中小企業が金融機関から融資を受けることは至難の業だ。こうしたこともあり、前述の女性幹部は「われわれも協会として農村部の女性たちにマイクロファイナンスを提供している。これまで約1,500人を支援してきた」と語る。

人材確保については、既述の通り、ミャンマー人が一つの会社で中長期的視野に立ってキャリアを積むという概念がないため、転職が日常的に行われる中、ミャンマー企業も優秀な人材の確保には頭を悩ませている状況がうかがえる。大企業であれば同一社内であっても部署異動などにより多方面でのスキルを身に着けるチャンスがあるが、ミャンマーは中小零細企業が大半のため、こうした部署異動によるキャリアアップにも限界がある。

将来的な市場拡大に期待

他方、近年の所得向上に伴い、ミャンマーには多くのビジネスチャンスが広がっている。前述の30代の女性社長は「ミャンマーが少しずつ豊かになるに従い、ミャンマー人の海外旅行ニーズが高まっている。インバウンドはもちろん、アウトバウンドにも今後力を入れたい」と語る。また、ヤンゴンで2017年にヘアサロンをオープンした30代の男性社長によると「軍政時代、ミャンマー国民は外国のファッショントレンドなどを知り得なかった。今は検閲が大幅に緩和され、フェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて若者たちが海外ではやっているヘアスタイルやファッションの実情を知るようになった。国内にはおしゃれな美容室がどんどん増えている」という。30代のあるミャンマー人女性によると「1年に1回バンコクで健康診断を受け始めてから、自身が高脂血症であることを初めて知った。タイ人医師によると、この病院に来るミャンマー人の多くが同じ症状とのこと。カロリーと栄養バランスに配慮し、油の量を抑えた専門家監修の食事プログラムを始めて、ジムにも通っている」という。「値段は安くないが、美しく健康でありたい」と語る。

2011年の民政移管以降、国民の所得は着実に向上しており、ヤンゴン市内にはルーフトップバーと呼ばれる屋上型のバーが相次いでオープンするなど、ミャンマーではこれまで国民が体験してこなかったような新たなサービスがどんどん生まれている。

昨年はシンガポールのグラブがミャンマー語対応の配車アプリの配信を開始するなど、将来的なミャンマーの市場拡大を見越し、海外のスタートアップ企業も徐々に進出し始めている。


ミャンマーで配信を開始したグラブ(ジェトロ撮影)

アウンサンスーチー国家顧問が2016年12月に公表したミャンマー「投資政策」において、特に歓迎・奨励する8分野の一つに「中小企業の発展を支援する事業」が含まれている。国内の新興企業を取り巻く環境は依然厳しいが、政府も中小企業の育成に力を注いでおり、ミャンマーの新興企業の将来的なビジネス拡大に期待が高まる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
水谷 俊博(みずたに としひろ)
2000年、ブラザー工業入社。2006年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(2011~2014年)。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(2014~2018年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所 オペレーションオフィサー
ミャッムーキン(Myat Mu Khin)
2008年、ジェトロ・ヤンゴン事務所入構。
Japan Festivalなどの展示会事業、調査事業などに従事。

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