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量から質へ移行する知的財産権(中国)

2018年8月1日

「国家知的財産権戦略綱要」が2008年6月5日に発表され、中国の知的財産権に対する取り組みが国家戦略に格上げされてから10年がたった。これまでは中国の低品質の模倣品に悩まされてきた日系企業だが、現在では技術水準の高い中国企業も現れてきている。中国政府などの発表資料から見る中国企業の技術水準の動向、司法における損害賠償額などについて紹介する。

PCT出願の伸びは技術向上の表れか

国家知識産権局は毎年公表する年報に出願件数と登録件数の両方を掲載していたが、2017年の年報から一部の出願件数データが掲載されなくなった。このことから中国における知的財産権の重点が、量から質へと移行してきていることが感じられる。

2017年、中国における専利(特許、実用新案、意匠)の登録件数は前年比4.7%増の183万6,434件で、このうち特許が前年比3.9%増の42万144件、実用新案が7.7%増の97万3,294件、意匠が0.7%減の44万2,996件だった(図1参照)。

図1:中国における専利(特許、実用新案、意匠)登録件数の推移
2004年から2017年にかけて増加傾向にある。2017年の中国における専利登録件数は183万6,434件、うち特許が42万件、実用新案が97万3,000件、意匠が44万3,000件となった。
出所:
国家知識産権局統計(2018年6月時点)を基に作成

図1は中国全体のデータだが、経済の発展状況と同様に、中国では特許登録件数および企業の知的財産活動にも地域差がある。2017年の中国における特許登録件数の上位10省(区、市)をみると、上位の北京市、広東省、江蘇省で13万3,349件となり、全体の3割以上を占めている(表1参照)。

表1:2017年特許登録件数上位10省(区、市)(△はマイナス値)
順位 省(自治区、直轄市) 登録件数 前年比(%)
1 北京市 46,091 13.52
2 広東省 45,740 18.42
3 江蘇省 41,518 1.38
4 浙江省 28,742 8.15
5 上海市 20,681 2.96
6 山東省 19,090 △ 1.62
7 安徽省 12,440 △ 18.65
8 四川省 11,367 9.83
9 湖北省 10,880 27.74
10 陝西省 8,774 16.94
出所:
国家知識産権局年報各年版

また、2017年の中国における特許登録件数が上位の中国企業と外国企業は表2、3のとおり。中国企業の上位は電力、通信関連、石油、電子製品、家電などの分野の企業が並ぶ。さらに、上位中国企業が上位外国企業より特許登録件数が多いことが分かる。

表2:2017年における中国での特許登録件数上位10社
(中国企業)
順位 特許権者 登録件数
1 国家電網 3,622
2 華為技術(ファーウェイ) 3,293
3 中国石油化工(シノペック) 2,567
4 京東方科技集団(BOE) 1,845
5 中興通訊(ZTE) 1,699
6 聯想(北京)(レノボ) 1,454
7 珠海格力電器(GREE) 1,273
8 広東欧珀移動通信(OPPO) 1,222
9 中国石油天然気(ペトロチャイナ) 1,008
10 中芯国際集成電路制造(上海)(SMIC) 862
出所:
2017年国家知識産権局年報
表3:2017年における中国での特許登録件数上位10社(外国企業)
順位 特許権者 国・地域 登録件数
1 高通(Qualcomm) 米国 1,255
2 トヨタ 日本 1,203
3 羅伯特・博世(Robert Bosch) ドイツ 1,201
4 三菱電機 日本 1,172
5 三星電子(SUMSUNG) 韓国 1,168
6 西門子(SIEMENS) ドイツ 938
7 英特爾(intel) 米国 928
8 国際商業機器(IBM) 米国 918
9 キヤノン 日本 914
10 通用汽車環球科技運作(GM) 米国 912
注:
カッコ内はブランド名など。
出所:
2017年国家知識産権局年報

一方で、2017年の国際特許出願(以下、PCT出願)件数を国・地域別でみると、1位は米国で前年比ほぼ横ばいの5万6,624件、2位は中国で前年比13.4%増の4万8,882件、3位は日本で前年比6.6%増の4万8,208件となり、初めて中国が日本を超えた。中国でPCT出願件数が伸びている要因の1つとして、助成金などの政府による出願奨励策を挙げる声もあるものの、中国企業の技術水準向上の表れとも取れるだろう。出願人別にみると、上位10社のうち中国企業は3社、米国企業は3社、日本企業は2社だった(表4参照)。

表4:2017年における国際特許出願件数上位10社(△はマイナス値)
順位 出願人 国・地域 出願件数 前年比(%)
1 華為技術(ファーウェイ) 中国 4,024 8.99
2 中興通訊(ZTE) 中国 2,965 △ 28.09
3 インテル 米国 2,637 55.85
4 三菱電機 日本 2,521 22.80
5 クアルコム 米国 2,163 △ 12.29
6 LG電子 韓国 1,945 3.02
7 京東方科技集団(BOE) 中国 1,818 8.67
8 サムスン電子 米国 1,757 5.08
9 ソニー 日本 1,735 4.20
10 エリクソン スウェーデン 1,564 △ 2.74
出所:
世界知的所有権機関(WIPO)2018年3月16日プレスリリース記事外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

中国国務院弁公庁は2015年12月に発表した「新情勢下における知的財産強国の建設加速に関する国務院の若干の意見」で、「知的財産権大国ではあるが強国ではなく、量はあるが質が劣り、保護の厳格さに欠け、権利侵害事件が発生しやすく、かつ、多発しているため、革新や創業の意欲などの点に悪影響が及ぶといった問題にもなお直面しており、早急な解決が待たれる」「知的財産権の品質を高め、大国から強国へ、量の重視から品質重視への転換を実現し、新たなハイレベルな対外開放政策を実施し、経済の持続的かつ健全な発展を促進する」とし、技術水準の向上を図っている。

知財法廷が16カ所に、損害賠償額が上昇

司法面では、2017年の中国における人民法院の一審、二審、再審申し立てなど知的財産権事件の新規受理件数は前年比33.5%増の23万7,242件だった。また知的財産権に関する案件の民事一審事件の新規受理件数を類別にみると、著作権事件は前年比57.8%増の13万7,267件、商標事件は39.6%増の3万7,946件、専利事件は29.6%増の1万6,010件だった。また地域別では、北京市、上海市、江蘇省、浙江省、広東省が全体の70.7%を占めている。

2014年に北京知識産権法院、広州知識産権法院、上海知識産権法院が設立されたが、急増する知的財産権の訴訟に対応するため、2017年には江蘇省南京市、蘇州市、湖北省武漢市、四川省成都市、安徽省合肥市、福建省福州市、寧波市、広東省深セン市、浙江省杭州市、山東省済南市、青島市に知的財産法廷が設立された。2018年には陝西省西安市、天津市、湖南省長沙市、河南省鄭州市、江西省南昌市にも設立され、知財法廷は計16カ所となった。これにより裁判官の知的財産権に係る専門知識の水準が上がり、審理の質の向上が期待できるものと思われる。

司法面において日本企業が注目しているテーマの1つとして、損害賠償額の上昇が挙げられる。2018年2月に「知的財産権裁判分野の改革・イノベーション強化の若干の問題に関する意見」が中国共産党中央委員会弁公庁、国務院弁公庁から出され、その中で「侵害の繰り返し、悪意のある権利侵害、その他の重大な権利侵害がある場合、法により賠償を拡大し、賠償額を上げ、敗訴した側が権利保護コストを負担し、侵害者に重い対価を支払わせることで、知的財産権侵害行為を効率的に抑制、抑止する」とされた。2014年5月施行の改正「商標法」においては、法定賠償額の上限が50万元(約850万円、1元=約17円)から300万元に引き上げられており、懲罰的な賠償制度も導入されている。専利法においても、法定賠償額の上限の引き上げや懲罰的な賠償制度の導入が検討されている。賠償額の上昇は権利保護のコストを敗訴側に転嫁することになる一方、被告となった場合のリスクが高まり、また、実際に製品を製造・販売していないものの特許権を所有している特許不実施主体(NPE:Non Practice Entities)やいわゆるパテントトロールによる知的財産権訴訟が米国のように発生する可能性も考えられる。

知財戦略や社内体制の見直し・強化を図る日本企業も

中国企業の技術力の向上や訴訟リスクの高まりを踏まえ、自社の知財戦略や社内体制の見直し・強化を検討している日本企業も見受けられる。そのうちの1つの営業秘密の保護については、改正「不正競争防止法」が2017年11月4日に公布され、2018年1月1日に施行されている。本改正法では罰金額の上限が300万元に引き上げられ、またインターネットを利用した不正競争行為を禁止する規定も追加されており、今後の運用に関心が高まっている。

4月30日の国務院常務会議では李克強首相が、外資の合法的権益の保護に関連し、知的財産権侵害の賠償額の上限を大幅に引き上げることなどを表明した。さらに5月30日の常務会議では、外資系企業の合法的権益を保護し、知的財産権侵害・模倣品、営業秘密侵害、悪意の商標先駆け登録などを厳重に取り締まり、知的財産権侵害の法定賠償額を大幅に引き上げる方針が明確化された。中国でビジネスをする日本企業にとっては、知的財産権に係る制度の動向およびその運用について、引き続き注視が必要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 知的財産部 副部長
赤澤 陽平(あかざわ ようへい)
2008年、ジェトロ入講。生活文化産業企画課(2008~2012年)、ジェトロ盛岡(2012~2015年)を経て2015年4月より現職。

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