スリランカを地域営業拠点としたノリタケの挑戦
スリランカは地域のハブになれるか(後編)

2018年6月7日

ノリタケランカポーセレン(Noritake Lanka Porcelain)は、洋食器や研削・研磨工具を製造するノリタケカンパニー(本社:愛知県名古屋市)の海外子会社で、1973年からスリランカで洋食器の生産拠点として操業している(設立は1972年)。コロンボの北東約135キロにあるマータレ市に1,000人以上の従業員を抱える大規模工場を構え、ノリタケカンパニーの食器事業の5割ほどを供給する。長く同社の高級食器ブランドを支えてきたこのスリランカ拠点に、2016年から新たに営業機能が設けられ、スリランカから周辺の南アジア、中東、アフリカ市場へ攻勢をかける。同社にスリランカの可能性を聞いた。

新興国市場開拓に生き残りをかける

ノリタケブランドの個性は「高級食器」にある。透明度の高い純白のプレートやティーポットを、金銀のラインや繊細な文様が縁取る。食卓を華やかに飾り、食事やティータイムを通じて豊かな時間を分かち合うことを可能にする、いわばテーブルの額縁だ。そこには「食器」以上の哲学がある。ブランドの歴史を重んじ、ものづくりの精神を今に受け継ぐ同社だが、一方で、市場には逆風が吹く。ノリタケが主要市場とする日本やアメリカではカジュアル化がトレンドとなり、家庭で高級食器をそろえて食事を楽しむ機会は減少している。実際に先進国市場での売り上げは伸び悩み、安価な食器に押される状況が続く。

そこでノリタケは、新興国市場の開拓へとかじを切った。もともと同社は1870年代に貿易商社として活動を開始し、その後製造業へと転身しただけに、海外展開は得意分野だ。カジュアル化が席巻する先進国市場と異なり、新興国市場には大家族文化が残り、ホームパーティー、ブライダル市場なども成長を続ける。これらの市場には「人口以上のポテンシャルがある」と語るのは、ノリタケランカポーセレンの小原健司国際営業部長だ。同氏が、日本とアメリカに次ぐ第三の市場として注目しているのが、南アジア、中東、アフリカだ。競合他社がひしめき合うASEAN、東アジア市場をあえて攻めない戦略を取る。特にスリランカおよびインド、パキスタンの南アジア市場では先行的に営業を強化する。これらの地域では古くから代理店を持ち、すでに「ノリタケ」のブランドが浸透していることも大きな優位点だ。

ノリタケブランドの高級食器は職人の手で一つ一つ丁寧に絵付けされる(ジェトロ撮影)

上位中間層の取り込みがカギ

インドやパキスタンはその人口規模から巨大市場と捉えられ、消費市場での競争も激化しているが、「実際の購買力という点では慎重な分析が必要だ」と小原氏は言う。どの国でも一定の富裕層は存在するものの、インドやパキスタンではその割合は非常に限定的だ。従来の先進国向け「高級食器」の一本やりでは、新興国市場では苦戦しかねない。ブランドイメージを維持しつつ、いかに上位中間層(アッパーミドル)の顧客層を取り込むかが成長のカギとなる。ノリタケではこのターゲット層に向けて、それぞれ新規のブランド開発を行う。既にスリランカおよびインド市場向けに、それぞれの文化特性を踏まえた製品コレクションを開発した。これはブランドのカジュアル化ではなく、上位中間層が手を伸ばせば届く価格帯でその市場に合致したコレクションを展開し、同時に従来の「高級フォーマル食器」のブランドイメージも波及させることを狙っている。

しかし、新興国の上位中間層が経済的な余裕を手にしたからといって、自動的にノリタケの食器を手に取るというわけではない。小原氏は「『良い食器を使って生活を豊かにする』という新しい価値観を広めるところから始める必要がある」と言い、展示会への積極的な参加や口コミの活用を通じてブランディングを強化していく構えだ。ノリタケの新市場開拓は、目まぐるしく成長する新興国社会で、日本ブランドによる「新しい豊かさの形」を提案する挑戦だ。ライフスタイルのアイデアと抱き合わせで、商品を紹介する。日本のものづくり展開を考える上でも示唆的な試みとなり得るだろう。


ノリタケランカポーセレンの営業チーム。一番右が小原健司国際営業部長(ジェトロ撮影)

スリランカを拠点に営業する3つのメリット

ノリタケがスリランカに進出したそもそもの理由は、同国で原料の調達が可能だったことだ。しかし現在は原料の転換などもあり、スリランカの工場で使用する原料のうち同国産のものは金額ベースで全体の約6%にまで減少した。それでもなお同社はスリランカに深く根付き、同拠点からの営業活動を試みる。ここから周辺国へ営業を行うメリットとは何か。

第1には、スリランカという国の地理的優位性がある。重要市場であるインドやパキスタンなどの南アジアに加えて、中東やアフリカなど今後の成長が見込める各地域へ地理的に近接しており、さらには航空券も比較的安価であることから、出張コストを抑えつつ対面でスピーディーな営業がしやすい。また、ノリタケが特に注力するインドおよびパキスタンについては政治的に関係が良好とは言えず、インドからパキスタン、パキスタンからインドへの直接の営業活動は難しい。その点スリランカに拠点を置くことで、両国へバランスよく直接目を配ることが可能になる。

また、工場を有するスリランカ拠点から営業を行うことで、製販一体となったスピーディーな営業を実現できる。現在はスリランカ工場の商品開発機能も強化されており、市場に近い場所でリアルなニーズに沿った開発、製造、営業をうまく循環させることができる。その意味でも、新興市場、特にインドとの地理的、文化的近接性はアドバンテージとなる。

第2に、スリランカが物流ハブとしての機能を拡充していることも営業の幅を広げる可能性があるという。例えばバンダラナイケ国際空港近郊の保税倉庫に、海外工場から納入するナイフやフォークなどの金属食器をストックしておき、受注に応じて、スリランカで製造する食器と組み合わせて出荷するという方法だ。ノリタケ自身が一括してストックを管理することで、取引量を柔軟にコントロールし、各国の代理店に過度の負担がかからない販売体制が構築される。さらにスリランカは倉庫保管料が比較的安価であるため、他国にストックを持つよりも、ノリタケ自身の在庫管理コストも抑えることができる構想だ。

第3のメリットは、人材だ。スリランカでは高学歴化が進み、海外留学経験者も少なくない。英語は国内での連結語に位置付けられているため、もともと堪能。それに加えて、留学経験から海外のテーブル文化などになじみ、ノリタケブランドへの理解も深いグローバル人材を、低コストで雇うことができる。ややシャイな国民性であるため営業のスキルやノウハウは教育する必要があるが、真面目で定着率も高いことはプラス要因だ。

このように、南西アジア地域のハブを目指し、今後ヒトやモノ、情報が集まってくることが予想されるスリランカだからこそ、そして地域内で政治的にもバランスを保つ同国だからこそ、新興市場に向けた幅広い営業活動が可能となる。

執筆者紹介
ジェトロ企画部地方創生推進課(元ジェトロ・コロンボ事務所)
山本 春奈(やまもと はるな)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部(2015~2017年)、ジェトロ・コロンボ事務所(2017年~2018年)を経て現職。