中国ゲーム市場の攻略法

2018年5月7日

中国のゲーム市場が急拡大している。ゲーム、E スポーツおよびモバイル市場を専門とするオランダの市場調査会社 Newzooは、2016年に同国のゲーム市場の規模は米国を抜いて世界最大となり、今後もさらに拡大していくと予想している。ただし、海外からのコンテンツに対して厳しい規制が敷かれている中国への進出は容易ではない。

本稿では、中国のゲーム市場の分析や日系企業の進出事例の検証を通して、同国のゲーム市場の「攻略法」を探る。

モバイルゲームに攻略の糸口

Newzooによると、2016年の世界のゲーム市場の規模は1,011億ドル(約10兆8,200億円、1ドル=107円)であった。2020年には1,285億ドルと、今後も拡大基調が続くとみられている。

図1:世界のゲーム市場の推移
2016年の世界のゲームの市場規模は1,011億ドルであった。2020年には市場規模が1,285億ドルまで拡大するとされており、今後とも全世界のゲームの市場規模は拡大していくとみられている。
注:
2017年以降は推計値。
出所:
Newzooより作成

その中でもとりわけ大きく成長しているのが中国である。2013年のゲーム市場全体の規模は138億ドル程度であったが、2016年には246億ドルと急拡大し、今や世界シェアの24.3%を有する世界一のゲーム市場大国となった。2020年には337億ドルまで拡大し、さらに世界シェアが高まると予測されている。

モバイルゲームとは、スマートフォンやタブレット端末でプレイするゲームのことだが、2016年の世界のモバイルゲームの市場規模は386億ドルで、全ゲーム市場の39%を占めた(表1参照)。2016年の中国のモバイルゲームの市場規模は112億ドルで、中国全体のゲーム市場の46%を占め、モバイルゲームのシェアが高いことが特徴だ。2020年には63%まで高まると予測されている。

図2:中国のゲーム市場の推移と、モバイルゲームのシェア
中国のゲーム市場は急速に拡大している。2013年のゲーム市場規模は138億ドル程度であったが、2016年には246億ドルへと急速に拡大した。2020年には市場規模が337億ドルまで拡大すると予測されている。また、モバイルゲームのシェアの大きさを特徴に挙げられる。2016年の中国のモバイルゲームの市場規模は中国のゲーム市場全体の46%を占めた。中国のモバイルゲーム市場規模は今後とも拡大していくとされ、2020年には中国の市場全体の63%を占めると予測されている。
注:
2017年以降は推計値。
出所:
Newzooより作成

中国でのゲームの利用者の属性を見ると、7割以上が10~35歳で、いわゆる「80後」(注1)と「90後」が中心となっている。年齢別の構成比は日本とほぼ同じだが、女性プレーヤーは日本が37%であるのに対し中国は45%であり、日本より高い。

中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、2017年の中国のインターネットユーザーは7億7,198万人であったが、うちスマートフォンなどの携帯端末でインターネットを利用するユーザーは7億5,265万人(前年比8.3%増)で、インターネットユーザーの97.5%を占めた。携帯電話端末でモバイルゲームを行うユーザーは4億710万人(携帯端末ユーザーの54.1%)に上り、前年比15.5%増であった。

図3:中国のインターネットのユーザー数と普及率
携帯電話端末でモバイルゲームを行うユーザーは増加している。2017年の中国のインターネットユーザーは7億7,198万人であった。普及率も上昇を続けている。
出所:
中国インターネット情報センター(CNNIC)
図4:中国の携帯端末でインターネットを利用するユーザー数と構成比
インターネットユーザーの内、スマートフォンなどの携帯端末でインターネットを利用するユーザーも増加している。2017年のスマートフォンなどの携帯端末でインターネットを利用するユーザーは前年同期比8.3%増の7億5,265万人となり、インターネットユーザーの97.5%を占めた。
出所:
中国インターネット情報センター(CNNIC)

一方、中国ではコンソールゲーム(注2)のシェアが低く、Newzooによると、2016年時点で2%程度と推計されている。米国(48%)や日本(38%)と比較し極端に低い数値だ。その背景には、中国で2000年6月、「電子遊戯経営場所の整頓意見の展開に関する意見の通知」により、ゲーム機の生産・販売が禁止されたことがある。2013年9月に上海自由貿易試験区で外資系企業のゲーム機の生産・販売が許可され、SONYのPlayStationやMicrosoftのX-BOXが市場に参入したが、中国では広く浸透してはいないようである。

「2次元ゲーム」が成長中

中国ではマンガやアニメなど、いわゆるサブカルチャーと呼ばれるコンテンツを総称して「2次元」と呼ぶ。中国音数協遊戯工委などが発表した「2017年中国ゲーム産業報告(簡略版)」は、中国のモバイルゲームの中でも、特に漫画やアニメタッチのキャラクターを用いた「2次元ゲーム」に成長のチャンスがあるとしている。2017年の「2次元ゲーム」による収入は159億8,000万元(約2716億6,000万円、1元=17円)、前年比45%増と大きく成長した。「2次元ゲーム」のプレーヤーは「90後」「95後」(注1参照)が多く、これらの世代が比較的高収入になりつつあることで、利用が拡大しているとされている。

ここで、日本のFGO PROJECT(有限会社ノーツ、株式会社アニプレックス、ディライトワークス株式会社)が手掛ける『Fate/Grand Order』(以下、FGO)の中国での展開事例について、海外窓口を務めるアニプレックスの小髙洋介氏へのインタビューをもとに紹介する。


「Fate/Grand Order」のメインビジュアル
(出所)アニプレックス提供 ©TYPE-MOON / FGO PROJECT

FGOは、TYPE-MOONが制作する『Fate』シリーズの作品の1つで、2015年7月に日本でスマートフォン向けロールプレーイングゲームとして配信が開始された。海外では、2016年9月に中国でリリースされ、その後北米、台湾、香港や韓国でもリリースされた。FGOは2017年5月に中国のiOSアプリストアの売り上げランキングで首位を獲得するなど、中国でも成功を収めている。

小髙氏は最初の海外進出先が中国となった理由として、当時アニメやゲームに対する需要が旺盛であったこと、スマートフォン向けゲーム文化の浸透が早いこと、日本のコンテンツに対する受容度が高いことなどを理由に挙げた。また、FGOの中国での成功要因として、同氏は特に現地パートナー選びを慎重におこなったことを挙げ、その重要性を強調した。

中国では、出版や放送、ゲームなど文化的な要素が大きい産業に外資系企業が独資で参入することは、外資規制などの問題があり難しい。アニプレックスはFGOを中国へ展開するにあたり、中国国内で多くの「2次元」ファンの利用があり、アニメに対する親和性が高い動画サイトなどを運営する現地企業であるBilibiliをパートナーとした。Bilibili動画は、FGO以前のFateシリーズのアニメ作品の正規ライセンスを有しており、動画再生回数が1,000万回を超えるなど、すでに大きなロイヤルカスタマーを持っていたためだ。現在、Bilibiliは中国版FGOの運営やマーケティングを手掛けている。

中国のアプリストアは300を超えると言われており、ユーザーが分散しやすい傾向にあるが、Bilibiliは「2次元」ファンが多く利用するアプリストアを自社で運営している。小髙氏は「そのストアでFGOを配信することで素早く『Fate』ファン並びに『2次元』ファンにアプローチでき、結果多くのユーザーを獲得できた」と、自社の成功の要因を分析する。

現地パートナーであるBilibiliとは良好な関係にあるが、関係構築に苦労した点もあったと同氏は振り返る。一般的に中国企業は早急に結果を求める傾向にあり、課金するポイントを増やすことを求められたこともあったという。また、日本のアニメやゲームには、敵同士のキャラクターを同じ画面に入れないなど、コンテンツの世界観を壊さないための独自のルールが数多く存在する。小髙氏は「こうした見解の相違が発生した際は、担当者と地道な話し合いを重ね、作品の世界観や展開方針を理解してもらえるよう努力した。結果、現地パートナーと認識を共有することができ、今も良好な関係を継続している」という。

「ローカライズ」はすれど「カルチャライズ」はせず

中国ではさまざまなサービスやコンテンツが独自の進化を遂げており、アプリランキングのトップ10に入る人気ゲームにもそのようなものが多い。日本のゲームを中国で展開するには、ゲーム内のテキストを翻訳するなどの「ローカライズ」に加え、ゲームのコンテンツ自体を中国の文化やユーザーに適合したものに修正する「カルチャライズ」が一般的に必要であるといわれる。

しかしFGOでは、「ローカライズ」は行ったが「カルチャライズ」は行わなかった。ゲーム内のイベントの周期を早めることや独自イベントの実施など、一般的に中国人ユーザーが好むとされる機能の搭載なども行わなかった。FGOはストーリーに沿ってステージを攻略していくロールプレーイングゲームで、ストーリーは時期を見計らい順次追加されていく。中国でのFGOのリリースは日本より約1年後だったため、中国版を日本版のストーリー進行度にキャッチアップさせたいという提案もあったが、ストーリーを急いで追加することはせず、日本版と同様の追加速度を維持した。

これは、ストーリーの消化に必要な時間を取ってほしいという原作者の意向があったことや、オリジナルである日本版の機能やストーリーの追加速度を守ることで、同シリーズの世界観を壊さないようにするためであった。そうした背景を現地パートナーにも説明し、理解を得ることができたという。

このようにゲームの内容については「カルチャライズ」しなかったが、展開先の国の歴史観などには現在も細心の注意を払っているという。FGOには実際の歴史や神話をモチーフにしたストーリーやキャラクターが登場するため、進出先国のユーザーの歴史観などを傷つけないよう、事前のリサーチは現地パートナーと協力し、入念に行っている。

当局による規制リスクには、現地パートナー企業の折衝部門を活用

中国では、ゲームに対する風当たりは以前と比べ弱まっているものの、ゲームへの過大支出による個人破産事例や、子供が親のお金を無断で使用した事例が発生しており、問題視されている。

中国共産党の機関紙である人民日報は2017年7月12日付の記事で、テンセントが提供するモバイルゲーム「王者栄耀」で遊んでいることを父親に叱られマンションの4階から飛び降りた13歳の少年や、同ゲームを40時間プレイして脳梗塞を起こした17歳の少年の事例を挙げ、「王者栄耀」を名指しで批判した。同記事は、政府部門が有効な管理監督措置を取るよう、また企業に対しては社会的責任を負うよう求めるとした。

FGOを中国で展開する際には、アニプレックスは日本と同じコンテンツを提供しようと心掛けているが、日本にはない法規制などもあるという。中国文化部は2018年1月、ポルノ、賭博、反社会道徳など公序良俗に反するコンテンツへの法規制を強化する決定を発表した。行政指導の対象にはFGOなどの日本発のゲームも含まれている。こうした規制について、中国当局と日本企業が直接折衝するのは困難なため、こうした政府との折衝は現地パートナー企業の関連部門に一任している。当局との折衝を円滑に進めてもらうためにも、現地パートナーによる理解や良好な関係構築が重要である。

現在、中国ではモバイルゲームを中心にゲーム市場が急速に拡大しており、今後もその傾向は続くと思われる。しかし、中国には外国のコンテンツに対して厳しい規制や、日本とは異なる市場環境が存在する。中国当局も規制や介入を行っている。そうした中、信頼できる現地パートナー企業と出会い、信頼関係を構築することが重要である。中国のゲーム市場で成功を収めるためには、現地パートナーと徹底的に話し合い、考えや方針について共通認識を形成することが最も重要といえよう。


注1:
1980年以降に生まれた者のこと。同様に「90後」は、1990年以降に生まれた者、「95後」は、1995年以降に生まれた者をそれぞれ指す。
注2:
家庭用ゲーム機などを用いたゲームのこと。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、ジェトロ入構。同月より現職。