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小口融資や証券投資のスタートアップが隆盛(メキシコ)

2018年12月28日

メキシコでは低所得層への小口融資や、証券投資を根付かせるような新技術を用いたフィンテック関連企業がビジネスを拡大している。クボ・フィナンシエロ、FINV、ディビデンディーといったスタートアップ企業がその代表だ。本稿では以下、ジェトロ・メキシコ事務所が2018年10月に実施したヒアリング調査を報告する。

優れた信用リスクモデルを武器に低所得層に小口融資

クボ・フィナンシエロ(Kubo Financiero)は、P2P(ピア・ツー・ピア)レンディングとオンライン金融を行う金融事業者であり、メキシコの下層階級を中間層に底上げするための資金を供給することを目的に、2012年にビセンテ・フェノール氏により設立された。商業銀行が相手にしない個人向けのマイクロクレジットに特化しており、下限5,000ペソ(約2万8,000円、1ペソ=約5.6円)から上限15万ペソ(約84万円)、平均3万4,000ペソ(約19万)の小口融資を行っている。融資実績がある顧客に対しては35万ペソ(約196万円)まで貸すことがある。融資は申請から2日で実施され、保証は必要ないが、審査を通過して実際に融資されるのは全申請の4%程度と少ない。そのため、不良債権比率は5.5~7.5%程度と健全な水準だ。2017年にはウェブサイト上のマーケットプレースを通じて9,150人の顧客に対して1,210万ドル(換算額、実際の融資はペソ)を提供し、2,614人の投資家から合計1,440万ドルを集めた。投資家の中には、米州開発銀行(IDB)の多国間投資基金(MIF)、オランダの銀行などの金融機関もある。同社の中期目標としては年間4,000万ドルの融資額の実現である。

クボのビジネスモデルは、単なるソーシャルレンディグではない。設立当時から、SOFIPO(民衆金融機関:日本でいう信用金庫)として国家銀行証券委員会(CNBV)の許認可を得ているため、一般市民からの預金を受け付けることができる。従って、最初から既に貸付資金があるため、クラウドファンディングを通じて資金が集まる前に顧客に融資を実行することが可能である。これが、競合する他のP2Pレンディング事業者との差別化ができる点である。クボのP2Pマーケットプレースはマルチプラットフォームであり、スマートフォンとパソコン(PC)の両方で24時間365日利用可能だが、過去2年間でスマホによる利用率は35%から78%に拡大しているという。

クボの拠点はメキシコ市にある本社のみだが、インターネットを通じて全国の顧客に融資している。本社にはKYC(本人確認)部門があり、データ保護やマネーロンダリング対策業務を行っている。そのほか、コンプライアンス部門、エンジニア部門(16人のITエンジニア)がある。また、8人の数学者がアルゴリズム(信用リスクモデル)を開発しており、顧客からの融資申請の95%がこのモデルで自動承認される。融資の利率は従来の金融機関と比べると競争力があり、しかも顧客が複数回利用することで徐々に利率が下がっていく。従来の金融機関の場合、個人に対して小口融資を行うと、その金利は年率150%にも達する。実際に、2009年に年率150%の金利を支払っていた個人事業者が、2013年にクボと出会い、45%の利率で融資を受けることが可能になり、その後の利用経験を通じて金利が下がり、2018年には26%の利率で資金調達できるようになったという。

創業者のフェノール氏はクボ設立以前から金融業界での勤務経験が豊富であり、政府の政策立案、特にフィンテック法の立案に関わった。2017年9月には、エンリケ・ペニャ・ニエト前大統領から金融包摂賞を受賞している。

クラウドファクタリングで中小サプライヤーの資金流動性を支援

FINVは、クラウドファンディングを通じたファクタリングサービスを提供する企業である。創業者のビクトル・ガルシア・エスカルティン氏がスイスに住んでいた2014年、スイスでビール会社のサプライヤーに対してファクタリングサービスを提供していた、地元金融機関のアイデアをメキシコに持ち込んだ。

中央銀行が2018年11月23日に発表した資金調達に関する四半期アンケートによると、2018年第3四半期時点でメキシコ企業の最大の資金調達先(複数回答)は「サプライヤー」であり、回答企業全体の74.2%がサプライヤーから資金を調達していると答え、銀行融資の32.3%を大きく上回った。比較的規模が大きな企業であってもこの傾向は変わらず、メキシコでは一般的にサプライヤーに対する支払いを待ってもらうことで、当座の運転資金を確保する方法が一般的だ。その支払い猶予期間は平均63日に及ぶ。このような状況であるため、支払い期日前に資金を回収させることで資金流動性を高めるファクタリングは、中小企業の生産性を高めるための主要な手段である、とOECDは指摘する。

FINVは独自のリスク分析モデルを開発し、企業の伝統的な財務面のリスク評価に加え、ESG(環境、社会、ガバナンス)の評価項目を加えている。ガルシア・エスカルティン氏によると、FINVはラテンアメリカで初めてESGの要素をビジネスに取り入れたフィンテックである。ESGの評価ポイントが高い顧客(サプライヤー)については、FINVの徴収する仲介手数料も、ファクタリングに応じる投資家の割引率も低くなる。

FINVは信用リスクを低減させるため、ファクタリングを申請できるサプライヤーの売掛金として、年商が10億ペソ(約56億円)以上の大企業に対して請求しているものに限定している。メキシコ証券取引所(BMV)に上場している150社に加え、上場はしていないが何らかのかたちで年商が判明している約450社を加えた約600社の大企業のサプライヤーをターゲットにしている。ノンバンクとの提携があるため、必要額の75%分の資金が集まれば、残りの25%をノンバンクから資金調達することで、サプライヤーに対して資金を支払えるようにしている。請求書発行から約13日後に資金が提供される。サプライヤーにとってはかなり早期に売掛金が回収できることになる。FINVの審査により、ファクタリングが承諾される比率は全体の13~15%。FINVが顧客から徴収する仲介手数料は売掛金の0.5~2.5%、加えてESGの分析料として130ドルを徴収する。投資家がオファーする割引率は案件に応じて5~25%で、FINVは投資家からも手数料を徴収する。

操業開始から26カ月間で、FIVNは1,100万ドルのファクタリングサービスを提供しており、年平均245%の成長を遂げている。大企業向けの売掛金のみを対象としていることもあり、不良債権比率は0.68%。FINVの顧客は主にファクタリングサービスを必要とするサプライヤーだが、時折、その顧客(サプライヤーの売り先である大企業)から、自社のサプライヤーにファクタリングサービスを実施してほしいという依頼もある。

メキシコ国民に証券投資の文化を

ディビデンディー(Dividendee)は、エクイティ・クラウドファンディングのプラットフォームを運営する会社で、2016年にラファエル・サラス氏により設立された。設立目的は、ブランド力に裏付けられ、社会的責任を果たす企業への、メキシコ国民の投資を促進することである。2018年11月23日に国立統計地理情報院(INEGI)と国家銀行証券委員会(CNBV)が共同で発表した2018年国家金融包摂調査(ENIF2018)によると、メキシコでは18~70歳の人口約7,910万人うち、証券取引を行っている国民は約46万5,000人(0.6%)にすぎない。米国で約6割の成人が証券取引を行っているのとは対照的だ。

ブランド力と株価には高い相関関係があり、ブランド力がある企業がより投資家を引き付けるが、ディビデンディー創業者のサラス氏は、ディズニー映画をよくみる子供がいる家庭の部屋にディズニーの株券(キャラクターがデザインされている)がきれいに飾られている様子を見て、自分(家族)が好きなブランドの株券の実物を集めることを、投資目的の1つに加えている投資家もいることが分かったという。ディビデンディーのビジネスモデルは、証券市場に上場している会社の株式だけでなく、非上場企業の株式や著名人、ニューヨークやパリなどの都市、有名スポーツチームなど、投資家が応援したいと思うブランド力がある事業主体の資金を、エクイティ・クラウドファンディングで調達する。

ディビデンディーのオペレーションは、自社のアプリケーションプログラミングインタフェース(API)を証券会社など提携機関のAPIと接続することで、同社のプラットフォームを通じて、さまざまな投資商品にアクセスすることができるようにしている。まだ、提携している機関は少ないものの、証券会社のクスピット(Kuspit)と提携しており、株式や債券が購入できるようになっている。ディビデンディーは株式や債券、出資持ち分やトークン(仮想通貨引き換え権)などを発行する提携先から、プラットフォーム利用手数料を徴収するが、投資家からは手数料を取らない。また、自社が運営する著名人のエクイティ・クラウドファンディングを除き、資金公募の主体にならない。ディビデンディーは窓口としてのみ機能し、提携する他のクラウドファンディング機関や証券会社が資金公募の主体となり、投資家に対する配当も行う。ディビデンディーは外国の証券会社やクラウドファンディング機関との連携も検討している。

将来的には仮想通貨を発行し、同社のプラットフォームを通じて投資できる、さまざまな商品についての共通通貨にしたいと考えている。投資家にとっては、外国も含めたさまざまな投資商品をディビデンディーという単一窓口を通じて購入することができるため、利便性が高い。また、投資を少額から行えることも魅力の1つだ。証券会社と連携して行っているビジネスでは、100ペソ(約560円)からの投資を可能としている。他の提携先としては、ブリックファンディング(Brickfunding)という不動産関係のクラウドファンディングプラットフォームがある。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。

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