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進化するロシア外食産業、市場は豊か
「すしブーム」は去っても日本食に商機

2018年7月17日

昔のアネクドート(ソ連ジョーク)に「3種類の肉料理とイモの付け合わせを頼んだら、炒めた肉とイモが3人前出てきた」というのがある。これはソ連時代の物不足とサービスの悪さをやゆしたもので、逆に今はそのような店に出会うことの方が難しい。昨今、ロシアの外食事情は大きく様変わりしており、不毛の時代(あるいは1990年代前半)から驚くべき変容・進化を遂げている。その中に、日本企業の外食ビジネス展開の新たなチャンスも見え始めている。

「なんちゃって料理」が日本食の認知に貢献

現在のロシアの外食市場を概観してみよう。FIFAワールドカップが開催されたこともあり、ロシアを旅行する日本人観光客がロシアのレストランや食事の写真をSNSに投稿することが増えている。そこに映る風景は、モスクワのみならず地方都市でもおしゃれなレストランがあり、日本と同等かそれ以上においしそうな料理である。日本で想像する以上にロシアの食事情が充実していることを理解するのは、さほど難しくはない。

ロシアの外食産業の市場規模は1兆4,000億ルーブル(約2兆5,000億円、1ルーブル=約1.8円)。ロシアの人口は1億5,000万人弱であり、日本よりやや多い。人口を考慮すると、100兆円を超える日本の外食産業と比べるとその規模はもの足りないが、ロシアを見る際に統計をうのみにすることは、実態を見誤る危険性をはらんでいることは覚えておきたい。定量的な物差しとともに、定性的な感覚で見ることも大切だ。「食」という人間の欲望の根幹の一つでもある事象を追求するのであればなおさらである。

表:ロシアの外食向け支出上位都市、極東2都市
順位 地域名 年間外食支出額
(億ルーブル)
人口 (万人)
ロシア全体 14,273 1468.4
1 モスクワ市 1,646 1244.3
2 モスクワ州 1,009 746.3
3 ダゲスタン共和国 846 305.3
4 クラスノダル地方 731 558.7
5 サンクトペテルブルク市 716 531.7
6 セヴァストポリ地方 505 432.7
7 タタルスタン共和国 400 389.0
8 ロストフ州 374 422.6
9 ハンチ・マンシ自治管区 371 165.1
10 スタヴロポリ地方 349 280.3
20 ハバロフスク地方 170 133.1
22 沿海地方 167 191.8
注:
人口は2017年央。
出所:
ロシア連邦国家統計局資料を基に作成

実は、ロシアは食の大国である。ロシア料理、中央アジアやコーカサス地方などの旧ソ連民族料理のほか、イタリアンやフレンチなど欧州各国の料理、日本食を含むアジアンフードも普及している。日本食が広まったのは、ロシア経済の回復が本格化し始めた2000年代に入ってからである。「すしブーム」と呼ばれる時代がそれだ。農林水産省によると、ロシアにおける日本食レストラン(注)の数は、2017年10月時点で約2,400店とされる。在留邦人数が20万人を超える欧州の日本食レストラン数が約1万2,000店であることと比較すると、在留邦人数が約2,600人にすぎないロシアでの日本食の認知度が極めて高いことがよく理解できる。

ただし、ロシアにおける「すし」の多くは巻きずしだ。また、クリームチーズが入った「ファラデルフィア巻き」など、日本以外の国で発展したいわゆる「ロール」が中心で、にぎりは極めて限られている。ネタは比較的安価で入手しやすいサーモンが多い。それを「亜流」「なんちゃって日本料理」とやゆする声もあるが、ロシアにおける「日本食」の認知に貢献したのは、日本から食材を空輸する高級店よりもそれらのロールを中心に出す「ヤキトリヤ」や「エウラジヤ」といった、地場資本の中級・普及価格帯のチェーン店だった。

フードコートがトレンドセッターに

現在では、すしを中心とした日本食のブームは去ったという見方が強い。ロシアの地場系外食企業は新たな食材、メニュー、そしてコンセプトを求め試行錯誤を繰り返している。その中でも、最近の目立った動きを幾つか紹介しよう。

第1はハンバーガー人気だ。ハンバーガーといえば、ソ連末期の1990年にモスクワにマクドナルドの1号店が開店した時、道路を挟んだ店舗前の公園を取り巻く数百メートルにわたる行列ができたのは有名な話だ。今やマクドナルドはロシア全土で650店舗近く(2018年6月末現在)にまで増え、最近はバーガーキングが急速に拡大している。地場系では、人気ロシア人ラッパー・チマチーも経営陣に名を連ねる高級路線の「ブラック・スター・バーガー」が人気を博している。あふれる肉汁で手が汚れないように、黒い手袋をして食べるのがセールスポイントだ。モスクワのほか、地方都市でも展開している。別の店舗だが、ロシア極東でもファストフードではない「ちょっと手の込んだ」ハンバーガーが出てきている。


ハンバーガーブームは極東にも拡大(ジェトロ撮影)

第2は、すしブームに代わりアジア系メニューが広まり始めたこと。最近のブームはベトナム料理のフォーである。ソ連時代からベトナムとの交流が盛んだったこともあり、以前からベトナム料理レストランはあったが、2016年ごろからフォーの人気が爆発的に高まったという。フォーを中心としたベトナム料理のチェーン店が出ているほか、ショッピングセンターのフードコートなどでも、専門店が数多く見られる。地方都市でもフォーを出す店を見かけることはまれではない。比較的安価であること、野菜が多く最近の健康志向にマッチしていることなどが人気の理由とされる。

モスクワはじめフォーの店が人気(ジェトロ撮影)

第3の特徴は、フードコートがおしゃれなスポットとして認知され、食のトレンドセッターになりつつあることだ。フードコートと言っても、ショッピングセンターに入っている家族向けのところではない。モスクワでは市場を改装しフードコートを前面に押し出しているところが出ているが、それらはレストランビジネスから参入してきたオペレーターが展開している。例えばダニロフスキー市場は、ロシア国内のほかニューヨークなど海外にもさまざまなコンセプトのレストランを数多く構える「ギンザ・プロジェクト」の運営である。同市場ではフォーのほか、中華、韓国料理、モスクワの高級日本料理店「誠司」のすしバーなどのほか、アルメニア、ジョージア、ウズベキスタンなど旧ソ連各国の民族料理の店舗が立ち並ぶ。市場を改装したものだけでなく、市内中心部のオフィスビルの1階を丸ごとフードコートにする、古い工場跡地にフードコートを設けるなど、さまざまなアイデアが生み出されている。

これらのフードコートにはすしバーも必ず1軒は入っているが、それ以外のアジアンフードや、日本食でも「日本式グリル(串焼き)専門店」など、幅が出てきているのが最近の傾向だ。また、食品管理技術の向上から、生ガキをその場で出す「オイスターバー」も目にする機会が増えている。2000年前後でもロシアでは大部分の人が「生の魚介類を口にするなんて信じられない」と言っていたことを思い起こせば、隔世の感がある。

新たなトレンドは地方へ波及

モスクワやペテルブルクで流行するものは、遅かれ早かれ地方にも波及する。例えば、モスクワから飛行機で4時間のノボシビルスクはシベリアの中心都市だが、外国企業の影はいまだに薄い地域だ。そのようなところでもショッピングセンターにはバーガーキングが入っているし、街を歩けばフォーの店が目にとまる。地場系外食企業が展開するおしゃれなコーヒーショップ・チェーンもあれば、日本の「居酒屋」をコンセプトに取り入れたレストランもある。モスクワやサンクトペテルブルクが先駆者となり、新たなトレンドが地方都市に急速に浸透しつつある。

ノボシビルスクのコーヒーショップ(ジェトロ撮影)

ロシアの外食企業は新たなコンセプトの導入に熱心だ。例えば、水や小麦の問題からロシアではこれまで本格的なラーメン店の進出はなかったが、ここにきてラーメンブームの兆しが見え始めている。ノボシビルスクを拠点とする「シベリアのレストラン王」デニス・イワノフ氏は2017年9月、モスクワ中心部にラーメンバーの「KU」を構えた。極東のウラジオストクでは、北海道の麵屋琥張玖がメニューを提供し技術指導を行うラーメン店が2017年12月に開店した。北海道総合商事と組んで伸和ホールディングスがウラジオストクで運営する炭火居酒屋「炎」でも、ラーメンを提供している。またサンクトペテルブルクでは、小規模ながらたい焼き、たこ焼き、お好み焼きといった、粉もの系のストリートフード事業を始めたロシア人もいる。ロシアにおける新たな日本食の広がりはまだ緒についたばかりだが、すしロールだけでないさまざまな日本食の可能性は広がりつつある。

日ロの外食ビジネスに追い風

現地での店舗展開においては、日本とは異なる規制や制度に戸惑う声が聞かれる。食材をどのように調達するか、あるいは日本から輸出するかも課題だ。しかし、複雑とされる規制や許認可取得も、慣れ次第との声もある。モスクワで2004年から日本料理店「いちばんぼし」の運営と調理に携わる岸本秀樹ブランド・シェフは、「ルールの違いを認識して対応すれば、アルコール飲料販売ライセンスを含め許認可取得はできないことはない」という。消防、衛生などに関する許認可は必要だが、例えばショッピングセンターのフードコートに入居することで簡素化できることもある。またショッピングセンターなら一定の来客数が見込め、最初の一歩としては路面店よりも出店しやすいかもしれない。

日本の外食産業にとっては未知の部分が多いロシア市場だが、参入は増えつつある。新たなコンセプトを探すロシアの外食企業は、すし以外の日本食への関心を示している。日本からウラジオストクまでは飛行機で2時間。ウラジオストクであればビザも事前申請しておき、空港で取得できる。以外と近く、渡航のハードルも下がっている。日ロ両国の外食分野でのビジネスの可能性に追い風が吹いている。ジェトロは2018年9月に、ロシアから外食関係者を招いて日本の外食企業関係者との商談会を開催する予定だ。(イベント情報ページ参照


注:
日本食専門または中心とする場合のみならず、メニューの一部に日本食、すし(ロール)を掲載する店舗を含むとみられる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主幹(ロシアCIS担当)
梅津 哲也(うめつ てつや)
1991年、ジェトロ入構。2度のモスクワ勤務ののちジェトロ・サンクトペテルブルク事務所設立に伴い所長として着任。対露進出・事業展開を図る日本企業、特に自動車・同部品関連企業に多くのアドバイスを行う。主な著書は「ロシア 工場設立の手引き」「新市場ロシア-その現状とリスクマネジメント」(いずれもジェトロ)。

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