台湾で労働基準法再改正へ
2018年2月7日
2018年1月10日、労働基準法の再改正案が可決された(2018年3月1日施行)。現行労働基準法(以下、現行労基法)は2016年12月、週休2日制(注1)の全面導入、特別休暇(有給休暇)や残業代の増加などを盛り込み改正公布されたものである。労働環境の改善が期待されていたものの、同法施行による所得減少、人件費上昇や人手不足など労使双方から不満の声が上がっていた。特に企業から再改正の要求が日増しに高まり、現行労基法の公布から1年で再改正されることとなった。
2018年1月再改正の主なポイント
2018年1月の再改正で何が変わったのか。現行労基法(2016年12月施行)と対照しながらみていきたい(表1)。改正の主なポイントとなる(1)休日出勤(法定外休日)の残業割増賃金(第24条)、(2)残業時間の上限(第32条)、(3)交代制勤務(第34条)、(4)週休2日制(第36条)、(5)特別休暇(第38条)について詳述する(注2)。
条項 | 再改正後 (2018年3月施行) | 現行労基法 (2016年12月施行) |
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(1)休日出勤(法定外休日)の残業割増賃金(第24条) |
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(2)残業時間の上限(第32条) |
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(3)交代制勤務(第34条) |
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(4)週休2日制(第36条) |
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(5)特別休暇(第38条) |
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- 出所:
- 「労働基準法」(2016年12月21日公布)、「(労働部)新聞稿」2018年1月10日付および「労働基準法修正条文対照表(2018.1.10)」(「(労働部)新聞稿」2018年1月10日付の添付資料)を基に作成
(1) 休日出勤(法定外休日)の残業割増賃金
現行労基法第24条では、「2時間以内の場合は、通常勤務時の1時間当たりの賃金に加え、さらに賃金の1と3分の1以上を加算する」、「2時間勤務後、引き続き勤務した場合は、通常勤務時の1時間当たりの賃金に加え、さらに賃金の1と3分の2以上を加算する」としており、休日出勤(法定外休日)の勤務時間および賃金の計算方法については、「4時間以内は4時間で計算、4時間を超え8時間以内は8時間で計算、8時間を超え12時間以内は12時間で計算する」と明記されていた。2018年1月の再改正では、休日出勤(法定外休日)の勤務時間および賃金の計算方法に関する「4時間以内は4時間で計算、4時間を超え8時間以内は8時間で計算、8時間を超え12時間以内は12時間で計算する」の条文は削除され、実働時間による計算方法となる。
(2) 残業時間の上限
現行労基法第32条では、「残業時間は1カ月46時間を超えない」としている。2018年1月の再改正では、月間残業時間(1カ月46時間)は変更しないものの、「労働組合の同意もしくは(労働組合がない場合は)労使協議による合意があれば残業時間を延長できる、ただし1カ月で54時間、3カ月で138時間を超えない」という新たな上限が設けられた。また、再改正では第32条の1が新設され、残業時間を代休に充てることができるとした。ただし、年度内に代休が未消化となった場合は残業代を支給しなければならないと明記している。
(3) 交代制勤務
現行労基法第34条には、「少なくとも連続で11時間の休息時間を与えなければならない」と明記されている。以前の労基法では交代制勤務の休憩時間の詳細について言及がなかったが、現行労基法で明文化された。2018年1月の再改正では、現行の「原則11時間の休憩時間」は変更しないものの、「仕事の特性」または「特殊な理由」がある場合にのみ、当局の許可に加え、労働組合の同意もしくは(労働組合がない場合は)労使協議による合意があれば休憩時間を変更できるが、8時間を下回ってはならないと明記された。
(4) 週休2日制
現行労基法第36条では、「労働者は7日のうち2日の休息をとらなければならない。そのうち1日は法定休日、1日は法定外休日とする」と明記されている。また、「法定外休日の勤務時間は、第32条第2項に定める月間残業時間(1カ月46時間)に含める」ことなども併せて言及した。ただし、例外的に、「天災や突発的な事件により、雇用主が法定外休日の勤務を必要とみなした労働者は、第32条第2項に定める月間残業時間の制限を受けない」としていた。2018年1月の再改正では、週休2日制は現行のまま変更しない。また、「7休1(連続6日を超えない期間内に1日(法定休日)休む)」の原則も変えないが、当局の同意に加え、労働組合の同意もしくは(労働組合がない場合は)労使協議による合意があれば7日ごとに法定休日の調整が可能とした。これにより、連続労働日数の上限は12日となる。なお、先述した「当局の同意」では、「時間」、「場所」、「性質」、「状況」という四つの特殊条件が考慮される。
(5) 特別休暇
取得障壁を下げ休暇日数を増やすことを目的として2016年末に改正された。現行労基法第38条では、「年度終了時に未消化分の特別休暇は賃金換算して支給する」と明記されていた。2018年1月の再改正では、未消化分は、「労使協議による合意があれば次年度への繰り越しが可能」とし、そのうえで、「次年度に繰り越した特別休暇が未消化となった場合は賃金換算して支給する」としている。
このほか、2018年1月の再改正では、第32条、第34条、第36条に、「労働者30人以上を雇用する雇用主は、地元当局に報告しなければならない」との文言が新たに加えられた。
再改正への動き
前述したように、現行労基法は施行直後から不満の声が上がってはいたものの、2016年末に改正されたばかりであることからも、当局は再改正に慎重だった。しかし、2017年9月になると風向きが変わった。9月8日の内閣改造で賴清徳氏が行政院長に就任すると、現行労基法は再改正に向け動き始めたのである。
台湾の主要経済団体などは9月中旬、修正案を盛り込んだ意見書をまとめ、当局に対して現行労基法の再改正を求めた(注3)。主要経済団体の修正案の主な内容を列挙すれば、残業の上限を現行の46時間から50時間へ引き上げること、半年で300時間といった残業時間の総量規制を採用すること、休日出勤の残業代の引き下げおよび実働時間による計算方法の採用、交代制勤務を現行の11時間間隔から8~14時間間隔として労使協議での合意により前後3時間は増減可能とすること、などである。
こうしたなか、労働部は9月下旬、休日出勤の賃金規定と残業基準、交代制勤務、特別休暇の据え置き、月間残業時間の上限および総量規制などに関する意見を聴取するため、各界の有識者を集め意見交換会を開催する意向を示したという(注4)。当局が雇用者側と労働者側の見解にどのように折り合いをつけ取りまとめていくのかが注目されるなか、10月に入り再改正への動きはさらに具体化し、10月31日には今回、再改正となった労基法の草案が公表された。この再改正草案は1週間ほど各方面からの意見を募ったのち、閣議にかけられることとなった。
「四つの不変」と「四つの柔軟性」
11月9日、行政院の閣議で労基法再改正草案が承認された。同日、行政院の記者会見で賴清徳行政院長は、再改正草案では「四つの不変(労働時間、週休2日、月間残業時間、残業割増賃金)」と「四つの柔軟性(残業、勤務スケジュール、交代制勤務間隔、特別休暇)」を重視したと説明した(注5)。「四つの不変」(表2-1)は労働者の権益を維持するためのもので、「四つの柔軟性」(表2-2)は企業経営や労働協約に柔軟性をもたらすためのものという。
四つの不変 |
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労働時間は変えない ※1日8時間、1週40時間 |
週休2日は変えない ※連続12日勤務は正常ではない |
残業時間は変えない ※残業時間は46時間/月を柔軟性をもって運用 |
残業割増賃金は変えない ※実働時間で計算 |
- 出所:
- 行政院、労働部
四つの柔軟性 | 内容 |
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残業の柔軟性 |
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勤務スケジュールの柔軟性 |
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交代制勤務間隔の柔軟性 |
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特別休暇の柔軟性 |
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- 出所:
- 行政院、労働部
2017年12月4日、立法院(国会)の社会福利および衛生環境・経済委員会で審議が行われたが、審議中に労働者団体が再改正の中止を求め、立法院前で抗議活動を行うなどの動きがあった(注6)。結果として労基法再改正草案は初審を通過したが、審議中に野党議員による妨害などもあり、再改正草案は十分な議論がなされることなくそのまま立法院の本会議に送られることになった(注7)。
2018年1月10日、立法院は労基法再改正草案を可決し、同年3月1日より施行するとした(注8)。労働部は良好な管理メカニズムが形成されることを強調しており、引き続き注視したい。
- 注1:
- 台湾では「一例一休」と表記する。「1週間に1日の法定休日、1日の法定外休日」という意味。
- 注2:
- 「労働基準法」(2016年12月21日公布)、「(労働部)新聞稿」2018年1月10日付および「労働基準法修正条文対照表(2018.1.10)」(「(労働部)新聞稿」2018年1月10日付の添付資料)を参照。
- 注3:
- 「経済日報」2017年9月16日付
- 注4:
- 「(1111人力銀行)1例1休専区」2017年9月29日付
- 注5:
- 「(行政院)即時新聞」2017年11月9日付、「経済日報」同年11月10日付
- 注6:
- 「中央通訊社」2017年12月4日付
- 注7:
- 「経済日報」2017年12月5日付
- 注8:
- 「(労働部)新聞稿」2018年1月10日付

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ) - 2017年4月より現職。